急襲
〜ノースシティの戦線〜
ここノースシティはエデン公国と魔族の国との境界線であり、毎日のように小競り合いが続いている。
ノースシティはエデン公国の首都であるイーストシティの北に位置している。
このノースシティの戦線を抜けられると、イーストシティまでひたすら草原が続いているため、人間はこのノースシティに戦力の大部分を割いており、必死に魔族を食い止めている。
魔族は魔物を率いて攻撃してくるが、明確な指揮系統が無く、各個体が単発的に攻撃を仕掛けてくるのみであった。
そう、今までは。
ドォオオオオオオオオン!!!
大きな爆発と共に、人間達が築き上げていた壁が一気に崩れ落ちる。
その壁から大量の魔物が雪崩れ込んでくる。
その魔物達は立ちふさがる兵士を見向きもせず、ひたすらノースシティの戦線を突破しようとする。
その現場の長である軍団長は必死に声を枯らしながら指揮を採る。
「これ以上、魔物の侵入を許すな!!奴らの狙いはイーストシティだ!ここを抜けられると、首都まで攻め込まれるぞ!一番隊、二番隊、三番隊、壊された壁の修復を急げ!!後方の予備隊は、侵入された魔物達を追え!以降の部隊は現状の戦線の維持!通信部隊は、イーストシティへの連絡と、休んでいる全兵力を全部この戦線に招集しろ!軍もギルドも全部だ!第一等命令だ!責任は俺がとる!」
「だ、第一等命令!??・・・り、了解!」
側近達はその命令を伝えるために、散開していった。
軍団長の額に汗がつぅと流れる。
油断をしていた訳ではない。
しかし、今までと比べると統制された魔物達の攻撃の威力は桁違いだ。
何かが変わろうとしている。
「間に合ってくれ・・・。」
軍団長はそう祈るしかなかった。
〜イーストシティ〜
アレス達【ライオン】一行は、いつも通り戦闘の訓練を行うために宿を出た。
さて、街を抜けて草原に出ようとしたアレスは街の異変に気づく。
兵士が血相を変えながら、大きな声で何かを叫んでいる。
「魔物が攻めてくるぞーーーー!!軍に所属の者、冒険者、それに準ずる戦えるもの、戦闘用意しろーーー!!!第一等命令だ!!」
「マ、マジすか・・」
レインは思わず声を失う。
「第一等命令って何なのよ!?」
ユフィはレインに尋ねる。
「第一等命令ってのは、確か『国の存亡の危機に瀕したときのみに全ての国民が従わなければならない命令』だったはずッス!」
「なにそれ!??ちょーヤバい状況じゃないの!?」
「しかも、ここ数百年の間で発動されたことなんてないらしいッスよ!?」
それ故、事態の異常さが際立つ。
「アレス、どーするのじゃ?」
「俺たちも、出るぞ!訓練用の装備から戦闘用の装備に返るぞ、急ぐぞ!」
「了解じゃ!」
「了解ッス!」
「分かった!」
「分かりました!」
一度、宿に戻り、各自本気モードの装備に変え、アレス達はギルドに向けて走り出す。
「リリス、どう思う?」
「おそらく、今回は本気ではないのじゃろう。奴らが本気を出したら、こんな猶予を与えてくれるとは思えんからのぅ。」
「今回は人間の力の調査目的ってことか。」
「だと考えるのぅ。首謀者はおそらくアイツ・・じゃろうな。」
「だな。その辺の分析は、戦いが終わってからやろう。」
「アイツって誰のことよー教えなさいよーー。」
「分かってるって。終わってからな?」
「分かったわー。」
アレス達がギルドの前に到着すると、ギルドの前には既に多くの冒険者で溢れかえっていた。その数はおよそ数百人。
第一等命令が発動された以上、戦力を有するものは集合しなければいけないためである。
集まっている冒険者も緊張の面持ちをしている。
「聞けい!諸君!!」
ひと際大きい男が大声を張り上げる。いつぞやの時にあったギルド長のボーガンである。
ざわついていた冒険者達も水を打ったように静かになる。
「よく集まってくれた。既に聞いているかもしれんが、魔物達によってノースシティの戦線が抜けられた。奴らの狙いはこのイーストシティだ。敵の総数はおよそ一万。数時間後にイーストシティに到達する見込みだ。軍と連携して迎え撃つことが決まっている。戦線は軍が張る。我々ギルドは、その軍の後衛に予備軍として待機し、軍の戦線を抜けた魔物を倒すのが役割だ。」
ボーガンはそこまで事務的な口調で一息に話すと、辺りを見回した。
「どうした?今までの威勢の良さはどこいったのじゃ?」
