表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
最終章 《憂鬱な決戦編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/47

第四十五話



 建国記念舞踏会の夜。


 王城は、何千もの蝋燭と魔法石の光で、真昼のように照らし出されていた。


 私たちを乗せた馬車が正門を抜けても、警備の騎士たちは誰一人として槍を交差させなかった。


 それもそのはずだ。先頭を歩くセシリア様が、教国の最高権威である「聖女の証」をこれ見よがしに掲げているのだから。指名手配犯だろうが何だろうが、表立って捕縛できるわけがない。


「……手が、冷たいですね」


 馬車を降りる直前、アイリスが私の手をぎゅっと握った。


 彼女が着ているのは、あの窮屈な侍女の制服ではない。


 セシリア様が特注した、夜空のように深い群青色のドレスだ。背中が大きく開き、彼女の滑らかな白い肌を惜しげもなく晒している。もはや「誰かの所有物」であることを示す意匠は、どこにもない。


「緊張してる?」


「少しだけ。


 でも……先輩の心音を聞いていたら、落ち着きました」


 彼女はふわりと笑った。


 その笑顔は、どんな高級な化粧よりも彼女を美しく見せていた。


「さあ、行くわよ。


 最高に悪趣味なパーティーの始まりね」


 セシリア様を先頭に、私とアイリスは王城の大階段を登り、大広間の扉の前へと立った。


 ギィィィ……ッ!


 重厚な扉が開かれた瞬間、広間を包んでいた優雅なワルツの調べがピタリと止んだ。


 数百人の貴族たちの視線が、一斉に私たちに突き刺さる。


「……聖女セシリア様だ」


「後ろにいるのは、例の狂った侍女……?」


「なんて格好だ。あんな破廉恥なドレスで……」


 ざわめきが波のように広がる。


 その波をモーセのように割って、一人の男が進み出てきた。


 銀糸のような金髪に、氷のように冷たい碧眼。


 フレデリック王太子殿下だ。


 そして彼の隣には、一人の少女が寄り添っていた。


「……! あれは……」


 息を呑むアイリスの声。


 無理もない。その少女の顔立ちは、アイリスと瓜二つだったのだから。


 ただ、纏っている空気が全く違う。


 少女の瞳には、一切の光がない。まるで精巧に作られたガラス玉だ。姿勢は一ミリの狂いもなく、瞬きの回数さえ計算されているのが分かる。


「お帰り、セシリア。


 随分と長い家出だったね」


 フレデリック殿下が、完璧な笑みを浮かべて口を開いた。


「そして……わざわざ『粗大ゴミ』を届けに来てくれたのか?


 回収の手間が省けて助かるよ」


 殿下の視線が、アイリスを射抜いた。


 以前のアイリスなら、この一瞥だけで膝を折り、謝罪の言葉を口にしていただろう。


 けれど今の彼女は、私の手を握ったまま、まっすぐに殿下を見つめ返した。


「……紹介しよう。


 次世代型・完全自律人形、開発コード『イヴ』だ」


 殿下が指を鳴らすと、イヴと呼ばれた少女が一歩前へ出た。


「お初にお目にかかります。


 私はイヴ。あらゆる感情的ノイズを排除し、殿下の命令を0・1秒の遅滞なく実行する、真の完璧な存在です」


 その声は、かつてのアイリスが使っていた「機械語」よりも、さらに無機質で冷たかった。


旧型アイリスのデータは全て学習済みです。


 彼女が起こした『エラー』の原因も分析しました。不要な感情、自己主張、無駄な疲労……。私には、それらが一切ありません」


 イヴは、無表情のままアイリスを見据えた。


「あなたはもう、不要です。


 ただちに機能停止し、解体処分ルートへ移行することを推奨します」


 広間が、水を打ったように静まり返った。


 誰もが、アイリスの反応を待っていた。絶望して泣き崩れるか、あるいは狂乱して襲いかかるか。


 しかし。


「……ふふっ」


 静寂を破ったのは、アイリスの小さな吹き出し笑いだった。


「アイリス?」


 殿下が不快げに眉をひそめる。


「申し訳ありません、殿下。


 でも……あまりにも、昔の自分を見ているようで、おかしくて」


 アイリスは私の手を離し、ゆっくりと前へ進み出た。


 その足取りは、計算されたモデル歩きではなく、自分の意志で地を踏みしめる「人間」の歩き方だった。


「イヴ。貴女は確かに『完璧』かもしれない。


 でも、それってすごく……退屈じゃない?」


 アイリスの言葉に、イヴの首が機械的に傾いた。


「退屈、という概念は理解不能です。


 効率と成果こそが全てであり……」


「違うのよ」


 アイリスは、胸に手を当てた。


「悲しくて泣くこと。


 二日酔いで頭が痛くなること。


 誰かに触れたくて、胸が苦しくなること。


 ……その『エラー』こそが、生きているっていう証明なの」


 彼女は、凛とした声で広間に響き渡らせた。


「私はもう、誰かのための便利な道具プログラムじゃない。


 私はアイリス。


 不完全で、ポンコツで、最高に幸せな……ただの女の子です!」


 その宣言は、王宮の冷たい空気を一瞬で打ち砕いた。


 フレデリック殿下の顔から、初めて「完璧な余裕」が剥がれ落ちた。


「……狂っている。完全にバグに侵されているな」


 殿下は忌々しげに吐き捨てた。


「いいだろう。そこまで言うなら証明してみせろ。


 お前のその『無駄な感情』とやらが、私のイヴの『完璧』に勝るということを!」


 かくして、華やかな舞踏会は、二人の少女の決戦の舞台へと変貌した。


 私はセシリア様と顔を見合わせ、深く頷いた。


 大丈夫。私たちのポンコツは、絶対に負けない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【作家必見】
あなたの作品を徹底分析。
タイトル・あらすじ・文章力を
『鬼』が辛口診断します。

なろう診断鬼を試す ➔
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