1 思わぬ拾い物……物?
《漣の空》様、ご感想ありがとうございました! お気に入り登録や評価、また作品を読んでくれた皆さまありがとうございます!!
今回はリンカさん現在パート。次回は回想パート。つまり奇数は現在、偶数は回想というパート分けになりそうです。リンカさん主人公にすごく難航した上にまだまだ未熟な作者なので、妙な点が多数あるかと思います。ぜひそんなときはご指摘ください!! 待っています!!
『ちぃぃぃぃわあああああっす!!』
「……いつになくハイテンションだねぇキサちゃん……」
インターホンに出た途端に聞こえてきた、とんでもないくらい元気のよい声に、私こと小柳燐花は苦笑しながら言葉を返した。
十一月中旬。寒さも徐々に本格的になってきただけあって、キサちゃんは冬仕様なのか学生服で首元にチェック柄のもこもこしたマフラーが見えた。その上に載った顔に浮かぶ楽しげな笑顔は、先月末にびっくりするような方法で、私の兄ユウキの〈予知夢〉を回避してみせた人物と同一だとはとても思えないものだ。
『はいはいはいはい、まぁ? 隠し立てすることが無くなったのでスッキリ! っていうか? もうなんかいいや! みたいな? そんな感じでございまするする!?』
「うん、全然分かんないけどすごく楽しそうで何よりだよ……」
『え、なんでそこでちょっと呆れ気味の声なんですか!? 私は純粋培養ピュアガール・キサちゃんですよ? ミラクルハイグレードカスタムオメガァァァァァなキサちゃんで・す・よッ!?』
「それと支部局長の私ってどっちが偉い?」
『ごめんなさい静かにします』
よしよし。満足してちょっと微笑みながら、「今開けに行くねー」と言って受話器を置いた。するとリビングのソファに座ってブラックコーヒー(渋い。実は私はまだ飲めなかったりする)をすすっていたササちゃんがくるりと振り返った。
「……キサ?」
「うん、そうみたい。やけに楽しそうだけど何かあったのかしら」
「いつもああじゃん。別に珍しくないよ」
まぁ、そうなんだけれども。
知り合ってから一月は経ったけれど、本当のことを言うと、私たちは未だ「期橋紀沙」という彼女のことがイマイチ分かっていない。彼女の魔法が、最近カギナさんによって名付けられた『幻を見せる魔法』、〈虚構(フィクション)〉であり、彼女はそれを非常にうまく使いこなしているということ。彼女は八年も前から魔法を使える身でありながら、なぜかこれまで魔法使いの探査に使われる魔法に引っ掛からずにいたこと。桐彦くんというイオリくんとクラスメイトの弟がいること、両親はいないが育ての親と暮らしていること……外面的なことは質問すれば答えてくれる。でも、彼女の内面に関してはほぼ全くと言っていいほど知らないと言えるだろう。
彼女の心情や、感想、それから過去の出来事に関しては何を聞いてもはぐらかされている、そういう印象だった。あの三人衆のテストの後にどうやらトキヒロくんは彼女のことを少し聞けたようではあったが、それもトキヒロくん本人が「話すつもりはない」と断言しているので分からない。
謎の多い、いつもテンションマックスな元気のよい女の子。それが私の、キサちゃんに対しての印象だ。でもそれが決して真実ではないだろうことは察しがつく。アキが彼女にしたという夢の宣告電話には途方も無く驚いたけれど、そのときを語ったアキの言葉が妙に頭に残っていた。
「彼女、わたくしの話を聞いた後に『もっと詳しく』と仰ったのですわ。……『私が射殺されるっていうその場面の様子、もっと詳しく教えてくれる?』と、恐らく、笑いながら」
いくらなんでもそれがおかしいことくらい分かる。
自分が死ぬ瞬間を聞こうというのに、笑っていられる人がこの世に何人いるだろう。頭のネジが飛んでいるか、自殺志願者か、それらに近しい思考回路の人間のごく一部以外にはいないと思う。
だからあの底抜けの明るさのどこかに、暗闇が隠されているんだろうと推測することくらい簡単だった。
「……、よし、お菓子もあるしちょうどいいよねっ! キサちゃん好きなお菓子ってなんだろ? チョコレート平気かなぁ」
ぶつぶつ言いながら玄関へ向かう。
現在時刻、午後二時。おやつ時には少し早いけれど、暇そうにテレビを見ていたイオリくんの目も輝いたことなのでおやつの時間としよう、そう思いながらドアを開いた。
