兄上たちの進捗確認を行いました
少し短めです。
「そういえば、クロガナの件はどうなっているのです?」
夕食後の茶を啜りながらそう尋ねると、アレックスは渋い顔をしてみせた。どうやらあまり進展はないらしい。
「今後、役に立てられそうな情報が集まっていない……もしかすると山奥に引っ込んでずっとそのまま人里に現れない可能性すらある」
「そうだといいのですけども」
「そんなに上手く事は運びやしない。マグの悪巧みとは違うのだから」
またこの兄は私のことを悪い人間のように扱って。一歩間違えればエリウスの正義感に引っかかってしまいそうなこともしている手前、悪者ではないと堂々と胸を張っては言えないが。
──そもそもエリウスも正義を履き違えているところがあることに関しては割愛する。
ここ最近は、偵察任務にあたる兵たちの任務地をより奥深くへとするべきか否かで揉めていたらしい。森が深くなればなるほど、危険な魔物との遭遇率が高くなる。が、今まで人の手が入っていなかった分、そこに伝説上のドラゴンを思わせるようなクロガナが潜んでいるのかもしれない。クロガナの居場所を発見し、今後の動向さえ推測できれば、あとはそれに沿った対策を練るだけなのだが……。
「森の奥には本当に危険な魔物が多いからな。私とエリウスが行かねばならないとは思うのだが、二人とも砦を離れることだけは避けたい。だからと言って一人だけで対処するのも難しい」
「アレックス殿。俺は別に一人でも……」
「エリウスのことは信頼している。しかし万が一の事態が発生したらどうする? 一番の実力者であるエリウスが倒れたら、誰がその場を切り抜けると言うのだ」
……と、このような調子で今後の対策が決まらないのだという。これがただの偵察ならばアレックスもエリウスも出張る必要はないのだが、如何せん相手は常に魔物と競り合ってきたフォーレイン家の歴史にさえもほとんど交戦記録のない魔物なのだ。迂闊な行動はできなかった。
「引き続き、現状の偵察範囲を兵には見回らせる。そこから範囲を広げるのは今のところはなしだ」
「……マグノリア殿の方は着々と事が進んでいるというのに、こちらはほぼ進捗がないのが申し訳なく思う」
「いえ、仕方のないことです。こちらは接触のしやすい人間相手で、兄上とエリウスの方は接触さえも難しい魔物相手ですので」
申し訳なさそうに項垂れるエリウス。そしてお決まりのように彼の肩をポンポンと叩くアレックス。最早これが一連の流れのようになってきたように思える。
また紅茶をずず、と飲みながら考えた。
そう遠くないうちにフォーレイン領にサーシャ=ワークトが来る。場合によってはキース王子もくっついてくるかもしれない。クロガナが出てくることなく、かつ魔物たちも大人しければアレックスもエリウスも、キース王子の相手をできるだろう。ヤトラ一人でもキース王子をどうにかできそうだとは思うが、念には念を押したいと思うのは心配性の性だ。
ふと、最悪の展開を予想する。
キース王子が来て揉めに揉めている最中に、突然クロガナがフォーレイン領に迫ってくる、というものだ。
流石にそれはないと信じたい。信じたいが、可能性は否定できない。
──そうならなければいいのだけど。
口に出してしまえば現実となってしまう気がした。嫌な汗を伝う背中はそのままに、私は何故か無性に渇きを訴える喉に茶の残りを流し込んだ。
次回更新は7月13日20時となります。




