1-5 正体
高い知性がある魔物に限るが、魔物は魔法を使う。魔法を使えば姿を変える事が出来る。そうやって一部の魔物は、人間の社会に紛れ込み、密かに人を食らう、或いは人を惑わす、そんな事をしている。
「な、な!?」
兵士達が唖然となった。その魔物が今まさに目の前にいるのだ。
結果、アクトやシーリアを抑え込む腕から力が抜けた。
「賭けではあったけれど……まさか本当に魔物だとは思わなかった。そしてなんと、まあ」
アクトがその拘束を振り解きながら立ち上がり言った。
「見覚えのある顔に出会うとも思わなかったよ」
「……やってくれたね」
エレアが憎しみを込めた声で言った。今までの声色とは違う。少し声色が低く、殺意の篭った声であった。
「あの時殺せなかった小僧が、随分と面倒な事をしてくれるね?」
怒りが篭った目でエレアだった悪魔、魔人はアクトを睨みつけた。
「え?え?あ?」
シーリアが状況を理解出来ず混乱している。
「ななななな?なんで王女様が!?」
デュマが腰を抜かしている。
兵士達は一斉に槍をエレアに向けているが、どうすればいいのか困惑して、そのまま行動に移す事はなかった。
「状況を整理しよう。王女は魔人だった。そして、僕達が捕らえられたのは王女の手引きだ。あの部屋は魔法で隠してあった。それが解除出来るのは、魔法をちゃんと使いこなせる人間だけだ。だがあの場に居る人間は魔法が使えるようには見えなかった。ただ、一人だけ、その辺りが未知数の人間が居るね?」
シーリアはそれがエレアの事を指している事を理解した。
「未鑑定品が発生する要因としては、二匹以上の魔物が居る場合が考えられる。玉座の間でそれが起きたと言う事は、そこに二匹の魔物が居るという事だ。玉座の間に一番滞在する人間は誰か。王と王妃。そして王女。この国の王妃様は残念ながら先立たれている。という事は、王と王女になる。」
アクトはエレアだった魔人を睨んで言った。
「つまり王女も魔物である可能性が高い。そういう事で薬をぶっかけてみたわけだが、まさかね」
「おめでとう。賭けは当たりだ」
エレアだった魔人がパチパチと手を叩きながら言った。
「そしてーーシーリア。覚えていないのかい?かつてサリーク村が滅ぼされた時に居た魔人の顔を」
シーリアはその言葉を聞いてハッとなった。
エレアだった魔人の顔を見ると、確かにその顔には見覚えがあった。
「ああああああああああああああ!!」
サリーク村はかつて普通の平凡な村であった。
だがある日、魔物の侵攻により滅ぼされた。
正確には、魔物が内部から発生し、突然阿鼻叫喚に陥れられ、そして滅びた。
何故内部から発生したのか。
アクトとシーリアはその理由となる一部始終を目撃していた。
エレアだった魔人が、村人を魔物に変える、その姿を。
「あの時取り逃した連中がまさかここにいるとは思わなかったよ。あのボロ小屋で見かけた時吹き出すかと思った」
ボロ小屋、というのが、アクトの家である事を彼は悟った。
「取り逃した?アンタが逃げたんじゃないの」
シーリアが睨みつけながら言った。
「……まぁ。その、ハイオークを真っ二つに引き裂く奴を見たら逃げるよね、それにアレもあったし」
魔人を目撃したアクトとシーリアに対し、魔人は口封じのためハイオークを差し向けた。
その時二人が助かったのは、ズタズタにシーリアが叩きのめした事と、ある事に対し恐怖した魔人が、魔法で逃げ出したという経緯があった。
「人を化け物みたいに……!!」
「いや君は化け物の範疇に入れていいと思うんだ」
「うっさいわよアクト!!」
「ともかくだ。何故君がここにいるのか、王女様はどうしたのか聞いてもいいかな」
シーリアを無視しながらアクトが言うと、悪魔はほくそ笑んだ。
「まずは君と呼ぶのをやめてほしいね」
そして指をパチンと弾くと、天井からハルバードで武装したリザードマンが飛び降りて来た。
数は十や二十では足りない程である。それらは兵士とデュマ、そしてシーリアとアクトを取り囲むと、兵士達を突き刺し、殺した。
「げ」
「ぐ」
「ぶえ」
「がは」
一瞬の出来事であった。玉座の間は真っ赤に染まった。
「私はレヴェル。魔人レヴェル。レヴェル様と呼んで欲しいね。……しかし、まったく、君が気づかなければ彼らは死ぬ事はなかったのにねぇ」
レヴェルはニマニマと笑みを浮かべながらアクトを見た。
「君が殺したのを他人のせいにするのはいかがかと思うね」
リザードマンはザッと持っているハルバードを振るい、刺さっていた兵士達を壁に投げ捨てると、アクトやシーリア、デュマにそれを向けた。
「その優男は殺さないでおいてくれ。利用価値がある。だがその二人はーー」
レヴェルはデュマの方を向いて、それからアクトとシーリアの方を見た。
「殺せ」
言うとリザードマン達は一斉に槍を突き出した。
シーリアはそれをむんずと掴むと、力を込めてバキッという音と共にそれを砕いた。そして、
「騎士団長を舐めるなぁっ!!」
叫ぶと目の前にいたリザードマンの顔面に拳をぶつけた。
グチャッ、という音ともにその肉体は吹き飛び、後方のリザードマンの肉体にぶつかり、そしてバチュッという音と共に弾けた。
「 」
唖然とするレヴェル。
「あ、相変わらずのゴリラというか……もうゴリラに失礼だろその暴力」
「全くだね」
アクトは槍の合間を見極めてそれを躱すと、レヴェルの足元に垂れていた、彼が彼女に掛けた青い液体に、自らの指を当てた。
「何を……あっ」
レヴェルの青い顔が更に青ざめた。
「理解出来たか。でも遅い。全ては君の蒔いた種だ」
アクトは勝ち誇ったような顔を見せると、彼の体が巨大になり、そして、
「グゥルァァァァァァァ!!!!!!!!!」
アクトだったそれは巨大なドラゴンへと姿を変え、狭い室内に響き渡る巨大な咆哮を上げた。
玉座の間がその轟音で激しく揺れた。




