仮面舞踏会の裏で
(こ、此処に座って待っていれば良いのかしら……)
窓の外に広がる星空を見上げ、私は息を吐いた。
(何だか、皆に気を遣わせてしまったようで申し訳ないわ)
此処からは見えないが、会場では今頃仮面舞踏会が行われている真っ最中だろう。
そんな中、私はドレスを着て仮面を付け、当初は不参加の予定だった仮面舞踏会に参加している。
……ただ、今いる場所は会場ではなく、生徒会室なのだけれど。
(まさか、私が企画のメインになるだなんて思ってもみなかった)
ことの発端は、舞踏会の数週間前に遡る。
「え、ミシェル先輩を企画の中心に考えてほしい?」
エリク君の言葉に、私は驚き提案をしたレティーに対し声を上げた。
「ちょ、ちょっとレティー。 気持ちは嬉しいけれど、それはエリク君にも皆にも申し訳ないわ」
「まあまあ、ミシェル。 レティーさんの言葉を聞いてあげて。
とっても面白いと私も思ったのだから!」
「え、エマ様まで……」
レティーとエマ様に連れられて向かったのは、エリク君達がいる生徒会室だった。
二人が何かを話していたのは知っていたが、まさか私のことだとは思ってもみなくて驚いていると、エリク君は顎に手を当て答えた。
「ミシェル先輩を企画の中心に……、僕もそれは良い考えだと思います。
幸い、まだ企画内容まで手が回っていなかったので、今から練れば間に合うかと」
「だそうよ、ミシェル。
ミシェルだって最後の仮面舞踏会になるんだもの、参加したいでしょう?」
「で、でも」
エリク君とレティーの言葉に反論しようとしたが、エマ様が口を開いた。
「良いじゃない、どんな形であれ参加出来るのならした方が良いわ。
特にエルヴィスが、貴女がいない舞踏会なんてって口にしているんだもの。
そこにサプライズしてあげれば喜ぶわよ」
「! え、エルヴィスが……?」
「えぇ」
にっこりとエマ様が満面の笑みを浮かべる。
上手く丸めこまれたような気はしたけれど、エルヴィスが喜ぶと聞いてしまえば、反論することは出来なくて。
黙ってしまった私を見て、エマ様は手を叩いて言った。
「ふふ、決まりね。
原則として、私達と生徒会だけでこの企画内容は当日までのお楽しみ。
だからミシェル、エルヴィスにも秘密にしておいてね」
「! え、エルヴィスは勘が鋭いので、その、気付かれてしまうのでは」
その言葉に、エマ様は「まあ、あり得るわね」と腕を組み、良いことを思いついた、と言葉を続けた。
「その時は、口付けの一つでもしてやりなさいな。
そうすれば、彼だって思いとどまるでしょう」
「!? そ、そんなことは」
一気に顔に熱が集中するが、レティーはポンと私の肩に手を置き言った。
「ここまで来たら乗りかかった船よ。 大丈夫、何とかなるわよ」
「〜〜〜レティーまで!」
(エルヴィスにそんなことをしたら、後が怖いわ……!)