「いらっしゃーい、キサちゃん……って、あらら?」
「どもですリンカさん!! そしてッ、本日のスペシャァァァァァル・ゲストォォォっ!! 座右の銘は有言実行、成績優秀だが横暴・無神経・デリカシー零のこの男、諸星けぎゃふっ」
「ほぅ、期橋てめぇ歯をくいしばれ」
「もう頭チョップしてますよね!? 遅いですよね!? 事後報告とかマジいらないんですけど聞いてますか先輩!?」
そこには、涙目で頭頂部を両手で覆う、学生服姿のキサちゃんともうひとりの姿があった。
その姿を見るのは実に三週間ぶりのこと。キサちゃんが東興星観タワーにて、〈虚構〉の力を使って事態解決を図ろうとしたときに、クーデター犯の〈人形〉にお札……正確にいえば、魔法解除の術式が織られた魔封紙(名付けはカギナさんより遥か前の代の三人衆)を張りつけたのを見たのが一度目。二度目は、それから一週間経った今から三週間前に、キサちゃんの家へお見舞いに出向いたそのときに。
学ラン姿の少年、確か名前は、
「ええっと……諸星くん、だったかしら」
「は? なんでオレの名前知ってんの。前、オレ名乗らなかったよな」
「サトリさんから聞いてるわ。……協力者ってことは」
実際は〈駒〉と聞かされたのだけれどそこは伏せる事とする。
そもそも、タワーで会う前にも、私とシュンくんは一方的に彼の顔を知っていた。キサちゃんが魔法使いの存在を知るきっかけになった文房具事件の後、図書館前で話し込む彼らの姿を私は目撃していたし、そのあとシュンくんに頼んで身元もある程度調べてあったのだ。だから、キサちゃんとの初対面は彼女にとってちょっと不可解な物になってしまったのだけれども。
ともかく。
その諸星くんは、サトリさん曰く「魔法使いではない駒」だった。何かサトリさんと(あのサトリさんと!)取引をしたようだが、詳しいことは聞いていない。あのタワーにも犯行予告のことを知っていて送り込まれたのではなく、サトリさんたちに代わってこの紙を使えというアバウトすぎる指示でやってきていたそうである。でも、そんな彼がなぜここに?
「ええっと、先輩はコハルちゃんたちからお使いを頼まれたそうで、私はただ遊びにきただけですよー! ついでに言うと先輩がひとりでこっちに来る勇気がないからと」
「もう一発脳天に喰らいたいか?」
「これ以上私をバカにしたら救えませんよ!?」
「お前を救う気なんざねぇ」
「うわひどっ! 外道! 最低! 家畜以下!」
「なんでそこまで言われんだよ……」
なんだか仲良さげな二人だった。ちょっと微笑ましい。
まぁとりあえず用件は分かった。お使いか、と頭の中の仕事リストをめくる。今日が納期の書類は全部片付けたはずだし、依頼も現在進行形で遂行中、本日夜九時には完了するはず。……となれば、新しいお仕事の依頼かな、と見当をつけた。
思ったより外気温が低かったことに気付いて、私は二人を手招いた。
「まぁとりあえず上がっていってよ、寒いでしょ? 冷えるねぇ」
「そうですねー、私冬って大ッ嫌いなんで寒さに激弱なんですよ! 先輩は心冷え切ってるからオーケーですか?」
「勝手に人の心を凍りつかせんな」
すかさずツッコミを入れている。さすがキサちゃんの知り合いだけあるわ。
とか一人でバカな感心をしながら、家に上げた二人の先頭に立った。ちらりと振り返ると、キサちゃんはいつも通りに笑顔を浮かべていて、諸星くんは……これがデフォルトなのか分からなかったけれど、果てしなく機嫌の悪そうな仏頂面だった。一度目はおろか二度目の邂逅では、直後すっと帰ってしまったので表情を見る暇なんてなかった。どうなんだろう、ちょっと怖い。
縮こまりそうになる背筋を無理に伸ばしてリビングに戻ると、運悪くイオリくんが声をかけてきた。
「あ、き、キサいらっしゃ……ひぃぃぃぃ!? だっだだだだだだ誰っっっっ!?」
「……は?」
ぽかんとした表情になる諸星くんにキサちゃんが苦笑いを投げるのが見えたが、私はとことこイオリくんの座るソファへ歩いてしゃがみ、彼に視線を合わせた。もう目に涙を溜めて膝を抱えて、様子を窺うように諸星くんを見詰めるイオリくんにできるだけ柔らかい声で言う。
「大丈夫。あのひと覚えてる? ほら、タワーでお札貼ったり、キサちゃん家にお見舞い行った時にいた人だよ。怖い人じゃないから、ね」
