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2-D100-21 ウイング オブ ヒュブリス 1

ダニエル回。


 真っ暗闇の海の上。


 ダニエルの船団『ウイング オブ ヒュブリス』の者達は誰もが虚脱していた。


 拘束していたあの副官が脱走してヘルザーツの憲兵に告発したのを受けて、上陸していたダニエルや二隻のガレオンの乗組員が拘束されたのが約一時間前。


 そしてその混乱の中、突然王城が熱で溶解し消失。


 慌てた憲兵がダニエルの相手をするのをやめて、全員何処かへ行ってしまったのが約30分前。


 つい今しがた、船団の乗組員はほぼ全員が無事船団に戻り、夜間ではあったが緊急事態とあって帆を揚げ錨を上げた。


 まだ物資は半分しか積み終えていなかったが、それでも幸い食料品と水だけはある程度積み終えていた。


 それにしても、何も見えないので不明ではあるが、街は非常に騒々しかった。

 まるで戦闘が起こっているかのようだ。


 運の良い事に、良い風が吹いており、それでいて波も大人しい。


 もしヘルザーツの海軍が追っかけてきたところで、船団は二隻だけだが全く受け付けない程の戦闘力を持っている。

 さっきのように陸上でならともかく、海の上でなら全く脅威を感じるものではなかった。


 船足がついた。

 ダニエルは、陸上での騒ぎの事を、


(事前の知らせは無かったが、きっと、マリヴェラ様が何かしたのであろう)


 そう考えていた。


 船団が湾から抜けると、人魚族の姉妹が海中から顔を出した。

 二人がリヴェンジ号に声をかけたので、ダニエルはそれに気づいて暗い海面を見下ろした。


「船長! 一体どうしたの? マリさんは?」


 この「がなり声」は姉の沙織の方だろう。

 ダニエルも声を張って答えた。


「分からん! ワシらも陸で捕まりかけたのだがな。逃げてきた。マリヴェラ様とはコンタクトしておらんが、あの方なら大丈夫だろう」


 急遽見張り台に登っていた乗組員が叫んだ。


「おーい甲板! 空を見ろ!」


 聞いた全員が星の瞬く空を見上げた。

 一つだけ、妙に明るく赤い星がある。

 その星は徐々に大きくなり、やがて燃える翼を持つ女の姿となった。


(マリヴェラ様ではないか? しかし、何故こうも今は禍々しく見えるのだ?)


 ダニエルの背中に冷たいものが走った。


 それは言うまでもなく、あのロンドールの太守だった。

 ふわりふわりと心もとなげに宙を舞い、やがてリヴェンジ号の後部甲板に降りた。

 その頃には縄梯子で船に登っていた姉妹の姿もあった。


「マリさん!」


「マリ様、大丈夫ですか?」


 マリヴェラは答えず、がっくりと膝を床について突っ伏して震えている。

 そんな彼の姿は、まるで全身が僅かに赤く燃えているかのように光を発していた。

 実際に熱を持っていないのは、床も焦げず、その背中をさすっている香織が熱がらない事からも明らかだ。


 ダニエルがずっと苦々しく思っていた不遜な態度はもうかけらもない。


 嗚咽。


 マリヴェラは嗚咽している。


 嗚咽しながら、何事かを香織に呟いた。

 ダニエルはそれを聞いて愕然とした。


「ゴメン……全員、人魚族も、全部殺しちまったよ……!」


 隣に居た沙織もそれを聞いたのだろう。


「嘘……」


 とつぶやきながら、両手で口を押えた。


 赤く煌めいている神族を見下ろしながら、ダニエルは途方に暮れたのであった。



オッサン回なので短いんです。

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