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ささやかな、けれど大切な贈り物

ヴェルノー&クライヴの小話です。

 クレイは俺と二人きりになるとどこかに消えることが多い。

 けれど今日は珍しく人の顔を見て物言いたそうにしている。こういう時はたいていお小言が待っているだけだ。だが、今日は本当にクレイの気に障るようなことをした覚えがない。あるというなら濡れ衣だ。


「今日は何もしてないぞ」

「今日は、ということは何かほかにやましいことがあるのですか」

「ねぇよ」


 むしろ常日頃からのことだって見解の相違にほかならない。しかし普段ならここで更なる追求がくるのだが、今日は珍しく大人しい。


「どうした? 具合でも悪いのか?」

「……ヴェルノー殿は、祝いの品はどうされるつもりですか?」

「祝いの品?」

「殿下とコーデリア嬢の婚姻を祝い、贈る品です。イームズ家からも特産品を献上させていただく予定ですが、それと同じものは贈れないので悩んでいます」


 真剣な表情で言うクレイに、俺は内心『あ』と思わずにはいられなかった。

 むろん贈り物という存在を忘れていたわけではない。だが、フラントヘイム家からの献上品自体を『幼馴染のほうが喜ばれるものがわかるだろう』と丸投げしてきた父上に代わって俺が手配しているから、それで用意したつもりだった。けれどまだ当主でもない以上、改めて考えると俺からの祝いという雰囲気でもない気もする。

 けれどあの二人に向けて贈るものなんて、本当に選ぶのが大変なんだよな。


「あの二人、揃いも揃って何でも喜ぶからな」

「だから迷っているのです」

「そもそも俺の贈る品を聞いても同じものなんて贈れないんだから、参考にならないだろ」


 一旦逃げるためにそう言えば、クレイも渋々という雰囲気で納得していた。けれど、誰ともかぶらず、かつ驚かせるような贈りものなんてそういくつもあるものじゃ……。


「あ」

「何か思いついたのですか?」

「クレイは嫌がると思うが、絶対に喜ぶし、他のやつらにはできないことがある」


 食いつくクレイに向かって頷くと、俺は近くにあったペンと紙を引き寄せてさっと文字を記して見せた。


「『お忍びご優待券』?」

「ああ。こっそり二人でデートをするために協力しますよ、という権利書だ」

「そんな子供だましみたいな……」

「でも、殿下の顔を想像してみろ。たぶん、何より喜ぶぞ」

 その言葉にクレイは表現し難い表情を浮かべた。

「……私も書くとすれば、二枚献上ですかね」

「まあ、そうなるな」


 たぶんクレイも俺も、別の品も用意するけど、これくらいは追加で祝ってやっても悪くないはずだ。だってこれは、俺たちにしかできない祝い方なのだから。


本日電子版6巻発売です。

よろしくお願いいたします。

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