第一部 中編(5人声劇用)
●配役表(5人)【♂2・♀2・不1】
※※※記号で検索かけてください※※※
Σ▶︎ベリオ♂:
Ω▶︎ラプラス/NOAHZ兵士B♂:
β▶︎フィオナ/ネリル/幼ベリオ♀:
Ψ▶︎フラワ/幼フラワ/幼ディール♀:
Φ▶︎ディール/NOAHZ兵士A♂♀:
●キャラクター (詳しい内容は設定資料へ)
・ベリオ……主人公。孤児出身。素行は悪い不良気質(喧嘩は弱い)だが、人の痛みが分かる憎めない性格。親友のディールや幼馴染のフラワ、兄貴分のラプラスとは仲が良い。ディールのお母さんの病気を治すために行動している。
・ディール……ベリオの親友。まっすぐな性格の好青年で曲がったことが嫌い。頭が良く完全記憶能力がある。そして、超人並みに卓越した「聴力と視力」を持っている。軍隊近接格闘術も身に着けており、喧嘩が強い。
・ラプラス……ベリオに生き方を教えた兄貴分。「テンにい」と呼ばれ、ベリオからは絶対の信頼を置かれ慕われている。穏やかで、常に平静を乱すことが無い。孤児出身だが、今は区長の秘書を務めており、宇宙政府(NOHA)の直属部隊を指揮している大物。
・フィオナ……ディールの母親。「コールドローズ症」という重い病を患い、医務棟のベッドから動けない。賢く聡明で、幼孤児だったベリオを拾い、ディールと共に育て上げた心優しい人柄。病気の事はディールには隠しているが、ベリオにはバレてしまい以降、見舞いと称して鎮痛薬を受け取っている。
・フラワ……ベリオとディールの幼馴染。父親が研究所の所長で、本人も頭が良くラボで研究を手伝っている。サバサバした性格で、つっけんどんな態度をとる。怒ると怖い。父親からは人体実験を施されており、胸の中央にマシンとの接続口がある。
【EPISODE3 Sign of】
ベリオΣ:テン兄……。ッグ……<起き上がろうとして顔をゆがませる>
ラプラスΩ:ああいや、そのままの態勢で構わないよ。痛むだろう。
ベリオΣ:す、すいません……。
ラプラスΩ:
止めた方が良かったかな。
だが……君たちの姿が私の思う若さとあまりに重なって……美しくすらあったものでね。
言語とは、何も声のみで伝えるものではないだろうと思ってしまったのだよ。
ベリオΣ:……こんな所、見られたくなかったっす。ダセえから……。
ラプラスΩ:
君の幼い時に何度も見たよ、この光景は。
ただ……小さなロボットの人形を握り締めた君が抵抗もせず殴られているのを助けていたあの頃とは、大きく違う意味を持つ光景だと。
私は思うがね。
ベリオΣ:…………聞いてましたか、殴り合いしてる時の……オレ達の会話。
ラプラスΩ:
聞いてくれと言わんばかりの音量だったよ、二人とも。
私に気付かずに熱の入った論争だった。もちろん、聞いていたさ。
ベリオΣ:
………分かってるんです、本当は。
ガキを救うには、社会を変えるべきだって。
オレの自己満足で建てた小屋で、根本的に問題が変わんのかって。
捨てられたガキを救うんじゃなくて、ガキを捨てない社会を作る方が先決なんだ……って。
ラプラスΩ:君の年で考える事ではないのだがね、本来は。
ベリオΣ:
誰かが言わなきゃなんねえんです。
セントラルじゃ、イーストの死亡者なんてデータでしか見てねぇんだ……。
皆老衰で死ねると思ってやがる……ッ。
ラプラスΩ:
得てして人は満たされると、光のみが世界を構成していると思い込むのだよ。
闇への直視を恐れ、忌むようになり……いつかは闇そのものを忘れてしまう。
……セントラルの人間達を見なさい。
満たされ、安定した生活を送る人間達は死体をその目で見ようなどと、闇へは足を運ばない。その死体の齢など知る由もない。平和の為に垂れ流される汚染も、造られる武器も御伽噺だと思っている。
いや……御伽噺にすら、汚染や銃器の存在は欠片も出てこないだろう。
だからこそ、君の言う“現状への一石を投じる行為”は必要であると私は感じるよ。
最早、法の速度では人々の死に追いつかない。
――結論を言おう。
孤児院は必要だ。私もセントラルで議会に掛け合ってはいるのだがね……どうしてもNOAHへの軍事物資関連の承認や報告で手一杯になってしまっているのが現状だ。
ベリオΣ:……。
ラプラスΩ:
――話は変わるが……セントラルエジソンでは高周波探査の技術研究が盛んでね。
精密動作技術の研究の進歩により、宇宙資源 回収の為のセンサーの開発が積極的に行われているのだよ。
私のような機械に疎い人間にも大量にサンプルが送られてきてしまってね……断ってはいるのだが。
ベリオΣ:………!!! ……つまり、どういう事ですか。
ラプラスΩ:
もし仮に私が、大量に送られたサンプルのうちの一つの“高周波センサーを落としてしまったら”……。
と、日々管理に苦労している、という事だよ……――。
<そう呟くように言うと、ベンチにゴトン、と両手のひら大のパーツを落として去る。>
ベリオΣ:....テン兄。
<ゆっくりと起き上がって、すでに見えなくなったラプラスの背中を目で追う>
―――
――
―
<カフェ SeaCleにて座っている二人。
呆れた表情でベリオを頬杖をついて眺めるフラワ>
※「あによ」→「なによ」の同義語。フラワ用語。
フラワΨ:で、あによその顔。
ベリオΣ:うるせーな……。だから言ってんだろ。 一輪車練習してんだよ。
フラワΨ:
バレバレのウソやめて。
……ま、どーせケンカしたんでしょ。やめなさいよ、弱いんだから。
ベリオΣ:弱くねえわ。爪隠してんだわ。能が有るから。
フラワΨ:何?ハゲタカ?