「イオリくん! 大丈夫だよ、この人こう見えても良くも悪くも嘘がつけない、割合いい人だから!」
キサちゃんがひらひらぁっと軽い調子で手を振ったのを見たイオリくんは、しばし沈黙したのちに「……わ、分かった」と蚊の鳴くような声で呟いた。うん、随分マトモになったものだ。昔、例えば三年前なんて、他者を前にしただけで軽いパニック症状に陥っていたのだから。
しかしかつてのイオリくんなど知るよしもないキサちゃんは、諸星くんに「イオリくんです。びっくりするくらい人見知りですけど、良い子ですからあんまり威圧しないでくださいね〜」なんて軽い口調で説明した。あぁ、と微かに表情を動かす諸星くん。
「……あのときのガキか」
「あ、あのとき……?」
「ヘッドフォンがどうのこうのっつって、狙撃を止めさせようとした小学生くらいのガキだろ? そんなに気が弱いのに、よくやったもんだ」
「だ……だって、お姉さんも嫌そうだったんだもん。撃つの……」
ぼそぼそと答えたイオリくんを、じっと見つめる諸星くん。何かを見定めるようなその目つきはなんだか居心地が悪くて、場の空気を変えようと私が口を開くより早く、食ってかかったのはササちゃんだった。
「……なに? その目。妙なこと考えてるなら今すぐ両腕炭にするけど」
「別に妙なことなんか何も考えてねーけど? そもそもオレは魔法使いを利用したいだけだ。出会った奴が使えるかどうか、判断するために観察すんのは当たり前だろ」
「りっ、利用って、あんた!」
突如諸星くんから発せられた言葉に、予想通りササちゃんは噛み付いた。クールに見えてすごく簡単に頭に血が上る、それがササちゃんの変わらない性質である。勢い良くソファから立ち上がり諸星くんの胸ぐらを引き寄せ、思わずイオリくんが震えるくらいに低い声で囁く。
「……ここの皆に妙な真似したら……あたしが絶対に許さないから。……なに考えてんだか知らないけど、あんたひとり、灰も残さず消すくらい楽勝よ」
「へぇ、そりゃ楽しみだな。大した仲間思いだ、馬鹿くせぇやつ」
「っな……!」
ササちゃんがぎゅっと拳を握り締めたのを心底馬鹿にしたように、諸星くんが不敵に笑う。一触即発の気配に慌てて仲裁に入ろうとした瞬間、
「そいやぁぁ!」
という気の抜けそうな声と共に一切の容赦なき回し蹴りが驚くほど綺麗な軌道を描いて、諸星くんの脇腹にクリーンヒットした。ぐふ、と呻いてたまらず座り込む諸星くん。唖然とする私に代わるかのように、それを喰らわせた本人であるキサちゃんは呆れたようにため息をついた。
「あのねぇ先輩、それをやってはいはいそうですかと挨拶代わりに受け流してくれるいい人は私だけですよ? 同じようなことを学校でやってぼっち化したのはどこのどなたですか? 先輩が念願の他の魔法使いとご対面でテンションアゲアゲ・舞い上がってるのはわかってますけどね、無駄に頭は良いんですからちゃんと分別つけてください。やっていいこと、悪いこと」
「ぅっく、痛ぇ……期橋お前いつそんなスキル……つかアゲアゲって古くね……」
「ユウキさんとササちゃんに依頼で使うって話だったのでちょっと教わりました。油断してるからこうなるんですよばぁか!」
「バカ!? 言うに事欠いてバカだと!? お前調子乗んのもいい加減に……!」
「調子に乗ってるのは先輩ですよ。頭冷やしたらどうですかどアホ。自分に自信があって自分の意見があるというのは一見すれば褒め言葉ですが、裏を返せば傲慢で人の気持ちを無視できるということです。自分の言ったことをちょっと考えてみやがれですよ」
ぐあっと顔を上げた諸星くんにキサちゃんが言い放った言葉は、それまでのどこかちゃらけたような言葉とは正反対に凍りつくような声音だった。うっすら顔に浮かべていた笑顔も消えて、厳しい目のまま諸星くんから視線を外さない。はらはらした心境のまま数秒を待てば、諸星くんはすくりと立ち上がってササちゃんに目を合わせた。
臨戦態勢を示すように身構えたササちゃんにかけられた言葉は、ついさっきまで不敵な笑みを浮かべていた諸星くんの初見のイメージとは随分異なるものだった。
「……言い過ぎた、悪かったよ。ちっとばかしかっとなってた……オレとしたことが、何やってんだ。期橋に叱られるとかどんな人生の汚点……くそ、こいつに会ってから黒歴史が増えてくじゃねーか……」
