あまのじゃく逆さ世界
目が覚めると、周囲の樹がやたら小さい、未来男は身体を起こした。
杉の木が未来男の顔程の大きさしかない、松の木はもっと小さい
ここはきっと小人の国だ、俺はガリバーになった。
今度こそアトムの助けが無くても、俺は無敵だと未来男は喜んだ。
空から小さなアトムが未来男の肩に下りて来た。
「未来男君、君は人が右と言えば左、左と言えば右、人の反対を言うのが癖だ。
それを世間は「あまのじゃく」と呼ぶ。
天邪鬼・逆さ世界、ジャンケンに勝てば、相手と好きな立場に入れ替われる。
面白いだろう、天邪鬼さを発揮できる、君にピッタリな世界だよ。」
言い終えると、鉄腕アトムはジェット噴射で未来男の肩から飛び去った。
ガリバーになれて嬉しいが、大きい分、直ぐお腹が空く。
少し歩くだけで、遠くまで行けて嬉しいけど、その分、お腹が空く。
1歩歩くたびに腹がグウグウ鳴る、巨人がこれ程大変だとは思わなかった。
お腹がすいて、もう一歩も歩けない、未来男はとうとう座り込んでしまった。
遠くで小さな人たちが、家族でお弁当を広げ、食べている。
美味しそうだな、でも僕にはあの弁当では全然足りないや。
ポトッ、未来男の鼻先に鳥の糞が落ちて来た。
見上げると、カラスが上で「アホー」と笑っている。
未来男はアトムの言葉を思い出した、ジャンケンすれば良いのだ。
「オーイ カラスくん 僕とジャンケンしよう。」
カラスはアホーと叫びながら、喜んで降りて来た。
未来男はジャンケンでカラスに勝った。
あのカラスこそアホーだ、カラスは羽でパーしか出せない、
カラスは自分の事が解っていない、アホーだ。
カラスにはチョキさえ出せば勝てるんだ、アホー。
カラスは見る見る大きくなり、ジェット機程の大きさになった。
未来男はカラスの大きさにまで小さくなった。
大きさが入れ替わった。
「良かった、これでご飯が食べられる。」未来男は喜んだ。
カラスは急にお腹が空いて来た、上空で未来男を見つけた。
カラスがバサと一度羽ばたいた、風圧で木も家も吹き飛ばされる、
未来男はカラスが見えない遠くまで飛ばされた。
やがて、カラスは未来男を見つけ、空から急降下してきた、
まずい、カラスに食べられる、未来男は慌てて下水管に逃げ込んだ。
カラスは未来男を見失い、他の獲物を探して遠くに飛んで行った。
「危なかった、もう一歩でカラスに食われるところだった。」
未来男が1時間ほど歩くと、ハンバーガーショップの看板が目に入った。
ポケットのコインを掴んで、いつものダブルバーガーを注文した。
店員が未来男のテーブルに、注文したダブルバーガー持ってきてくれた。
「なんだこのでかいハンバーガー、こんなの見たことが無い、嘘だろう。」
未来男はカラスの背丈、人間の膝くらいしかないのを忘れていた。
満腹で歩けなくなった、もう三日は食べなくても持ちそうだ。
未来男の食べ残しを狙って、猫がテーブルに上がって来た。
未来男から見ると猫はライオンほどでかい、猫は未来男を見つけた、
ハンバーガーより、未来男の方が美味そうだ。
猫からは逃げられそうにない、縞柄の猫が未来男に近づいて来た。
そうだ、猫とジャンケンしよう、逃げるにはそれしかない。
未来男は猫に勝って、いい気になって叫んだ。
「猫の馬鹿め!」
未来男は可笑しかった、猫の指は簡単に開かない、いつもグーだ、
パーを出せば僕が勝に決まってるだろう、馬鹿め。
未来男は速さを選んだ。
猫の足は遅くなり、未来男が速くなって、容易く大猫から逃げられた。
海岸まで来ると怪獣バルタン星人が大きな腹を摩りながら、昼寝をしていた。
バルタン星人は魚を食べ過ぎて、重くて空を飛べなくなり、休んでいた。
