猫カフェ始動前夜
ショットバー「キャッツ」での一夜も終わり、その後は特に何も起こらず、楓と紅葉と一緒にまったりモフモフして過ごしました。
まあ、余計なことをされないように、それぞれのお気に入りのウイスキーを、お土産で渡しておいたけどね。
セバスチャンさんは流石に遠慮してしまったので、領主さまへ押し付けておいた。
ただ、無駄にまったりしていたわけでもなく、猫カフェの建物を建築して内装を施し、倉庫へ収納し、いつでも設置できるようにしてある。
ショットバー「キャッツ」も倉庫の中です。
そして数日後、ハンナさんからの電話で俺の休日は終わりをむかえた。
『こんにちは、リーナさんからの伝言で、「エルナさんの引っ越しが終わったから、宿屋の取り壊しをしてしまっても大丈夫よ」と言うことよ』
手伝うと言ってあったけど、自分達で終わらせちゃったか。リーナさんの家に電話設置するのも忘れてたわ、あとで設置しちゃおう。
「わざわざ、ありがとうございます」
「いえいえ、それより主人が頂いたお酒、本当にありがとうございます。あれを飲んでからお酒の量が減って助かったわ」
旨い酒を貰って酒の量が減る???
「ウイスキーというのかしら? あれを飲んだら、他のお酒は飲めなくなったみたいで、貰ったボトルを大事に飲んでるの」
「それは可哀想なことをしてしまいましたね……」
「そんなことないわよ! 普段から飲み過ぎだと注意してたのに、全然話を聞いてくれなくて困っていたのよ、反対に助かったわ」
あ~、それはそれで可哀想だ……。
「でも、流石にちょっと可哀想に思えるのもあるから、少しでいいから定期的に譲って貰うことは出来ないかしら? 一本や二本で十分だから……」
「それぐらいでしたら構わないですよ、奥様が必要なタイミングで、ご連絡頂ければお届けします」
「本当にいいのかしら? でも助かるわ。それで、お代はどうすれば良いのかしら?」
と言う感じで、ヘンリーさまの酒量は、奥様に管理されることになってしまったが、不味い酒を我慢して飲むよりはいいだろう、いいよね!?
電話が終わったので、早速ハンナさん宅へ向かうことにしたが、まずはお屋敷に向かう。
「こんにちわ、セバスチャンさん」
「これは、タケルさま、先日は大変貴重なお酒をありがとうございました」
こっちこそ、ごめんなさい。気を利かせたつもりが、余計に気を使わせてしまったからね。使用人と主人の関係を舐めていた俺が悪い。
「あれを飲んでから、お酒への未練がすっかり失くなってしまいましてね、あの日以降、もうお酒は飲んでないのですよ」
セバスチャンさん、あなたもですか……となると、領主様は……。
「ですが、旦那さまはそうもいかず……ウイスキーを一口飲んでとても満足そうに頷いたあと、減っていくボトルを眺めて、ため息をつく毎日なのです」
領主さま、やはりあなたもか! と言うわけで、領主様へもセバスチャンさんを通じて定期的にウイスキーを提供することになってしまった。
猫カフェの始動が近いことをセバスチャンさんに伝え、午後から領主さまのお時間を取ってもらう。従業員の用意をしてもらわないとダメだからね。
「う~ん、これだとゴンゾさんも同じことになってそうだ」
ひとまず、お屋敷での用事が終わり、一人呟きつつエルナさん宅へ到着すると、ちょうどニーナさんも一緒に、引っ越しの片付けをしていた。
「こんにちは、エルナさん、ニーナさん」
「あら、いらっしゃいませ、タケルさん」
「タケル君、ちょうどよかったわ、主人の件で話があったのよ!」
はい、ニーナさん、予想していました、そして予想通りです!
こうして、ウイスキーに魅いられた大人たちは、それぞれの理解者に酒量を管理されることとなりました、めでたし、めでたし!?
