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第二十二話 魔導の真価

(——さて、【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】で生産職の熟練度上げに勤しむ予定だったが……ルーシアをどうしようかなぁ)


 トレントを木っ端微塵に斬り刻んだ現場から、いつも熟練度上げに利用している川原まで戻ってきたダグラスは、隣に居るルーシアを見ながら頭を悩ませていた。


(【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】に、俺以外の人間を連れていくことは可能なのか? 俺だけ転移したら、ルーシアを森へ一人残すことになっちまうし……)


「ダグラス君? 何か悩みごと?」


 腕組みをしながら唸っているダグラスへ、ルーシアが首を傾げながら問い掛けてきた。


「ん? ちょっとな……まぁ、考えるよりやってみた方が早いか。——『千変万化』形態(モード):『(クラヴェム)』」


「わぁっ⁉︎」


 ダグラスが右手に携えていた【叛天の救誓(レベリオ・ファトゥム)】が紫紺の輝きを放ち、蛇腹剣から鍵の形へと姿を変える。ルーシアは、剣から唐突に発せられた光へ驚愕していたが、その後現れた何の変哲もない鍵に対し、驚愕から困惑へとその表情を変えた。


「黒い、鍵……? いったい、何の鍵なの?」


「神様の作った部屋へ行ける鍵」


「ふふっ、何それ……」


 ダグラスの言葉を冗談だと捉えたようで、ルーシアは口元を隠しながらクスクスと笑った。その様子を見ながら、本当なんだけどな、と頬を掻いた後、ダグラスはルーシアへと左手を差し出す。


「手を貸してくれ、一つ試したいことがあるんだ」


「? 別に何か無くても、私はダグラス君と手を繋いでたいな?」


「っ! ……そう言うのは良いから」


 ゲームと違い、自分の欲求を素直に口にし、積極的な小悪魔と化したルーシアへ動揺するダグラス。自分の言葉に動揺するダグラスを見て、満足そうな笑みを浮かべたルーシアは、彼に差し出された左手へ、自身の右手を乗せた。


「よし、——じゃあ、行くぞ」


「行くってどこに…………ッ⁉︎」


 ダグラスは鍵を目の前の空間へと差し込み、開錠するかのように回す。すると、足元に黄金の魔法陣が展開され、眩い極光が迸った。突如巻き起こる目の前の事象へ、驚き過ぎて声も出ない、といった様子のルーシアは隣で息を呑み、ダグラスは転移特有の浮遊感に包まれた——。






「おっ、成功したみたいだな!」


「いったい、何が……? ッ⁉︎ ダ、ダグラス君、ここは何処なのっ⁉︎」


 ダグラスは【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】に転移した後、自身の左手がルーシアの右手と繋がっていることを確認し、喜びの声を上げる。当のルーシアは、いきなり見知らぬ空間に転移したことへ理解が追いつかず、困惑しているようだった。


「何処って、さっき言ったろ? ——神様の作った部屋、だ」


「あれって……冗談じゃなかったの……?」


 ルーシアは、純白を基調とした宮殿のような部屋を見つめて、呆然と呟いた。


「此処は【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】。生産を司る極神、つまり一番凄いモノ作り神様が用意した工房だ」


「な、何でそんな所に来られるの……? ダグラス君って、いったい何者……?」


「何者って……。知っての通り、俺様はイニティ村の次期村長にして、天才魔導——魔法師だが?」


 ルーシアの問い掛けに、無難な返答を試みたダグラスは、危うく【魔導師】だと暴露しかけるも、既の所で堪えることに成功した。【魔極神】ですら不可能な、無限に魔法を使用できる力など、むやみに口にすべきことではない。


「まどう……? やっぱり秘密だよね……ただ、いつか教えてくれると嬉しいな?」


 ダグラスが漏らしかけた言葉に首を傾げるルーシアだったが、彼の正体に関することを話して貰えないと悟ったのか、苦笑しながら自らの希望を口にした。


「……。とりあえず、しばらくはここで修行する予定なんだ。この部屋に居れば、魔物に襲われる心配は無いし、好きに過ごしてくれ」


「ここで修行って、どんな事するの?」


 ただ九つの扉が壁に並んでいるだけで、何も置かれていない円形の部屋を見渡すルーシアは、ダグラスの言う修行に全く想像がつかないといった様子で問い掛けてきた。


「ん? 錬金術を上達させたくてな。ここには錬金術の工房や薬草の生えてる農園があるから、それを目当てに来てるんだ」


「えっ⁉︎ ダグラス君、錬金術も使えるの⁉︎ それって、生産系統の『天職』だよね? ……本当に何でも出来るんだね。神様みたい」


(神様ってそんな大袈裟な……いや、天職【極越神】だし、あながち間違いじゃないのか?)