ベリオΣ:突拍子がないようで意味が通ってる悪口辞めろ!
フラワΨ:で。その顔からするに……ディールの勧誘は失敗ってとこ?
ベリオΣ:…………まーな。
フラワΨ:
ケンカして、負けた上に勧誘も失敗。
涙をこらえてフラワちゃん助けて~ってとこかしらね。
ベリオΣ:
違えよ。……見ろ。
<机の上にセンサーをゴトンと置く>
センサーだ。
『High Frequency Analyze System』
H.F.A.S……って、書いてある。
フラワΨ:
書いてある……って、アンタこれどっから持ってきたのよ。
……盗んできたんじゃないでしょうね~!
ベリオΣ:
バカよく見ろ。正規品だよ。
まあ正確には、正規品になる前のサンプルだが。
<IDを携帯端末で照合するフラワ>
フラワΨ:
……このロゴとIDは…………ウソ。本物じゃないの……。
……どこから手に入れたのよ。
ほんとに盗んだなんて言わないでよね。
もし盗んでいるんだったらアンタを探すNOAHZで街中パンパンでしょうし、さすがに違うでしょうけど。
ベリオΣ:えー……あー………落ちてた。
フラワΨ:ま!!じ!!め!!に!!こ!!た!!え!!な!!さ!!い!!
<ベリオの頬を両手で挟んでぶんぶん振り回す>
ベリオΣ:
んおおおおおおおおおマジなんだって!!!
それ以外にどうやって俺が手に入れんだよ!!!
ベリオNΣ:
テン兄に作戦を聞かれててこっそりセンサーを横流してもらったなんて、言えねーよ……!
ベリオΣ:
イーストダーウィンの軍事基地にはこういうパーツがたっぷり管理されてんの。
セントラルならまだしも……イーストの基地局に落ちてたセンサーだし、そこまで高性能じゃねえんだと思うぜ!!
フラワΨ:
フン。……まぁ、確かに。
正規品になる前のサンプルなら、ある程度の数は基地局に転がってそうな代物ではあるわね。
ベリオΣ:
ディールはアレだったけど……このセンサーがあれば、関係無ぇ。
目が無えのはちょっと痛いが……まあ、岩ごと大雑把に削って、センサーが鳴ったら掘るのをやめて。の繰り返しでいいだろ。
あとは……そのOBLOM鉱石をフィオナさんに使う。
粉にして飲ませりゃいいかな。
フラワΨ:
バカ。原始人じゃないんだから。
経口摂取で飲ませるなんて危険だし、効き目が薄かったら無意味でしょうが。
OBLOM鉱石の砂やら不純物を取り除いて、残った純OBLOM鉱石を精製して……。
点滴って形でフィオナさんに投与、ってとこかしら。
で。余った鉱石は技術部門のバイヤーの知り合いに売り飛ばして、孤児院の建設を発注……てとこかしらね。
ベリオΣ:……ディールがいれば、発注とかもスムーズなんだがな。
フラワΨ:
未練がましいのね。
ウジウジしてるトコ、パパの飼っていた死んだ犬にそっくり。
ベリオΣ:可愛いってこと?
フラワΨ:いや死んでんだから可愛いも何も無いわよ。
ベリオΣ:“犬の死体”に似てんの?
フラワΨ:
とにかく、目処は立ったわね。精製はあたしのラボでやれば良いし。
さ、行くわよ。
ベリオΣ:え、どこに?
フラワΨ:ラボのランドスタッドドックよ。あんた動かせんの?CT。
ベリオΣ:……今から?
フラワΨ:善はクソ急げ、よ。
ベリオΣ:慣用句の味付けが濃くなってないか?
―――
――
―
<ゴウンゴウンと規則的に響く重低音。
薄いスポットライトで鈍く照らされる人型の巨大な物体。
不気味なやや猫背にも見える前傾姿勢で、微動だにしない“それ”に思わず息を飲むベリオ>
フラワΨ:
あにボーッとしてんのよ。ほら邪魔どいてどいて。
これが……超精密作戦 行動用ランドスタッド――『CT』よ。
ほら、こっち来なさい。
<ハシゴのついた中型の車が自動で動く。その車でCTのコックピットに乗り込みながら声をかけて>
ベリオΣ:……あ、あぁ。
<ΣΨ共に乗り込むベリオとフラワ。胸元をはだけさせて胸元にコードをつなぐフラワをチラリンコチラリンコ見てしまうベリオ>
フラワΨ:
すーーーーーっ、ふーーーー……。
見てんじゃ無いわよ変態。
……ランドスタッド、CT。
――……起動。
CTΣ□:《CONTROL ACTIVATED》
ベリオΣ:な、なんか喋ったぞ!!!
フラワΨ:
英語でキドーシマシタって言ったの。
……で、これで。
よっと。
<コックピットに乗り込む際使用した梯子付の車を、CTの指が梯子と車に指で分解していく>
ベリオΣ:……スゲーな。あんなクソ小せえパーツを指でつまんで分解するとは。
フラワΨ:
組み立て直しも出来るんだから。
なかなか……、自分の体と縮尺が違うから難しい……、けど――ほら、出来た。
ベリオΣ:
ドックのカメラに写ってるけど……。
お前ってプラモ作る時にあぐらかくタイプ?
フラワΨ:
うううううるさいわね!
ライトに頭が当たんのよ!!こうした方が簡単なのよ!!
