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2-D100-20 船の神7 フロール

ムーア王の要求を聞かずに立ち去った『船の神』マリヴェラ。

マグヘイレンの郊外にて、ユキの母、フロールの行方を探すマリヴェラだったが……。

耳にする『炎の鬼神』の奇妙な噂。

そして、マリヴェラに近寄る影の正体は一体?


 祥州から南下すると、直ぐにマグヘイレンとの国境となる。

 国境を超えると、木々が増えた。

 湿地と針葉樹の森林が交互に現れる。


 馬車一台しか走れないような道を、どこまでも進む。


 もし関所が有っても、そこは通らない。

 面倒なので迂回だ。


 魔獣や魔物を追い払いつつ、俺たちは走る。


 なだらかな山脈を一つ越え、また平野へ。

 平野のど真ん中を、大きな川が貫いている。

 この川沿いを下り、河口まで行き着くと、マグヘイレンの首都なのである。


 歩くにつれ、村が増え、畑が多くなった。

 遂に、立て看板が現れた。


「首都マグヘイレンまであと30キロメートル」


 しかし取り合えず、首都へは直ぐに入らない。


 郊外の街で情報収集だ。


 ただ、ユキの事よりも、街は鬼神『ナカムラ』の噂で持ち切りだ。

 噂だけではなく、既に海沿いの街から避難している人たちが、この街に到着していた。


「全長50メートル」


「口から怪光線」


「目からビーム」


「『悪い子はいねがぁ』って言いながら街を焼いた」


 ……いや、ナンなんだよそれw

 怪光線やらビームはソソラレルものがあるけどさ。


 ちょっとオサレなカフェを見つけてコーヒーを啜りつつ、ため息をした。


 どうやら噂は当てにならないねえ。

 でもどの道、もう一人の俺を何とかするなら、一旦海沿いに出なければならんだろうな。


 ま、脅威が増すでもない限り、先ずはユキ救出だ。

 お、胸囲が増す事が無いクーコが戻って来た。


 ガン!