「……は? 言い過ぎた、って」
「確かにオレは魔法使いを利用するつもりだ。けどそれは一方的なのじゃなくて、要はギブアンドテイクで成り立たせようと言うつもりだったんだが……つい、売り言葉に買い言葉で」
「売り言葉に買い言葉で危うく先輩は永久追放でしたよ? この世から。ササちゃんによって」
え、何これ。と言いたげに顔をしかめるササちゃん。
こ、これってどどどどういうこと? こてんと首を傾げるイオリくん。
そして、うん? え? とキサちゃんと諸星くんを見比べる私。妙な状況が出来上がってしまったのに気付いているのかいないのか、二人はまだ会話を続けていた。その内容はさっぱり右から左へだったけれど。
しばらくしてからようやく、私はそっと口を開いた。
「え、えっとキサちゃん? どういうことかな? さっきまでの一触即発な空気はどこへ?」
「あーー、すみませんリンカさん。この人私と初対面の時もだし、それ以外の人もそうなんですけど、基本的にはビジネスライクじゃないと人付き合いのできない人なんですよ。オレも利用するからお前も好き勝手やれよ、みたいな? 無償の信頼関係ってやつが苦手だそうで」
「ちょっ、そうは言ってない! 知り合った奴を付け焼刃で友達とか表現したくねぇだけだ! 要はなんだってギブアンドテイクなんだし……!」
「そして気が短いので挑発されるとすぐ乗ってしまうため、ぼっちイコール年齢の寂しい人生を送ってこられたわけですね。親友はもちろん私以外のお友達も作れずに……」
「親友はいたっつーの!! お前オレのこと馬鹿にしすぎじゃねぇの!?」
「え、いたんですか!? そんな物好きが私以外に!?」
「マジでお前ぶん殴るぞ!?」
シリアスモードからシリアルモードへ一気に転換し、リビングが和んだ空気に一変した。ぎゃいぎゃい、場を憚ることもなさげにからかうキサちゃん、律儀に反応する諸星くんを見て、私は自然に頬が緩んでいた。
勝手に自己解釈すれば、要は諸星くんはとんだ不器用さんだということらしい。良くも悪くも嘘がつけない、とさっきキサちゃんは言っていたけれど、その通りなんだろう。じゃなければ、こっちにとって彼への心象が悪くなるような「利用」という言葉をわざわざチョイスしたりしないはず。彼は私たちを何らかに利用するつもりだから、利用と素直に言ったのだ。
なんだかその不器用さが自分の兄のユウキに似ている気がして、私はくすりと苦笑した。怖そうだと思った無表情が、今はちょっと照れたような顔になっているように見える。
私は昔からそうなのだけど、人への印象がころっと変わる人間なのだ。
第一印象は大体覆ってしまう。人間と言うのは多面的なのだと幼い頃から知っているので、そのあとに見えた二面三面という新たな側面で人を見る癖がついているのだ。だから、必然的に第一印象しかない初対面とその後とでは接し方が全然異なってくる。
そして感情移入しやすいので、こういう不器用な一面を見てしまうともう放っておけないのだった。おせっかい、世話焼き、お人好し。三年前上司に言われたその言葉が、いかに私を明確に捉えた言葉だったのかが思い知らされるようだ。
ほら、今も。
「そっか。じゃあ、二人とも仲直りしましょう。ササちゃんも、諸星くんも」
そんなのわざわざ言わなくたっていいことなのにね。
「……え」
「だって諸星くんに悪気はなかったわけでしょう? で、ササちゃんも頭に血が上っただけなんだし。このままうやむやにするのもどうかと思うから、二人ともちゃんと謝るべきだと思うのよ。ね、ササちゃん」
「でも、利用ってこいつ」
「ササちゃん忘れてるかもしれないけど、あなたも初対面のとき同じこと言ったんだよ?」
「ぐっ」
そういえばそうだった、と眉をひそめるササちゃんである。
そう、ササちゃんもストレートな子なので顔に出やすいタイプだ。ある意味では、諸星くんと似てすらいるのかもしれない。まぁ言うほど諸星くんを知っているわけではないので、ただの推測、もっと言うなら妄想。根底は似ているような気がしただけだ。
ああやだもう、可愛いなぁ。とか思っちゃう自分は保護者みたいでちょっと気恥ずかしい。でもここのメンバー皆を大切に思っているのは事実だし、守りたいなぁと思うし……てちょっと、これじゃ私ポエマーみたいじゃない!?