はい降りる!さっさと降りる!!
CTΣ□:《CONTROL INACTIVATE》
<コックピットから出る二人>
フラワΨ:……さ、これで一応動作も確認したし……決行は早い方がいいわね。
ベリオΣ:
NOAHZのランドスタッドに乱獲されたり、防衛施設を張られるかも知れねえしな。
んーじゃ……今夜。
フラワΨ:
……ま、筋道立ったら即行動でいいでしょう。
今の内に寝とくのね。あと遺書とか。
ベリオΣ:縁起でもないこと言うな!!!………ダイジョブだよな?
フラワΨ:あーもー鬱陶しい!さっさと帰る!!!
<モジモジし始めたベリオを手でしっしっと追いやるフラワ>
フラワΨ:――…………私もやっと、人を助けられるかも知れないわ。お母さん。
<ブローチの中の女性の写真に向かって語り掛けるフラワ>
―――
――
―
<場面転換。
酸素供給装置のウインウインとした無機質な音が響き渡る空間。
戦艦「ヴェイルサイド」のとある一室で>
ネリー・ネリル・ネリリウスβ:――――良かったんですか、大佐。
ラプラスΩ:君にしては珍しく抽象的な質問だな。
ネリルβ:具体的な言葉は時に、野暮に等しいと教わりましたので。
ラプラスΩ:
君の師に同感だね。
……構わないさ。ベリオ君には存分に鉱石を発掘してもらう。
ネリルβ:これも“入口”に辿り着く道程……ですか?
ラプラスΩ:………彼次第だね。
ネリルβ:
二兎を追っていたら、それが兎では無かった、なんてことは想定しませんのね。
ラプラスΩ:何、虎であればむしろ大助かりだがね。
ネリルβ:んふ。……可愛い人。
<二人が背後を振り返ると背後の壁が透明に変化する。
“VAILSIDE DRIVE”と刻印された巨大なレーザーキャノンが現れて暗転>
―――
――
―
ディールNΦ:
まったく……ベリオさんは一度決めたら、視野が一気に狭くなるんだからなぁ。
……僕にケンカで勝てたことなど、一度もないのに。
ディールΦ:
ただいま戻りました。
最近の軍備 拡充案が重なってしまって……少し家を空けてしまいましたが。
お体に変わりは有りませんか――母さん。
フィオナβ:
あら。夕日がまだ昇っているのに、早く帰ってこられたのね。
お帰り、ディール。けほっ……!
ディールΦ:
長引く風邪ですね。
……自宅療養ではなく、入院して見てもらうのも手だと思いますが。
フィオナβ:
ふふっ……。
私がいなくなれば、この日の浅いコロニーの雇用は混乱と停滞に飲まれるでしょうに。
……この若いコロニーを、未来の子供たちの盤石な土地にする為には。眠る事すら私には耐えがたい怠慢なのですよ、ディール。
ディールΦ:
……イーストとセントラルにおけるインフラ設備に、NOAHへの技術提供。そして、子供たちの安全な居住地や育児の環境の確保。これらはまだまだ発展途上です。
僕も一刻も早く、ムロウル家として恥じない働きをしなくては。
フィオナβ:
……ディール。ムロウル家の人間として恥じない行いを母は求めているわけではありません。
このコロニーを共に踏みしめて生きる人間として恥じない行為を求めているのです。
貴方の周りの人を、貴方を想う人を……。
そして何より貴方自身が、貴方を恥じる事の無いように生きることを求めているのですよ。
ディールΦ:
……適わないな、母さんには。
――ん、このミルフラワーは母さんが買ったんですか?
フィオナβ:
…………えぇ。
庭の手入れをしてくださる方がお部屋での鑑賞用に是非、って。
ディールΦ:そうなんですか。……この花は、あまり好きではないんですがね。
フィオナβ:あら、気に入らないの?
ディールΦ:
あはは、誤解しないでください。
温度で色が変わるでしょう、この花は。色の変わるさまが毒々しくて。 それに、生態も。
水温次第で表情を変えるこの花が、人間の弱さを現しているようで……得意ではないんですよ。
フィオナβ:
……貴方も、とっても優しい子ですもの。
このお花の色の変わる様が“目まぐるしさ”に見えてしまうのも、無理はないわね。ミルフラワーは二階の書斎に置いておきましょうか?
ディールΦ:
いえ、水の入れ替えに距離が遠いと母さんの体調に良く無いですから。見える箇所に置いておきますよ。
僕は平気ですから。っ……と。基地局からメッセージだ。
緊急 軍備承認会議?今月はやけに多いなあ……。
では、母さん。申し訳ないんですが。
なるべく早く帰宅するようにしますので――。
<そう言って足早に家を去るディール>
フィオナβ:………年を取ると、言葉の裏を探そうとしてしまっていけないわね。
<そう言ってベッド横の明かりを消す>
―――
――
―
<IOPLANET作業用ランドスタッド搬出口の前でCTを背後に言い争う二人>
ベリオΣ:おーい。いつまで手間取ってんだよ。
フラワΨ:
こんなダッサい、人生で付けたこともない防塵ガスマスクなんか手間取って当然でしょ!アンタがそんなヌルヌル付けていけんのがおかしいのよ!
ベリオΣ:
ヌルヌルて。これがないと岩石の粉塵が肺に入って中ズタズタなる可能性が跳ね上がるんだぞ。
スペーススーツだけじゃ危ねえんだぞ。
フラワΨ:
ダゾダゾうっさいわよ!
