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海堂翔二の事件ノート~神奈川県警捜査一課の息子~  作者: ぽち
第六章 通り魔殺人事件
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第38章 通り魔

 今日は七月十九日。拓也の誕生日だ。

 テストが終わった為、十九日は午前中に授業が終わり、次の日の二十日には終業式、そして二十一日には念願の夏休みが待っている。

 十九日の午前中の授業が終わると、翔二たちは一斉に教室を抜け出し、寮へ帰っていった。

 「彩芽が手作りケーキ作ってくれているらしいぜ、タク!!」翔二が拓也へ言った。

 「本当?やったぁ!!彩芽ちゃんのケーキマジで美味いよ!!」拓也が嬉しそうに答えた。

 「そ、それからさ・・・、俺からのプレゼント、俺のバイトの先輩も選んでくれたんだ。

 今日呼んでいいか?ちょうどその人もバイト休みみたいだから。」翔二が頭を掻きながら言った。

 「もちろんだよ!!またお兄ちゃん増えるんだね!!」と、また拓也は嬉しそうな顔をした。

 「潤兄と旬兄はくるの?」左から連司が声をかけてきた。

 「うん、潤兄も旬兄も午前で講義終わるみたい!!二時過ぎに来るってさっきライン貰ったよ!!」

 「そっか・・・、つい最近あんなことがあったから心配してたんだけど・・・・元気そう?潤兄と旬兄。」翔二が訊いた。

 そう・・・、つい一週間前くらいに、潤と旬と同じ大学の法学部の学生が首だけの状態で見つかり、その犯人もまた同じ大学の生徒であった事が分かり、二人は少しショックを受けていたようだ。

 「車に轢かれた同じ大学の人は大丈夫なの?」

 翔二の恋人である、同じ寮の女子生徒、土方蛍が翔二に訊いた。

 「あぁ・・・、背骨にヒビが入っていたからまだ動くの難しいみたいだけど、意識ははっきりしていて、普通に話せるくらいまで回復したってよ。」と、翔二は答えた。

 「直兄、活躍したんでしょ?翔パパも。」拓也が嬉しそうな顔をして、翔二に翔二の父、慎太郎とその部下の丹波直樹の事を訊いてきた。

 「はぁ!?活躍!?誰が!?」

 「直兄、柔道と剣道すごい強いんでしょ?

 俺が誘拐された時は家に置いてあった玩具の拳銃でみんなのママに見事命中したし、この間も犯人を柔道の技で押さえつけたって、この間会った鑑識のお兄さん、琢磨兄に訊いたよ!!」

