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エピローグ

「オイオイオイ!? お前マジかよ!?」


 その日の夜。

 ベリンダの寮室で、彼女の素っ頓狂な声が響き渡った。


 ベリンダがわなわなと震えながら見つめる先には、インコちゃんことヤンスがいる。


 ベリンダとローザリヤの敵対。

 そして黒魔法の対策のための旧校舎探索。

 黒幕としてのスコットの登場に、彼との激闘。

 アリソンの白魔法の覚醒。

 そして決着……と。


 あまりにも濃い1日を、情報の擦り合わせも兼ねてふたりで振り返っていたのだが。

 そこで、衝撃の事実が明らかとなったのである。


「黒魔法の真の使い手がローザリヤじゃなくてスコットだってこと……ヤンスは知ってたのかよ!?」


 ベリンダが大声で尋ねると、ソファの背もたれのてっぺんにとまっているヤンスは事も無げに頷いたのだ。


「そっすよ」

「なんでだよ!?!?」


 そう。

 この世界の元となったゲーム『アイマホ』のことを、プレイしていて知っているのはヤンスだけ。


 だからこそ彼女の説明してくれた「黒魔法の使い手であるラスボスは、ローザリヤ」という事実をベリンダは愚直に信じ続けていた。

 しかし今日になって、実は黒魔法の使い手であるのはスコットで、ローザリヤは無実だったことが明らかになった。

 原作ゲームとは異なる情報をベリンダは不思議に思い、夜になって部屋を訪れてきたヤンスに尋ねてみたのだけれど……。


 ヤンスはしれっとした表情で、ベリンダに言うのである。


「スコットはゲームの中でも、目的のためならば手段を選ばない人物っていうふうに描写されてるっすからね。実際、ゲームの最終版、何周も色んな攻略対象のルートをクリアすることでやっとプレイすることができる裏ルートの中で、スコットが真の裏ボスだったことが明らかになるんす」


 目を点のようにして呆然とするベリンダをよそに、ヤンスはうっとりとした表情で言葉を続けた。


「いや~マジで凄かったっすね~。初めてプレイした時には、ウチもめちゃくちゃ驚いたっす。特にスコット推しでゲームを始めた人たちなんかは、もうネット上で阿鼻叫喚の嵐。出もそれを乗り越えてアリソンとの絆を改めて紡いでいくラストはとっても感動的で……めっちゃくちゃ泣けるんすよね~」

「そいつは結構だがよお……!」


 ベリンダは頭痛でもするみたいに額に手を当てながら、ジロリとヤンスを見やる。


「……なんで、そんな大事なことを、オレに言ってなかったんだよ?」


 真のラスボスであり黒魔法の使い手となる人物は、ローザリヤではなく、スコット。

 その情報がベリンダの手元にあれば、今日の旧校舎での立ち回りも、もう少し楽になっていたかもしれないのに。


 ベリンダがそのことを問うと、途端にヤンスは気まずげに視線を逸らしてしまった。

 それでもベリンダがジッとしつこく見つめていると……。


「……ね」

「ね?」

「……ネタバレになるかなぁ~……と、思いましてぇ…………」


 ……。


 ぷっちん。


()ううううううとる場合かああああああああああああああああ!!!!!!」

「ヒ~~~~~~~~~ン! ごめんなさいっす~~~~~~~~~!!」


 ベリンダに首根っこを引っ捕まえられたヤンスは、苦しげにもがきながら首を左右に振る。

 が、絶対的な体格差の前に、ヤンスは首を絞められるがままだった。


「テメエこの! 今度という今度は許さねえ! 油淋鶏にしてやる!」

「やめてっすう! 甘辛いタレをかけないでえ!」


 とはいうものの、こればっかりは、情報を伝えていなかった自分が悪かったと反省しているのだろう。

 ヤンスはクリッとした瞳に涙を浮かべながら、ベリンダの手の中でうなだれた。


「申し訳ないっす……。姉御は命が掛かってるんすから、出し渋りするべきじゃないとは思ったんすけど……」

「おう」

「オタクとしての矜持が、簡単にネタバレをすることを許さず……!」

「よだれ鶏がいいか?」

「自分が食べられるとして、“よだれ”って名前の料理にはされたくないっすねえ……」


 しかしベリンダの命が実際に脅かされてしまったことで、ヤンスも猛省はしているらしい。

 どうにか謝り倒して解放された彼女は、机の上で深々と土下座をしてみせた。


「ホントはもう少しシナリオが進んだら、姉御にも言うつもりだったんす……。でも、姉御が黒魔法の使い手をスコットと看破したのが、思ったより早かったみたいで。この世界の出来事も、ゲームのシナリオ通り進むものだろうと甘く考えてた、ウチが全面的に悪いっす」

