悪夢幼女の苦労と救出者
メルトリーナ視点です。
私は誰だろう。
私のものとは思えない、すらりとした手と足。お母さまみたいな柔らかいお胸。真っ黒な髪とお目々で、私はまたどこだか分からない場所で笑っている。
怖い、すごく怖い。私はメルなのに。私はお母さまとお父さまの子供で、髪は、あれ?髪は何色だったかな、うんと、うんと、お目々は、お目々は…毎日見てるのに、思い出せない。
この夢のせいだ。夢から起きたら私はメルで、髪もお目々の色も分かる。早く起きなきゃ。でもどうやって?どうしたらいいんだろう。もうやだ、だれか、だれか………。
たすけて
「なるほど、これが原因か」
「え?」
私は声が出せた事にびっくりして口をおさえた。
でも、もっとびっくりしたのは、この中で音がしたこと。
「……だぁれ?」
自分の声にもホッとした。良かった、私の声だ。
「覚えてない?それとも思い出せないか、もしくはロックがかかってるか」
「ろっく??」
何かがほっぺたにさわって私はまたびっくりした。
男の人の手、かな。だれだろう。知ってる気がする。頭をぽんぽんとされると、すごく泣きたくなった。
「よく頑張った、これはもう少し大人になるまで封印しとこうな」
『お嬢様、もう放り出したんですか』
「…もしかして、カイル?」
私はちょっと自信がないけど、きっとそうだとも思った。カイルは私がどこにいても見つけてくれる。あきれた顔で、抱っこしてくれる。
「ん?よく分かったな。そうだよ」
「カイル、かい、る私、ごめんなさ、い、いつもにげて、こまらせたわ」
カイルもお仕事なのに。毎日私を探してまわるのは大変だったよね。嫌われちゃったのかと、私はぐすぐすと泣いた。
「俺も悪かったよ。まさか祝福がこういう風に悪い方向に宿主に影響するなんて知らなかったからな。いつも寝不足だったんだろ?お前はまだ子供なのにな」
なんだかカイルがむずかしいことを言っている気がしたけど、私にはまだよくわからなかった。
でも私を抱っこしてくれる手は、すごく優しくて、安心した。
「カイル…だいすき」
「………おやすみ、メルトリーナ。もうこの夢を見る事はないよ。ゆっくり寝な」
そして起きると、私はなんだかすごく楽になっていた。侍女にお願いして、私はお気に入りの空色のドレスを着て、可愛くしてもらって。
お母さまにもお願いして、とびきりの物をもらって、カイルを探した。
一生懸命探してるのに、カイルはどこにも居なくて、もしかしたら居なくなってしまったのかと不安になった時だった。
「朝から大騒ぎする程お元気そうで何よりですが、廊下を走ってはいけませんよ」
「カイル!居たのね、良かった。分かったわ、廊下はもう走らない」
あっさり言う事を聞いた私にカイルはちょっと戸惑っているみたいだった。
「あのね、これ、貰ってくれる?」
私は肩からかけていたポシェットの中から小さな袋に入った赤いアメを取り出した。キラキラと光るこのアメは私のお気に入りで、これはイチゴ味だ。お母さまが食べ過ぎては駄目だと一日一個、手渡してくれる私の大事なもの。
カイルもそれを知っているんだと思う。どうしたらいいのか分からないという顔をしている。
「ただ受け取ってくれたらいいの。私は私の特別をカイルにもらってほしいのよ。でもそれをどうするのかはカイルの自由だから」
「……食べないかもしれませんよ」
「うん、いいよ。だからもらってくれる?」
私はまだ子供なのだとカイルは言ってくれた。
それに意味はないのかもしれない、でも私はそのおかげで『メルトリーナ』で居られた。
だから私は私が今あげられる一番特別なお礼をカイルにもらってほしいと思ったの。
カイルは戸惑いながら、ゆっくり手を出した。
私はその大きな手に特別をのせる。
その特別がどうなるか知るのがちょっと心配で、そわそわしていると、カイルは膝をついて私の耳元で小さな声で言った。
『昨日の夢は、2人だけの内緒な』
私はカイルの声と、初めての内緒にドキドキしながら小さくコクリと頭を動かした。
(私を助けてくれたのは、王子さまじゃない。私の特別はカイルだわ)
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