 翔二は思った。

 そうだ・・・、この間、拓也たちと一緒に神奈川県警に行って、鬼束と拓也たちは会ったのだ。

 拓也は早速、年上のお兄さんに懐いたようだ。

 ちなみに、この間は丹波が活躍した分、自分は犯人に突き飛ばされてしまったのを思い出し、翔二は顔を真っ赤にした。

 忘れようと頭を振るとふと、翔二の携帯が鳴った。相手は同じバイト先の先輩、花澤透だ。

 「もしもし、透!!どうした!?」

 『あ、翔?今日の拓也君の誕生日会少し遅れても大丈夫?同じ獣医学部の志望の子たちと課題やってから行くね?』

 「おう!!気を付けて来いよ!!」

 そう言って、翔二は電話を切った。

 「透、少し遅れるってよ。」

 「そっか、残念。獣医学部の人なの?」拓也が質問した。

 「今二年生なんだ。今年の秋に獣医学部に入るらしいぞ。昔から動物が好きなんだってよ。」と、翔二が透について説明した。

 「東京で一番難関のT大に入学しただけじゃなくって、獣医学部希望なんて頭良すぎだね!!俺らとなんて天と地の差じゃん!!」連司が言った。

 「そうだよね・・・、でも、俺達と同じ高校の出身でも潤兄と旬兄はT大の次に頭のいい大学のW大に入学したよ!!」と、拓也。

 拓也は潤と旬の事を本当の兄のように慕い、尊敬もしていた。

 それから、潤と旬だけではなく、翔二の父である海堂慎太郎とその部下である丹波直樹の事も大好きである。

 拓也は慎太郎と丹波の顔を思い浮かぶと少し、表情が固まった。

 「翔パパと直兄は来れないかなぁ・・・。」少し寂しそうな顔をして拓也は言った。

 「・・・・来なくていい・・・。」

 翔二がボソッと言うと、拓也は笑った。そんな会話をしながら歩いて行くとすぐに青嵐寮に着く。翔二たちが高校三年間過ごす学校の寮だ。

 広い間取りと庭、三階建ての家だ。

 「ただいまー!!」

 ドアを開けると、スポンジケーキが焼けているいい匂いがした。

 「お!!ケーキのいい匂い!!」連司と拓也が鼻をスンスン嗅ぎながら言った。

 足を軽やかに進ませながらリビングに向かうと、そこには寮長の伊藤彩芽の他、翔二の父、慎太郎とその部下の丹波が彩芽の手伝いをしていた。

 「お帰り、拓也君。」と、慎太郎が言った。

 「おう、お帰り。」と、続いて丹波も言った。二人とも、私服だった。

 「えぇ~!?どうしたの~!?」拓也が嬉しそうに二人の元へ駆け寄る。

 「何でいるんだよ!?仕事は!?」

 明らかに迷惑そうな顔をしたのは、翔二だった。

 慎太郎は翔二を一回無視をする。

 「今日は非番なんだ。前の事件も片付いてきたしね。」と、慎太郎は拓也に答えた。

 「翔のお父様たちタクの誕生日知っていたんですってね。お祝いに来てくれたのよ。」彩芽が言った。

 「本当!?嬉しい!!」拓也の顔がパァッと明るくなった。

 喜んでいる拓也に慎太郎は笑顔で返事をした。その後、連司が台所を見ると丹波がケーキを作っている事に気づいた。

 「え、おじさんケーキ作れるの!?」驚いた顔をして連司が丹波のいる台所に顔を出した。

 「誰がおじさんだ、お兄さんと呼べ。」そう言いながら丹波は丁寧にケーキにクリームを塗っていった。

 連司と丹波の会話を聞いた寮生は面白みたさに台所の方へ駆け寄ってきた。

 「丹波君は一人暮らしだし・・・自炊もしているんだよな。」と、慎太郎。

 「えぇ・・・それに、昔は弟の誕生日によくケーキとか作ってやりましたからね。」何気なく、丹波が言った。

 「へぇ~弟さんがいるんだ、直兄!!いくつなの?」拓也が興味津々に訊いてきたが、拓也の問いに丹波はクリームを塗っている手を止めた。

 「・・・・・・、お前らと同じ十五歳だよ。

 拓也は今日十六になったけどな。」と、丹波は静かに答えた。

 「そうなんだ、今度直兄の弟さんにも会いたいなぁ。」と、拓也が陽気に言った。

 「あぁ・・・引っ込み思案な奴だけどお前なら仲良くしてくれそうだな・・・。

 今度会わせてやるよ。」

 そんな会話をしていると、玄関のチャイムが鳴った。彩芽が玄関に行くと、双子のW大生、松浦潤と旬の兄弟と、T大生の花澤透が来た。そして後ろには・・・担任の中島進一もいた。

