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公爵令嬢に生まれたので断罪に備えていたら、なぜか王国最強になっていました  作者: 玉響すばる


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第78話 仮出向帰りであることを二年が意識し始めると、どうやらこちらは「何を教えるか」より「何を急がせないか」の方を強く問われますわね

 仮出向から戻って数日。


 騎士学校の空気にも、準騎士宿舎の流れにも、私は少しずつ再接続され始めていた。


 再接続。

 それが一番近い言葉だと思う。


 元へ戻る、ではない。

 そんな単純な話ではないのだ。


 第八騎士団で削られた順番は、もう身体へ入っている。

 だが、それをそのまま学校へ流し込めば、今度は二年の育つ余地を殺す。

 だから切る。

 何を持ち帰り、何を置くか。

 その線引きが、仮出向から戻った三年の最初の仕事になる。


 それが、ようやく少しずつ分かってきた頃だった。


 二年たちの視線が、変わり始めたのだ。


 最初の数日は、ただ“戻ってきた三年”を見る目だった。

 少し違う。

 少し嫌な感じが増えた。

 少し静かになった。


 そのくらいの認識だったのだろう。


 だが、数日もすると、それが変わる。


 仮出向帰り。


 その事実そのものを、二年たちが意識し始めるのだ。


 そして、それが意識されるようになると、今度は別の問題が出る。


 こちらの言葉や位置を、“外を見た三年の正解”として受け取りすぎる者が出るのである。


 かなり面倒ですわね。


 かなりよくあることなのでしょうけれど。


 その日の朝、主教官は整列した三年と二年を見て、最初にこう言った。


「仮出向帰りの三年を、答えとして見るな」


 広場が静まる。


 私はその一言で、ああ、やはりそこですのね、と思った。


「持ち帰ったものには価値がある」

「だが、お前たち二年が今すぐ全部を真似すればよいわけではない」

「三年は教えろ。だが、急がせるな」


 それは、まことにその通りだった。


 仮出向から戻った者は、確かに順番が少し変わる。

 何を先に切るか。

 どこまで待たないか。

 どう位置を情報にするか。


 だが、それは“すでに二年を終えた上で三年として外を見た者”の順番だ。

 今の二年にそのまま押しつければ、速すぎる。

 理解の足場を飛ばしかねない。


 つまり、戻ってきた三年に問われるのは、

 何を教えるか、ではなく、

 何を急がせないか、なのだ。


 かなり深いですわね。


 その日の総合訓練で、私はその意味をすぐ思い知った。


 二年を五人受け持つ。

 内容はいつもの小隊前進、変換、接触想定、役割交代。

 派手ではない。

 だが、基礎だからこそ差が出る。


 最初の一巡で、二年の一人が私の位置を真似しようとした。


 前の詰まりを見て、半歩だけ外を取る。

 その判断自体は悪くない。

 むしろ、第八騎士団では自然なものに近い。


 だが、今の二年にはまだ速い。


 なぜなら、その半歩の意味がまだ一つしか見えていないからだ。

 彼は前の詰まりだけを見て動いた。

 その結果、自分の後ろを薄くした。


 止めが入る。


 私はそこで、少しだけ息を吐いた。


 ええ。

 こうなりますわよね。


 二年は、仮出向帰りの三年が取る位置を“より上の答え”として見た。

 だから真似した。

 だが、前提が足りない。


 つまり、今ここで私は“その位置の正しさ”を教えるより先に、“まだそこを急がなくていい”を教えなければならない。


「今のは、まだ早いですわ」


 二年生が悔しそうに私を見る。


「でも先輩は、さっきそこへ」


「ええ」


「なら、同じように」


「今のあなたは、そこまで一度に拾わなくてよろしいですの」


 彼は少しだけ眉を寄せた。

 納得しきれていない顔だ。

 だが、それでよい。


 今ほしいのは、完全な納得ではない。

 急がせないことだ。


「今のあなたが先に守るのは、前と自分の線ですわ」

「横まで一息に拾おうとすると、後ろが死にますの」


 二年生は一瞬だけ黙り、それから小さく頷いた。


「……はい」


 そこで主教官が、少し離れた位置から言った。


「ヴァルツェン」


「はい」


「今のはいい」


「ありがとうございます」


「持ち帰った順番を見せるな、とは言わん」

「ええ」

「だが、二年が真似して死ぬ位置なら、まず止めろ」

「はい」


 それが今日一番重い確認だった。


 持ち帰ったものは使ってよい。

 だが、見せ方を間違えるな。


 つまり、“これが外だ”と示すことより、“今のお前はここまででいい”と切ることの方が、戻ってきた三年にはずっと重い。