「ん……」


 確かに、ベリンダと違って、ヤンスはこの世界で起きる出来事をより明確に把握している。

 となれば、彼女の身に実際に災いが降りかかるのはもう少し先のことだ……と、悠長に構えてしまった気持ちも、分からないではなかった。


 ベリンダは深くため息をつくと、ヤンスの頭を、ぺん、と軽く叩く。

 ヤンスは「あでっ」と情け無い悲鳴を漏らして、ふたりの間ではこの一件はこれでチャラ、ということになった。


 舎弟のやらかしを、必要以上に引きずらない。

 不肖の舎弟であるヤンスにとって、さっぱりとした性格のベリンダは、これ以上無く良い姉貴分であった。


「でも、まあ、なんだ」


 と、ベリンダ。

 彼女は椅子の背もたれに背中を預けてギシッと音を鳴らしながら、ヤンスに言った。


「色々あったし大変だったけどよ。それでも、これにて一件落着ってことだろ?」

「ん? なにがっすか?」


 机の上でヤンスが聞き返すのに、ベリンダは「察し悪りーなー」と唇を尖らせる。

 彼女は椅子の前脚二本を持ち上げ、後ろ脚二本だけで体重を支えるように椅子を揺らしながら、ヤンスに向かって言った。


「黒魔法の使い手で物語の裏ボスとなるスコットは、オレがぶっ飛ばした。見たところ思ったよりは元気そうではあったけど……ローザリヤとの仲も直ったみたいだし、そうなりゃ必要以上にオレやアリソンに黒魔法でちょっかい出してくることもねーだろ。違うか?」

「それはそうだと思うっす。スコットの目的は、あくまで無能の婚約者であるローザリヤを失脚させ、新たな婚約者を手に入れること。そのローザリヤのことを見直した今となっては、彼がこれ以上何かをしてくる可能性は無いと思うっす」

「だろ? だったら……」

「でも……姉御はまだ、スコットルートのバッドエンドを回避しただけっすよね?」

「………………は?」


 ヤンスの言葉に、椅子をゆらゆら揺らしていたベリンダは、頬をヒクつかせる。

 それに対し、ヤンスは首を傾けながら、さも当たり前のことのように言うのであった。


「『愛は魔法の奇跡』はマルチエンディングの乙女ゲーっすよ。攻略対象の男の子だってスコットだけじゃないし、当然彼らの分だけシナリオは存在するっす」

「は…………」

「そしてスコットを巡るストーリーではローザリヤは何も悪事を働かずに済んだっすけど……他の攻略対象のストーリーでは、また何かやらかす可能性があるわけっす」

「ま…………」

「というわけで……姉御がローザリヤの失墜に巻き込まれず無事に生き残るためには、他の攻略対象の子たちのストーリーも乗り越えていかないといけないという……って、聞いてるっすか? 姉御?」

「や…………」

「……破魔矢?」


 正月の縁起物として飾られる弓矢の名称を謎に口にしたベリンダは、しばらく呆けたように中空を見つめたかと思うと。


「……じゃあ、まだ何にも終わってねーってこと?」

「そーっすね」

「ローザリヤは、また何かやらかすかもしんねーってこと?」

「そーっすね」

「こんなのが、攻略対象の男子の人数分、あるってこと?」

「そーっすね」

「…………」

「姉御?」


 ベリンダは。

 ぐらぐらと揺らしていた椅子をピタリと止めたかと思うと。


「……勘弁してくれ!」


 そう大きく叫んだと同時、バランスを崩した椅子が大きな音を立てて倒れてしまった。

 物音を聞きつけたメイドさんが「お嬢様!」と部屋に駆け込んでくると、そこにはすっかり茫然自失で天井を見上げたまま御令嬢がぶっ倒れている。


「お嬢様!? いかがなされましたか! お嬢様! ベリンダお嬢様ぁーーーーーーーっ!」

「ピーーーーーヒョロロロロロロォオ~~~~~~~っ」


 メイドさんの悲鳴が部屋に響き渡る中、ヤンスがのんきにトンビみたいに鳴いている。


 そんな混迷極まる状況の中、ベリンダはゆっくりと目を閉じた。

 次に目を覚ました時に、あの心地よい風を感じるバイクの上に戻っていたら、どれだけ幸せだろう。


 そう願う彼女の思いは聞き届けられず。

 元不良少女のベリンダという女の子は、次なる乙女ゲームの物語の試練へと、挑戦を余儀なくされていくことになるのだった……。

これにて完結となります!

最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました!


今後の執筆に励みになりますので、ブックマークの登録、評価など、ぜひぜひよろしくお願いいたします!!

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