 ルーシアの過剰な表情に呆れた表情を浮かべたのだが、自身の天職【極越神】を思い出し、一概に否定出来なくなった。


「……まぁ、錬金術に触れた事ないけどな。これから挑戦していこうって所だ」


「そうなんだ? 私も近くで見ていて良い?」


「良いけど……そんな面白いもんじゃないと思うぞ?」


 素材を錬金釜に入れ、掻き混ぜる作業を横から眺めるのを想像したダグラスは、その退屈さに辟易とした表情を浮かべながら、ルーシアへ忠告する。


「大丈夫! 私が見たいのは錬金術じゃなくて、ダグラス君だからっ!」


「ッ⁉︎」


 ルーシアから注がれる熱い視線に、面食らってしまうダグラス。ゲーム内でのルーシアは、ユリウスと結ばれた時ですら、ここまで露骨に好意を伝えてこなかった。その為、現在の彼女が取る言動には、どうしても驚いてしまうのだった。


「す、好きにしろ」


 動揺しながら一言だけ呟き、ダグラスは錬金術の素材を採取するべく、『繁神の農園』へと向かった。



 ◇ ◇ ◇



《天職【錬金術師】の熟練度が上限に達しました》

《天職【錬金創師】を取得しました》

《識力階位がBからAに昇格しました》


「——よし」


 ルーシアに後をつけられた日から早ニ週間が経ち、【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】で錬金術に勤しむダグラスは、遂に『上級職』である【錬金創師】を取得した。


「これで世界の魔力の視認も楽に…………あれ?」


 錬金術系統の『天職』に用意された工房——『真理の解明』の中で、早速階位の昇格した識力を使用するダグラス。しかし、予想とは裏腹に、どれだけ集中しても宙に漂う魔力は視認出来なかった。


「……もしかして、【創極の神造工房(ここ)】には魔力が存在してないのか?」


 【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】において、生産系統以外の熟練度が上がらないことを思い出し、仮説を立てる。外に出て確かめるか、とダグラスが『真理の解明』から出ようとした時……。


「ダグラス君、お昼出来たよ?」


 クリーム色のエプロンを身につけたルーシアが、扉を開けながら呼び掛けてきた。


 ダグラスが【創極の神造工房(ケルサス・アーク)】で熟練度上げをする際、必ずついてくるようになったルーシアは、いつからか『神炊の厨房』で彼の食事を用意するようになっていた。


「おぉ、サンキュー。じゃあ、森へ行く前に腹拵えといくか」


「森? 錬金術はもう良いの?」


 ルーシアはダグラスの言葉に首を傾げながら、問い掛けてきた。


「丁度いま、【錬金術師】の上位職を取得したんだ。ちょっと試したい事があるから、昼を取ったら森に行く予定」


「そうだったんだねっ、おめでとう! ……あっ、森に行くなら、着替えてこないと」


 ルーシアは、今日も一日ダグラスが錬金術に勤しむと考えていたようで、森に行くには不向きな膝丈の白いフレアスカートを履いていた。


「別に、着替えてまでついてこなくて良いんだぞ? こことは違って魔物も出るし」


「またそう言う事……。魔物が出ても、ダグラス君が護ってくれるでしょ?」


「そりゃあ護るけど、万が一を考えるとなぁ」


 そんな会話をしていると、食事の用意されたテーブルが置かれている『神炊の厨房』へと到着した。


「まぁ良いや。とりあえず昼にしよう」


 テーブルの前に置かれた白亜の椅子に腰掛けたダグラスは、そう告げるなり食事を開始するのだった——。






「——さて、識力Aの力を試してみますか」


 昼食を終えたダグラスとルーシアは、森の中にある川原へと足を運んでいた。ダグラスは川の手前に立ち、おもむろに識力を発動する。


「マジか、軽く目に意識を集中しただけなのに……」


 まるで光の雪が降っているかのような幻想的な光景。ダグラスの視界には、世界の魔力が光の粒子として、可視化されていた。


「……あれだけ神経を擦り減らしてたのが、嘘みたいだ」


 世界の魔力を視認する為に、毎回時間をかけて精神統一を図っていたが、今回は特別集中せずとも、世界の魔力を視認出来ていた。


「これなら世界の魔力へ干渉するのに、十分意識を割ける! ——『魔導の理(ウィザード・コード)』」


 ダグラスは右手を川に突き出しながら、世界に浮遊する魔力へと干渉を始める。すると、突き出された右手の前に世界の魔力が収束していき、白い光の槍が構築された。


「『中級魔法』もこんなにあっさり……」


 以前は識力の集中に意識を取られ、魔法の構築にあまり意識を割けなかった為、安定して構築出来るのは『下級魔法』までだった。しかし、識力の集中という枷が外れた今、魔法の構築へ存分に意識を注げるようになっている。


