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俺の異世界生活が配信されているとしか思えない  作者: 伊藤ほほほ
第一章 何を成すか

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第三話 おっさん、冒険者になる

 ――翌日。

 (まぶた)の裏から光を感じ、大きく背伸びする。


『ようやくお目覚めか』

『おっさんおはよう』

『ずっと監視してたけど、不審者おっさんしかいなかった』

『移民が治安を悪くする……か』


 妖精どもは相も変わらず言いたい放題。とりあえず無視しておく。

 何事もなく目覚めた俺は、情報収集することにした。


 道行く人や露店商に聞いて回り、分かったことは四つ。

 なぜか言葉が通じるし、文字も読める。

 この街の名前はペノンベン。

 露店で売られていた小さなパンが一つ二百ミース。当然だが通貨が違う。

 そして最後に、俺はかなり危険な状況だ。


 公共の井戸があるから、水だけは飲み放題。あとは寝食さえなんとかなれば、人並みの生活ができる……なんて、甘い考えを抱いていた。

 この世界の人たちはたくさん子供を作るらしく、一族経営の店がほとんどだとか。

 元より働き口が少ないのに、信用が足りないよそ物を雇う店はない。

 つまり、安定した仕事が見つからない。


 では、よそ者がどうやって生計を立てているのか。

 答えは簡単、ファンタジーでお馴染みの冒険者だ。冒険者ギルドで登録すれば、誰でもなれる職業らしい。

 場所を聞いて、さっそく向かう。


『おっ、ここか』

『めっちゃでかくね?』


 建物は石造り。『冒険者ギルド』と書かれた看板がかかっていた。長方形と円柱を二つ並べて組み合わせたような形をしている。

 大通りに面しているのは長方形の方で、コンビニくらいの大きさ。

 円柱状の建物はかなりでかい。中で野球ができそうだ。訓練施設にでもなっているのだろうか。


 重い扉を押し開く。

 奥に受付嬢のいるカウンターがあり、左の壁には依頼書と思われる木札が掛けられている。

 冒険者の姿もちらほら。みんな体つきが(たくま)しい。

 さっそくカウンターに並んで順番を待つ。


『だいたいイメージ通りか。ギルドって感じ』

『受付嬢ちゃん可愛すぎワロタ』

『おっさんと違ってみんな強そう』

『髪の色がカラフルで目がチカチカすんな』

『あっ、名前見えた! パンジィちゃんか、俺の見立てではDだな。スタイルもいい!』


 まあ、確かに美人な受付嬢だ。癖のある栗毛に、吸い込まれそうな緑色の瞳。名札にパンジィと書いてある。

 妖精たちが大騒ぎ。これだけやかましくても、周りの反応はない。こいつらの声は俺だけに聞こえているのかもな。

 さて、俺の順番がきた。


「登録をお願いします」

「では登録料として、二万ミースいただきますね」

「……あの、手持ちがないのですがどうしたら?」

「お金を用意していただければよろしいかと?」


 二万て……パン百個分じゃないか。

 俺は絶望し、腰が砕けてしまう。

 金を稼ぐ方法を探したら、金を用意しろってどういうことなんだ。


『困り顔のパンジィちゃんもええな』

『おっさんとは違って目の保養になるわ』

『よそ者は冒険者にしかなれないって話だったのに、どうすんだこれ?』

『おっさん、終了のお知らせ』


 いや、終わらせてなるものか。

 現状、俺が生きる道は冒険者しかない。このままでは間違いなく死ぬ。

 なりふり構っていられない。


「どなたか、二万ミース貸していただけませんか!」


 恥を忍んで必死に叫ぶ。

 ギルド内の冒険者たちに一人ずつ声を掛ける。

 この世界の人に通じるかは分からないけど、土下座をして懇願(こんがん)した。

 みっともないことをしているのは伝わったらしい。暴言や嘲笑(ちょうしょう)する声が聞こえる。


「お願いします! お願いします!」


 金髪ロン毛の若い男の前で頭を下げたら、脇腹を蹴られてしまった。


「ぐえっ……」


 情けない悲鳴を漏らす。


「これから冒険者になろうって奴が恥ずかしくねえのか。こっちはプライド持ってやってんだよ!」


 また足蹴にされて、床を転がされてしまう。

 でも、諦めない。

 その足にしがみついて、説得を試みる。


「んだてめえ、放しやがれ!」

「金がないから働きたい。それだけなんです。冒険者としての心得は、冒険者になってから覚えます。だからどうか、二万ミースを貸してください!」


 金髪は俺の髪を掴み、引き()がそうとしてくる。プチプチと大事なものが抜け落ちる嫌な音がする。

 仕事でミスをすれば、上司に叱られるのは当然だ。この人の気に障る行動をしてしまった俺が悪い。

 でもさ、だったら教えてくれよ。先輩として後輩に指導するなら、正しい冒険者の在り方ってやつをさ。


「おいジンク、そこまでにしておけ。二万でいいんだよな?」

「マジっすかバーンズさん。こんなのに手ぇ差し伸べるんすか?」


 そのとき、救いの神が現れた。金を貸してくれるらしい。

 俺は離すまいと掴んでいたジンクの足から手をほどき、立ち上がった。

 ガニ股でこちらに近づいてくるバーンズさん。肩幅が広く、威圧感がある。

 革鎧に身を包み、背中に大きな剣を担いだ厳つい顔のスキンヘッド。歳は俺より上だろう。背丈は同じくらい。一八十センチ弱といったところか。


「ジンクよぉ、弱いもん()イジメってのはプライドの高い冒険者がすることか?」

「え、あ、いや。違います」

「泥にまみれ、傷だらけになり、(くせ)ぇ血を浴びる。冒険者ってのは、所詮(しょせん)この世の底辺さ。生き様で語ることしかできねえ。……じゃあ、余裕くらい見せてやろうぜ? ガキがカッコイイって憧れてくれる――俺らはそんなモンでいいんだよ」