……はい、これでいいでしょ。
んじゃ、ちょっと下がって。潰れるわよ。
<ふわり、と無重力を感じさせる柔らかさでコックピットに乗り込むフラワ>
ふーーーー……やっと、ね。
やっと、私が自分で決めた道を初めて歩ける。
――……いくわよ。
CTΣ□:《CONTROL ACTIVATED》
ベリオΣ:
………ぞっとしねえな。
インカム越しのこの声?音だけでもイヤなもんだが……。
不安になったりしねえのか?
フラワΨ:<CT>
『――あたしの胸、見たでしょ?
“この子”と文字通り繋がってる身としては、カワイイものよ。
……ほら、手に乗って。 ここからはバレたら一発でアウト』
<場面移動。ベリオをCTで受け止めたフラワ。
潰さないようにゆっくりと手がベリオを覆う。
重たい音を響かせてランドスタッド搬入口が開いていく。
CTが搬入口から宇宙空間にスラスターを吹かせて移動しながら、全身からMANTをバラ撒いて宇宙デブリに移動していく>
※MANT▶『multiple analyzer negative technology』多種探知システム妨害技術。電磁波、音波によるレーダー機器の作動を認識し対極のソナー波を出してレーダーを打ち消すステルス技術
フラワΨ:
『………静かね。それに、どこまでも続く黒。
私たちは本当に地球を出て、宇宙で生きているのね』
ベリオΣ:センチになるなよ。見るべきは銀河の遠くじゃなくて、近くの岩だ。
フラワΨ:
『わかってるわよ。放り出すわよ。
――ん、モニターの概算によると……この岩石に含まれている可能性が高いわね』
ベリオΣ:
よし、じゃあ周囲の岩石をどけてくれ。
んで……そう、この岩を指で削って欲しいんだ。砕けねえように慎重にな。
フラワΨ:
『あのね……。このCTの馬力からすればこんな岩一個、ゆで卵と同じなの。
どんだけ神経使う作業なのか分かって言ってんの、その注文』
ベリオΣ:よし、ドリルで削ってくれ。
<きゅいいいいいん、と甲高い音を立てて岩の中に沈み込むCTの指先から出ている小さなドリル。
小さいと言っても人間4人分を束ねたような大きさのドリルであり、そのすぐ真横をセンサーを持ったベリオが立って耳を澄ませている。
すると唐突にVIIII、と鈍く音が響く>
ベリオΣ:ッ!!フラワ!!!
フラワΨ:
『了解。こら、手出さないの。
ドリルに触れるとトマトみたいに弾けちゃうわよ』
ベリオΣ:いちいち嫌な言い方すんだもんな……。
<そう言いながら、ベリオの持つ小さなドリルでセンサーの音を頼りに岩石を削る。そうすると、乳白色に青みがかったような色の鉱石が現れた>
ベリオΣ:お……これ……これが………。
フラワΨ:
『OBLOM鉱石……。
ただの岩石と一緒に見えるけど。黒ずんだ、石ころじゃない』
ベリオΣ:
ほー。モニターで見ると黒ずんで見えんのか。
実際は青みがかった、乳白色みてえな色してんだけどな。
ほれ、CTの回収ボックスに入れといてくれ。割るなよ。割ったらパーだからな。
フラワΨ:
『アンタも余計なプレッシャーかけてくんじゃないの。
あんまり言うとマジに割るわよ』
<そう溢しながらもCTの回収ボックスにゆっくりと格納されていく鉱石>
ベリオΣ:
次は…………X-345(さんよんご)、Y-600(ろくぜろぜろ)、Z-970(きゅうななぜろ)だ。人間用の端末じゃここまでしか観測できねえ。
CTの計測値だと、どこらへんだ?
フラワΨ:
『今移動してるでしょ!!!舌噛むから黙ってなさい!!!
――α(アルファ)678、β(ベータ)960、ね。
だからこの岩石、ね………でkkkkkっか!!』
ベリオΣ:……帰ろっか。
フラワΨ:
『こ……れはたまらんわね………。
うーーん……。取り合えず半分に割りましょう。そい』
<CTが腕を振りかぶって拳を岩にたたきつける。
瞬間、ぎゅいいいいいいいいん、と耳に痛い高周波がベリオの手元から鳴る>
ベリオΣ:バカお前いきなり……ぐおおおおッッ!!!
<───―――ッッキュンッ、と一瞬音が吸い込まれるような静寂の後に、鼓膜をつんざく程の轟音と衝撃波がベリオを襲う>
フラワΨ:『ごめえええええええええんっ!!』
ベリオΣ:…………お前さあ。
<CTのモニターに大の字でべったりと叩きつけられてしまったベリオ。
モニターいっぱいのベリオの不満顔>
フラワΨ:『あんまりデッカいのも考え物ね』
ベリオΣ:どう考えても正拳突きしたのが悪いだろ。
フラワΨ:
『どっちみちあんなに大きい中から掘り出すのも厳しいでしょ。
結果オーライよ、結果オーライ……ッ、隠れて!!』
ベリオΣ:ッ……!!
<CTの手の中に隠れるベリオ。岩石に身を隠すフラワ>
NOAHZ兵士AΦ:
『――――宇宙資源区域にての爆発を目視。アナライザーにより熱量、高エネルギー分子の連続衝突によるものと断定』
NOAHZ兵士BΩ:
『――了解。継続してアナライザからの情報を送れ……何かが、この周辺宙域に居たのは明らかだな。武装のセーフティを解除しろ』
NOAHZ兵士AΦ:
『とは言っても、この区域に宇宙資源認定が下りるってのはトップシークレットのはずですが。民間の宇宙清掃事業の衛星が爆発したのでは?』
NOAHZ兵士BΩ:
『先月から宇宙でのトラブルの可能性は“極力”初期段階での確認、随時の鎮圧をとの方針だ。警戒を怠るな――』
NOAHZ兵士AΦ:『了解――――』
<CTの全身からしゅうしゅうと音が小さく出ている。
MANTの散布によるその音は、ベリオに微かに聞こえる程度の音で。
岩陰に身を隠して動かないベリオとフラワの横をスペリオルが巡航飛行で通り過ぎていく>
フラワΨ:
『お願いっ……早く離れて……!!
