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海堂翔二の事件ノート~神奈川県警捜査一課の息子~  作者: ぽち
第五章 さらし首殺人事件
39/48

第37章 処刑跡

 七月九日にテストが終わり、十日から十四日までテスト休みだ。残りの十五、十六の間にテストが返ってきて、二十日には終業式、そして、念願の夏休みが二十一日に始まる。

 その前には、十九日に拓也の誕生日もある。

 翔二はテストが終わった十日から事件の詳細を書いているノートをまとめ、見直していた。

 父、慎太郎達がどこまで事件の真相を掴めているかは、父の部下の千田か鬼束に訊けば大体の事は分かるので、ノートの中身を整理していた。

 ノートの内容に、自分が以前父に話した“首斬り鬼”の事が書かれていた。父もその件について今色々と調べていると、鬼束から聞いていた。

 息子である翔二の事は邪魔者扱いにするが、こういった事件に関係があるかもしれないというところを話すと一応は話を聞いてくれるのは少し、ありがたい事だろうなと翔二は思った。

 しかし、父が何故自分の言った“首斬り鬼”についてそんなに調べているのだろうと疑問だった。

 まさかドラマじゃあるまいし、その首斬り鬼が事件に関係しているなんて翔二は思っていなかった。

 翔二は頭を掻いた。

 「何なんだろう・・・首斬り鬼って・・・。」

 すると、急に翔二の携帯が鳴った。

 「何だ!?」翔二は驚いてビクッと体を一瞬だけ強張らせたが、相手が同じバイト先の先輩である花澤透である事が分かった。

 「あ・・・。」

 翔二はすぐに携帯に手を伸ばした。

 『翔~?テストどうだった?』透の陽気な声を聞くとふっと気が緩んだ。

 「何だよ、ふ、普通だよ。」

 『普通?それは良かった。』

 この花澤透という男性は、翔二と同じバイト先の先輩で教え方が上手だ。

 面倒見も良く、頭もいい人だから翔二はすぐに懐いた。

 きっと潤や旬ともすぐに仲良くなれるだろうと思った。

 「あのさぁ、透。来月夏祭りあるだろう?俺達の友達たちと一緒に行かね?」

 『いいのかい?』

 「当り前だろ。W大の知り合いのお兄さんを紹介してやるよ。」

 『あはは、ありがとう。じゃあ、行こうかな。』

 一瞬、拓也の誕生日も誘おうかと思ったけど、まだ自分と蛍以外とは会っていないから、それはもう少ししたらにしようと翔二は考えた。

 ある程度世間話をした後、二人は携帯の通話を切った。

 「あぁ・・・そうだ・・・。プレゼントは何にしようかな・・・。」

 そう言って、翔二は携帯を取り出し拓也のプレゼントを検索した。

 それにしても今日も蒸し暑い。翔二は左手でエアコンのリモコンを取ってクーラーの温度を少し下げたのだった。

 そして、その頃平野洋一の祖父、平野歳則も携帯を手にしていた。

*

 平野洋一から連絡が来たのは、七月十一日の夕方だった。祖父から預かった家の鍵で祖父の家に入ったところ、鍵が開いている事に気づいた。

 洋一はすぐに中へ入ると、部屋の中が荒らされていたのだ。

 (な、なんだよこれ・・・!?もしや、空き巣!?)

 洋一は困惑したが、すぐに慎太郎達の顔が頭に浮かんだ為、一一〇番に連絡した。連絡を聞きつけて慎太郎達もすぐに駆けつけたのだった。

 「あれ?慎ちゃん?」

 捜査三課の刑事がやってきた慎太郎を見て、驚いた顔をした。

 「すみません、邪魔は致しませんので。」

 「いやいや、慎ちゃんなら構わないよ。どうしたの?」

 「実は、知り合いの子でして。盗まれたものはもしや、何か書物か何かですか?」

 「よく知っているね。どうやら、昔の伝記みたいなものが書かれている書物らしいんだよ。それをどうやら盗まれたらしい。」

 ふと、慎太郎は思った。

 (まさか、この間の話を誰かに聞かれていたのか・・・・?)

