牢獄生活の始まり
思い出すのはあの女とその父親の下卑た笑い。
嬉々としてありもしない罪について語る裁判官。
好奇心と忌避、そして野心に燃える貴族たちの声。
この世界では裁判所には平民および女性は被害者、当事者以外は入れない。だから、男性まみれで裁判は行われた。それから少し男性は苦手だ。
ぽけーっと考える私に何を思ったのか彼は慌てて
「毒なんて入ってないですよ!!安心安全快適な食事ですよ!!」
なんて、言い出した。安心安全はともかく、快適な食事をこの牢獄で送れというのか。
「ふふっ。変な人……」
思わず笑ってしまった。さっきから微妙にずれてる気がする部分がなんともおかしかったのだ。
「えー。笑わないでくださいよぉ。ほんとに毒なんて入ってませんから、さっさと食べちゃってください!」
少しいじけたように彼がいうので食事を見てみると……。まじで…?出されたのは THE肉!それに申し訳ない程度のサラダに果物。これは、胃が受け付けない。
「えっと、そっそうね。頂くね」
そう言いながらサラダと果物に手を伸ばす。何だかんだでストレスは大きく、これだけでお腹が一杯になりそう。十分足りるわね……。
「そういえば…。私がどんな人か知ってるの?」
少し気になっていた質問を聞く。私は反逆をたくらむとんでもない悪女になっているはずだ。
「いいえ?存じ上げません」
「えっ?なんで?結構有名人よ、私。」
処刑間際に家族を巻き込まないように家族の記憶を奪ったので家族が私のことを一切知らないのは納得できる。けれど、クライアが知らないとは考えがたい。
ならば…。
「……そういうこと……。」
思わずボソリと呟いてしまう。顔色が変わったのだろう。クライアが心配そうに覗きこんでくる。
「大丈夫よ。」
そう呟きながらも内心はちっとも穏やかじゃない。私のことが知られていないはずがない。有名貴族の娘が反逆罪だ。そりゃ、大々的に報じられて処刑を見に来た平民もたくさんいた。
それでもクライアが知らないということは誰かが平民の記憶を奪ったのだろう。そんなことができるのは一緒に魔術科へ行き、非常に優秀だったレイオルと魔力の大きかった優しいアイガスだけだろう。よく二人は力を合わせて難しい魔法をしていたのだ。
けれど、解せないことがある。なぜ記憶を奪ったのかだ。どうせなら私の心証は悪い方が良いだろうに……
ほんとに、ここに連れてきたりと何がしたいんだろう。