ビビりの村の新婚さん
先生のターン☆
新しい立場は中々に不安定ですが、視点のみではなく続けていた仕事のやり方さえ変えてしまいます。
それはそれとして。
後押しされるのは心地好く、急かされるのは気分が悪いのは何故でしょう。
☆
結婚式がやっと終わった。
この村の…… いや、彼女の家に伝わる習わしだが、新しい家を持ち暮らすには、花嫁に誓いの品を贈らなくてはならないのだとか。
誓いの品は二人が納得しているモノならば何でもいいらしく、過去には大槌を送った人も居たそうだ。
俺は、我が家から持ってきた短剣を誓いの品として、彼女に贈る。
……賑やかなのも、一段落か。
後は挨拶回り。
商いで顔を出していたのは人間の街ばかりだったから、そちらに行かなくて済むのは、まあ有難い。
引き継いだ事から頭を切り替え、休憩室のソファーに凭れて深呼吸。
開け放たれた入り口から近付く気配に顔を上げると、見知った顔だった。
「まさかお前が結婚とはな、くふぅー」
「抜かせ」
昔の旅仲間、商売姉妹である海精霊のニハ。
ホントの名前は長ったらしいから覚えていない。
「王妃の名代だろ? あまり砕け過ぎるなよ」
「くふふ、任しとけー」
人魚女王…… 王妃の方が呼び慣れているが。
王妃の勅命は、この村に居る少年の助けとなれ。
神の愛し子、なのだから。
海の民の指導者たり得る見聞と、肉体を健やかに保つべし。
……我が王妃は「健やか」である事に情熱を注ぎ過ぎるがな。
ニハは向かいのソファーに腰掛け、水差しから勝手に水を汲んで飲み干すと喋りかけてきた。
「……んでー? コレは海とこの村に結び付きを高める為?」
商人ギルドの支給ポンチョ(ポケットだらけ)の長い袖を振りながら、ニハがゲスい質問をしてくる。
大体、こいつが俺に揺さぶりをかけるのは、他に何か言いたい事がある時だ。
「……お前は変わんねえな、ニハ。これは全くの私情」
「からかうのが正解だったか、くふぅー」
「他に何か言いたい案件でも?」
「王妃様が、お前に勲章をやりたいと」
「いらん」
「だろうね」
「……他には?」
「任してた真珠の件」
「全部弟に任せた…… 引き継ぎも、終わってる」
「さっすが、手早い」
「俺は、この村に住む。スライの手伝いをする為じゃなく、妻の為にな」
「ひゅーひゅー。熱うぃ」
「抜かせっての」
「一番の質問。この後、何を生業にして生きる?」
俺の緑がかった黒髪が、一瞬ザワついた。
いきなり殺気を出すな。
スキルが発動したらとか考えろよな。
「海商人ギルド、抜ける事になったしな……」
正確に言うなら「海民商業通運会」。
身の在処、住まいを地上にした事で、俺は参加資格を失った。
ニハとは海商人ギルド地上派遣の仲間。
陸上商業網を俺達の代で築き上げようと二人で嘯いていたんだ。
「すまん」
「答えになってない」
「俺は…… それでも海の民だ」
「だから?」
「海商人ギルドとしてではなく、一商人として生きる」
「この村で?」
「場所は中々良い立地さ」
北側に海。
南は山脈。
東には砂漠が有るが、西側には他にも亜人の村がある。
人とはもう商売出来ないと思うが、それ程悲観的にはなっていない。
「くふぅー、早くそう言えって。ホラ」
ニハが差し出したそれは、勲章?
「いやだからいらねえって」
「ダメダメ、ソレ、商業保証徽章」
「……っはっ!?」
王妃様、どれだけ入れ込んでんだ!?