「いや、クーコさんいきなりナンですか? グーパンチとか……」


「え? だってアタシの悪口思い浮かべてたでしょ」


「もう、一体どんな『言霊』とかスキルとかお持ちなんですか」


「やっぱり」


 ゲシゲシ。

 止めて。お尻蹴らないで。


「で、聞き込みはどうだった?(キリッ)」


「うーん。偽マリさんの話で持ち切り。どうも単独で行動しているのではなく、幾つかの船と海棲魔獣を従えてるんじゃないかって」


「船と魔獣? 変な組み合わせ」


「噂よ。噂。それで、そろそろマグヘイレンの南端を突破しそうだって。もっとも、ここから1000キロメートル以上離れてるけど」


「ふうん。この国、広いらしいからなあ。で、ユキ関連は?」


「うん、ユキ様が連れてこられた当初は色々噂が出回っていたみたいだけど、最近は大した事が無いみたい」


「そっか。なあクーコ」


「何?」


「もしユキを救出するにあたって、大量の犠牲者が出るってなったらどうする?」


 クーコは首を傾げた。

 特に感情を表さずに言った。


「アタシはどんな手段を使っても助け出したいわ」


 彼女にとっては、失った物を取り戻す戦いだもんな。

 それは俺だってそうだ。


「俺もだ」


「もちろん、死ぬ人が居ないに越したことは無いけど」


「まあね」


 俺たちがこの街に来たのは、フロールに会う手段が一つ、この街に有るからだった。

 それは、ある酒場のマスターに伝言を頼む。

 ただそれだけなんだけれどな。


 実行したら、早速監視がついた。

 このコーヒーショップの通りを隔ててずっと向こうの物陰。


 問題は、ここが敵地だと言う事だ。

 教えてもらった伝達手段は、既に当局に知られているかもしれない。

 あの監視がフロールの配下では無い事が十分ありうるのだ。

 勿論、フロール側でも逆の事が言えるので、何も警戒せずに相手に接触することはあり得ない。


「ねえ、クーコさん。スパイ小説ってお好き?」


「? いいえ、全然」


 少なくともクーコは使い物にならん。


「俺、ちょっと散歩するんで、魔王様の所で待ってて頂戴」


「ん、わかったわ」


 2人とも、真面目な時とおふざけしている時との区切りはしっかりつけているつもりだ。


「晩御飯までには戻ってよね」


「ああ」


 クーコが去った。

 監視は動かない。

 カップのコーヒーを飲み干し、立ち上がった。

 店員に声を掛け、お代を机に置く。


 マグヘイレン首都の建物は、漆喰で表面を白く塗ってあるのだそうだ。それはここでもそう。

 まるでどこか南欧の避暑地を思わせる。

 祥州には高層ビルがあったが、少なくともこの街にはそれは無い。

 殆どが二階建てまでで、何処か素朴な雰囲気を漂わせている。

 少しして、建物が雑然としている地域へと歩み入った。


 そして、不意に狭い路地へと入り込んだ。


 ま、なんていうか、尾行と言うやつは人間かそれに類する種族にだけできるもんナンでね。

 歩きながら気取られずに後ろを見られる神族なんてのには特にな。

 俺、後頭部に目ん玉作れるんだもんね。


 俺は建物の屋根に飛びあがり、屋根伝いに少し引き返した。


 後をつけていたのは、犬系の獣人2人。


「……臭いが途切れた」


「足音も聞こえなくなったぞ」


 と、うろたえている。

 そりゃまそうだ。

 普段は無臭の俺がコーヒーの臭いをさせていたのはわざとだし、足音立ててたのもそうだ。


「仕方がない。戻るか」


「そうだな。報告しておこう」


 2人は引き返し始めた。今度は俺が尾行する番だ。

 俺はここで「2人をさらに尾行している存在」を探したが、発見できなかった。

 二重尾行は無し。ならば面倒がなくて良い。

 2人は普段からそういう活動をしているのか、自らも尾行がいないかを確認し、時には不規則な動きもしていた。

 それでも、時には水、時には風と化している俺の事は気づけない。


 反則だもんな。


 でも、こっちの世界じゃ良くある事だったりする。

 そういう凝った演出のあるシナリオは、好き者じゃないと受けないんだけれどね。


 2人は別れ、俺はその内一方を追った。

 こちらの方が指示役だという感じがしたからだ。

 そして、彼は街を囲む城壁沿いに建っていた建物へと入っていった。


 どうも寺院のようだ。

 看板がある。

 物陰から見つめる。


 ええと……「ひんぬー」教? ……寺院?


 ……ええ?


 「ひんぬー」?


 目をこすって何度読んでもそう書いてある。


 ……ええ?


 「ひんぬー」ってあの「ひんぬー」か?

 いや、そりゃ、俺も大好きだけれど?

 ひんぬー教の寺院って事か???


 ……ええ?


「マリヴェラ君!」


 惑乱している中、突然耳元で大きな声がして肩をポーンと叩かれた。


「うへぁ!!」


 心臓が口から飛び出かけた。

 中腰だった俺はその場にへたり込んだ。


「なななな」


 気配も何も無かったのだ。

 俺が気付かないなんて……。


 振り返ると、ニコニコのユキがいた。

 高位の聖職者が着るような装飾の入ったチュニックを着込み、銀色に輝く髪の毛を風になびかせ、同じく銀色に輝く体毛の美しい尻尾を嬉しそうにパタパタさせながら。


 ん?

 銀色?

 ユキの毛色は頭から尻尾の先まで黒だ。


 それに、微妙に顔も違う。


「やっぱりそうね。知らせが来たわ。ユキを探しに来てくれたんだってね。私はフロール。驚かせてゴメンね」


 と、フロールは俺に手を差し伸べた。



――――



「いやー、だって隙だらけだったんだもの。マリ君、それらしき動きしてたけど、所詮シロートだもん。こちとら諜報は場数踏んでるもん。ほぼプロよプロ」


 カラカラとフロールは笑う。


「はあ、すみません」


 どうやら、俺はいい気になっていただけだった。

 しょうがないよな。

 脳みそフナ虫級だもん。


「でも嬉しくて。お父さんに止められたのを振り切って来たんですってね」


「ええ、まあ」


「それで?」


「はい?」


「ユキとはどこまで進んでたの??」


 いつの間にか、俺は心理的拷問を受けていた。

 あのひんぬー教の寺院の中でだ。

 フロールはここで指導的立場にいるらしい。

 確かに、目の前にいるフロールの胸部は、ユキとタメを張れるくらい貧しく……。

 フロールの手が伸びた。


「大事な質問してる時に考え事とは中々のタマよね?」


「いたいいたいです耳たぶ痛いです」


「まあいいわ。後でゆっくり聞かせてもらいましょう。でも、魔王様まで連れて来るとはね。マリ君大物じゃない」


「ええ、ちょっとこちらに用があったそうですので。俺、足替わりなんで」


「へえ。そうなんだ」


 俺は居住まいをただした。


「それで、ユキは無事なんですか?」


「うーん。死んではいないわ。それは間違いないの」


「略奪婚って聞きましたが」


「そうね。当初は単に祥州に対する人質とする目的で誘拐したらしいけど、大統領の長男坊が見染めちゃったみたいで」


「辛い思いしてんだろうな」


 と、俺は両手を握りしめた。


「ユキの居場所はどこです?」


「うん。それが、マグヘイレンの旧王宮なの。

 昔天使族の王族が住んでいた所で、

 ちょっとした要塞にもなってるわ。

 最高級の結界を使っているし、流石の私も、

 一人であそこに侵入してユキを連れ帰るのは無理」


「そうですか」


「君も無理はしないでね? 見た所、君レベルの力を持つ天使族は、10人を下らないから」


「はあ」


 俺は腕を組んだ。


 建物内部を見回すと、まるでキリスト教の小さな寺院のようだ。

 正面には磨かれた少女の銅像があり、無い胸を反らしている。


「ねえ、君も入信しない? ひんぬー教って言うんだけど」


「やっぱりそうなんですね……」


「言い伝えでは転生してきた乙者が開いた宗教らしいけど、

 素晴らしいと思わない? ひんぬーよひんぬー!

 デカパイなんて余分な脂肪、この世に要らないのよ!」


 ああ、まあ、そうでしょうなあ……。

 と、俺はフロールの胸元をちらと見た。

 フロールも俺の乳をちらと見た。


「ん? でも君、意外と乳あるじゃないの……生意気だわ」


「あ、ちょ、触らないでください」


「あらあ? 変な感触? 君、服着てないの? 私の手は誤魔化せないわよ?」


「そんな事は……あーん、誰か助けて~!」


 一時間後。


 結局、入信とお布施を条件に解放された。

 俺も今日からひんぬー教徒。

 うーれしーなー。


 俺、イルトゥリルに帰ったら立派な教会を立てるんだ……。


題名が前書きのネタバレしてるという指摘は受け付けません(:3>∠)


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