見送り、そして見守る者
エルヴィスとフラントヘイム侯爵のお話です。
国を挙げての祝い事である殿下の結婚式当日。
本日の主役の一人である花婿殿が見当たらなければ、花嫁の父であるエルヴィスも見つからない。そんな状況に慌てた進行役たちから私と息子のヴェルノーに『二人を探してほしい』と申し出があったのはしばらく前のことである。
それを聞いた息子はすぐに探しに行ったが、私は控室の前で待つことにした。エルヴィスはたとえ適当にあしらっている私が相手であっても、待ち合わせに遅れたことは一度もない。だから今日も遅れるはずがない。そう思っていれば、案の定時間には姿を現した。
「遅かったね、どこに行っていたんだい?」
「どうしてここにいる」
「探すように言われたから、待っていたんだよ」
「答えになっていない。探していないだろう」
探す必要もないがと淡々と付け加えるエルヴィスは普段とあまり変わりないが、少しだけ髪が乱れている。それを指摘すると手櫛ですぐに直していた。騎士時代から身なりに気を配っているエルヴィスらしからぬ様子に私は首を傾げた。暴れてきたわけでもないだろうに、やはり可愛い娘が嫁ぐとなればいつも通りにはできないということなのか?
「しかし、本当にエルヴィスも寂しくなるね。うちには娘はいないけど、気持ちはわかるよ」
「わかるわけがないだろう」
「息子も同じさ。成長は喜びだが、寂しくもある」
うちは嫁に来てもらうことになるから息子が出ていくことはないけど、それでも配偶者ができれば距離感は違ってくるだろう。って、エルヴィスはもう三人も送り出したあとのはずだけど。
そんなことを思っていると、エルヴィスがぽつりと言葉を零した。
「殿下でよかったと思う面もある。数多のご令嬢のなかからあえてコーデリアを選ばれたのなら、よほど強い想いがあってのことだろう」
「加えて殿下は穏やかだしね。しかし選り取り見取りな中で見初められるなんて、さすがはエルヴィスの娘だね」
貴族のご婦人方のみならず庶民からの人気も桁違いに高いご令嬢だから興味を惹かれても不思議ではない。噂ではご令嬢方は殿下に嫁ぐ彼女を羨まれるより、彼女の夫になる殿下を羨んでいるとまで聞く。女性を味方に付ける女性は強いから、彼女は今後も安泰だろう。素晴らしいことだ。
「コーデリアさんの暮らしも変わるし喧嘩もあるかもしれないけど、見守らないといけないね」
「別に合わなければ帰ってこればいい。結婚が一度という決まりもない」
「一応聞くんだけど、まさか花婿に向かって縁起でもないこと言ってたりしないよね?」
「縁起など誰が決めるものか」
ああ、これ、絶対言ったんだな。大人げないけど、これも殿下を対等な大人だと思っているからこそそうなるのかなと思えば、一応微笑ましいかな。そもそもエルヴィスは用心深いから、本当にダメだと思っているなら認めないし、気を許していないと不必要に失礼なことは言わないのだから。
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