このままだとMANTの残量が……!!』
ベリオΣ:
『おおおおおちゅちけ!こういう時は手のひらに人という字を』
フラワΨ:
『え~と人、人……』
<CTがベリオの居る手のひらに人差し指で人を描こうとする>
ベリオΣ:
『わああバカ潰れる!!!CTと繋がってんだからやめろ!』
<人差し指で潰されそうになっているベリオ>
フラワΨ:
『あっ……ごめん。
――それじゃ、続き。ガンガン掘っていきましょうか……』
―――
――
―
<CTの収納ボックスに上限値までの採掘を終えた二人。
ランドスタッドドックに戻って、鉛製の手袋で絶振動ボックスにOBLOM鉱石を収納していく>
ベリオΣ:
よっし。これだけあれば孤児院の分……と、ディールのお母さんの分。
んで、これは……お前のラボの維持費分。
フラワΨ:
よくまあこんなに掘ったもんね。
……ま、こんだけあればいいでしょ。
ベリオΣ:
このOBLOM入り絶振動ボックスに宅配ラベルを貼り付けて、ドローンで3・4日開けてエクスプレス船への配送レーンに紛れ込ませる。
全部届くまで4週間……ってとこだな。
フラワΨ:
うまく作戦成功って訳ね。それじゃ、バイバイ。
ベリオΣ:
おお。んじゃーな。
――……あともうちょいです、フィオナさん。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE4 MIRAGE】
<時は過ぎて1ヶ月後。ムロウル家の玄関前で顔を合わせるベリオとフラワ。
フラワの手には、生成されたOBLOM鉱石の液体の入った試験官が握られている>
フラワΨ:……なんであんたが緊張してんのよ。
ベリオΣ:当たり前だろ!効かなかったらどうすんだよ……。
フラワΨ:
おバカ。パパの出席する議会でも先日、OBLOM鉱石の薬用開発の特許が出たんだから。
しかも製造も易しいらしくてね。
製造方法のファイルも、責任者の承認付きで企業へ公開されるらしいわ。
資料もパパがもらってきてくれて、精製もすんなりうまくいったもの。
人体に効く、って天下のNOAHのお墨付きが出てるのよ。ほら。
<そう言って端末を操作してOBLOM成分の承認が降りている書面のデータを見せる>
ベリオΣ:
……おぉ、確かにな。よく分からんけど。
このデカハンコがあるってことはそうなんだろ。……じゃ、入るぞ。
<そう言ってディール家に入る>
フィオナβ:
――……いらっしゃい、ベリオ。
それに……フラワちゃんかしら。大きくなったのね。
フラワΨ:
お久しぶりです、フィオナおば様。……お体の具合は、いかがでしょうか。
フィオナβ:
最近は安定しているの。痛みもなくなって……。
ベリオ、綺麗なお花をありがとう…………ディールも喜んでいたわ。
ベリオΣ:
それはよかったです。
……少し花の位置を変えましたか?あと、ディールは?
フィオナβ:
ディールは、先月の軍備緊急 拡充承認会議の後処理で、またしばらく家を空けることになってね。
静かな空間が好きな私にはちょうどいいくらいよ、うふふ。
……そうそう、お花の位置なのだけれど。会議の直前にディールが家に帰ってきてくれた時に変えたんだったわね。直射日光が花にあたるのは良くないらしいわ。
…………それで。
ベリオΣ:
今からの手筈、ですね。まずはメールで送った通り……。
OBLOMという特殊な鉱石の成分を精製した液体をフィオナさんに点滴で投与します。
6時間毎に容態の観察を行って、歩けるようになれば……。
セントラルエジソンの運営する静かな庭園があるんです。
そこで……ディールも誘って、スペースミルフラワーの広い畑で。
オレが小さいとき、よく淹れてくれたフィオナさんの特性の紅茶を飲んで……。
フラワΨ:ベリオ。点滴のセッティング。
ベリオΣ:……悪い。フィオナさん、ちくっとしますよ。
フィオナβ:あなたに子ども扱いされる日が来るとはね、ベリオ。
ベリオΣ:
っち、違いますよ!
俺にはこういう注射をする側の経験なんて無かったので、本当に痛かったらって……。
フラワΨ:仲良いわよね、アンタとおば様。イチャイチャしてんじゃないわよ。
ベリオΣ:イチャイチャだと!!恐れ多い!!!
フラワΨ:
武士みたいな顔で武士みたいなこと言ってんじゃないの。
……開始っと。
<フラワの声に呼応するようにぴちょん、ぴちょんと水滴が落ちていく点滴>
フィオナβ:
…………二人とも。私のこのOBLOMの摂取がうまく行こうと行くまいと。心を平常に保つこと。
そして、うまく行ったのなら……人々の役に立ててちょうだいね。
うまく行かなかったのなら……――自分を責めないこと。
そして……失敗の原因を追究して、やはり人々の役に立つようにしてほしいという事。約束をしてちょうだい。
ベリオΣ:……分かりました。約束します。
フラワΨ:了解です、おば様――――。
フィオナβ:(微笑む)――――――――。
<12時間後。静かに寝息を立てて眠るフィオナの横で、月明かりに照らされるフィオナを眺めるベリオ。
部屋では血圧と心拍数測定機の規則的な電子音が時計の代わりと言わんばかりに鳴り響く。
その空間を切り裂くように、フラワが部屋の扉を開けて口を開く>
フラワΨ:
交代よ。
……なーによ、目にクマ作って。
やれることはやった、データも取った。アンタがフィオナさんを眺めて状態は良くなんの?
