第188話
第188話
ガイウスの敗北を受けても、観客席の熱は冷めなかった。
クラリスの戦いは、多くの者に“技術で崩す強さ”を印象付けた。
「……やっぱり上は違うね」
ノエルがぽつりと呟く。
「当然だ」
テオドールが腕を組む。
「ここから先は、単なる実力では通用しない」
ルシアンは静かに闘技場へ視線を向けていた。
(……次ですか)
アナウンスが響く。
「――第三ブロック第二試合」
アルト・セイリオス vs バルト・グレイゼル。
戦いは短かった。
バルトの重厚な攻撃を、アルトは真正面から受けない。
躱し、流し、削る。
そして一瞬の隙。そこを逃さず突き、勝負を決める。
「……勝者、アルト・セイリオス」
拍手が起こる。無駄のない勝利。
第三ブロックはこれで決着した。
そして――
場内の空気が変わる。
ざわめきが期待へと変わる。
「――第四ブロック第一試合」
観客席が静まる。
「レオン」
一瞬の間。
次の瞬間、大きなどよめき。
「勇者……!」
「本物か……!」
注目が集まる。
入場口から現れたレオンは、静かに歩みを進める。
その肩には、淡い光。
光の下位精霊が、寄り添うように揺れていた。
対するは――
「ディルク・ヴァレンツ」
空気が、重くなる。
ただ立っているだけで分かる。
圧。
逃げ場のない“力”。
中央で向かい合い、互いに構える。
言葉はない。ただ、視線がぶつかる。
レオニードの手が上がる。
「――始め!」
同時に。
二人が踏み込む。
一直線。逃げない。避けない。
正面から――ぶつかる。
剣と剣。轟音。
空気が爆ぜ、地面が沈む。
「っ……!」
レオンが歯を食いしばる。
重い。
圧倒的な質量。
ディルクの一撃は、防ぐというより“耐える”もの。
だが――引かない。
踏み込み、押し返す。
ディルクがさらに踏み込む。
二撃、三撃。
連続で叩き込む。
レオンは受け流す。
それでも前に出る。
斬り返す。
ディルクが剣で受ける。鈍い音が鳴る。
効いている。
さらに踏み込む。
ぶつかる。
受け、押し返す。
数合。
完全な正面衝突。
その中で――
ディルクの口元が歪む。
「……本当に正面から来たか」
低く、そして楽しそうに。
一歩、踏み込む。
「面白い!」
その瞬間、圧が変わる。
振り下ろされる一撃。先ほどよりも重い。
レオンが受ける。
だが――押し込まれる。
地面が割れる。
「ぐっ……!」
耐える。だが、押される。
さらに一撃。横から叩きつける。
レオンの身体が吹き飛び、地面を転がる。
「……っ……!」
すぐに起き上がる。
だが、呼吸が荒い。
余裕はない。
観客席がざわめく。
「やっぱり押されてる……!」
「ディルク相手に正面はきつい……!」
ルシアンは静かに見ていた。
(……まだです)
レオンは再び踏み込む。
今度は――受けない。
避ける。
ディルクの一撃を、紙一重で外す。
剣を滑らせ、反撃。
ディルクが受ける。
わずかに、後退。
「……ほう」
ディルクの目が細くなる。
レオンは呼吸を整えながら構える。
(……見えてきた)
完全ではない。
だが――
“読める”。
軌道、癖、動き。
レオンが踏み込む。
無駄が減っている。
避け、流し、当てる。
ディルクの身体に、確かな一撃が入る。
観客席がざわめく。
「当てた……!」
「やるじゃねぇか……!」
だが――
ディルクが笑う。
「いいな」
一歩、踏み込む。
地面が沈む。
「だが――」
圧がさらに増す。
「それでも押し通す!」
振り下ろされる一撃。
先ほどとは比べ物にならない重さ。
レオンが受け、踏ん張る。
だが――押し込まれる。
地面が割れ、腕が軋む。
「っ……!」
それでも――離れない。
目は、死んでいない。
ディルクの攻撃は止まらない。
理屈ではない。
純粋な力でねじ伏せる。
それでも――
レオンは崩れず、食らいつく。
観客席の空気が変わる。
ただの一方的な戦いではない。
ぶつかり合っている。
削り合っている。
そして――
まだ、勝負は決していない。
戦いは、さらに激しさを増していく。




