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隠し事と仮面舞踏会 *エルヴィス視点

(エルヴィス視点)


「……」

「……な、何かしら、エルヴィス」



 休日。 僕はいつものようにミシェルの部屋を訪れた。

 二人きりの空間でじっと彼女の顔を見つめただけで、顔を真っ赤にする僕の婚約者が可愛いすぎて辛い。

 が、今日はそれで許す僕ではない。


「ねえ、ミシェル。 

 僕に何か、隠していることがあるよね?」

「え?」


 ギクッと嘘をつけない彼女の肩が分かりやすく跳ねるのを見逃さず、僕はニコリと笑って言った。


「最近エマが何かを企んでるように見えるんだ。

 それもミシェル絡みのようでね。

 ミシェル自身も何処か落ち着きがないようだし、それに僕に隠れてエリクと会っているだろう?」

「どうしてそれを……っ、あ」


 ハッと彼女は慌てて口を手にやるがもう遅い。

 僕はその手を絡め取ると、そっとその手の甲に唇を這わせて尋ねた。


「ねえ、君達は僕抜きで一体何をやっているのかな?」

「っ……」


 ミシェルは手と僕の顔を交互に見て顔を赤くしたり青くしたりする。

 そんな彼女の顔を見たら、秘密を知りたいと言うよりも悪戯心が湧き上がる。


「ミシェルと僕とで約束したよね?

 これからは隠し事はなしだって」

「や、約束したわ!

 け、けれど、今回のは、その……」

「僕には言えないと?」


 ミシェルは小さく頷いた。


(ミシェルがこんなに頑なに言わないということは何か訳があるのか?)


 そう思い、ミシェルに尋ねた。


「何か理由があったりするの?」


 その言葉に、ミシェルは観念したように小さく息を吐いて言った。


「エリク君とエマ様と約束したの。

 エルヴィスにも誰にも内緒だって」

「僕以外にも言ってはいけないの?」


 その言葉に驚けば、ミシェルは頷き慌てたように付け加えた。


「で、でも、エマ様が言うには、エルヴィスなら喜ぶから安心してって……」

「僕が喜ぶ?」

「え、えぇ」


 その口振りからするにミシェルは半信半疑なんだろう。


(皆にも内緒で僕が喜びそうなことって一体……)


 考え込んだ僕に対し、ミシェルが不意に僕に近付いた。

 へ、と驚く間もなく彼女の柔らかな唇が頬を掠める。

 突然の大胆な行動に驚けば、ミシェルは顔を真っ赤にしながら言った。


「だっ、だから! 

 きょ、今日はこれで我慢して……」

「!!」


 自信がなくなったのか、言葉が尻すぼみになっていく彼女に対し、今度は僕の方から我慢出来ずに距離を詰めた。

 そして、指先に触れた彼女の銀色の髪に口付けを落として言った。


「ミシェルがそんな大胆なことをするなんて……、エマに吹き込まれたのかな?

 まあ、君がその気なら僕も答えてあげないと、ね」

「!? え、エルヴィス、距離が近っ……」


 その言葉の続きを聞く前に、自身の唇で彼女の口を塞いでしまったのだった。







「……はぁ」


 退屈だ。

 ワインを手に、僕は会場の壁に寄りかかって立っていた。


 今夜は仮面舞踏会。

 皆が楽しそうにしているこの行事で、僕は一人完全に孤立していた。


(だって、どんな行事でもミシェルがいなければつまらない)


 行事の度、いつだって楽しいと思えるのは、彼女が隣にいてくれるから。

 彼女が楽しそうな笑みを浮かべているのを見るだけで、僕は嬉しいし楽しいと思える。


(一生この時間が続けば良いのに、と思うくらい)


 なんて僕は重症だろうか。

 そんなことを考えていると。


「あら、何をニヤニヤしているの」

「! エマ」


 その声の主を見て一気に嫌気が増した。

 僕のあからさまな表情に彼女は怒ったように言う。


「ちょっと、貴方その態度で良いとでも思っているの。

 ミシェルに嫌われても知らないわよ」

「生憎彼女は此処にいないんでね。

 それに、僕が君に対してこんな感じなのもミシェルは知っているだろう」

「……本当、ミシェルがいないと途端に不機嫌になるのね」


 あー嫌だ嫌だ、と肩を竦める彼女を白い目で見て口にした。


「そんなことより何の用だ。

 変装なしに僕の隣に立たれたら、あらぬ誤解を招くだろう」


 そう、エマは仮面舞踏会だというのに変装をしていない。

 パートナーがいなければ変装するのがこのイベントのルールだというのに。

 その言葉に、エマは「うふふ」と楽しそうに笑って言った。


「私にだってパートナーくらいいるわ。 安心して」

「……パートナー? どこにいるんだ」

「ま、そんなことはどうでも良いのよ。

 それより、ミシェルから何も聞いていないでしょうね?」

「!」


 その言葉にこの前ミシェルを問い詰めたことだ、とすぐに察して言葉を返した。


「エマが口止めした件についてなら、ミシェルは()()()()()口を割らなかった」

「……何をしてもって貴方ね……」

「何なんだ、一体。 そこまで話さない理由が僕には分からない」


 エマは悪巧みを考えている時の笑みを浮かべて言った。


「あら、ミシェルから聞いたはずよ。

 “貴方が喜びそうなこと”だって。

 ……丁度もうすぐ、分かるのではないかしら?」

「丁度って」


 そう口を開きかけたその時、会場中に鳴り響いていたオーケストラの演奏が止まった。

 皆が何事だ、と驚いていれば、壇上に白制服を着た生徒会の数名が上がった。

 驚いている生徒達の視線を受け、生徒会の一人が口を開いた。


「これより生徒会企画のゲームを開始致します!」

「……ゲーム?」

「今年の企画は、人物探しゲームです!!」


(イベントが始まって半分が過ぎたが、今から企画を始めるのか?)


 今までにない企画だが、まあ僕には関係ないことかと思いワインを煽ったその直後、僕の耳にとんでもない言葉が耳に届く。

 それは。


「探して頂く人物とは何と! 

 我が学園の人気者・ミシェル元会長です!」

「!?」


 その言葉に思いきり噎せる。

 汚い、と隣にいたエマが顔を顰めたがそんなことはどうでも良い。


(は? 今なんて?)


「ミシェル元会長は変装をして隠れています!

 制限時間はイベント終了10分前まで!

 それまでに見つけて生徒会に届け出た生徒には、今話題のカフェ・“Grande (グランデ・) Roseraie(ロズレ)”のペア優待券をプレゼント致します……!」


 その言葉に、生徒の声が次々に上がる。


「ペア優待券……!?」

「グランデ・ロズレって、予約が取れないあのお店の!?」

「ミシェル会長を見つけるの!? 楽しそうだわ!」


 ミシェルと優待券の反響に驚いたが、それよりも嫌な予感がしてハッとエマを見れば、案の定彼女は楽しそうに笑っていて。


「まあ、そういうことだから。 

 負けてみっともないところをミシェルに見せないようにね、()()()


 エマの言い草にカチンと来た僕は、冷たい笑みを浮かべて口にした。


「はは、残念。 

 僕はこの手のゲームには自信があるんだ」

「さあ、それはどうかしらね」


 その笑みに対して返すことはせず、僕は踵を返す。


(っ、ミシェルも此処にいるとは)


 何としても、誰よりも先にミシェルを見つけなければ。

 僕はそう意気込んで、ミシェルを探すことだけに集中したのだった。


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