ベリオΣ:……もうちょっとだけ。…………なぁ。もし、うまく行かなかったら。
フラワΨ:おば様の前でする話かしら?
ベリオΣ:
怖いんだ。このまま……目を覚まさなかったら。
ディールになんて言えばいいのか。自分を許せるのか。
……毎秒毎秒吹きあがる不安を、……毎秒毎秒せき止めるような感じだ。
苦しくて、重たくて……皮膚が焼かれてしまい、そう、な――(眠る)。
<声が階段を下りるように小さくなっていく。
眠気が限界になってしまったのか、椅子から前のめりに倒れ込むベリオ。
それを抱きとめるフラワ>
フラワΨ:
……怖がりで、ケンカも弱くて。意地汚くてひねくれてて、嫉妬しいでスケベのロクデナシで。
おまけに。不器用なんだから。
―――
――
―
<場面転換。ベリオの夢の中の情景。幼きベリオとディールが出てくる>
幼ベリオβ:――おまえさぁおまえさぁ!
<絆創膏まみれの膝や手。泥にまみれて、泣いた後もうっすらと見えるベリオ。
砂場で小さな砂の城を作っているディール。
目元は少しだけ赤く、同じように頬もなにかにぶつけたように赤くなっている>
幼ディールΨ:なんですか、びりおさん。
幼ベリオβ:こえ(これ)。
<絆創膏まみれの手で差し出された、ぼろぼろのロボット>
幼ベリオβ:
こえおまえのでしょ。おえさ、つよいから。
ケンカして取り返してきた!
幼ディールΨ:……ひざ、いたくないんですか。
幼ベリオβ:なにが?けんかならよゆうでかったから。
幼ディールΨ:………ぐすっ。
幼ベリオβ:えええ!!なくな!!よわっちょ!!!
幼ディールΨ:
……びりおさんがなかないから。ぼくがかありにないてあげてるんです。
幼ベリオβ:…………えへえへえ。
<ぐにゃって笑顔でベリオも涙をためながら笑う幼ベリオ。
そして世界がぼやけるように夢が覚めていく――>
―――
――
―
ベリオΣ:――……っっはぁッ!!!
<紺色の皮のソファーで横になっているところからハッと飛び起きるベリオ>
ベリオΣ:…………慰めみてえな夢だったな。
<そう言いながらも微笑むベリオ>
ベリオΣ:……頭痛え………っ、フィオナさん――!!!
<息を切らせてフィオナの自室に飛び込むベリオ>
ベリオΣ:フィオナさん!!!!
フラワΨ:あによ。ダミ声が耳に響くからやめてくれる?
ベリオΣ:……っ、どいてくれ!!フィオナさんは!?
フラワΨ:あっちょっと、まだ……。
<フラワをどかして、フラワの背後の医療用カーテンをさっと手で開け――>
ディールΦ:
――……そう、母さん。右足が少し重いですか?
あはは、右足と右手が両方出ちゃってますよ。
フィオナβ:
いやだ、こんなに恥ずかしい姿を晒すことになるなんて……。
そうね、ディールは右の肩を支えてくれるかしら。
<現れるのはディールとフィオナが和気藹々と歩行練習をする姿。
窓からは暖かく光が差し、オレンジ色に輝くスペースミルフラワーが輝いていて。
そして、その光景にぺたん、とゆっくりと地面に膝をついてしまうベリオ>
ベリオΣ:…………。
フラワΨ:
病み上がりの病人の居る部屋にイノシシみたいに突っ込んで。
呆れた。寝癖ぐらい直しなさいな。
…………晴れの日に相応しくないでしょう。
ベリオΣ:…………あぁ…………。
ディールΦ:
……ベリオさん。見てください!!
ずっと弱い風邪のようなもので、あまり動けなかった母さんが……!!
<ぱぁぁっと笑顔でベリオを見るディール>
ベリオΣ:あぁ…………!
<ぶわっと涙があふれ、それを手で拭う事もせずにぽろぽろと涙をこぼし>
ディールΦ:……ベリオさん?どうして泣くんですか。
ベリオΣ:……うるせーな。お前が、泣かねーから……。
フラワΨ:……男同士って、めんどくさ。
フィオナβ:
さあさ、三人とも。ゆっくりと散歩でもしましょう!
セントラル直産のフレイドルチェ茶葉があったはず、紅茶を淹れてくるわね、うふふ。
<場面が変わり、セントラルの運営する庭園で歩く四人>
ベリオΣ:
――そんで、そんで!オレが言ってやったんすよ!
「ケンカに勝ってもぬわんにも得られねえぜ、ジャリボーイ」って!!
フラワΨ:そのケンカ吹っ掛けたのはアンタでしょうが。
ベリオΣ:ぐ、ぐぬぬ
ディールΦ:
僕が助けに行った頃には、お金も取られかけてベソかいてませんでしたか?
ベリオΣ:ぬ、ぬぬぐ。
フラワΨ:
しかもなぜかうさぎ跳びさせられて――<Σかぶせる>
ベリオΣ:
ハイもうこの話終わり!!!!おもんないから!!!!
ハイもう終わりよ!!! 眠っ!眠たっ!!!!!!
フィオナβ:うふふ。相変わらずベリオは愉快な子。
ディールΦ:ベリオさんのその明るさに、実際僕も助けられてもいますしね。
ディールΦ:……ん、基地局からコールだ。…………。
<申し訳なさそうにちらと周りを見やるディール>
フィオナβ:いいのよ、大事なお仕事ですもの。気にせずに出なさいディール。
ディールΦ:
では、少しだけ。はい……はい。
拡充軍備をNOAHまで、即輸送承認!?
