第十六話
第十六話
街へ戻った時、すでに門の外は戦場と化していた。
怒号、悲鳴、金属音。
それらが混ざり合い、空気そのものが震えている。
「来たか!」
門前で指揮を取っていた騎士が叫ぶ。
「ルシアン様! こちらへ!」
ローデリックの声だった。
振り向けば、すでに鎧姿で立っている。騎士たちが防衛線を張り、必死に魔物の侵入を食い止めていた。
「状況は」
「ゴブリン、ウルフ、オークが中心です。数が多すぎる」
一瞬、言葉が重くなる。
「……異常だ」
ルシアンは森へ視線を向ける。
絶え間なく流れ込む魔物。
(多い、だけじゃない)
動きに統一感がある。
(流されている……?)
思考を切る。
今は目の前だ。
「止めます」
「お供します」
短く言葉を交わし、ルシアンは前へ出た。
ローデリックも一歩遅れて並ぶ。
⸻
最前線。
ゴブリンが三体、同時に飛びかかる。
ルシアンは剣を抜く。
一歩。
踏み込み。
一閃。
横薙ぎ。
二体の首が同時に飛ぶ。
三体目。
距離を詰める。
その瞬間――
刃に、わずかに魔力を流す。
微弱な雷。
刃に沿って走る。
振り抜く。
斬撃と同時に、雷が弾けた。
ゴブリンの体が硬直する。
そのまま崩れ落ちた。
「……っ」
近くの騎士が息を呑む。
だがルシアンは止まらない。
⸻
ウルフが二頭、左右から迫る。
(遅い)
足元に風を流す。
踏み込みが加速する。
一体目の懐へ。
すれ違いざまに斬る。
そのまま体を回転。
二体目。
跳びかかってくる軌道に合わせて剣を振る。
斬る。
着地と同時に血が地面を染めた。
⸻
「左、押されている!」
声。
ルシアンは即座に方向を変える。
オーク三体。
騎士が防戦一方になっている。
「下がってください」
前へ出る。
棍棒が振り下ろされる。
受けない。
踏み込む。
内側へ。
一体目。
腹を貫く。
二体目。
振り抜かれる攻撃を紙一重でかわす。
そのまま腕に魔力を走らせる。
雷。
拳で叩く。
衝撃と同時に、電撃が走る。
オークの動きが止まる。
そこへ――
斬る。
三体目。
距離を取る。
「――風」
小さく呟く。
圧縮された風が叩きつけられる。
体勢が崩れる。
その隙に踏み込み。
首を断つ。
三体、沈黙。
⸻
「……なんだ今の……」
騎士が呟く。
だが、答える者はいない。
ルシアンはすでに次の戦場へ向かっていた。
⸻
止まらない。
斬る。
避ける。
雷で止める。
風で加速する。
剣技と魔法が、完全に一体化している。
無駄がない。
流れるような連撃。
だが――
(まだ出していない)
本気ではない。
だが。
(抑えている余裕も、少ない)
数が多すぎる。
⸻
ローデリックが並ぶ。
「……驚きました」
短い一言。
だが重い。
「ここまでとは思いませんでした」
それ以上は踏み込まない。
だが、評価は明確に変わっていた。
「助かります」
「問題ありません」
短いやり取り。
それだけで十分だった。
⸻
その時。
遠くで、低い咆哮が響く。
今までとは違う。
空気が変わる。
重い。
圧。
ローデリックの表情が変わる。
「……来るぞ!」
ルシアンは目を細める。
(これは――)
明らかに別格。
空気が、支配される感覚。
⸻
戦場が、一段階変わろうとしていた。