 中島の顔を見た瞬間、丹波は

 「うっ!!」と、顔を青ざめた。中島は丹波を見るや否や、面倒臭そうな顔をしていた。

 翔二はこの二人の間に何があったのか知りたくてしょうがないが、丹波も中島も話したがらなかった。

*

 ご飯はご馳走だった。ハンバーグや、パスタ、海苔巻きにグラタン、天津飯など、和・洋・中構わず彩芽が作りまくった。

 中島がビールをグビグビ飲んでいる中、慎太郎と丹波も酒を勧められた。

 「警部、俺が運転しますからいいですよ。俺の車ですし、飲んでください。」と、丹波が言った。

 「あら、丹波さん車で来て下さったんですね。」と、彩芽。

 「えぇ、いつも移動は基本車なんですよ。

 酒は家に帰ってから飲んでいます。」と、丹波は答えた。

 和気あいあいと食事をし、ケーキを食べていたら二十一時になっていた。

 「俺達はそろそろお暇しよう。ごちそうさまでした。」と、慎太郎が言った。

 「先生、ふつつかな息子ですがよろしくお願いいたします。」と、慎太郎は中島の元へ行き中島に頭を下げた。

 「もう、何か馬鹿な事したら前も言ったかと思いますが、ハリセンでもモーニングスターでもいいのでぶん殴るの許可しますので。」と、慎太郎。

 「あ、じゃあ、遠慮なく。」と、中島。

 「おい!!親の言う言葉かよ!?てか、モーニングスターとかなんだよ!?」翔二がぎゃいぎゃい騒いだが、慎太郎は完璧無視。

 そんな親子の姿に寮生や潤、旬、透さえも大笑いしていた。

 「潤君、旬君・・・、それから、透君だったね・・・。

 これからもうちの息子を宜しくね。」と、慎太郎は潤、旬、透に声をかけた。

 「任せてください!!」と、潤が言った。

 この誕生日パーティーで、潤と旬もT大の透と仲良くなり、その他の寮生も透に懐いた。

 「あ、直兄・・・。」

 帰りの準備をしている丹波や慎太郎の元へ、拓也が近づいてきた。

 「翔パパも直兄も来てくれてありがとう。このリストバンド、大事にするね。

 直兄もケーキを作ってくれてありがとう。」

 拓也は慎太郎と丹波にお礼を言った。

 「拓也君、誕生日おめでとう。良い一年を送ってね。これからも、翔二を宜しくね。」と、慎太郎。

 「うん!!」拓也は笑顔で言った。そして、丹波の方へ顔を向けてタッパーを渡した。

 「ケーキすっごく美味しかった!!