特に最近の彼のドSっぷりが半端ないのだから……!と心の中で悶える私を置いてけぼりに、三人は次々と企画案を出していくのだった。
そうして出来上がった企画案が、“ミシェル会長を探せ!”という私を探し出すゲームだった。
(エルヴィスに内緒で準備するのは本当に大変だった……)
それに、エルヴィスはすぐに勘付いて私に何とか口を割らせようと、色々と……、その、口には出せないドSっぷりを発揮してきたのだが、何とか堪えて今日に至ることが出来たから、企画の内容までは彼も気が付いていないと思う……多分。
(本当に大変だった)
それでも、この日を迎えたことが素直に嬉しかった。
今着ている淡い黄色のドレスも、淡い青の宝石が埋め込まれ、羽をあしらった仮面も、今日のためにお母様に新調してもらったもの。
(……私達にとって、学園最後のイベントになるのだものね)
怪我の具合は大分良くなったのだけど、踊ることにはお医者様の言葉もあってまだ抵抗があった。
だから、出たくても諦めたのだけど。
(まさかこんな形で参加出来るとは思わなかったわ)
但し、誰かが私を見つけてくれなければいけないけれど。
(探しに、来てくれるかしら)
私を見つけた暁には、“Grande Roseraie”という今流行りの、特に女性に人気だというカフェの優待券が賞品として貰えるらしい。
私は耳にしたことがあるだけなのだけど、その名前を聞いてレティーが大興奮していたから、多くの生徒が企画に参加するだろうとエリク君も言っていた。
(楽しんでもらえたら、私も嬉しい)
新しい生徒会の力にこんな形でなれるとは思ってもみなかったけれど。
(でも、願わくば)
……エルヴィスが見つけ出してくれたら、なんて。
その時。
扉が開く音が耳に届いた。
ハッとして振り返れば、そこには見知らぬ女性の姿があって。
一瞬私を探しに来た女生徒かと思ったのだが。
(……違う、この方は大人の女性だわ)
仮面を付けているから誰なのか分からない。
私は見たことのない女性に警戒し、口を開く。
「どちら様ですか」
その言葉に、女性は仮面を取った。
仮面の下から現れたその顔を見て、思わず息を呑んだ。
その女性の名前は。
「……ベアトリス殿下」
そう、正真正銘ブライアン殿下の母であり、この国の王妃であるベアトリス殿下の姿がそこにはあった。
彼女は品定めするような目で私を見ると、口元だけ笑みを浮かべて口にした。
「お久しぶりね、ミシェルさん」
「ご無沙汰しております、殿下」
私は淑女の礼をしつつ、頭では混乱していた。
(っ、どうしてここに……)
頭を下げた私に対し、ベアトリス殿下は「お元気そうね」と笑って言った。
「貴女とは一度、ゆっくりと二人きりでお話をしたいと思っていたの。
今日は会えると思っていたのだけど、まさかここにいるとは思わなかったわ」
「どうして此処に私がいるとお分かりに?」
「教えてもらったのよ。 生徒会の方にね」
「……そうですか」
そう返してから姿勢を正すと、「私も」と言葉を続けた。
「ベアトリス殿下と、お話をさせて頂きたいと思っておりました」
その言葉に、殿下の目が光ったように見えた。
「あら、そうなのね。 ちょうど良いわ、まずは先に貴女の話から聞かせて」
「私からで、よろしいのですか?」
「えぇ」
殿下の言葉に、私はすっと息を吸うと口を開いた。
「では、単刀直入にお聞き致します。
どうして学園長が急に退任されたのか、ご存知ですか」
この学園は王立学園ということもあり、理事長や学園長の指名権は全て国王陛下にある。
学園長が退任するタイミングとしては、普通は年度が変わる、または定年退職以外にはないはず。
こんな中途半端で急にやめるとは考えられない。
それが引っかかって殿下に尋ねれば、彼女は一瞬笑みを消したものの、笑みを浮かべて口を開いた。
「そのことは、元学園長と私の間の秘密事項なのでお答え出来ないわ。
だけど、彼女に代わって、今度は私が理事長を兼任して学園長を務めることになったから宜しくね」
「! 殿下直々に学園長も……?」
「えぇ」
その言葉に、私の考えは確信に変わる。
(ベアトリス殿下が学園長に命令したということね。
だから、学園長は辞めざる負えなくて退任し、代わりの座にベアトリス殿下がついた。
それも多分、第二王子を支持し、第一王子派を監視するため)
「他に何か質問は?」
学園長の言葉に、私は「では、」と違う話題を振ることにした。
私が……、私達が一番聞きたかった、あの質問を。
「何故、私とエルヴィス殿下の婚約を認めて頂けないのでしょうか」