「……たしかにそうっすね。おっさん、すまなかったな」


 ジンクは俺の肩を叩き、逆の手をひらりと上げて謝罪した。悪い奴ではないらしい。

 いまの会話で、なんとなく冒険者の立ち位置が理解できた。この世界では社会的地位が低いのだろう。

 しかし、彼らは誇りを持って仕事をしている。最初からナメられるような真似をした俺を気に食わないと思うのは当然だ。

 だからといって、謝るつもりはない。 軽く(あご)をしゃくって、「ああ」と短く了承の意志を示す。

 

「で、おっさん。二万ミースだが、その変な上着と交換てのはどうだ?」


 バーンズさんは、俺が着ている紺のスーツをご所望らしい。

 安っぽいポリエステルの生地だが、こんなものと交換でいいなら願ったり叶ったり。


「助かります」

「おう、困ってるときゃお互いさんだからな。どうせ飯も食えてないんだろ? 奢ってやるから、登録が終わったら俺んとこ来な」

「いいんですか! ありがとうございます!」


 スーツとお金を交換して、何度も頭を下げてお礼を言う。

 彼はさっそく手にした上着を羽織(はおり)り、スーツの上から大剣を背負うアンバランスな姿を仲間たちに自慢していた。満足そうな表情だ。


『バーンズさんかっけぇ!』

『おっさんだせぇw』

『そうかな? あたしは頑張ったおっさんのこと褒めてあげたい』

『運がよかっただけだろ』

『死に物狂いって感じだったな』


 これで冒険者になれる。

 カウンターに戻り、登録料を支払う。

 

「では、鑑定をします。この魔導板(まどうばん)に手のひらを乗せてください」

「……鑑定?」

「はい、冒険者へのサービスですね。自身のスキルを知らない方もいらっしゃいますから」

「お、お願いします!」


 パンジィさんが指差す先、カウンターの上に置かれた黒く分厚い板――魔導板とやらに右手を乗せる。

 すると、不思議な感覚に陥った。

 俺のスキルは、『モンスター化レベル(いち)』と『言語理解』。それらがどういうものかを元から知っていたかのように、頭の中に情報が流れ込んできた。

 何もなかったらどうしようかと不安だったけど、あの青い光の渦を通り抜ける際に備わったのかもしれない。


 モンスター化は、レベルに応じたモンスターの姿に変身できる。何になるかまでは分からない。

 変化したまま時間が経過すれば、そのうちスキルのレベルが上がるという。

 使い方は簡単。レベルを頭に浮かべ、『チェンジ』と口に出せばいい。

 言語理解は、その名の通り。この世界で書いたり聞いたり話したりできるのは、これのおかげだったわけか。


「次に、お名前とスキルを教えてください」

「名前はマサル。スキルはモンスター化と言語理解でした」

「モンスター化は初めて聞くスキルですね。詳しい内容が分かったら後ほど報告してください」


 冒険者である証は、革紐に(くく)られた金属のタグ。俺の名前――日比谷(ひびや)(まさる)の『マサル』が、パンジィさんの手により、うにょうにょした文字で丁寧に彫刻されていく。

 モンスター化――ギルド職員ですら知らないスキルということは、チートを手に入れたかもしれない。

 早く試してみたいけど、もしドラゴンにでもなってしまったら大変だ。周りの人を押し潰し、ギルドを破壊してしまう。


「分かりました。いまの俺だと、どんな依頼を受けたらいいですか?」

「薬草十本の採取で八十ミース。こちらはお一人様一日に一度までとなっております。ゴブリン三体の討伐で五百ミースですが、ある程度の装備を整えてからでないと殺される恐れがあります」


 カウンターの上に、絵付きの資料を並べて説明してくれた。

 薬草は……まあ、草だな。葉っぱの形が特徴的で、二つの丸い葉の先に、楕円形の葉がある。

 ゴブリンは、凶悪な見た目。おでこはボコンと飛び出して、鼻は大きく鷲のクチバシみたい。耳元まで口が裂けており、あのギザギザの歯で噛みつかれたら大変なことになりそうだ。

 生きていくにはゴブリンを狩るしかない……が、装備か。

 何をするにも金だな。もうスキルに賭けるしかない。


『ユニークスキルなんじゃないのそれ?』

『始まったな……』

『こっちの世界の人間じゃないのにスキル持ってるんだね』

『おいマサル、早く使ってみようぜ!』

『夜だけモンスターになります――とかいう下ネタは勘弁な?』


 妖精たちが興奮している。俺だって同じ。

 やっとラノベの主人公みたいな大冒険が始まりそう。

 しかし、踊る胸に待ったをかける。まずは飯だ。

 パンジィさんに感謝を述べ、バーンズさんの元に向かう。


「登録終わりました」

「おう、行くぞ」


 俺たちはギルドを後にした。

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