 きっと弟さん、直兄のケーキ久々に食べたいと思うから、これ弟さんに持って帰ってあげて!!」と、拓也は言った。

 「・・・・・。」丹波は驚いて、一瞬声が出なかった。

 「いや・・・お前のケーキなのに・・・いいのか?」

 「うん!!その代わり、また作ってね!!」拓也が満面の笑みで言うと、丹波はいつの間にか右手を伸ばしていた。

 伸ばした右手は拓也の頭にいき、気づいたら拓也の頭を撫でていた。

 「・・・直兄・・・?」

 「あぁ・・・・、ありがとうな・・・。きっと喜ぶよ・・・。」

*

 次の日の七月二〇日。翔二は中島から恐怖の通知表を貰った。

 父がこの事を覚えていたら、きっとまた寮に来ると思っている。

 「燃やしておいてくれ。」翔二はそう言って、中島に通知表を返した。

 「馬鹿かお前。お前の親父のところに宅急便で送るぞ。」

 中島にそう言われると、翔二は素早く通知表を中島から遠ざけた。それは困る。

 「おら、とっとと席に座れ!!」

 軽く中島に頭を叩かれ、翔二はトボトボと席に着き、ちらりと成績表を見た。

 だが、意外にいいと思った。体育は五。数学は中学時代はいつも三だったのに四になっていた。それから、蛍に教えて貰ったからか、英語も四になっていた。

 歴史、国語類も含めその他は二だったが、成績が上がったのではないかと翔二は少し心の中で喜んでいた。

 嬉しい事があると、好きな女の子にちょっかいをかけたくなる・・・・。自分がそんな性格だと気づいたのはつい最近だ。

 「蛍、成績どうだった?」

 ひょこっと顔を覗かせて蛍の元へ翔二は顔を出した。

 「ふ、普通だよ・・・。」

 蛍はそっと成績表を隠した。それを見た翔二はニヤッと笑い、素早く蛍の成績表を奪った。

 「あっ・・・!!」蛍は慌てて立ち上がった。

 「やだぁ!!翔君!!」

 手を伸ばしたが、翔二は身長が高い。全く届かなかった。

 「ちょっとだけ!!」

 笑いながら蛍の成績表を上に掲げ、見始める。

 「・・・・好きな子いじめている小学生男子・・・・・。」優奈がボソッと言った。

 蛍の成績表を覗くと翔二は絶句した。

 なんと、成績は四か五しかないのだった。見間違いだと思い、一回閉じてもう一度見たが、結果は同じだ・・・。

 「す・・・すみませんでした・・・。」自分の成績と遥かに違う事を痛感した翔二は頭を下げて蛍に成績表を返したのだった。

 そんな翔二の姿を見た寮生たちは大爆笑をしていた。

 「それにしても、明日から夏休みだよ~!!何しようか~!!」拓也が伸びをしながら言った。

 「八月さぁ、夏祭りなかったっけ?」優奈が言った。

 「あった気がする!!・・・いつだったかなぁ・・・?」と、春那。

 「ちょい待って、調べる!!」そう言って翔二はすかさずスマートフォンを取り出した。

 「二〇日!!八月二〇日にあるぜ!!」そう言って、翔二はスマートフォンを寮生たちに見せた。

 「あ・・・この近くじゃん・・・・。」と、翔二のスマートフォンを見た、美由が言った。

 「彩芽ちゃん、裁縫とか得意みたいだよ?」拓也が言った。

 彩芽に浴衣を作るのをお願いすれば、作ってくれるらしい。それを聞いた女子たちは、顔がほころび、笑顔になった。

 早速、寮に帰って彩芽に浴衣を作るのをお願いしたく、寮生たちは学校を後にした。

 帰って早々、女子たちは彩芽に浴衣の事を切り出した。

 「あら、自分たちのお気に入りの浴衣とかはないの?私が作っていいのかしら?」

 「うん!!手作りの浴衣とかいいよね~って四人で話してて・・・。良かったら作ってほしい!!大変なのは承知なんだけど・・・・手伝えることは手伝うし・・・。」

 優奈が懇願すると、蛍を含む他の女子三人も懇願した。

 「分かったわ。じゃあ今から浴衣の生地選びに行く?」

 彩芽の言葉に女子たちははしゃいで喜んだ。

 「ねぇ、翔たちも行かない?この際だから男子の分の浴衣作ってあげるわよ?」

 彩芽の言葉に男子たちは驚いた顔をした。

 「え・・・た、大変じゃない・・・?」和也が言った。その横で心配そうに拓也も頷いた。

 「大丈夫よ!!私、家庭科得意なんだから!!」そう言って彩芽は腕っぷしを見せる。

 その姿を見た、男子も顔がほころび、

 「しょ、しょうがねぇな!!行ってやる!!」と翔二が言って、男子たちも一緒に浴衣の生地選びに一緒に出掛ける事になった。

 彩芽一人が作るのではなく、彩芽に教わりながら、女子四人が作る事にもなった。

 「そうと決まったら行こう!!」拓也がウキウキしながら言って、全員で出かけて行った。

*

 七月二十一日。この日、丹波直樹は非番だった。

 先日拓也から貰ったケーキを弟のお墓に供えていた。

 「・・・・浩樹・・・。」

 墓前を前に、あまり他人に見せた事のない優しい顔で丹波は墓に話しかけていた。

 この墓場は、丹波の弟、それから両親の墓場だ。弟の名前は丹波浩樹、享年五歳だ。

 「これな、十九日に誕生日だった子のケーキなんだけど、その子がお前にって。

 俺が作ったんだぜ?きっと俺のケーキ久々に食いたいだろうって言って・・・・。

 優しい子なんだ・・・ガキの頃、辛い思いをいっぱいした分、他人に優しく出来るいい子なんだ・・・・。

 お前が生きていたら・・・絶対にいい友達になれるぜ・・・。

 その子だけじゃない・・・前にも話しただろ?俺の上司の海堂警部の息子、あいつもいい子でさ・・・・お前に雰囲気が似てるって前に話した子。

 きっと、お前が心臓悪いって聞いても仲良くしてくれる気さくな奴らだよ・・・。」

 そう、墓場に語りかけた。そして、一回目を閉じて深呼吸をした。

 「森明・・・それに、死神真治・・・!!必ずあいつらは俺が処刑台に送ってやるからな・・・・。お前に土下座させたい気持ちもあれば、墓場にさえ近づくなと怒鳴りつけたい気持ちもある・・・・。気持ちが複雑だ・・・・。」そう言って、丹波は弟が好きだったオレンジジュースを開けて、それも墓場に置いた。

