第157話
第157話
初日を終えた夜。
昼間の喧騒が嘘のように、訓練場は静かだった。夜風がわずかに草を揺らし、遠くでまだ数人の生徒が訓練を続けているのが見える。
レオンは剣を抜いた。
対するルシアンは――剣を地面に置いた。
「……剣、使わないのか?」
レオンが少し驚いたように言う。
「ええ」
ルシアンは静かに答える。
「リオルドは徒手空拳です」
「なら、こちらもそれを想定すべきでしょう」
ルシアンが軽く構える。
拳を前に出すでもなく、自然体に近い姿勢。だが隙はまったくない。
レオンが小さく息を吐く。
「……行くぞ」
「ええ」
レオンが踏み込んだ。
剣が閃く。
速い。
だがルシアンは最小限の動きで回避する。身体を半歩ずらすだけで剣が空を切る。
レオンが追う。
二撃目。
三撃目。
ルシアンはすべてを避ける。
そして――
軽く腕を払った。
レオンの体勢が崩れる。
「……そこです」
ルシアンが静かに言う。
レオンが後退する。
「やっぱり、近い距離は厄介だな」
「ええ」
ルシアンが答える。
「リオルドはこの距離を一瞬で詰めてきます」
再び構える。
レオンが踏み込む。
今度はフェイントを入れる。
剣を振るうと見せて、すぐに軌道を変える。
ルシアンが回避する。
だが――
わずかに反応が遅れる。
(……)
ルシアンの目が細くなる。
レオンの動きが鋭くなっていた。
今日の三試合。
一回戦は余裕。
二回戦は技術戦。
三回戦は激戦。
そのすべてがレオンの動きに反映されていた。
レオンが踏み込む。
速い連撃。
ルシアンが避ける。
だが、距離が詰まる。
ルシアンが踏み込む。
拳。
レオンがとっさに剣で防ぐ。
衝撃。
ルシアンの拳は重い。
レオンが後退する。
だがすぐに体勢を整える。
「……今の」
ルシアンが言う。
「悪くありません」
レオンが息を吐く。
「……少しは成長してるか?」
「ええ」
ルシアンは淡々と答える。
「今日の戦いを経て、判断が速くなっています」
再び打ち合い。
レオンが距離を意識する。
踏み込みすぎない。
相手の間合いに入らない。
ルシアンが踏み込む。
拳が迫る。
レオンが後退しながら剣を振るう。
牽制。
ルシアンが回避。
レオンがさらに距離を取る。
(……いいですね)
ルシアンは内心で思う。
リオルド対策としては正しい。
無理に近距離に付き合わない。
距離管理を意識している。
レオンが言う。
「やっぱり距離が重要だな」
「ええ」
ルシアンが答える。
「近距離ではリオルドが有利です」
「あなたは距離を活かすべきです」
レオンが頷く。
再び打ち合い。
今度はさらに長く続く。
レオンが攻める。
ルシアンが避ける。
ルシアンが踏み込む。
レオンが回避。
数十合。
レオンの動きが、徐々に鋭くなっていく。
ルシアンが拳を突き出す。
レオンが剣で受ける。
すぐに反撃。
ルシアンが避ける。
レオンが追う。
連撃。
先ほどよりも速い。
ルシアンが半歩後退する。
(……成長していますね)
疲労があるはずだ。
それでも動きはむしろ良くなっている。
レオンが息を吐く。
「……勇者の力は、やっぱり使わない方がいいか?」
「ええ」
ルシアンが答える。
「なるべく温存すべきです」
レオンが頷く。
「リオルドに勝っても……」
「次があります」
ルシアンが続ける。
「レティシアかテオドール」
「どちらも簡単な相手ではありません」
レオンが苦笑する。
「……だよな」
少し沈黙。
「使わずに勝てるかな」
ルシアンは静かに答える。
「……難しいでしょう」
率直だった。
「ですが、不可能ではありません」
レオンが小さく笑う。
「厳しいな」
「事実です」
最後の打ち合い。
レオンが踏み込む。
剣が閃く。
ルシアンが避ける。
拳。
レオンが回避。
さらに連撃。
ルシアンがわずかに後退する。
数十合。
レオンの剣がわずかに掠める。
ルシアンの目が細くなる。
(……いいですね)
確実に成長していた。
ルシアンが最後に拳を払う。
レオンの剣が逸れる。
体勢が崩れる。
「……ここまでにしましょう」
レオンが息を吐く。
「……ルシアンはやっぱり強いな」
「あなたも成長しています」
ルシアンが答える。
レオンが空を見上げる。
「……明日だな」
「ええ」
準々決勝。
リオルド戦。
ここを勝てば一年生代表が見える。
レオンが剣を握る。
「……勝つ」
ルシアンが小さく頷いた。
夜の訓練は終わる。
だが――
明日の戦いは、さらに厳しいものになるのだった。