なにここでお兄ちゃん曰くのおかん思考が!? と自分の思考回路に吃驚していると、ササちゃんがすごく言いづらそうに目を泳がせながら、
「あっと……ごめ、ん?」
「なんで疑問形」
思わず言葉がついて出た。
「え、だってこれ私悪いの」
「すぐ脅すのはササちゃんの悪い癖でしょう」
「……ごめん」
苦虫を噛み潰したみたいな顔で言い切ったササちゃんと諸星くんとの間に、微妙な空気は流れど、もう喧嘩の気配はない。こちらにちらりと視線を寄越したキサちゃんと、小さくガッツポーズ。イオリくんはいそいそとお菓子の準備を始める。
またひとり、大切に思うかもしれない子が増えてしまったのでした。
「で、頼まれごとの内容だけど」
ぱき、と細い棒状のチョコレート菓子を口で折って、諸星くんは話し始めた。
ササちゃんと彼との仲直りのあと、イオリくんが満面の笑みで用意したお菓子のひとつだ。イオリくんは平和主義だから、誰かが喧嘩している状況を一番嫌う。逆に仲直りした後が好きなんだ、と前に言っていた。
リビングには三人がけソファが四つあるのだけれど、低いテーブルを挟んだ二つのソファに、私とイオリくんとササちゃん、反対側にキサちゃんと諸星くんという形で座っている。特に緊張した様子もなさそうにした学ランの彼は、どうやらポルキーというそのお菓子がお気に入りらしく、ソファに座って五分も経たないのに早くも三本目だった。
「オレはお前らのこと知らないから聞くんだけど、この中にあのタワーの事件の後始末……つまり、記憶工作したやつっているのか?」
「……いっ、いないよ……トキヒロ、お仕事、だって言ってた」
「今日のシフトは夜の六時過ぎまでって言ってたかしら。……でもトキヒロくんがどうかしたの?」
「あの眼鏡に言われたんだよ。タワーの人質の記憶を、ちゃんとひとり残らず処理したんだろうな、って。キャパ限界に近いんだろ? あの人数となると」
タワー事件。
とりあえず魔法同盟内では、首謀者、神木深丘の魔法名からとってドール事件と呼ばれているものだ。数名の一般人負傷者を出し、数百人の人質を警官隊の洗脳によって制圧するという彼女の魔法ありきのクーデター未遂。これまで表立った反乱の歴史はほぼない魔法同盟において、まず間違いなく歴史に残るだろう大事件だ。
彼女の要求は三人衆への面会だったが、様子のおかしかった〈突風〉とのやり取りを経て要求を変更。彼女は、〈跳躍〉という19号局で五か月前に姿を消した人物を『返せ』と言った。しかし、跳躍、組木あさがおは既にこの世にいないという衝撃的な事実が判明し、逆上した……のだと思う神木深丘は人質全員を撃ち殺すよう指示しようとした。それを防ぐべく〈暗視〉が彼女の狙撃を試みる。
そこで、キサちゃんが魔法を行使。〈暗視〉ちゃんの弾丸は軌道を逸れて、驚愕の空気に包まれる現場で三人衆から預かった魔封紙を持った諸星くんが登場。神木深丘は魔法を封じられて気絶し、トキヒロくんが自身の魔法である〈遮断〉を使った――――。
こんな具合の事件の概要。
様々な謎が未だ残ったままで、正直処理の追い付いていない案件でもある。キサちゃんがあの場にいた理由や、狙撃の軌道を変えるために取った手段は分かった。諸星くんに関する点もしかり、サトリさんから聞いている。ただ、魔法使い〈突風〉に関してのみは謎しか残っていない。
明らかに、あのとき彼は彼ではなかった。まるで他の誰かに乗っ取られたかのような様子だったのだ。
〈突風〉、桑尾肇はあのような尊大な喋り方はしないし、話している内容も同じ支部局長である私が理解できないものが多数あった。そのすべてを記憶の限り上司には報告したけれども、あの奇妙な言葉の主を私たちが知ることはできていない。事件後、〈突風〉は魔法同盟本部に引き渡され、事情聴取を受けているはず……なんだけれども、私たちの方には一切情報が回ってきていないのだ。
「うん、確かにトキヒロくんの魔法のキャパシティ、ぎりぎりって本人も言ってたね……でも大丈夫だと思うよ? 『これまでの分』も、大事な部分は解いてないって言ってたし、本人も目の痛みは全然ないって言ってたし」
「こ、これまでの分……?」
あ、そっか、と私はキサちゃんの不思議そうな顔を見て思い出す。
キサちゃんは前にトキヒロくんから、記憶を遮断できるという話だけを聞いていたのであって、どういう仕組みなのかは知らないのだっけ。
「トキヒロくんの魔法は〈遮断〉。人の記憶を『遮る』魔法なのね。なんていうか……川をせき止めるようなイメージ、って言ってたかなぁ。その魔法はトキヒロくんの取り決めた合図をしたり、合い言葉を言ったりしない限りは解けないの。まぁ〈魔法を解呪する魔法〉も無いわけじゃないし、〈人形〉ちゃんの魔法を上掛けしたら外れちゃったから万能じゃないんだけどね。だから、トキヒロくんはほとんど常に魔法を使っているってことになるのかな」
「ほとんど……常に」
