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果てなき世界  作者: 影川明空人
第9章 学園2年目 大規模試験編
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第405話

第405話


「ユリウス」


 呆れたような声が響く。


 カトレアだった。


「他の人たちは?」


 ユリウスは何でもないことのように答える。


「置いてきちゃいました」


「…………」


 カトレアの眉がぴくりと動いた。


「貴方ねぇ……単独行動はやめなさいと言われているでしょ!」


「でも、僕が一人で動いた方が早いので」


「だから!」


「結果的に奴らも退いていきましたし」


 ユリウスは悪びれる様子もない。


 実際、自分が追っていた魔族をここまで追い込み、その結果として敵は撤退した。


 ならば問題はない。


 そう言いたげだった。


「そういうことじゃないっていつも言ってるでしょ!」


「まあまあ、落ち着けって」


 フェルディナントが間に入る。


「うるさいわよ!」


「俺に怒るなよ……」


 フェルディナントが苦笑しながら一歩下がった。


 レオンはそんな三人を眺めていた。


「アレスさん」


「ん?」


「彼は?」


「あいつはユリウス・クロイツ。隊長の一人息子だ」


「ライナーさんの?」


「ああ」


 思わずもう一度ユリウスを見る。


 確かに言われてみれば、どこか似ているような気もする。


「歳は十四だが、実力もあるからたまに俺たちの任務に同行している」


「十四……」


 レオンより年下。


 それで先ほどの強さ。


 驚くのも無理はなかった。


「ただ、ちょっとな」


 アレスが言葉を濁す。


 その視線の先では、まだカトレアがユリウスを叱っていた。


「随分と自信があるようだな」


 グランヴェルが腕を組む。


「貴方がそれを言うのね」


 レティシアが横から言った。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味よ」


「俺は自らの実力を正しく理解しているだけだ」


「はいはい」


「何だその反応は」


 二人のやり取りを横目に、アレスが続ける。


「あの若さで既に実力はSSクラス。剣も魔法も才能がある。一度見た技術の大半はすぐに再現できるそうだ」


「一度見ただけで……」


「ああ」


「それはすごいですね」


 レオンが素直に感心する。


 先ほどの戦いを見ただけでも、その実力が本物なのは分かった。


 剣、魔法。どちらも高い水準にある。


「しかし、そのせいで壁という壁にぶつかったことがないようでな」


 アレスが小さく息を吐く。


「自分一人でやった方が早いと、いつも突出してしまうんだ」


「ああ……」


 レオンが納得したようにユリウスを見る。


 先ほどカトレアに怒られていた理由もそれらしい。


「なるほど。大変そうですね」


 レティシアが苦笑する。


「傲慢なやつのようだな」


 グランヴェルが言った。


「…………」


 レオンがグランヴェルを見る。


「何だ?」


「いや……」


 思わず笑ってしまう。


「何がおかしい?」


「何でもない」


「なら笑うな」


 そんなやり取りをしている間にも、カトレアの説教は続いていた。


「そもそも、貴方は何度言われれば分かるの!」


「分かってますよ」


「分かってたら一人で行かないでしょ!」


「でも、あのまま全員で動くより僕が追った方が――」


「だから、そういう問題じゃないの!」


 ユリウスは面倒そうに息を吐いた。


 そこへ。


「ユリウス!」


 遠くから声が響く。


「あ」


 数人の第一隊の騎士たちが走ってくる。


 ユリウスが置いてきた者たちだろう。


「やっと追いついた……」


「お前、また勝手に先に行きやがって!」


「だから言ったじゃないですか。僕が先に行った方が早いって」


「そういう話じゃない!」


「カトレアと同じこと言ってるよ」


 フェルディナントが小さく笑う。


「笑い事じゃないわよ」


「分かってるって」


 追いついた騎士の一人がユリウスの前へ立つ。


「今回のことは隊長に報告するからな」


「構いませんよ」


 即答だった。


「どうせまた怒られるぞ」


「いつものことです」


「お前な……」


 騎士が頭を抱える。


 それでもユリウスは気にした様子もない。


「敵も退いたんですから、戻りましょう」


「誰のせいで疲れたと思ってるんだ……」


 第一隊の面々が砦へ戻り始める。


 レオンたちもそれに続こうとした。


 その直前、ユリウスが足を止める。


「…………」


 視線の先にはレオン。


「?」


 目が合う。


 ユリウスは何も言わなかった。


 ただ、馬鹿にするように僅かに笑った。


 そして、そのまま前を向いて歩いていく。


「…………」


 レオンが頬を掻く。


 その様子を見ていたグランヴェルが口を開いた。


「感じの悪いやつだな」


「……そうだな」


 レオンは苦笑する。


 先ほどから随分と敵視されている気がする。


 だが、理由までは分からない。


「何かしたの?」


 レティシアが尋ねる。


「初対面だよ」


「なら、勇者だからじゃない?」


「それだけで?」


「さあ?」


 レオンはもう一度ユリウスの背中を見る。


 十四歳。


 自分より年下でありながら、既にSSクラスの実力を持つ少年。


 その強さだけは間違いない。


 ただ。


「……仲良くなれるかな」


「知らん」


 グランヴェルが即答した。


     ◇


 その後、第一隊と第四隊は砦に残り、再度の襲撃に備えた。


 しかし昼を過ぎても、日が傾き始めても、魔族が姿を現すことはなかった。


 周辺の偵察も行われたが、大規模な魔物の群れも確認されない。


 どうやら、先ほどの戦闘を最後に完全に撤退したらしい。


 翌日。


 ガレスたち第三隊が引き続き砦の防衛を担当する中、第一隊と第四隊には帰還の指示が出された。


「戻るぞ!」


 騎士たちが本部へ向けて出発する。


 レオンたちも第一隊と共に歩き始めた。


 第四隊にはルシアンとテオドールの姿もある。


 大規模試験が始まってから初となった魔族との戦闘。


 それぞれが新たな経験と課題を得て。


 一行はルミナス騎士団本部への帰路についた。


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