 午前の後半、私はもう一つ別の失敗を見た。


 今度は二年の一人が、私の言葉の短さを真似しようとしたのだ。


 指示役を回した時、彼は必要なことを必要なだけ言おうとした。

 発想は悪くない。

 だが、言葉を削ることそのものが目的になっていた。


 結果、情報が足りない。

 周囲が拾えない。

 そのせいで動きが鈍る。


 かなり典型的ですわね。


 止めのあと、私はその二年に言った。


「短ければよいわけではありませんの」


「……はい」


「今のあなたに必要なのは、“削る”ことではなく、“何を削ると通らなくなるかを知る”ことですわ」


 その言葉に、自分で少しだけ納得した。


 ええ。

 そうですわね。


 仮出向で持ち帰ったものは、短さでも速さでもない。

 順番だ。

 つまり、削る場所の見極めである。


 だから二年へ教える時に必要なのも、“私たちと同じ速さになれ”ではない。

 “どこを今は削っては駄目かを知れ”の方なのだ。


 昼休憩、レオンが草地へ座り込みながら言った。


「今日、ちょっと分かった」


「何がかしら」


「仮出向帰りって、二年からすると妙に真似したくなるんだな」


「ええ」


「俺らが去年、第一次仮出向組見た時みたいに」


 それはかなり本質だった。


 イリーナが水を飲みながら言う。


「そうなのよね。二年が見てるのは、私たちの“答え”なのよ」

「ええ」

「でも、本当は答えじゃない」

「ええ。順番が変わっただけですの」


 カイルが静かに言う。


「だからこそ、見せ方を切らないと危ない」


 かなり良い整理だった。


 午後の訓練では、それを少し意識して組を回した。


 私は位置を取る。

 だが、二年が真似して潰れそうな位置なら、わざと半歩だけ浅く置く。

 言葉も削りすぎない。

 ただし、全部は言わない。

 今の二年が拾えるところまで落とす。


 すると、訓練の後半で少しだけ空気が変わった。


 二年の一人が、私の位置そのものではなく、“なぜそこまでに留めたか”を見ようとし始めたのだ。

 それはかなり大きかった。


 真似ではなく、段階を見る。

 そこまで行けば、たぶん育つ。


 訓練の終わり際、主教官が全体へ言った。


「仮出向帰りの三年は、見せるものを持っている」


 広場が静まる。


「だが、それを全部見せればよいわけではない」

「二年に必要なのは、外の速度ではない。外へ行く前に潰れない基礎だ」

「三年は、その順番を守れ」


 その言葉は、今日一日ずっと私が感じていたことを、そのまま言い切っていた。


 解散後、二年の一人が私のところへ来た。

 午前に位置を真似して止めたあの子だ。


「先輩」


「何かしら」


「さっきの、まだ早い、っていうの」


 彼は少しだけ悔しそうに言葉を探した。


「……分かった気がします」


「そう」


「先輩がやってることを、そのままやるんじゃなくて」

「ええ」

「今の自分が守る線を先に切れ、ってことですよね」


 私は少しだけ目を細めた。


 よろしい。

 かなりよろしいですわね。


「ええ。その通りですわ」


 彼は小さく礼をして戻っていった。


 その背を見ながら、私はようやく少しだけ肩の力を抜いた。


 持ち帰ったものを、無理に“全部見せる”のではない。

 今の相手に必要な形へ切って渡す。


 それが出来るなら、仮出向帰りであることにも意味がある。


 その夜、私は記録帳を開いた。


 仮出向帰りであることを二年が意識し始めると、どうやらこちらは“何を教えるか”より“何を急がせないか”の方を強く問われる。

 持ち帰った順番を全部見せる必要はない。

 むしろ、今の二年が真似して死ぬものは先に止めるべき。

 短さも速さも答えではない。

 今削ってよいものと、まだ削ってはならないものの線引きを見せることの方が大事ですわね。


 そこまで書いて、私は少し手を止めた。


 それから最後に、一行だけ静かに足した。


 どうやら仮出向帰りの三年とは、“外で得た答えを見せる者”ではなく、“その答えへ至るまでに今は急がせてはならない段階を守る者”のようですわね。


 ……かなり面倒で、かなり良いですわ。


 私は羽根ペンを置き、準王国騎士団服の袖をゆっくり撫でた。


 よろしい。


 持ち帰ったものがある。

 ならば今度は、それを誰にどの順番で渡すかを考えればよい。


 それもまた、三年の仕事なのだろう。


 ――こうしてルクレツィア・フォン・ヴァルツェンは、仮出向から戻った三年として二年たちの視線の変化を受け止めながら、“外で得た順番”をそのまま押しつけるのではなく、“今は急がせてはならない段階”を守る形で渡していくことの重さを、さらに深く理解していくのだった。

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