「そう。でも無意識下の制御みたいなものだから、目の痛みはほぼ無いに等しくて、遮断の魔法を使ったそのときくらいしか痛まないそうだよ。逆に記憶以外は何も遮れないから……例えば思考とか、五感ね。ちょっと使い勝手が悪いと思ってるみたいだけど」
むしろ記憶の遮断に特化した魔法だからこそ、この問題児ばかりの64号局に派遣されたとも言えるんだけれども。
「へぇ、そんな魔法だったんだ……そりゃ、悪いことしちゃったなぁ。あんな大人数を一気に」
「ううん、ああでもしないとあの場は収拾がつかなかったと思うからいいんだよ。後日あの場にいた全員を調べ上げて、〈消去〉の魔法使いに委託するからトキヒロくんの負担は短期間で済むだろうし」
「……そうか」
けれど、私の説明を聞いてもちょっと首を傾げた様子の諸星くんに、私とササちゃんは顔を見合わせた。確かにトキヒロくんの魔法は時にコントロールが不完全になるけれど、事件が事件だけあってトキヒロくんも意識的な制御をしていたみたいだから、まさかミスしているなんて無いとは思うが……。
疑問を言ってくれたのは、私たち二人ではなくイオリくんだった。
「そ、それが……ど、どどどうか、し、したの……?」
まだちょっと諸星くんに苦手意識でもあるのか噛みまくりの言葉に、諸星くんは難しそうな顔をしたまま、
「眼鏡がな。〈突風〉……っつったっけ、あの針金細工みたいなの? あれに事情を聴くために、その記憶の魔法をかけた奴に電話して、昨日魔法を解いたらしい。なのに、そいつが《何にも覚えてなかった》んだとさ」
「え? ……何にも?」
「ああ。眼鏡いわく、魔法が解けたのはちゃんと確認したんだそうだ。それなのに当時のことを何にも覚えていないらしい。いくつか可能性は考えられるらしいけど、とりあえず念のため本人に確認して来いって言われてな……魔法を解除し損なっていないか」
……変な話だ。
眼鏡、つまりサトリさんが魔法を解除したのを確認したというのなら、それはほぼ確実なことのはずだ。サトリさんはそんな凡ミスをするような人間じゃないと思う。それなのに実際は、桑尾肇こと〈突風〉は何にも覚えていなかったというのか……ううん。
そこはかとない違和感が何なのか。額に手を当てて考えていれば、ササちゃんが私と同じようなことを言った。
「……トキヒロのミス、……じゃないと思う。身内びいきとか無しに。だってあいつの魔法を、あの眼鏡が解除したのを確認できたんなら、それ完全解除って意味でしょ。なら違う」
「眼鏡も完全に解けていたはずだって言ってたし……」
ちらりと一つの可能性が過ぎる。
あのとき、彼を乗っ取っていた誰かが、〈突風〉から記憶を奪っていたのだとすれば? それなら彼が何も覚えていないということと符号が合致する。……いや、でもそんなのただの憶測に過ぎないのか。そもそもあれだって何だったのかイマイチわかっていないのに。
なんだか嫌な予感がして、私はそっと気付かれないように重い息を吐いた。あのときの不気味な様子、耳障りな台詞がくるくるととめどなく回る。あれはなんだったんだろう。分からないことにもやもやした。あれが何なのかを早急に突き止めなければならないような気すらして、私は更に頭を振る。
焦ったって仕方がない。後で調べてみればきっと分かるはずだ。なんせうちには、情報収集なら最強の雷使いがいる。
私は嫌な気分を振り払うようにソファを立った。
「とりあえず気分転換に何か飲もうか! ずっと考えてても疲れちゃうだろうし。何がいいー?」
「あ、じゃあ私ファムタでお願いします! オレンジのほうで!!」
「んじゃオレ珈琲で」
人の家に来てそう臆面も無く注文できるあたり、諸星くんは結構図太いのかもしれなかった。
かくして諸星くんの用事は終了したのだけれど、そのあと夕飯の買い出しに行くという話をしたらキサちゃんの提案により、ここに残っている面子全員で近くのショッピングモールへ向かうことになった。
何でも今日が定期考査の最終日で午後は暇していて、テスト終了の解放感に身を委ねたかったらしい。だが遊びまわる友達もいない(本人の目が潤んでいたのは嘘か真か……)と語ったキサちゃんは、諸星くんだけを道連れにするよりは私やササちゃんが一緒のほうが良いと思ったそうで。
私はすぐに了承し、渋るかと思ったササちゃんは愛用のハーフフィンガーグローブをもう一組買いに行くということでオッケーを出した……いつも思うんだけど、ハーフフィンガーグローブってどういうお店で売っているんだろう。純粋にかっこいいとは思うけど、いつもササちゃんの買い物には同行しないことが多いのでちょっと気になる――――イオリくんも涙目だったが、魔法の制御の練習のつもりで、と言ってみると代わりにお菓子を買うということで許可が下りたのだ。正直悪いとは思うけれど、少しずつでも人慣れしていってもらわないと……いや、物慣れしてもらわないといけないと思った結果である。
私はイオリくんたちの将来を、局長として預かっている身。彼らがちゃんと生活できるように頑張らなくてはならないのだ。