造っては送り、造っては送り……ですね。このコロニーの為の軍備生産では無かったのですか?
…………いえ、遂行には疑問など。は。分かっております。
フラワΨ:……なーんか。
ベリオΣ:カンジ悪そ~な相手だな。
フィオナβ:私がもう少し若かったらビンタをお見舞いするようなお人柄の方ね。
ディールΦ:然し今日の予定は事前に申請したものであり……!!!
フラワΨ:……フン。
ベリオΣ:ううう……。
<何かを悟ったかのように耳に指で栓をする>
<刹那、フィオナがディールの手から携帯端末を取り上げ>
フィオナβ:
初めまして!!!!私!!!!!!
ディールの母親のムロウル・フィオナですが!!!!!!
フラワΨ:うっそ……。
ディールΦ:母さんは元来、“ああ”なんだよ……。
ベリオΣ:
そもそも熱い人なんだよな……。
寝込む前とかこういうのしょっちゅうだったもんな。あと声量計ってみていい?
フィオナβ:
ええそうです!!!!現ムロウル家当主の!!!!!
フィオナでございます!!!!!!失礼ですが!!!!!!!
本日はディールの休暇申請が受理されているものと思いますが!!!!!!!!
フラワΨ:……母は強し、ね。
ディールΦ:こういうところも勿論好きなんですがね。あははは。
ベリオΣ:82dbだって!!!!おい!!!!82!!!!!!
フィオナβ:
ええ!!!!それでは!!!!!失礼します!!!!!!
………………ふう。はい、ディール。無事にお休みは確保されましたよ。
ベリオΣ:“無事”に?
フィオナβ:うふふ、スッキリしたわ♡
フラワΨ:言っちゃってるわね。
ディールΦ:
……でも、助かりましたよ、母さん。
さ、もうすぐそこです。お茶にしましょう。
―――
――
―
<場面変わり、庭園内の花が咲き乱れる場所。
その中央に東屋が建てられており、その日陰の涼しい場所で紅茶を嗜む四人>
フィオナβ:……本当に変わらないわね、ここは。
ディールΦ:子供の頃、よく母さんが連れて来てくれましたね。
ベリオΣ:うまいうまい、うまいうまい。
フラワΨ:
ちょっと。ガブガブ飲み過ぎ!ていうか紅茶ってそんなに流し込むもんじゃないから。
トイレ遠いんだから知らないわよ。
ベリオΣ:おしっこいきたい。
フラワΨ:早速か!!
フィオナβ:ほら、ビスケットもあるわよ。
ディールΦ:
これは……!! juvenileのっ!!
こんな高いクッキーがあったなんて……うん、おいしいです。
ベリオΣ:食わせろ!!!オゴゴ!!!!
フラワΨ:バケモンみたいになってるわよ。
フィオナβ:
賑やかなピクニックでとっても楽しいわ。
風を感じて、自分で外の世界を見に行けるなんて……。まるで、夢みたい。
ディールΦ:母さん……。
フラワΨ:本当に……良かったですね、おば様。――あっ。
<そういってフラワの声に導かれて全員がフラワの視線の先に目をやる。
そこには、やや強い風が吹き、スペースミルフラワーの作り出す一面の虹のような光景が波打つような美しい光景であった>
フィオナβ:
…………意志を持たぬ花が、ここまで人の意思を潤す……。
世界の美しさは、まだ私に教えをもたらして下さるのね。
……この時間が、永遠に続けばいいのに……。
ディールΦ:
この美しさを鮮明に覚えておかないと。
……僕たちの作る武器は、この光景を守るためにあるのだとしっかりと心に留めないと。
結局僕たちは武器を握っても、守るものがないと折れてしまうのだから。
フラワΨ:……同感ね。
ベリオΣ:――帰ろうぜ。夕方になると風も強くなるしな。
フィオナβ:
三人とも。今日は本当に楽しくて……夢のような時間でした。
土の匂い、太陽の匂い、頬を撫でる風の心地よさ……。
一生分の思い出になりましたよ。
ベリオΣ:何言ってんすか。これからも続くんすよ。
フラワΨ:あんたはお菓子とお茶が欲しいだけでしょうが。
<そう談笑しながら帰宅していく四人>
―――
――
―
<場面が変わり、フィオナの寝室。
すっかり空は暗くなり、星や衛星がせわしなく瞬いている>
フィオナβ:
ベリオ、フラワちゃんも帰りましたよ。
ディールも一階にいる事ですし……私の部屋に居座るのも、もう十分だと思いますけれど。
もちろんここはあなたの家でもあるのですから大歓迎ですが。
<そう言いながら、さらさらと日記のようなものを綴りながら呟くフィオナ>
ディールΦ:
――母さん。
あ。ベリオさん、まだいたんですか。
実は……緊急の承認会議でまた呼び出されてしまって。
折角ですしベリオさん、今日は泊っていってください。では――。
<そう言うと足早に部屋を出ていくディール>
ベリオΣ:忙しないですね、あいつは。敵わないですよ。
フィオナβ:あら、忙しなさで優劣が決まると思っているの?
