【EPISODE14 HE DONT HAVE FAMILY(ヒー ドント ハブ ファミリー】
ソーイ♂
ラプラス♂
ネリル♀
N♂♀
医師♂♀
<場面転換。戦場になっていたフェザーポータル。
セイヴァージークが星を後にし、NOAHZとアークエンジェルの兵士でフェザーポータルの病院は混雑している。>
ソーイ:う........。
<病院のベッドに横たわっている状態から目を覚ましたズング。口には呼吸器が当てられている。>
ソーイN:からだ.....うごかない.......。
医師:目が覚められた。....お通ししろ。
ソーイN:おとお...し.....?だれ.......
<不思議そうに眼を半開きにしながらぼんやりと部屋から出ていく医師を見送る。10分後、代わるように部屋に入ってくる人影。>
ソーイN:おまえ....は...........!!!!
ラプラス:ほう.....。本当に意識が戻っている。
ネリル:本当につい先ほど目を覚ましたそうです。
ラプラス:運良く....いや。“運悪く”。か。
ネリル:....お気を付けください。ソーイ様の聴覚、視覚は健在であられますので。
ソーイN:“は”って何だ...ッ!
N:ムッとした表情で不満を述べようとするソーイ。然し。
ソーイ:あ..かは......けほ........
ラプラス:無理をしてはいけない。
貴方の喉は裂けている....無理やりつなぎ合わせたが、もう満足に声を出すことはできない。
無理に力を入れて折角の縫合が無駄になってしまうよ。
ソーイN:....ッ.....!?!??なんっ...嘘だ!ウソだ!うそだうそだうそだうそだ!!
ラプラス:フン。やはり生への執着だけは人一倍だな。
まだそう不満げにする元気だけはある様なのだから。
ソーイ:だいっ,,,たい...っおまえ!!!ぶれ...っ、ぶれひだぞっ!
なほっ、なおったら....!!!
ぼひゅ...ぼひゅのお...!ほひょうさまに....!
ひいひゅけてひゃる....!!!こほっ!こほっ!こほっ!
ラプラス:.....すまないが、何を伝えたいのか分からない。
ネリル:大佐の態度への糾弾、そして全快した際お父様に報告するぞ、という旨の訴えをしているようです。
ラプラス:おお、なるほど。
...そうか、まだ理解していないのか。
今自分がどうなっているか。
ネリル。
ネリル:承知しました。
<ネリルが目配せをすると、扉の外に待機していたのか、看護師が横幅の広い鏡をガラガラと持ってくる。
ズングの横たわるベッドに正面から配置されたそれは、ズングソーイの体を映しだした。>
ソーイN:何だ......なんだ....!!!なんだこれは......!!!!!!!!
N:全身から温度が奪われていく感覚。
体中の血管が感電したかのような嫌な痺れ。
“勘違いであってくれ”とでも言うように脳は回転するが、望む答えは出てこない。
ソーイN:わたしの....ッ!わたしのうで...ッ!!あし....ッッッ!!!!!
N:ズング・ソーイの両腕と両足。
それらが無い。
....というより、“ある筈の長さがない”。
中途半端に不揃いに切断された四肢とその包帯の先端に滲んだ血が、傷の凄惨さを物語っていた。
ラプラス:静かにしてくれ。
その虫のような金切り声...気に障る。
どうせまともに声も出ないのだ。
諦めて私達の話を聞け。
ネリル:今回のフェザーポータルの大損害をソーイ様のお父様は重く受け止めていらっしゃいます。
また、NOAHZに“匿名で提出された文書”により、フェザーポータルで行われてきた悪政の詳細が報告されました。
生産効率の低下、そしてフェザーポータルの生産人口の大幅な減少....ズング家によって今まである程度見逃されてきましたが、
“正体不明の戦闘集団”に対処できないばかりかここまでの損害を被ってしまった以上...責任を取らせる、とソーイ様のお父様....ご当主様はご決断なされたようです。
ラプラス:“運悪く戦闘中に撃墜され、重傷を負ったズング・ソーイは戦死。
入院により一命はとりとめたもののこのコロニーの悪政によって貧弱な医療機関の医療ミスにより死亡。
体の内臓は臓器バンクに提供され、人々の移植に用いられた。”
ソーイ:ごほっ、こほっ!ひゅうう~~~...!!!なんのっ!なんのはなしだっ!こほっ!
ラプラス:君が汚染し、破壊し、殺した市民と大地。もはや責任は命でしか償えない。
安心したまえ。
君の死は英雄的に市民に報道される。
ソーイN:やだっ!しにっ、しにたくない!しにたくない!やだやだやだ!もっと沢山生きたい!どうして!お父様!!パパ~~~っ!