ちなみに連行が確定した諸星くんは「絶対行かないからな!」と拒否しまくったものの、キサちゃんが耳元で何事か囁くとすっかり大人しくなった。何を囁いたのか聞いたら「秘密です」と黒色のハートマークがつきそうなハイテンションボイスで言われたので、それ以上詮索するのはやめた。
――――で。
約三十分後、ショッピングモールに到着した私たちは、店に入るより先にかなり衝撃的な光景を目にすることとなった。
「……何これ」
今度ははっきりと声に出して、ササちゃんが呆然と呟いた。
このショッピングモールは各エリアを花にたとえ、その花に合わせたイメージカラーで壁や床の色や装飾が統一されているのだけれど、そのエリアのひとつで服飾店に隣接し、すぐ近くには上階へ上がるためのエスカレーターがある『ナノハナエリア』の入場口。
巨大なガラスの自動ドアへ向かおうとしたところで、イオリくんがこてんっとそれに足を引っ掛けて転んでしまい、気がついた。
赤い、もこもこした素材の何かにくるまれた……いや、赤いもこもこを被った何か。
大きさはイオリくんの身長とそう変わらないくらいで、時折ぴくぴく動いているような気がする。もこもこしているのはフリース素材のようで温かそうだ。何これ。ササちゃんの言葉通りの感想を、恐らく私たちは一様に抱いていたろうと思う。
すっぽり上から下までその赤い素材で覆われているので何かよく分からない。
「……これ何?」
もう一度ササちゃんが声に出す。
「……さぁ?」
キサちゃんが困り顔で応じた。
「……とりあえずさ、危なそうだし近寄らないほうがいいんじゃね……あらゆる意味で」
諸星くんがごもっともな意見を述べる。
「……毛玉さん?」
イオリくん、可愛いけど多分違うわ。
店から出てきたお客さんや入ってくる人々の不審そうな視線が、赤いもこもこを次々に突き刺していく中、私は少し考えてから他の皆に距離を取るように告げた。こんな不審物を放っておくわけにも行かないし、かといって他の誰かに任せるのは局長の名が廃るというものだ。
途端ずざざざっと後退する諸星くんとササちゃん、面白がるような笑顔を浮かべつつもさほど距離を取らないキサちゃん、不安そうに目を泳がせつつも一歩も動かないイオリくんに分かれた。
興味津津と言った様子のキサちゃんを見て、諸星くんが焦ったように、
「お、おいやめとけって期橋! それとお前ら! 中身が変なヤツだったらどうすんだよ、変質者かもしれないだろ!?」
「……そ、そうそう、だから三人とも止めた方がいいって……焼いたらトキヒロいないから証拠隠滅できないし……!」
「待ってササちゃんそれ怖いよ!?」
さらっと殺害宣言しないでくれないかな!? ササちゃん物騒なこと平気で言うよね!?
とツッコミを入れるより早く、キサちゃんが超満面の笑顔で、
「分かりませんよ先輩、もしかしたら未知の生物、つまるところ新種の生き物かもですよ!? もしくはエイリアンとかUMAとか、あ、キメラかも!?」
「キメラでもこもこするか馬鹿野郎! 絶対違うっ!」
キサちゃんの笑顔を見て確信した。この子、面白がっているだけだ。特に警戒心丸出しの諸星くんで。
こんな状況で人をからかって遊べるとかある意味すごい根性というか、肝が据わった少女である。私自身緊張していた神経が緩められるような気がして、私はほっとした。キサちゃんはムードメーカーって奴なのかもしれないと思う。空気を動かすのが得意なのか無意識なのか分からないけど、私には苦手な役回りで、どっちかと言えばシュンくんの分野と言えそうだけど彼よりも更に上手なのだ。
イオリくんと目が合って、その揺らぐ目を見て私はにこりと微笑んだ。アブない人だったら即座に黙らせることができる程度の実力はある、心配はいらないよ。伊達に局長をやってるんじゃないんだから。言葉にはしないアイコンタクトだったけれど通じたようで、イオリくんはこくんと頷いた。
後ろでキサちゃんと諸星くんの言い合いが続く。それが終わるまで待つのも長くなりそうだと思って、私はそっと赤いもこもこに近寄り、
「あ……あのー」
恐る恐る声をかけた。
ぴくり、と赤いもこもこが動く。気のせいでは無い。……ということは、とりあえず生きているんだろう。多分サイズ的に人だろうし。
後はアブない人ではないことを祈りながら、私はそっともう一度声をかけた。
「だ、大丈夫ですか……?」
「……、で……」
「はい?」
くぐもった声が赤いもこもこの向こうから聞こえてくる。小声過ぎて男女どちらなのか判断がつかなくて、私は訊き返した、
――――瞬間、突然赤いもこもこがばっと立ち上がった。
「ひょおうっ!?」
奇声を上げて思わずとびのきかけ、私は露わになった赤いもこもこの正体にぽかんと口を開けた。ぴょこんとまず見えたのは明るい栗色のツインテール。黄色のシュシュでまとめられたそれは腰ほどもあって、解いたら相当な長さだろうことは簡単に推測できた。次にばさりと広がる赤いもこもこ――――それはどうやら丈の長めなポンチョだったらしい。頭も手もポンチョの中に引っ込めていたから、傍から見ると謎の生物状態のもこもこだったのだ。そしてこの時期には寒々しく見えるショートパンツと、編み込みロングブーツ。