 「でも、必ず俺は奴らを捕まえる。それが・・・俺がお前にできる餞だ・・・。」

 それを十年前に誓った。そう思い、目を閉じると携帯が鳴っている事に気づく。

 「・・・・警部・・・。はい、丹波です・・・。

 え・・・・?殺しですか?すぐに行きます!!」

 すぐに顔つきを変えた。一人の兄の顔から、刑事の顔になった。

*

 事件は前日に遡る。七月二〇日の夜八時頃の事だった。

 土屋慎吾、高校三年生で県立高校のサッカー部の少年だった。

 彼は、三年最後になる秋の大会に向けて、体づくりとしてジョギングをしていた。

 このサッカー部で三年間頑張ってきたのを秋の大会にぶつけたいという思いが込められていた。そして、サッカー部で三年間頑張った成果なのか、有名国立大学の推薦も貰っていた。

 彼は、本当に純粋にサッカーが好きな少年だった。

 「よし、あの公園を一周したら帰ろう。」

 土屋はそう言って、公園へ走っていった。

 公園内の滑り台、ブランコの周りを走り、最後に公衆トイレの前を走って出口へ向かった時の事だった。

 ガン!!と頭を固い何かで打ち付けられた気がして、彼は一回倒れた。

 「な・・・、何・・・?」

 頭に凄まじい痛みが広がり、めまいがして上を見上げても人がいるのは何となくわかるが、頭を殴られた影響で人が何人いるのか分からない。

 殴ってきた相手は、そんな彼の状態にお構いなしに固い何かで彼の体、頭を中心に殴り、叩きつけた。

 「やめて・・・やめろ!!」

 一回大きな声で威嚇するように叫んだが、無駄だった。余計、声が出せないように必要以上に殴りつけられた。

 ガスッ!!ガン!!ガン!!ガン!!

 そんな大きな音を立てて彼を殴りつけた人間は、彼が指先一本さえ動けなくなるまで殴り続けた。

 やがて、彼がパタリと動かなくなると、犯人はそのまま走り去って逃げて行った。

*

 七月二十一日、朝八時半。丹波は慎太郎から連絡を貰って、すぐに車を走らせ私服ながらも警察手帳を見せて、現場のキープアウトのテープをまたいで現場に入っていった。

 「海堂警部!!千田さん!!」

 上司の慎太郎と千田の姿を見て、丹波は声をかける。

 「すまんね、丹波君。非番なのに。」慎太郎は言った。

 「いえ、構いません。いつでも呼び出してください・・・。・・・・!!」そう言いながら、遺体を見る。もう慎太郎達が先に見たからなのか、ブルーシートも外され、遺体の姿があらわになっている。

 頭から血を流し、体中は痣だらけ。鼻血も大量に流れていた。最終的に頭を数回殴られており、死因は頭部外傷によるびまん性軸索損傷との事だった。

 見れば見るほど、あまりにも痛々しい。地面に爪で引きずったあとがある。きっと、逃げようとして体を一生懸命動かそうとしたのだろう。

 「・・・ひでぇ事しやがる・・・!!許せねぇ・・・!!」丹波が歯を食いしばっていった。

 慎太郎達と一緒に丹波は被害者を調べた。まずは、身元確認だ。

 被害者はジャージ姿でランニングをしていたようだ。体の所々に汗をかいていた。

 腰にショルダーバッグを背負っていて、中には水と定期券があった。

 「名前は・・・ツチヤシンゴ・・・、誕生日月を見ると、現在高校三年生だな。」と、慎太郎。

 続いて、鑑識の鬼束も被害者の方へ来た。

 「しっかり科捜研で調べないとはっきりは言えませんが、凶器は金属バッドの類でしょう。この腕の打ち身など、バッドで殴られて出来た痣に似ています。死因も頭部外傷によるびまん性軸索損傷と判断もされておりますから・・・・。」

 「凶器の判定は、科捜研に任せた方がいいね。」と、慎太郎。

 慎太郎がそう言うと、鬼束は“はい”と、頷いた。

 被害者の持ち物には、ショルダーバッグと中に入っている水と定期券と携帯だった。ジャージできっとランニングをしていたのだろう。そう思いながら、定期券を調べると、学生証が出てきた。

