↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき世界  作者: 影川明空人
第1章 幼年期
16/475

第15話

第15話


 数日が過ぎていた。


 森の調査以降、表立った変化はない。


 だが、完全に元に戻ったわけでもなかった。


 魔物の出現は、わずかに多いまま。


 報告も散発的に上がっている。


 そんな中――


 ルシアンは屋敷を離れていた。


 向かっているのは、例の森とは反対側の外縁地帯。


 比較的安全とされる区域だ。


「今日はこのあたりで問題ないでしょう」


 同行している騎士の一人が言う。


 名はディルク。


 もう一人はベイル。


 どちらもヴェルグレイヴ家の騎士であり、若手ながら実戦経験はある。


「無理はなさらないように」


 ベイルが続ける。


「分かっています」


 ルシアンは短く答える。


 その声音に無理はない。


 実際、この区域であれば危険は少ない。


 少なくとも――通常であれば。


⸻


 しばらく進むと、最初の魔物が現れた。


 ゴブリン。


 二体。


「来ます」


 ディルクが前に出る。


 だが――


「大丈夫です」


 ルシアンが一歩踏み出す。


 木剣を構える。


 距離を詰める。


 一体目が振りかぶる。


 遅い。


 横に流す。


 そのまま踏み込み、首元へ打ち込む。


 鈍い音とともに、崩れる。


 もう一体。


 後ろから回り込む動き。


 だが、視界の外でも動きは読める。


 振り返りざまに一閃。


 倒れる。


「……お見事です」


 ベイルが小さく息を吐く。


 ルシアンは何も言わず、剣を下ろした。


(問題ない)


 この程度なら、脅威にはならない。


⸻


 さらに進む。


 数体。


 また数体。


 出現頻度はやはり少し多い。


 だが、対処できない数ではない。


「……少し多いですね」


 ディルクが呟く。


「ええ」


 ベイルも頷く。


「ですが、この程度なら――」


 言いかけて、止まる。


 ルシアンも足を止めていた。


(……音)


 風ではない。


 動物でもない。


 遠くから響く、低いざわめき。


「今のは……」


 ディルクが周囲を見回す。


 ベイルも耳を澄ませる。


 再び。


 かすかにだが、確かに聞こえる。


 ざわめき。


 揺れ。


「街の方角です」


 ルシアンが言う。


 迷いのない指摘。


 ディルクとベイルが顔を見合わせる。


「……確認する必要がありますね」


「高所へ行きましょう」


⸻


 三人は近くの小高い丘へ向かった。


 視界が開ける。


 街が見える位置。


 そして――


「……なんだ、あれは」


 ベイルの声が掠れる。


 遠く。


 街の外縁。


 土煙が上がっている。


 動いている。


 数が――多い。


「魔物……」


 ディルクが呟く。


 群れ。


 いや、それでは足りない。


 押し寄せている。


 途切れない流れ。


 明らかに異常な規模。


 そして、方向は一つ。


 街。


「……スタンピード」


 誰かが言った。


 それが何かは、全員が理解していた。


 自然発生ではありえない規模。


 制御不能の群れ。


 災害。


 それそのもの。


 ルシアンは黙ってそれを見ている。


(来た)


 違和感は、ここに繋がる。


 散っていた魔物。


 押し出されるような動き。


 すべてが一つになる。


(原因は別にある)


 だが――


(今はそれではない)


 優先すべきは明確だった。


「戻ります」


 ルシアンが言う。


 即断だった。


 ディルクが頷く。


「はい、すぐに」


 ベイルも剣を握り直す。


「急ぎましょう」


⸻


 三人は丘を下りる。


 迷いはない。


 向かう先は一つ。


 街。


 すでに戦いは始まっている。


 間に合うかどうかは分からない。


 だが――


 止まる理由はなかった。


 地面を蹴る。


 風を切る。


 速度を上げる。


 遠くから、音が届く。


 叫び声。


 衝突音。


 崩れる何か。


 すべてが混ざり合っている。


 ルシアンは前を見据える。


(間に合う)


 根拠はない。


 だが、足は止まらない。


 そのまま三人は、街へと駆け戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。