近い内に、また「キャッツ」ナイトを開催して、お酒の種類を増やしてあげるのが、せめてもの償いになるかなぁ。
「タケルさん、せっかく来てもらったのだけど、こんな感じなのでお茶もお出し出来なくて、ごめんなさいね」
「いえいえ、こちらこそ引っ越しのお手伝いを出来ず、申し訳ございません」
「そんなことはいいんですよ、宿の方はもう必要な物は残ってませんので、好きに処分して頂いて結構ですので」
「分かりました。では、今後の連絡用に『電話』だけ設置して帰りますね」
リーナさん宅とエルナさん宅へ電話を設置して、それぞれに使い方を教えてから、その場をあとにした。
エルナさんの猫召喚は、もう少し新居が落ち着いてからで、ということになった。バタバタしてると猫も落ち着けないしね。
そんなこんなで、晴れて俺の物件となった宿屋へ到着したが、現地で手続きをしただけなので、マイホームシステム的には俺の物件にはなっていない。
ダメもとで管理委託の手続きをして、俺が許可を出すとあっさりと委託物件として承認された。
≪異世界住居(商業施設:大規模宿屋)が解放されました≫
≪異世界施設(厩舎)が解放されました≫
≪異世界施設(馬車庫)が解放されました≫
特に目新しい家具や魔法具はなかったけど、馬車関連の施設が手に入った。領主さまの屋敷や商会の馬車関連は、建物と一体型だったのか、独立した施設ではなかったようだ。
俺は中に入り、一通り探索したあと、処分できる家具や魔法具を倉庫機能で売却して、一部屋だけ綺麗なベッドなどで整えて、宿屋を後にした。
建て替えは、深夜にやる予定だ。昼間はさすがに目立ちすぎるからね。
そして、領主さまとの約束の時間となり、執務室のソファーで対面している。ソフィーさまは令嬢教育中なため、この場には居ない。
「外観や施設はこんな感じです。内装は明日にでも見てもらうとして、領主さまから何か助言はございませんか?」
俺はデジカメで撮影した外観や、マイホーム設計アプリで無理やりそれっぽく作った見取り図を、領主様に見てもらっている。もちろんプリントアウトしたものをね。
「うむ……」
領主さまの興味は外観や見取り図ではなく、プリントした紙に移ってしまっているようだ。
この世界にも植物紙はあるけど、ここまで真っ白でサラサラではないからね。
「領主さま、紙ではなくて建物について意見が欲しいのですが……」
「ああ、すまない。猫カフェについての相談だったな」
やっと真面目に取りかかってくれた領主様からの提案によって、馬車庫を隣接することになった。
リーナさんと相談して、宿屋の両隣も空き家になっていたのを買い取ってあるから、敷地は問題ない。
「あと、使用人についてだが、こちらはいつでも大丈夫だ」
「では、明日の見学時に従業員の皆さんも来てもらえますか?」
午後からなら問題ないと言うことで、日当などを相談して、明日から雇うことになった。
「働く予定の人は、住むところはあるのですか?」
「屋敷から手伝いに出すものは、使用人棟があるので問題はない。その他の者は聞いてみないと分からないが、各自でなんとかしているはずだ」
これって、何とかなってない人がいるってことじゃないだろうか……。
「では、希望者はこちらの社員寮へ引っ越してもらうことにしましょう」
「シャインリョウとは?」
「あ~使用人棟と同じですよ。使用人が社員ってことです」
最初は猫カフェ敷地内だけで用意しようと思っていたが、三階建て以上になり、狭い上に近隣への日照問題も出そうだった。
それもあり、隣を買い取って面積を増やし、社員寮を隣接している。
一つの敷地として作っているので、馬車庫も社員寮も猫カフェの一部になる。
「全員が希望しても入れるのかね」
「はい、問題ありませんよ。広い部屋もあるので、少しなら家族で来ても対応できます」
宿屋の敷地だと中途半端だったけど、用地買収したら今度は広すぎて、社員寮の間取りを色々用意しちゃったから家族でも安心さ。
そのあと、細かな調整をしていると、令嬢教育の合間を抜け出してきた、ソフィーさまとミカエルを交えてお茶の時間となり、頃合いを見て俺は席をはずした。
「では、また明日、猫カフェでお待ちしております」
場所は伝えてあるので、皆さん現地集合である。
マイホームへ一度戻り、楓と紅葉に遊んで貰って満足したあと、宿屋のベッドで深夜まで待機。
そして草木も眠る丑三つ時、音もなく静かに、誰にも気づかれることなく、猫カフェの建物が完成したのである。
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