食べられると目を瞑ったが、バルタン星人はチラッと未来男を見ただけだった。
バルタン星人の手はカニと同じだ、奴はチョキかグーしか出せない。
食べられる前に、ジャンケンで勝てば問題ない、未来男は開き直った。
パーを出した未来男は初めてジャンケンに負けた、
バルタン星人はチョキをしていた。
バルタン星人が重さを選んだ、二人の体重が入れ替わった。
軽くなったバルタン星人は空へ舞い上がり、
未来男にお礼を言いながら、バルタン星に帰って行った。
身体が重い、重くて歩けない、浜の砂から出られない、
やがて潮が満ち、未来男は海底に沈んだ、
そこに魚がやってきて、未来男の鼻をかじり始めた。
「痛い!」
未来男はやっとのことで重い右手を上げ、魚とジャンケンした。
魚には楽勝だ、魚はエラでパーしか出せない、あの魚はパーだ、と笑った。
魚は泳げなくなり、海底に沈んで、カニに食べられた。
未来男が泳いで海面まで上がり、浮いていると、
カモメが頭にとまって、嘴でつつき始めた。
「痛い、堪らん。」
未来男は、カモメにジャンケンを挑んだ、今度も勝った。
カモメは飛べなくなり、バタバタしているところを魚に食べられた。
空を飛べるようになった未来男は、陸地に向かって飛んだ。
俺は今、スーパーマン見たいに空が飛べる、ヤッター。
面白くなって、未来男は長い間空を飛んでいた。
大きな黒い影が伸びてきて、未来男の周りが急に暗くなった。
変だなと、見上げると、あのカラスが真上にいた、
お腹が空いいたカラスは、未来男を見つけると襲い掛かって来た。
未来男は慌てて逃げ、近くにあったトンネルに飛び込んだ。
カラスは大きすぎてトンネルに入れない、暫く入口でバタバタしていたが、
諦めて他の獲物を探しに飛んで行った。
「危なかった、もう少し気が付くのが遅かったら、カラスに食べられていた。」
思い出しても怖かった、油断も隙もない、食うか食われるか、厳しい所だ。
暗いトンネルの上にコウモリが止まって、ジッと未来男を見ていた。
こいつとジャンケンすると何が起こるのだろう、まあ良いかと、、
未来男はコウモリとジャンケンした、そしてコウモリに負けた。
コウモリは鳥だとチョキを出したら、コウモリには翼の上に手があった。
未来男とコウモリの上下が逆転した。
上が下、下が上、何もかもが逆さ、上下逆さまに見える。
逆さになってトンネルの上部を歩く、顔も上下が逆さま、グルグル回る、
混乱して、未来男は何が何だか訳が分からなくなった。
勝ったコウモリはトンネルの下を走って、どこかに行ってしまった。
コウモリを探さないと、戻れない、幾ら探してもあのコウモリが見つからない。
奥へ進むと、大きな腹をして動けない蛇がいた、
蛇は歩いていたコウモリを呑み込んで、満腹で動けないでいた。
蛇の長さは2m、下にいたら僕が食べられていた、ゾっとした。
蛇は下だから、戻れるかもっと考え、蛇にジャンケンを持ちかけた。
蛇は後出しジャンケンで負けた、蛇は手が出せなかったのだ。
未来男は下に戻れたが、
今度は未来男が2mに、蛇は60センチ程に短くなった。
長さが入れ替わってしまった、小さくなった蛇は大慌てで天井を逃げた。
あんな大きなハンバーガーを食べたのにお腹が空いて来た、
トボトボと歩いていると、立派な馬車がやって来た、
信号が赤だ、馬車は未来男の前で止まった。
「チャンスだ。」
未来男は馬車に近づき、お金持ちそうな老紳士にジャンケンを申し込んだ
老紳士は心良く、ジャンケンを引き受けてくれた。
未来男は老紳士に勝った、未来男は大金持ちになった。
老紳士は貧乏になり、みすぼらしい姿で、立ち去って行った。
