1-4 玉座の間の簡易裁判
「ご苦労」
兵士達が引き連れて来た罪人ーーアクトとシーリアを前に、玉座に腰掛けた男が言った。髭を携えた威厳のあるこの男が、ナクール王国の国王ブライ・ナクールである事を、アクトは知っていた。
「さて、デュマ。儂の前に連れて来た此奴らの罪状は何か」
「はっ。国王陛下。二人は王女エレア様を拉致し、監禁し、そして国家転覆の計画を立てていた逆賊になります」
「なっ……」
シーリアが、いつの間にか重くなったその罪状を聞いてムッとした顔になった。誰が逆賊かと反論したいのがアクトにはよくわかった。
「よろしい。では判決を下す」
ナクール国に裁判というものは、少なくともアクトが前世で知っている形式の物は無い。小さい事件は現場で適当に処理される。そして、大きな罪、即ち国家に仇なす行為に関してのみ、その場で"処分"されるか、国王が裁判という名の処分を行う。
「この者達は死刑に処す。日取りは明日。良いな」
「はっ」
満足気にデュマが頷くと、
「何を言うかこの……!!」
シーリアは怒りに任せて思わず立ち上がろうとした。それを彼女の後ろに控えた四人の兵士が必死に押し留めた。
「やめろ立つな!!」
「押さえつけろ!!」
「ダメだ、強すぎる!!」
「なんとか踏ん張れ!!」
兵士達は必死に押さえつけているが、ゴリラの如き剛力でもってシーリアはそれと拮抗する。
「アンタらアタシをなんだと思ってるのよ!!」
「「「「ゴリラ以上の化け物です」」」」
シーリアが怒りの形相で訴えるが、その場に居る兵士全員がそう言った。
この女が実際のところ野生のゴリラより凶暴だと言う事は、兵士や騎士の間では周知の事実であった。
若くしてシーリアが騎士団長になったのは、それだけの実績と実力があるからである。
彼女はかつて、ハイオークと呼ばれるオークの中でも上位種に当たる、身の丈2mはあろうというなかなかの体型、そして人を素手で引き裂く程の剛力を持った魔物がこのクローヴェルに攻め入った時、武器を忘れて立ち向かい、素手で逆に引き裂いたという伝説がある。
実際は魔法で強化した小手を装備していたからこそ出来たのだが、その時の鮮烈さ、そしてそれが出来てもおかしくないほどの普段の実績から、完全に自力で行ったものとして受け取られてしまった。結果、兵士達の中では「今の騎士団長は魔法で姿を変えたゴリラ」という噂が流れる事となった。シーリアは知らないが、それは他国にも伝わっている。
「鎮まれ。鎮まらぬとこの場で死刑に処すぞ」
王が言うと、吹っ切れたのか、シーリアが吐き捨てるように言った。
「はっ、魔物の偽物が、何を偉そうに」
その言葉に、国王ブライの目が一瞬泳ぎ、ある方向を見た。すぐにその目はシーリアに向き直ったが、その瞬間をアクトは見逃さなかった。
「何をバカな事を。連れて行け」
立ち上がらされるアクトは今見た光景を思い出す。
彼は確かに、一瞬だけだが、シーリアの横に居た王女エレアの方を見ていた。
何故見る必要がある?今の一言で王女を確認する必要がどこにある?
そんな疑問がアクトの中で渦巻き、そしてここに来るまでの間に抱いていた疑問と結びついた。
「王女殿下」
兵士達に運ばれかけていたアクトが言った。
「はい?」
エレアは思わず応えた。
「失礼」
そう言うと彼は、兵士に連行される前に持って来ていた青い液体を懐から取り出し、エレアにかけた。
「きゃっ」
「貴様何……を……?」
兵士達が一斉にアクトを押し付けようとした。その時、彼らの目に、エレアの姿が映って、動きが止まった。
エレアの姿が徐々に変わっていく。ぐにょぐにょと、まるで粘土を捏ねるかのように。
「それは僕の作った薬。失敗作さ。本来ならば人間に戻す薬として作ったんだけどね。残念ながらそれは別の効果を持ってしまった」
エレアの頭から角が生え、背中には翼が生えた。そして皮膚は薄橙から青へと変わっていく。
「魔法を解く薬ーー例えば、魔物に掛かった『人間変化』の魔法とかね」
エレアの姿は、一般的に悪魔と呼ばれるそれへと変わっていた。