 被害者の身元判明。

 名前は土屋慎吾。都立西が丘高校の三年生だ。そして、携帯電話にも親の携帯番号がしっかり登録されていた。

 慎太郎達はこれから親族に知らせなければならない・・・。もしかしたら、近くの警察署に息子が帰らないという連絡をして、捜索願を出しているかもしれない・・・。

 とても、気が重い・・・。親御さんに帰りを待っている息子が遺体で見つかったと知れたら、どんな気持ちになるのだろう・・・。

 慎太郎はそう思うと、ぎゅっと目を瞑った。

*

 事件は神奈川県相模原市の公園で起こった。

 被害者は都立西が丘高校に通っている高校三年生の土屋慎吾、十八歳だ。現場についたその日に遺族に電話をして遺族に来てもらい、遺体確認が行われた。

 母親は泣き崩れ、父親は愛息子のおでこに自分のおでこを当て、体を震わせていた。

 前日の夜、息子がなかなか帰らない事を気にした母親は近くの交番に相談をしたという。

 土屋の実家は座間市だった。座間市から相模原市まで電車やバスなどで行ける距離のところで、土屋はジョギングをしていたのだろう。

 「財布がない。」慎太郎が言った。

 そう、被害者の持ち物はショルダーバッグの中に水、定期券、定期券の中に入っている学生証、携帯電話のみだった。

 「盗まれたか。」

 慎太郎が言うと、丹波が口をはさんだ。

 「ジョギングをしていたのであれば、財布は彼にとって必要なかったのかもしれません。

 今はコンビニなどで定期券などの交通カードで物を買えますからね。」と、丹波。

 「そうか、定期券は財布代わりに持っていたのか。」と、慎太郎は納得したように言った。

 「定期券を盗めば見つかる可能性高いですからね。物盗りの犯行かどうかまだ判断できないですね。」と、千田。

 「そうだな、と・・・なると・・・、この土屋さんに恨みを持った人物か・・・・通り魔などの愉快犯の仕業という事になるな・・・。」と、慎太郎は推理した。

 現場の公園では、地面は砂交じりだった。被害者の倒れていた場所では数メートル体を引きずった跡があった。

  きっと逃げようと懸命に動いたのだろう。だが、犯人はそんな彼をあざ笑うかのように背中や腕、足などを中心に殴りつけたに違いない。被害者の体がそう言っている。

 そして、この事件は後にただの殺人事件では終わらない事に気づく。無差別殺人事件と発展することになるとは、慎太郎達は思いもしなかった。

*

 その頃、主人公海堂翔二は七月二十一日は夏休み一日目なので、朝遅くまでぐっすり眠っていた。

 部屋はクーラーをつけて足を布団から出して快適に寝ていた。このまま十時くらいまで寝ていようと寝返りをした頃だった・・・。

 急に布団を引っぺがされた。

 「うおっ!?」

 翔二は驚いて起き上がると、目の前には担任の中島がいた。

 「何で中島がいるんだよ!?」

 後ずさりしながら翔二は言った。すると、拓也が翔二の部屋の影から顔を覗かせて説明をしてきた。

 「毎年恒例だって。潤兄も旬兄もやられたらしいよ。

 ねぇ、なかじーと彩芽ちゃんって付き合ってないの?」

 「・・・んなわけあるか、誰があんな元ヤン。あんなの女にしたら俺の命がいくつあっても足りねぇよ。」と、中島は彩芽との仲を完全否定した。

 翔二は中島と拓也と一緒に部屋を出て、一階へ降りて行った。降りると、他の寮生たちは朝ご飯を食べていた。

 「何だよ、みんな起こされたのか?」と、翔二は訊いた。

 「全く、この寮で八時には起きていたのは土方と神崎と鬼灯だけだぜ。

 あとはみんなぐーたら寝ていやがったからたたき起こした。お前が最後。」と、中島は言った。

 「いいじゃん、夏休みなんだから!!」と、拓也が抗議をした。

 「そうだそうだ!!」と、翔二と連司も口をそろえて言った。

 「あぁん?なんか文句あんのか?」中島が一睨みするとご飯を食べながら文句を言った連司は下を向き、黙々とご飯を食べた。翔二と拓也はすごすごと席についていった。