これは、団体である海商人ギルドに貸与しているモノと、同じ。
人と海の民が商いをする為の法整備の結晶。
一人に対して出して良いモノでは無い。
「……お前も軽々しく素手で扱うな」
「くふふ、その反応が見たかったのさ」
そう言うと、黒い絹張りの小箱を差し出した。
徽章の箱か。
これがあれば、一人でも商人として活動できる。
海の民の後ろ楯を失わずに、まだ商いを続けられる。
「妻には少し不自由させるかもと言ってしまったが」
「おっ何だい惚気るのかい」
「これなら、そんな事にはならんな」
「……散々、旅に付き合って来たが……」
「……?」
「お前には最後まで振り回されて終わりかあ、つまらん」
「何だよ」
「ナンでもねーよー。くふっ」
そう言って、勢い良く立ち上がり駆けていく。
相変わらず、訳が分からんヤツ。
やれやれ。
入り口から入れ違いに、大きな人影が現れる。
「あなた」
サクラ。
今日、俺が妻とした女。
一目惚れ、するなんて思ってもみなかった。
今でこそ俺は人型にしているが、本来は馬体に近い。
サクラは人馬族。
……とても美しい。
「……改めて言われると、こそばゆいわ」
いかん口に出ていたか。
「今の方は?」
「昔馴染みだ。本来は共和国方面で貴金属や宝石の商いを任されてる大物さ」
「まあ…… でも、良かったんですか」
「……なにがだ?」
「男女関係ではないのですか」
「ぶっ? ち、違う違う、そんな付き合いは一切無い」
事実、そんな時間も無ければそういう見られ方をされた憶えは……。
俺が思っていないだけ……?
……そんなまさか。
「商いは口先でする戦いだと仰いましたが…… それに隠された女心は、見分けられなかったのですね」
「……そうだとしても、付き合えん」
「何故です?」
「俺が純血に近しい水棲馬だというのもあるが、うーん、あのな」
一呼吸置く。
大事な事だ。
「俺は、小さい女に興味が無い」
ニハは、どう着飾っても20台には見えない。
外見は子供だ。
実際は90過ぎだと言う。
精霊の年齢なんて皆分からんが、小さいのは無理だ。
「……ナルホド」
「……成る程じゃないぞ……」
「小さい子は小さいなりに恋をしている様子ですけれど」
「…… ニハは」
「いえ、近所の子供の、話です」
あ、あぁ、スライ達か。
まだ5才だと言うが、アイツ程に一生懸命という言葉が似合うヤツも居ない。
確か…… 単眼鬼人の女の子、泉精霊の少女が熱を上げていた様子。
「……自分以外はしっかり見えているんですね」
「返す言葉も無い」
その二人が何やら揉めているのをさっき見かけている。
ひょっとしたら、告白でもされるんじゃなかろうか。
……まだ小さいなりに、か。
「……いいのです。貴方は、遣るべきが分かっている人」
「……サクラ」
「私は貴方の幸せが増える事を願い、その為に働きます。貴方が幸せと感じてくれる為の努力が出来る、その時に私自身が幸せを感じます」
「全く、良い女だ」
「良いですか? 私…… 重くないですか?」
……ははは。
いかんな。
この妻を幸せいっぱいにしてやらねば、夫たり得ない。
「生憎とな、サクラは軽い。本来の姿に成らなくとも」
肩に担ぎ上げ、クルリと地上に戻す。
「この通りだ」
「あららぁ」
「気持ちとしても、思いが重たいとは感じない」
寧ろ、頼もしい。
俺の遣りたい事をするを願い、協力し、援護してくれる。これ以上無い相棒だ。
「俺の支えで、良いのか?」
「ええ、勿論。この身が尽きて骨になるまで」
さっきも唱和した契りの誓い。
「互いの命を足し合わせ」
「歩める道を開き進まん」
……恥ずかしい台詞だ。
道を開き、進まんとするのは、辛いが楽しいな。
さあ、遣るべき事があるぞ。
「……謝らなくちゃならん」
「なんです? ニハさんとお付き合いしたいとかでしたら却下ですが」
「っ、違う。挨拶回りをしなくちゃならん件数が増えた」
商業保証徽章なんてモノをぶら下げて、一人で歩かなくちゃならんのか。
だが、守るべき相手となら。
「……一緒に来てくれ」
「はい、何処までも。わたし、常歩には自信がありますよ」
ラカエ・フィスト Level=70
状態=新婚(一目惚れ)
職業=海商人 称号=財浚い
ギフト=「雨季陽炎」気配察知、目星
スキル=異常耐性level.7/10
常時体力微量回復
狩猟採集level.2/10
経営学(特)
演算強化level.7/10
魔法=黒魔術(中級)
サクラ・フィスト Level=31
状態=新婚(熱狂)
職業=弓使い 称号=ラカエの妻
ギフト=「風土の大観」気配察知、聞き耳
スキル=速歩level.Max
常歩level.Max
常時体力微量回復
清掃(中)
調理(中)
畜産鑑定level.7/10
調理師Level.5/10
狩猟採集level.7/10
魔法=無し




