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2-2 門の前で

 やがて二人の歩みが止まり、二人の前に巨大な門が現れた。


 材質は魔導鉄。鉄に魔法を組み込んだ特殊金属で、炎の魔力を内包させる事で溶けない程度に熱を保つように設計されている。そのお陰で、雪国であるこのジャンベールでも問題なく運用出来るようになっている。


 それは、二人にとっては天の恵にも思えるような暖かさであった。


「ぬくもるー」


「いやー助かるねえー」


 門に手をかざし温まる二人。目がとろんと蕩け、何処か遠くを見つめている。とかく凍える直前であった二人である、少しの間ゆっくりと暖をとる事にした。


「なにしとる」


 それを咎めたのは、柔らかな羽毛が着いた重そうな鎧に身を包んだジャンベールの兵士であった。鎧に刻まれたジャンベールの、槍二本が交錯した紋章がそれを示している。そもそも兵士がこの場にいる時点で、それはジャンベールの兵士だろうというのは、アクトは勿論、考えがちょっとだけ足りないと言われているシーリアにさえ理解出来た。


「あ、ちょっと待ってください。さっきから旅で冷え冷えしていたもので」


「旅しているにしては随分と軽装ではないか?」


「そうだそうだ。片方は鎧だが、寒冷地用の装飾も無い。本当に旅人なのか?怪しい……ぞ……」


 もう一人の兵士が同じような重々しく暖かそうな服装で出てきたが、シーリアの顔を見て、その暖かさが一瞬で何処かに消え失せたように、その顔が凍りついた。


「ごごごごごごごごごごご」


「ご?」


「ゴリラだ!!」


「なっ……なぁっ!?」


 兵士がシーリアの顔を指さして叫び、シーリアがそれを聞いて怒鳴った。


「い、いや!!ゴリラではないけれど!!ゴリラというか!!なぁお前!!」


「おいおい、いくら怪しいと言ってもしつれ……ゴリラだ!!」


「な!?ゴリラだろ!?あの伝説のゴリラだ!!実在したんだ!!すげぇ!!」


「あのさぁ!?」


 シーリアが怒髪天で鬼のような形相になったところで、アクトは気付いた。二人の兵士の視線が、鎧に施されている意匠ーー拳とライオンを組み合わせたナクールの国章と、騎士団長である事を示す金の装飾ーーに注がれている事に。


「ああ、貴方達はあれか、シーリアの事を知っているのか」


「え、ええ。噂に聞いた事があるんです。伝説の最強ゴリラ騎士。剣を振るえば魔物を真っ二つに切り裂き、ともすれば剣が砕ける」


「魔物を殴れば山々を打ち抜き、空の星へと変える、最強のゴリラ」


「まさかこんな細身で人間らしい人間だったとは。もっと筋骨隆々で、そもそも女ではなく男だとばかり」


「いやよく見ろよ。あの胸とか太腿とか結構むちむちしてーー」


 兵士達はそこまで言葉を紡いで、そして気付いた。目の前のゴリラが、その重ねられた侮辱に怒りを覚えている事に。


「…………むちむちしてなんですって?」


「……いえ、その」


「失礼致しました……」


 二人の兵士は頭を下げて彼女から視線を逸らした。


 アクトはそれを見て、彼らの今後の無事を祈念するとともに、今のところここまで国外追放の情報は届いていない事に安堵していた。今の会話からして、少なくともシーリアが追放された事は分かっていないらしい。


 この世界の情報網は実の所狭い。通信魔法などは作られているが、それはあくまで知っている者同士が会話するためだけに使用される。国外との連絡は未だ郵便が主流であった。それは魔法を使えば攻撃魔法すら相手国に届けられる可能性があるという事が原因である。利便性を上げればそれだけ危険も増える。そのため、国と国同士のやり取りは禁止するよう、各国は独自の結界を張る事でそれを成している。


「あー、本題に入りましょう、我々はーー」


「ワタシはシーリア・ガードナー。ナクール王国の騎士団長です。()()()()()()。今回はとある事情により、ニール皇帝陛下との謁見を賜りたく参りました」


 シーリアは先程まで滲ませていた怒りを抑えながら言った。が、ご存知の通り、の部分には若干の怒気が込められていた。それでも礼儀正しくお辞儀をすると、兵士達が調子を戻し始めた。


「火急の用で、大変重要な事項を直接お伝えしたい次第です」


 兵士達は顔を見合わせる。間違いなくこの女はナクール王国の騎士団長だ。だが火急の用とは?皇帝陛下と直接会って何をしようというのか?


「む、むーん。……そこの男は?」


「これはその用事に関係する者です。今はそこまでしか申す事が出来ません」


「それを信じろと?」


「はい。信じない場合、ジャンベール帝国にも危機が及びかねません。それをアナタの責任として良いのであれば、別に構いません」


 半ば脅しのようなその一言に、少し苛立ちを覚えながらも、下手に扱えばどうなるかは、あの伝説が本当だとすればーー大凡察する事が出来た。兵士達は目配せをすると、二人居た内の片方が門の中へと引っ込んだ。


「少し、お待ちください」


 そういうともう一人の兵士は槍を納め、近くの小屋から毛布を持ってきてアクト達に渡した。


 数分後、門を潜り城へ来いという指示が来るまで、二人はしばしの休息とあいなったのであった。

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