「この分なら『上級魔法』も余裕だな」


 口角上げたダグラスは、そう呟くと同時に幻魔法『身境幻影ミラージュ・ファントム』の行使を試みる。魔力がダグラスの隣へ収束し、瞬く間に彼の分身を創り出した。




「……ねぇダグラス君、一つ聞いて良いかな?」




 後ろでダグラスの様子を黙って見ていたルーシアが、困惑を感じさせる声音で問い掛けてくる。


「ん? どうした?」


「何で魔法名も言わずに、魔法が発動してるの?」


(……さて、どう答えるか)


 ルーシアの問いは当然の疑問で、この世界では魔法名を唱える事で、自動的に魔力が操作されて、魔法が発動する。魔力を自力で操作するなど、識力で魔力を視認しない限り、出来ない芸当なのだ。


(これからも熟練度上げについてくるなら、いつかバレる事か)


 そう結論づけたダグラスは、ルーシアに正対して、口を開く。


「これは『魔法』じゃなくて、『魔導』なんだよ」


「まどう?」


 更に疑問が増えたとばかりに、眉を顰めるルーシア。そんなルーシアに苦笑しつつも、ダグラスは説明を続ける。


「そう。俺の魔力じゃなくて、世界に宿る魔力を利用して魔法を再現してるんだ。——だから、こんな事も出来る」


 右手を天に掲げ、世界の魔力に干渉する。その瞬間、彩り豊かな無数の槍がドーム状に展開され、ダグラスとルーシアを取り囲む。


「ッ⁉︎ な、何これ⁉︎ 魔法が同時に、それも複数属性ッ⁉︎」


 ルーシアは、自身の周囲に展開された槍の空を見上げながら、目を見開いて驚愕する。


「魔法って、一回の発動で一つしか作れないだろ? でも、魔導は魔力の干渉が出来る限り、同時に幾らでも展開出来るんだ」


「……私が『水槍(ウォーター・ランス)』を一回発動する間に、ダグラス君は無数の魔法を同時に発動出来るってこと?」


「そうだ。更に言えば、自分の魔力を使ってないから、魔力が枯渇する事もなく無限に魔法が撃てるぞ?」


「何それ……ムチャクチャだよ……」


 ルーシアは驚きを通り越し、呆れたといった様子で、ダグラスに抗議的な視線を向けてきた。


(……俺も魔導のヤバさに気づいた時、同じ事思ったよ)


 ルーシアの様子に過去の自分を重ね合わせ、懐かしさを感じるダグラス。


「まぁ、世界の魔力を視認するのが結構大変で、今までは満足に『魔導』を使えなかったんだけどな」


「そうなの? 今はこんなにも上手く扱えてるのに……」


 ルーシアは、満足に『魔導』を行使出来なかったというダグラスの言葉と、目の前で披露された『魔導』の完成度とのギャップに、違和感を持った様子だった。


「——あっ! もしかして、今日【錬金創師】を取得出来たのと、何か関係があるのっ?」


 暫く唸りながら考え込んでいたルーシアは、パッと顔を明るくして自らの仮説を口にした。


「鋭いな。まさにその通りで、俺が『錬金術』に勤しんでいたのは、世界の魔力を視認する為の『識力』を成長させるのが目的だったんだ」


「『識力』かぁ……私は魔法系統の『天職』だから、一生縁のない力だなぁ」


 想像もつかないと言わんばかりに、遠い目をして呟くルーシア。その姿を見て、複数系統の『天職』を持つという、世界の原則から外れた自身の異常性を再認識した。


(ルーシアには既にバレてるから諦めるとして……他の人には絶対バレないようにしないと)


 心中で密かに決意を固めたダグラスは、気を取り直して、魔法の熟練度上げに戻る。


「魔導も上手く使えるようになったし、今日からは魔法をメインに鍛えていくから」


 ルーシアにそう告げ、ダグラスは再び世界の魔力へ干渉を始めた。


「——『魔導の理(ウィザード・コード)』」

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