見えない動き
「……あの二人が? 確かに同じ実力でも身分の高いものが受かって、低いものが落ちることはある。ただ、それは大抵の場合、その人物の背景がはっきりしない場合に限る。しかしとびぬけて強いものが、そんな風に審査の対象になることはないはずだ。俺が学園を出た後酷い悪さでもしたのか?」
「いえ、僕の知る限り、そんなことはないはずですが」
「そうだとしたならばおかしい。……俺は古巣を信じたいところだが」
週末にレーガン先生と手合わせした後に、学園でのことを相談してみた。
レーガン先生は足にルークを引っ付けたまま、難しい顔をして悩んでいる。
「退団した先生から見た正直な感想として、騎士団はそれほど怪しい組織ではないということでしょうか?」
「待てよ……、志望しているのは王立騎士団か? それとも近衛騎士団だろうか?」
「……そういえば聞いていませんね。先生が所属していたのは?」
「王立騎士団に入って、途中から近衛騎士団になった。ただ……、あの二人はアウダスと仲がいいだろう? 志望は近衛騎士団なのでは?」
あー、王立騎士団は外に出て活動したりすることが多く荒々しいけど、近衛騎士団は、結構儀礼とかにも参加するから、結構キッチリかっきりしている、みたいな話は聞いたことがある。
あの二人の先輩ならば、多分王立騎士団の方に向いていると思うんだけど、どっちを志望したんだろうなぁ。
ちなみに規模としては王立騎士団の方が圧倒的にでかい。
っていうか……、レーガン先生ってめちゃくちゃエリートだったっぽいな。
「そうなるとなかなか繊細な話になってくる。やはり迂闊には動かないのが正解であるように思えるな」
「そうですか……、ありがとうございます。もうしばらく経過を見守ってみたいと思います」
うーん、難しい話だ。
一応先輩たちのことは殿下にも報告しているし、そっち方面から何か情報を得られそうな気もするんだけどなぁ。問題は殿下とまともに喋ることができる日まで、まだ数日あるってことだ。
あの部屋は満月の前後数日しか使えないから、どうしてもその間にトラブルが起きると共有しにくいんだよなぁ。イレインが俺たちと一緒にいるようになってからは、特にそれが難しくなった。
あと最近ではベルとの接触も少なくて、あの部屋に行くと引っ付き虫になって離れなくなってしまった。学園生活で、時折子犬のような視線を向けられると、俺まで寂しくなるので何とかならないかなぁと思っている。
ベルはなぁ、同い年とはいえ妹みたいなもんだから、寂しがらせていると思うと結構心が痛む。
レーガン先生と別れ、エヴァやルークと遊び、父上と母上に最近のことを報告。
「王家というのは難儀なものだ。どこから話が漏れるかわからないので、どうしても秘密主義なところがある。ルーサーは殿下とも仲良くしていただいているようだが、友だからと言って気軽に話せぬこともある。近衛騎士団といえば、王家にかなり近しい存在だ。その周りの詮索は程々にするようにしなさい」
父上にもさらりと先輩たちの話をしてみたが、真剣な顔で忠告をされてしまった。
これだけ大人たちから注意されるとなぁ、流石の俺もちょっと大人しくしていようかなと思ってしまう。
「ただし、もしその子たちが理不尽に将来を奪われるようなことがあるのならば、改めて私に言いなさい。悪いようにはしないから」
「……ありがとうございます、父上」
そうそう、これがうちの父上なんだよなぁ。
そこまでしっかりフォローしてくれればさ、俺も心配なく経過を見守ることができるってわけ。
ま、任せておいてほしいよね。
そんなわけで一泊して翌日の昼頃には学園に戻る。
もちろんイレインも一緒だ。
最近家に顔を出すことが多い理由の一つとして、イレインとの作戦会議の時間を設ける、みたいな意味合いもある。
派閥を率いるような形になってしまってからは、どうしても内緒話がしにくくて、都度自分で判断をしなければいけないことも増えた。別にやれと言われればやれないことはないのだけど、定期的にイレインの息抜きもかねて、近況のまとめをしてるってわけ。
「やっぱりそっとしておくのが正解かー」
俺が体を伸ばしながら口火を切ると、イレインはいつも通り頬杖を突いたまま反応を返してくる。こいついつもこんな感じだけど、自分が冷たい系美少女令嬢として、しっかり様になってることには気づいてるんだろうか。
「そうみたいだな。あの先輩たちを使わないほど騎士団の見る目がないなら、セラーズ家に引き込めばいいと思っていたけど……、事はそう単純な話じゃないんだろうな」
「それなんだよなー。俺もさ、もしかしたら、とは思ったんだよ。でもほら、先輩たちって騎士団に入れるって聞いて喜んでただろ? そのまま入団できるならしてほしいよなって」
「それだけ好いてて認めてるなら、もっと早い段階でセラーズ家に取り込めないか打診すりゃよかったんだ。前々から言ってただろ」
前々からイレインには言われてたんだよなぁ。
話すだけでもいいから、セラーズ家に来ないか誘ってみてはどうかって。
貴族としては、優秀な人物と関係ができたのなら、それを十分に活かすのは当然のことだ。あの二人をセラーズ家に呼ぶことができるのなら、それはとても嬉しい。
二人とも騎士の家柄と言っても一代限りだし、しかも長男ではない。
セラーズ家に就職なんて話は家柄を考えれば悪い話ではないのだ。
さり気なく探りを入れたことはあったんだけど、あそこにいる人たちは大抵、親が騎士であることに誇りを持っていたり、騎士に対しての憧れを持っていたりする。
俺の事情でそれを捻じ曲げるのもなぁと思ってしまったのだ。
「……騎士団に入れるならそれが一番だろ。それも国のため、殿下のためになるわけだし。俺たちが大人になる頃には、先輩たちもきっと立派な騎士だからな」
「本当は相手してもらえなくなるのが寂しいくせに」
「……うるせー、俺は横暴な貴族みたいな真似したくないんだよ」
「だから、横暴じゃないって。あっちもこっちも得だって言ってんのに、頭の固い奴だな」
イレインっていつもそうだよな!
これは男のなんか、あれでそういうやつなの!
反論が思いつかなかったので、とりあえず心の中で感情的にイレインの言葉を否定して、俺はわざとらしく深いため息を吐くのであった。