ぱちり、と目が合った。二重瞼のぱっちりした瞳だ。
そして次の瞬間、もこもこの正体、ことポンチョの彼女はぴょんと飛び上がって、
「きゃああああああああすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と叫ぶなり華麗すぎるジャンピング土下座を決めた。
しん。静寂。
え、何? 思考回路が急過ぎて停止した。
大学生くらい、私とそう変わらないだろう童顔の彼女はそのまま、額を石畳にこすり付けん勢いで頭を何度も下げながら叫び声を上げる。
「ばばばばばバイトあるのにうっかり! ああああああもううっかりなんです本当にすみませんッ! 最近いろいろ悩み事がオンパレードで色々困ってたみたいなノリでござんして決して悪気は、ど、どうかクビにだけはしないでくださいですじゃ親方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「え、えっと、あの……?」
「今クビになったら生活費が! 学費も生活費も崖っぷちなんです許してくださいぃぃぃぃぃぃぃ!! もうかれこれ二カ月カップラーメンしか食べてないんですっ飲み物はオール水道水なんです真面目にバイトするから許してくださいイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ちょ、落ち着いてください! 私あなたのバイト先の人じゃありませんよ!? 大丈夫ですか!?」
慌てて言った言葉に、ぴたりとポンチョさん(仮)は動作を停止した。私の服の袖に反射的にしがみついていたイオリくんがガタガタ震えていて、振り返ればキサちゃんが笑いをこらえようとしているのかひくひくと口の端が動いている。諸星くんとササちゃんはと言えば、互いに私とポンチョさんを見比べるのを繰り返していた。
そろーっ、と、ポンチョさんが顔を上げる。ポンチョさんに向き直った私とぱちりと目が合った。
「……あ」
「……だ、大丈夫ですか……?」
瞬きを繰り返すポンチョさん。しばしの沈黙の後、彼女は黙って立ち上がって懐からスマートフォンを取り出すと、その画面を見てこの世の終わりみたいな顔をした。
「なんということでしょう……終わった……僕の人生終わったですやん……」
「は、はい……?」
「今度遅刻したらバイトクビにするって言われてたのに……五分遅刻とかもう救えない……」
「あ、あのー……?」
「うっかり寝たのが悪かった……警察さんが取り合ってくれないから……はあぁぁぁぁぁ……」
こちらは眼中にないとでも言いたげに、長いため息をつくポンチョさん。
うっすら目に涙まで浮かべる彼女に、私たちは顔を見合わせた。どうやら寝過ごしたということらしいが、にしたってなんでこんなところで寝ていたというのだろう。ちょっと変わった人なのかもしれない。
その変わり者らしい彼女は、眉をひそめてうぐぐぐだのうぎぎぎだの唸り声を上げて頭を捻っている。困っているような表情に、私の心が微かに動いた。特に危なくなさそうなその子の独り言から推測すれば、結構苦しい生活を強いられているようだ。二カ月カップラーメンと水道水しか飲み食いしていないというのは相当に健康に悪いし、学費も生活費も崖っぷちだと言うし、警察とか言っているし……。
いてもたってもいられなくなって、私はついに、
「あの……私でよければ、お話聞きますよ……?」
「……へっ!?」
ああ言っちゃった、また言っちゃった。
呆気にとられたようなポンチョさんの表情に苦笑いをすれば、イオリくんが「いいの……?」と眼下で尋ねるのが見えた。後ろからは、ササちゃんが「……またか」と呆れたようにぽつりと漏らす。
そう、私はおせっかいで世話焼きでお人好しなのだ。困っている人を見過ごせない刑事の娘なのである。しかも同世代とあれば、話を聞かずに行ってしまうわけにはいかない。実は局長になってからも、成る前からも、力になれるか分かりもしない事態に首を突っ込んでしまうトラブルメイカーだと言われてばかりいるのだ。
自分でも相当めんどくさい人種だよねぇ、と思いながら、私はひとつ頷く。
すると、みるみるポンチョさんは表情を輝かせた。
「ほ……ほんとうにいいんですか? お、お話聞いてもらえますっ!? 僕、元ヒキコモリだから友達とかできなくて話す相手もいなかったんですっ! それに頭も悪いから何が何だかもうぐるっぐるでうわあああってカンジなんですよろしいですか!?」
「え、あ、うん……?」
「きゃあああもう天使だ! この人マイエンジェルだ! 僕の天使、いやむしろ女神がここに降臨なすったぁぁぁぁぁぁ本当にありがとうっっっ!! あ、ちなみに僕の名前は染井美依(そめいみい)ですっ! マイエンジェル、お名前は!?」
……訂正。
今日拾ってしまった、私の手を取ってぶんぶん上下に振るポンチョさんこと美依ちゃんはちょっとの変わり者ではなくて、相当な変わり者のようでした。