 テーブルには新聞が置かれていた。翔二は新聞をご飯前に必ず見る。何か事件は起きていないかの確認だ。

 だが、この時間は慎太郎達が担当する男子高校生が殺害された事件はまだ取り上げられていなかった。

 翔二は、神奈川県に限らず殺人事件や強盗殺人事件関係などの事件を新聞で各都道府県別で確認をしている。

 今日の新聞で掲載されている殺人事件は三件あった。

 香川県で架空請求詐欺を働いた男がターゲット先の家でトラブルが起こり、誤ってそばにあった包丁で詐欺のターゲットにしていた夫人を刺して殺害した事件が一件目。

二件目は、山形県で小学二年生の男児を風呂に沈めて殺害したと、父親と内縁の妻が逮捕されたという事件。

 最後の三件目は、高知県で男女トラブルが発生し、大学生の女性が交際相手の男性を刃物で胸やわき腹を刺し、殺害したという事件だった。

 「何だ、全部犯人捕まっているのか、つまんねぇ。」と、翔二はそう言いながら新聞をしまい、箸に手を伸ばした。

 「なんてとんでもねぇ事言ってやがる。

事件は解決したんだからつまんねぇはねぇだろうが。」と、中島は翔二に突っ込みを入れた。

 パッと見、神奈川県の事件は載っていなかった為、父が担当するような事件はまだ起こっていないと思った。

 これから、ニュースになるとは思うが、翔二はこのように新聞を読み、神奈川県で起こった事件があればそれは絶対に父が担当する事件だから父に迷惑電話・・・・ではなく、問い合わせの電話をしていたのだ。

 「この間みたいにさらし首とかの事件はねえのかな?」と、翔二。

 「毎度毎度そんな怖い事件起こられちゃ翔二のお父さんも疲れちゃうじゃん。」と、幼馴染の石川優奈が言った。

 そんな会話をしていると、中島に頭をポンと叩かれた。

 「おら、とっとと飯を食えよ。」

 「分かってるよ。」そう言って、翔二は箸と味噌汁に手を伸ばした。

 「飯食ったらてめぇら、まずは数学のプリント持ってこのリビングに来いよ!!」

 中島の言葉に寮生たちは目を見開き、表情を固めた。

 「何・・・?急に何言っているの?なかじー・・・。」連司の笑顔が急にひきつった。

 「言っている意味が分からねぇわけねぇだろ?

今日からの夏休みは毎日午前中は各教科の宿題を片付ける事だ。」中島がニヤリと不敵な笑みで笑った。大魔王中島、降臨である。

その瞬間に、男子三人は椅子から立ち上がり、逃げようとした。だが、すぐに中島に捕まる。三人もだ。

 「何で、俺ら三人捕まっているの!?」

翔二がジタバタ暴れても逃げる事は出来なかった。

 「え、なかじー三本も手ある!?」と、拓也。

 「俺、今日午前中からバイトでぇ~・・・。」と、連司はあからさまに逃げる為の嘘を吐く。

 「おぉ、そうそう。バイトある奴はちゃんと俺にバイトのシフト報告に来い。

 嘘吐いて逃げられちゃ困るからな。」

 「・・・・・・・・・・・!!!??」

 翔二、拓也、連司は絶句した。

 「三人とも、観念しなさい。潤ちゃんや旬ちゃんもこの人に負けたから。」と、彩芽が言った。

 あのおちゃらけ双子の松浦潤と旬の兄弟が負けたのであれば翔二たちにもこの大魔王に勝てるわけがない。

 中島はどのロールプレイングゲームに出てくるラスボスより強い大魔王だからだ。きっと、こんなラスボスがロールプレイングゲームに出て来たらゲーム会社はすぐにクレームが入るだろうと、三人は思った。

*

 「あはははははは!!」

 午後はバイトだ。朝の出来事を同じバイト先の透に話すと、大爆笑していた。

 「笑い事じゃねぇよ!!俺にとっては大問題なんだから!!それに、うちの親父となんか変な結束が生まれているしよ!!」

 翔二は思い出しただけでも顔が青ざめていくのを感じた。

 「そういえば、透は夏休みは実家に帰るのか?俺は・・・帰らなくても親父に会いそうだから帰らないけど!!」翔二は何気なく訊いた。翔二の質問に一瞬だけ、透の表情が強張った気がした。

