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世にも歪な物語  作者: 海藤日本


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恋来いパンダ-欲の代償-

「おじゃまします」

 ユイが春之助の自宅へと入り、部屋の電気をつけると、何だか春之助の部屋も喜んでいるように見えた。

「俺の部屋よ。お前はもう、寂しい部屋ではない。まさに、ピンク色に輝く綺麗な部屋だ」   

 春之助は、感動で涙が出そうになった。

「春之助くん?」

「あ、何でもない。先に風呂に入っておいで」「え? いいの?」

「うん」

「なら、お言葉に甘えて。……あ、でも私が部屋に戻って来るまで廊下に出ないでよ。恥ずかしいから」

「わ、わかってるよ」

「約束だからね?」

「可愛い……。一緒に入りたい」とは流石に言えなかった。

 数分後、二人はお風呂から上がった。

「春之助くん、お腹空いた?」

「それがさぁ、なんかお腹空かなくて」

「実は私もなんだ……」

 春之助は勿論、ユイも男の人の家に泊まるのは無論初めてであり、緊張のせいでお腹が全く空かなかった。

 一時、沈黙が続いた後、ユイがそっと春之助の手を握った。

 二人は、目が合いまた沈黙が続く。

 ユイの瞳は、やはりピンク色に輝いており、その光が春之助の顔を包み込むように導いた。

 二人は、生まれて初めて唇同士をくっつけた。

「ユイの唇……暖かい」

「春之助くんの唇……暖かい」 

 ユイがそっと唇を離した。

「春之助くん、緊張してる?」

「だって、初めてだから」

「私もだよ。ほら……」

 そう言うと、ユイは春之助の手を握ってそっと自分の胸に当てた。

「ユイ……まさか、つけてない?」

 春之助は興奮したが、次の瞬間には頭からエロいことは離れていた。

 というのは嘘であるが、何とも言えぬ別の感情も抱いていた。

 ユイの胸の鼓動はとても早かった。

 そして、服の上からでもとても柔らかく、暖かい。

 何故か、春之助の目からは涙が溢れていた。「春之助くん? なんで泣いてるの?」

「いや……ごめん」

 春之助はユイを抱き締めた。

 そして、そのまま抱き上げゆっくりと布団へ寝かせた。

「春之助くん……私、初めてだから」

「わかってる」

「持ってる?」

「うん」

「やっぱり春之助くん、最初から襲うつもりだったのね」

「違うよ。これは、友達から貰ったんだ」

「ふふっ、冗談よ。あと真っ暗にして。恥ずかしいから」

 二人は、暗闇の中で初めての熱い夜を過ごした。

 春之助は、眠ったユイの寝顔を眺めていた。「なんて幸せなんだ。もう、俺の頭の中はピンク色だ。踊っている。たくさんのパンダが手を繋いで踊っている。恋だ。これが恋なんだ。俺は今、恋をしている。そして、たくさんのパンダがそれを祝福している。こんな日が、一生続きますように」