ベリオΣ:…………オレは、タマを作る“囚人”ですから。
フィオナβ:
服の色だけで罪人のような呼び名を使う人々に心を痛める必要はありませんよ、ベリオ。
あなたも、ディールも、このコロニーにとっても……私にとっても、かけがえのない大切な子なのですからね。
ベリオΣ:
…………っ。<うるうるっとした瞳を誤魔化すように>
……今夜は、この部屋で寝ますよ。椅子で眠るのは慣れてるんで。
―――
――
―
フラワNΨ:
――――久しぶりに、お茶を飲んだ。 久しぶりに、空を見た。
――――久しぶりに、花を、土を。
――――そして。鼻の奥につんと来るむず痒さ、喉の奥が勝手に締まるようなあの感覚と共に。
――――目に溜まる水をこらえるのに……今日は一苦労だった。
<座ったまま眠ってしまったフラワ。夢の中>
幼フラワΨ:おとうさん、なんで泣いてるの?
幼フラワΨ:……おとうさん、おかあさんは今日は帰ってこないの?
幼フラワΨ:――……おとうさん。わたしがいるんだよ。もう泣かないで。
<その幼いフラワを背後から見つめる現フラワ>
フラワNΨ:
…………お母さん。どこで、何してるのよ。
人は……無防備に愛を失った時、こんなにも簡単に壊れてしまうって分かっていて、私たちを捨てたの?
フラワNΨ:
愛を忘れてしまったお父さんと……切り捨てられない血という鎖。
その鎖がね。私の胸から延びるこのケーブルとなって、鉄の塊に縛り付けられてるように感じるの。
お母さん。お母さん。お母さ……――。
<ジリリリリリ、という通信端末の音で目が覚めるフラワ>
フラワΨ:
――何よ……、こんな時間に。ベリオから?
……はい、フラワ…………ッ。
なんですって。
―――
――
―
<はぁ、はぁ、はぁ、という焦りを感じさせる荒い息遣い。
深夜であるというのに遠慮なく響くそれはムロウル家の前で止まる>
フラワΨ:ベリオ!!!!
ベリオΣ:
フィオナさん!!フィオナさん!!!
オレが見えますか!?フィオナさんッッ!!!!
フラワΨ:ベリオ、何があったの!!
ベリオΣ:
分かんねえ……ッ、フィオナさんが急に寒いってッ!んで、もう肘のとこまで……。
<フィオナの腕を服をまくって見せるベリオ。
フィオナの腕は指先から肘の部分まで不自然なほど白く変色しており>
フラワΨ:これは……ッ。
フラワNΨ:コールドローズ症の末期症状……ッ!?
ベリオΣ:
ついさっきまで元気だったんだ!!!
日記も書いて、喋ってたら急に……っ。
フラワΨ:ベリオ!!!!時間がないわ、脈拍増強剤とヒートプラグをありったけ用意して!!
ベリオΣ:分かった!脈拍増強剤と……ッ。
<脈拍増強剤の入った注射と熱の発生する棒状の装置をベッドの下から取り出してフラワに渡すベリオ>
フィオナβ:…………騒がしいのね、二人とも。
フラワΨ:
フィオナさん……!
喋らなくてもいいです、今は体力の温存だけを考えて……!
フィオナβ:……自分の体ですもの、何が起きているかは自分でもよく分かります。
ベリオΣ:麻酔の量を増やせフラワ!!!凍えを認識させるな!!
フィオナβ:
…………麻酔は困るわ、ベリオ。
呂律が回らないのは……少し恥ずかしいもの。
……ごめんなさいね、こんなことになってしまって。
フラワΨ:……ベリオ。
<フィオナに見えない位置でふるふる、と軽く首を横に振る>
フラワΨ:……聞きましょう。
ベリオΣ:……ッ。
フィオナβ:
…………とても、とても感謝しているの。
窓の外を眺めるだけの日常から、私を連れ出してくれて。
太陽の温かさも、頬を撫でる風も。
貴方たちの笑い声に包まれて喉を通る紅茶の匂いも。
ディールのくれたフラワーカタログで見るよりも良いけれど、風にそよぐ花を見た時のあの湧き上がる感情。
懐かしくて……同時に、新しくて。
……そうね、電話の先のディールの上司の方も、しどろもどろになっていて、とっても可笑しかった。
ベリオΣ:もう喋らないでッ……喋っちゃダメだ!!!
フィオナβ:
…………本当はね。ベリオ。貴方が引き留めてくれてうれしかった。
貴方が苦しんでいるのを知りながら……、貴方にしがみつきながら。
貴方の傷だらけの手の差し出す薬と花が、私の人生を明るく照らした。
……多忙になっていくディールの代わりにと、家に足繁く顔を見せる貴方を見るたび、私の一日が始まる気がした。
ディールとベリオ、これでもっと、貴方たちの成長を見ることが出来る。
これでもっと、迷った貴方たちの話を聞いてあげられる……と、日々心を躍らせていたの。
……ごめんなさいね、ベリオ。老人の我儘に、付き合わせてしまったわね。
ベリオΣ:
我儘なんかじゃない!言っているでしょう……!!
オレの……生き方だったんだ……!!
オレの、オレにとっての最初の誕生日は、“貴女が”くれたものなんだ……!
……ッオレの!! ワガママなんだッ…………。
フィオナβ:
……泣かないでちょうだい、ベリオ。
霞む視界でも、貴方の笑顔が見ていたいの。
――…………ダメね、間際でも欲張ってしまう。
ベリオΣ:フィオナさん……ッ!!!
フィオナβ:
…………叶うなら。
……あなたたちと、もっと…………。
あの庭で。 はなを。
みて いたくて………………びりおー……――――――。
<ピ――――…………と、無機質な音が部屋に響く>
ベリオΣ:……フィオナさん?…………フィオナさん――――ッ!!!!!
フラワΨ:
……ベリオ。離れなさい。
…………観測者、スイ・フラワ。
セントラルエジソンNo.6799(シックス.セブン.ナインナイン)。
ムロウル・フィオナの、死亡を確認――――。
第一部 後編へ