「まじかよ・・」
「そうは言ってもな・・」
「い、一万の魔物・・」
普段はガラの悪い連中や、荒くれ者も多く含まれる冒険者達が悲壮感を漂わせている。
(まずいな・・。)
士気は戦闘に大きく影響する。どんな手練でも敵に呑まれると不覚をとってしまうことは多いにあり得る。
「分かっておらんようじゃのう。」
落ち着いた口調で優しい瞳で冒険者を見回すボーガン。
「おぬし達にとって、大事な人はいないのか・・?守りたい物はないのか・・?ここでおぬし達が抜かれたらどうなる・・?街はどうなる・・?国はどうなる・・?」
一言一言、問い掛けるように語りかけた。
「五分だけ待ってやろう!腹を決めよ!」
初めは生気が失せた冒険者達だったが、その瞳にやがて意思の光が灯る。
いずれもすぐに、気づくのだ。
選択肢なんてここにはない、と。
やるしかないんだ、と。
生き残るためには戦うしかないんだ、と。
たっぷり五分程待った後、ボーガンはそれぞれの意思を確認するように、冒険者の一人一人の顔を見る。
冒険者もそれに応える。
「ようやく、いい瞳をするようになったのぅ。ではお主ら・・、行くぞ!!!」
「おおっ!!」
「おおおおおっ!!」
ボーガンが振り上げた拳に呼応するように、冒険者達も拳を振りかざし、自らの決意を示す。
軍が戦線を張る後衛に、各ギルドが配置されていく。
しかし、アレス達【ライオン】は配置を割り当てられなかった。
不思議に思い、アレスはギルド長であるボーガンに尋ねた。
「俺たちの配置はどこだ・・?指定がなければこちらで好きにやらせてもらうが・・?」
「おぉすまん、ギルド【ライオン】のアレスだったかのう。正直言って、お主らの戦力は飛び抜けておるからのぅ。遊軍として立ち回って欲しいのじゃ。」
「・・・分かってるじゃないか。言われなかったらこちらから進言しようと思っていたところだ。」
「【白銀】に【漆黒】に【大剣】に【魔族】に【優男】・・じゃろう?その戦力を温存しておく程、こちらに余裕はないんじゃ。」
「あぁ、そうだな。しかし、戦線とか後衛とか関係なく、本当に好きにやらせてもらうぞ?」
「分かっておるさ、戦果を期待しておる。」
「任しとけ。」
「ってことで、俺たちは軍が作る戦線の前、つまり、最前線にいくぞ。」
「やっぱり!!嫌な予感って当たるんスよ!」
戦いを前に控え、【ライオン】のメンバーでのミーティングを始めた。
「大丈夫、ユフィとソフィとレインは大規模な戦闘は初めてだからな。簡単な役割を担ってもらう。」
ごくりと喉をならすその三人。
「まずは、ユフィとソフィとレインは常に一緒に行動しろ。そして、行動の目標は、『より多くの敵にダメージを与えること』だ。無理に敵を倒す必要はない。」
「えーと、完全に倒さなくてもいいんですか・・?」
「あぁ、俺達の後ろには軍が待ってるからな。倒すのは軍にやってもらう。つまり、大規模な魔法をぶっ放して、広範囲にダメージを与えろ。」
「分かりました!やりましょう!姉さん!」
「分かったわ、それなら得意よ!」
ハイタッチをするユフィとソフィを横目に戸惑うレイン。いつもの光景だ。
「俺は・・どうしたらいいッスか!?魔法使えないんスけど!!」
「レイン、お前はユフィとソフィの護衛だ。二人の周囲5mに敵を近づけるな。二人に傷一つつけるようなことがあったら、分かるな・・?」
「ひぃ、分かってますよ!魔物よりキングの方が怖いっス・・。」
「妾はどうすればいいのじゃ?」
「あぁ、リリスは軍の戦線を見つつ、破られそうなところをフォローしてくれ。」
「了解じゃ。」
そしてアレスはそっとリリスに近づいて、小声でリリスに話しかけた。
「あと、ユフィ達の周りに、本気でヤバい奴が来たら、助けてやってくれ。なるべくそうならないように立ち回るが・・。」
「うむ、心得た。」
「・・頼む。」
「ところでキングはどーするんスか?」
「あぁ、俺は敵の中に突っ込んで強そうな奴を片っ端から潰していく。雑魚はスルーするからそいつらはお前達に任せる。」
「了解ッス!」
「さて、そろそろ来る頃だな。」
そう言って、北の方を見やると地平線から大きな砂埃が巻き上がっているのがうっすら見える。
最初は小刻みな震動だったのが、徐々に地震のような強烈の揺れと怒号にも似た地鳴りが聞こえてくる。
「作戦、開始だ!」