僕はこんなところで終わる人間じゃないんだ!!
ラプラス:例えば.....そう。
君の体は脊髄損傷によりこの点滴がないと体のマヒがひどくなってしまうそうだが...。
<そう言うと、ネリルがラプラスの発言に合わせて点滴の投与量を調節するパネルを操作する。>
ラプラス:“我がNOAHZの勇敢な兵士や罪のない市民の治療に追われた病院では点滴のコントロールや投与薬剤の補給が間に合わず”
“身体がマヒした英雄ズング・ソーイは自分の唾液の嚥下が出来ずに溺死”。
うむ。医療事故としては、まずまずの出来ではないかね?
N:自分の点滴の水滴がゆっくりと。ゆっくりと止まるのを見て、目に涙があふれる。
ソーイN:いやだ!僕が悪かった。やめてくれ。
ソーイ:ひゃ...ひゃ、や、やめて...くだ、
ラプラス:........?
何を言っているのか分からんと言っているだろう。
良かったではないか。
漸く国の為に初めて役に立てるのだから。
ネリル:大佐。これ以上の滞在は証拠の隠滅が困難かと。
ラプラス:..そうか。
では、ごきげんよう。ズング・ソーイ。
N:“待ってくれ”の声は、出なかった。
恐怖によって声が震えていたこともある。
然し、一番の理由は、既に麻痺が始まっていたから。
暴れることも、泣くこともできないまま。
惨めに四肢を失い、乱雑に巻かれた包帯に包まれた自分を鏡で見ながら、自らの死の一部始終を見届けなければならない。
その運命に絶望しながらも、部屋から出ていくラプラスとネリルを頬を濡らしながら見送る事しか、出来なかった。
<ソーイの病室から出て、階段を降りていく二人。ソーイ殺害の証拠を極力残さないよう、エレベーター内の監視カメラにすら映らない様に移動する徹底ぶりである。>
ラプラス:...概ね、ではあるが。
ネリル:...私共の計画通りかと。
ラプラス:ズング・ゲルムント当主に追悼の手紙を綴らねばな。
“惜しい英雄を無くしました”と。
ネリル:....。ヴェイルサイドにて直筆でのお手紙をお願い致します。
ズング家は“本来”礼節と伝統のある一族ですので。
入力したものでは心象が悪いかと。
ラプラス:留意しておこう。
....ふむ。ズングの一族も難儀なものだ。
徹底した血統主義でも毎世代落ちこぼれが出てしまうモノとは。
ネリル:.....。
親が居ない私としては、贅沢な悩みに聞こえます。
ラプラス:...フン。
一族の完璧さのバランスを取るように生まれる各世代の劣等。
贅沢どころか地獄であろうよ、産んだ側も産まれる側も...。
ズングで貧乏くじを引けば、産まれた瞬間から敗者復活戦。
そして母といえば、腹を痛めて産んだ我が子のうち一人は必ず黙殺に近く愛されない....。
ネリル:....。
人間の品種改良は、神の怒りに触れたのでしょうか。
ラプラス:..いつになく詩的じゃないか。
ネリル:.....お忘れください。...先ほど観測士から入電が。
“天使”のセイヴァージークへの合流を確認しました。
ラプラス:そうか。では....もう“用済み”だな。
ネリル:は。“散布”を開始いたしますか?
ラプラス:我々の撤退の直後から散布を開始しろ。
ネリル:承知しました。コールドローズ・ヴィールスの散布の承認を伝令いたします。
ラプラス:...人類は向かわねばならない。
羅針盤と共に、未来へ。
N:ラプラスがそう呟く。
ラプラスとネリルを宇宙の艦に戻すべく、飛行ポッドが病院の外に待機していた。
ネリルN:どうしてこのコロニーをコールドローズで殺すのか...。
どうしてフェザーポータルでAFSを泳がせたのか。
どうしてズング・ソーイを殺し、このポータルをNOAHの管轄に強制的に戻したのか.....。
...それに、作戦に“天使”が最初から出てくるのが予期されていたかのようなスムーズさ....。
ラプラス:ネリル。
ネリル:ッ....。
ラプラス:離れて歩くのは控えたまえ。
──────何が有るか分からないのだから。
ネリル:......ッ失礼....いたしました。
ネリルN:私は追いていくのみ。
私をあの地獄から連れ出してくれた、貴方に。
ラプラス:帰還する。
ネリルN:例え貴方が、悪魔であっても。
N:ネリルとテンペスト・ラプラスがフェザーポータルを離れた二時間後。コールドローズ・ウイルスが全域に散布された。