金持ちになった未来男は上機嫌だ、美味しい料理を食べたくなった。
ライトアップされた、高級レストランを見つけ、迷わずその店に入った。
奥で貴族の若者たちがポーカーに興じていた。
その中の一人は負けが混んで、ポーカーを止め、出て行ってしまった。
金持ちの未来男は若者のカモにされ、ホーカーに引き込まれた。
ポーカーをする前に、未来男は引き込んだ男にジャンケンを申し込んだ、
男は首を傾げながら、未来男とジャンケンした、未来男が勝った。
やがて、ホーカーは始まった、未来男はポーカーが初めてだが
勝って、勝って、勝ち続けた、未来男はさらに大金持ちになった。
ポーカーの強さが入れ替わっていた、相手の男は一文無しになった。
大金持ちになった未来男は町の名士になり、やがて社交界に出るまでになった、
未来男に明るい未来が待っていた。
何もかもが順調だった、資金を元手に始めた事業は全て上手く行き、
未来男の地位は町で揺るぎないものとなった、
若いのに町長にとの声まであがった。
大金持ちの未来男は福祉やボランティアにも資金を出し、
町民の信頼を集めた、今や未来男に無いのはお嫁さんくらいだった。
何気なく参加した社交界で、未来男に運命の出会いが訪れた、
誰かの手からハンカチが滑り落ちた、未来男はハンカチを何気なく拾い、
落とし主を探そうと顔を上げた、その先に、知らない貴婦人がいた。
隣町から父親ときて、初めて社交界にデビューした娘だった。
拾ったハンカチをその女性に渡そうとした時、二人の間に割り込む者がいた。
「俺の女に手を出すな。」
ハンカチは未来男の手から奪われ、若いハンサムな男が立っていた。
男は未来男に決闘を申し込んできた、ホールは大騒ぎとなり、二人は外へ出た。
申込まれた決闘を断れば一人前の男でなくなる、社交界には二度と出られない。
剣を持つのは初めてだが、未来男に逃げ場はない、二人は剣を構えた。
「決闘の前に、ジャンケンしよう。」
決闘の相手は立つ位置を選ぶのかと思い、ジャンケンに応じた。
ジャンケンは未来男が勝った。
決闘も未来男が易々と勝利した、娘は未来男の物となったかに見えた。
そこへ、人ごみをかき分け、警官隊が突入してきた。
「正当な勝利だ、決闘のルールに違反はない、逮捕の必要はない。」
その場にいた大勢の人が警官隊を引き留めようとしたが、
未来男は括られ、警官に連行されていった。
翌朝、未来男は大法廷に引き出され、判決を言い渡されることになった。
「刑法第13条違反により、被告を死刑に処する。」
この世界では決闘と同じく、挑まれたジャンケンは断れない事になっている。
しかし、ジャンケンは非常に危険な行為であり、10回以上できない決まりがある。
一人10回ジャンケンをすれば、理由のいかんを問わず死刑が確定する。
説明を受け、未来男はカラスを思い浮かべた、ジャンケンを順番に数えていくと
決闘の時が10回目だった。なぜ、先に教えてくれないのだ、アトム。
翌朝、未来男は刑場へ連行されていった。
絞首刑か斬首か、銃殺か、殺される場面が未来男の脳裏に浮かぶ。
目隠しをされ、未来男は細い板の上を、槍で突かれながら先へ歩かされた、
やがて、板は先がなくなり、未来男は板から落ちた。
なんだ、砂の上か、と安心したが、未来男の身体は砂に沈んでいく、
砂でできた底なし沼だった。10分で腰まで埋まった、沈むのが止まらない、
もがくほど、早く身体が砂に沈む、20分で首まで埋まった。
「助けて~」
処刑場に未来男の最後の声が響いた、未来男の姿は砂の中に消えた。
「目が痛い、まだ砂が舞っている。」
禿げ親爺の桟はたきが落とす埃だった。