 次の日二人は、映画を観に行った。

 その後、遊園地に行き、動物園に行き、ショッピングもした。

「これが、デートか」

 幸せな時間は、あっという間に過ぎるものだ。

 気付いたら、空は暗くなっていた。

「春之助くん、来週も遊ぼうね」

「うん、約束だ」

 二人はキスをして別れた。

 ユイと付き合い始めてから、春之助は前よりも明るくなかった。

 勉強もはかどり、バイトもはかどり、仕事のことで女性と会話をする時も、身体が震える現象は消えた。

「全ては、『恋来いパンダ』のおかげだ。彼らのおかげで俺は無敵だ」

 金曜日の夜、春之助はバイトを終え歩いて帰宅している時だった。

「春之助くーん!」 

 女性の声が聞こえた。

 振り向くと、そこにいた女性は春之助と同じバイト先である『山寺セナ』だった。

「山寺さん? どうしたんですか?」

 春之助は不思議に思った。

 何故なら、セナは仕事の話以外では全く喋ったことがなかったからである。

 セナは頬を赤くし、恥じらいながら口を開いた。

「特に、用事って訳ではないんだけど……。春之助くん、なんか変わったよね」

「それだけを言いに来たの?」 

「ううん……」

 セナは、そっと近づき春之助の胸に頭をくっつけた。

「山寺さん?」

「春之助くん……大好き」

 春之助は心の中で驚いた。

「嘘だろ? 確かに以前、俺は彼女が好きだったが、今までほとんど喋ったこともないのに。まさか、これも『恋来いパンダ』の力なのか? でも……俺にはユイがいるんだ」

 春之助はそっと両肩を持ち、抱きついているセナを離した。

「ごめん、山寺さん。俺には今、大好きな彼女がいるんだ。君の気持ちには答えられない。それに、君にも彼氏がいるだろ?」

「彼氏とは別れたの。どうしても、春之助くんが好きになってしまったから。それに、春之助くんに彼女が出来たことも知ってる。それでも、自分に嘘をつきたくなかった」

「やま……せな……」

 その時、セナはいきなり春之助の唇にキスをした。

 いきなりの行動に、思わず春之助はすぐに唇を離した。

「セナ……やっぱり駄目だ。分かってくれ……」

 春之助がそう言った時、セナの目はピンク色にキラキラと輝いていた。

 そして、春之助の脳内で突然、ピンクの輝きと共にたくさんのパンダが踊りだした。

 そのピンク色輝きが、セナの全体を包み込み、春之助にある感情が芽生え始めた。

「これは……恋だ。好きだ」

 気付いたら春之助は、セナに抱きついていた。

 そして、そのまま家に連れ込み二人は熱い夜を過ごした。

 次に気付いた時には、セナは春之助の横で眠っていた。

 あんなにユイを大切にしていたのにだ。

 普通なら、後悔と申し訳ないと言う感情が出てくる筈だが、春之助の頭の中は違った。

「最高だ。俺はまだ、若いんだし浮気の一つや二つ、したっていいさ。ユイにばれなければいいんだ。そうだ。恋は一つしかしてはいけない決まりなんてないんだ。どのみち結婚したり、歳を重ねれば、こんなことは出来なくなってしまう。今のうちに楽しまなくちゃ」

 そう思っていると突然、春之助の部屋の電気が明るくなった。

 そして、目の前にはなんとユイが呆然と立っていた。

 突然のことに春之助は、一瞬時が止まったかのように身体が固まった。

 しかし、次の瞬間には口を開いていた。

「ユイ……違うんだ! これは、俺の妹だ!」「春之助くん……妹と裸で一緒に寝るの?」

 ユイがそう言うと、突然、白と黒が混ざったオーラがユイを纏った。

 ふと横を見ると、セナもいつの間にか起きており、じっと春之助を睨んでいた。

 そのオーラからは、何とも言えぬ程の憎悪が溢れ出ており、それを感じた春之助は全身がガタガタを震え、大量の汗が出た。

 白と黒が混ざったオーラは、ユイとセナの全身を包み込んだ。

 そしてそれが晴れた瞬間、春之助は二人の姿に困惑した。

「……パンダ?」 

 なんと、春之助から見て二人の姿はパンダになっていた。

 あまりの非現実的な現象に、春之助は挙動不審になり、ふと横の鏡を見た。

「……笹?」

 それを見た途端、春之助は光を失った。

 そして、春之助の一室からは笹をムシャムシャと食べる音だけが響くのであった。 

 その後、春之助は消息不明となった。

 というより、春之助の部屋は物が全てなくなっていた。

 後にユイとセナは、誰も住んでいない部屋で倒れているところを発見された。

 二人は、今回の出来事を一生思い出すことはなかった。


恋来いパンダは、今もどこかで踊っているのかもしれません。

恋を願う人の心の中で。

もし、あなたの前にも現れたら……。

どうか願い方にはお気をつけて。

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