 「・・・ん?」

 「あぁ・・・・俺も帰らないかなぁ・・・。」

 「ほ、本当・・・?じゃあ・・・宿題・・・見てくれる・・・?」翔二がおねだりのポーズをした。

 「いいよ。この間会った潤君や旬君もよく来るの?」

 「来るよ!!潤兄達にも協力してもらおう・・・。」

 「あはは、この間話したけど話しやすくていい人たちだったなぁって思ったよ。」

 「うん、潤兄と旬兄マジでいい人たちだよ!!だから、透もすぐに仲良くなれるよ!!」翔二はそう言って、潤と旬を絶賛した。

 「それに俺、翔のお父さんすごい素敵なお父さんだと思うな。」

 と、透は続いて自分の父を褒めてくれた。

 「えぇ!?どこが!?」そんな言葉を聞いた翔二は相当驚いた。

 「だって、拓也君の誕生日も覚えているなんて・・・なんかさ、みんなのお父さんって感じ。優しいしさ。」

 「俺には厳しいもん。」翔二はそう言って唇を尖らせる。

 「そんなの、どこの親も一緒だって。俺の父さん結構厳格な性格だから、翔のお父さんの優しい所はなんか憧れるなぁ。

 それから、あの部下の人・・・。」

 「え、あのクソ親父がどうしたの!?」

 今度は丹波がいきなり話題に入り、翔二は更に驚いた。

 「気難しそうな顔していたけど、すごい話しやすかったしそれに拓也君の為にケーキ作ってあげたりして優しい人だと思うよ。」と、透はそう言って丹波とも仲良くなりたいと言ってきた。

 「お、俺は別に丹波の親父とは仲良くないから今度会った時に普通に話せば・・・?」

 「あはは、分かった。そうするよ。

 でもね、あの人・・・翔の事大切に思っていると思うよ?」透が言った。

 透のそんな言葉に翔二は動揺した。

 「な、なに訳の分からない事言っているんだよ!?そんなわけないだろ!?気持ち悪い事言うなって!!」

 翔二の反応が面白かったのか、透は更に笑った。

 「わ、笑うなよ!!」

 「ごめんごめん!!」

 そんな風にじゃれていると、お客さんから注文をお願いする声が聞こえた。

 「あ、はーい!!今行きます!!」

 そう言って、透はスルリと翔二をかわして注文を取りに行った。

 「全く・・・透の奴・・・訳の分からない事言って・・・!!」と、翔二はボソッと言った。

 その時他の席からも注文をお願いする声が聞こえたので、翔二もメニューを持ってその席へと向かって行った。

*

 男子高校生が何者かに殺害された事件のニュースを知ったのは、バイトが終わってからだった。

 翔二は、携帯のニュースをバイト先の控室で熟読していた。

 「相模原!?近くね!?」翔二は驚いた。

 「被害者は座間市に住んでいる高校三年生か・・・、ジョギングをしているところを襲われたって書いてあるね。」透も翔二の見ているニュースを一緒に見て言った。

 「高校三年生って・・・忙しいだろうけど・・・高校最後だし・・・思い入れが強いはずだよな・・・。そんな人を襲って殺すなんて許せねぇ・・・!!」と、翔二。

 翔二は髪の毛は茶髪で金髪のメッシュが入っているし、見た目だけをみたら、ただの不良かチャラ男だ。

 だが、父が警察官という影響もあるだろう。曲がった事が大嫌いだ。そして、正義感も強い。

 だが昨年、幼馴染の高田良平の両親が殺される現場を目撃して、殺害現場を初めて見た翔二は恐ろしくてその場から動くことが出来なかった。

 そんな自分にも腹を立てるし、平気で人を殺害する人間にも怒りを覚えている。その日から父の担当する殺人事件に首を突っ込むようになったのだが・・・。

 「目撃情報もないみたいだな・・・。」翔二は事件について書かれている色々なニュースを検索していた。

 だが、あまりいい情報が無かった為、父に連絡したら着信拒否をされていた・・・。

 「・・・ひどくね?」

 どうやら、慎太郎は事件が発生すると、息子からの着信を拒否するようになったようだ。

 後日、この男子高校生殺害の事件の後にこの高校生とは関係ない人間が次々と殺害される事件が起こる。殺害方法は同じだ。

 神奈川県警本部捜査一課はこの事件を無差別通り魔殺人事件として捜査本部を設置した。

 このような形で、翔二の夏休みは始まったのだった。


 第39章に続く。

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