 ふと、目を横目にしてみると、平野洋一と弟の洋太が立っていた。

 「第一発見者の青年だ。この家の主人のお孫さんらしい。」

 「存じております。」

 そう言って、慎太郎は平野たちの元へ歩いて行った。

 平野は顔を上げて、慎太郎の顔を見るとほっとした顔をして、慎太郎達の元へ弟と一緒に駆け寄った。

 「け、刑事さん・・・じ、じいさんの家が・・・ど、どうしよう・・・。」平野は縋りつくように慎太郎に言った。

 「落ち着いて。必ず俺達が犯人を捕まえるから。

 経緯を詳しく教えてくれないか?」慎太郎が、平野の背中を優しくさすり、弟の洋太の頭を優しく撫でた。

 一度外へ出て、二人に飲み物を渡してそれから事情聴取だ。

 「暑い中、外ですまないね。これ、飲みながら落ち着いたら話を聞かせてくれ。」

 「あ、ありがとうございます・・・。」

 相当ショックを受けたようだ。洋一の方は落ち込んでいるように見えた。

 「おじいさんにこの事は?」

 「ま、まだ・・・伝えていないです・・・。混乱してしまって・・・。」

 「無理しなくていい。俺達の方から伝えるからね。」

 「あ、ありがとうございます・・・。」

 そう言って、洋一は一口、水を飲んだ。

 「じ、実は・・・昨日じいさんからラインを貰ったんです。」そう言って、洋一は携帯を取って、慎太郎達に見せた。内容はこう書かれていた。

 “部屋の書斎のどこかに伝記があるはず。探して刑事さんに渡してくれ。”

 「伝記ってもしや・・・。」

 「はい、多分この間話した“首斬り鬼”の事だと思います。相当古い話だから書籍を渡した方がいいと言っていたので。

 平安時代辺りの話のようです。」

 (なるほど、平安時代とかならそう言った手の話は多いな。)と、慎太郎は思った。

 「ねぇ、洋一君。この“首斬り鬼”の話を誰かに・・・。」

 慎太郎が話を聞こうとした時、平野に声をかけた人物がいた。

 「あれ?平野?何しているんだ?」

 声の主の方へ振り向くと、平野と同じ法学部の赤木哲也と、デザイン美術学科の中村亮太がいた。

 赤木と中村は慎太郎の顔を見ると、軽く会釈をした。

 「ここ、爺さんの家なんだ。」簡単に平野は説明した。

 「何だよ、警察もいるじゃん・・。なんかあったの?泥棒とか?」

 「まぁ、そんなとこ・・・。」

 ちらりと慎太郎や丹波は中村の方へ目を向け、軽く手を振った。中村は不安そうな顔をして慎太郎達の顔を見つめるだけだった。

 「君たちは何故ここに?」慎太郎は念の為、中村と赤木に訊いた。

 「あぁ、この先に図書館があるので俺は課題をやろうと思って・・・。その時に中村と会ったので、途中まで一緒に歩いていたんですよ。」赤木が答えた。

 「と、いう事は中村君は他に行くところが?」千田が訊いた。

 「えっと・・・、コンビニから家に帰るところです。」

 あぁ、なるほど。そういえば、この平野の祖父の家はあの処刑場の近くだ。という事は、中村の一人暮らしのアパートの近くという事になる。

 「・・・なるほど・・・。」慎太郎は頷いた。

*

 翔二は同じバイト先の先輩である花澤透とラインをしていた。

 “ちょっと明日か明後日予定どう?”と、送った。返事はすぐに返ってきた。

 “明日大丈夫だよ。と、返信が来たのだ。その後に透からはすぐに“どうしたの?”とラインが来たのだ。

 “十九日に誕生日の友達がいて、そのプレゼントを買いたいのと、ちょっと付き合ってほしい場所があって・・・。”と、翔二は返信した。

 その後、透からは“了解”と書いてあるキャラクターのスタンプが返信された。次の日の七月十一日は透と一緒に買い物に行く事になった。

 外は相変わらず蒸し暑い。この炎天下の中、人一人を殺害した犯人を父達は追い求めているのかと思うと複雑な気持ちになった。

 事件が解決しない限り、父達に休みはない。邪魔をするつもりは本当になく、何か出来る事はないかと本気で思っている。

 (とにかく・・・明日、透に買い物を付き合ってもらう途中で、ちょっと事件の事も付き合ってもらうかな・・・?)と、翔二は思った。

*

 「家についた指紋はありましたか?」慎太郎が捜査三課の刑事に訊いた。

 「いや、しっかり手袋を用意していたみたいで、指紋は採取できなかった。」

 「そうですか・・・。その他、唾液や皮膚片などは見つかりましたか?」

 「いやいや・・・それも見つからなかったよ。」

 平野の祖父の家に入った強盗は用意周到で入ったらしく、指紋や唾液、皮膚片などが見つからないように侵入して、伝記を盗んだようだ。一階のベランダのガラスのドアの鍵側のガラスが割れており、そこから鍵を開けて侵入したようだ。部屋の中には割れたガラスの破片が散っていて、靴で踏みつぶしたであろう、粉々になっていたガラスもいくつかあったらしい。

 「それにしても変な泥棒だよな。金目の物は一切盗らずに書籍一冊だけ盗むとは。

 今回慎ちゃんが担当している事件に何か絡んでいるようだね。」

 「そうなんですよ・・・。そうだ・・・、念の為、鬼束君に手袋痕があるかどうか、調べて貰う事は出来ますかね?」と、慎太郎。

 「うん、言っておくよ。」

 「ありがとうございます。」

 人間の指紋が一切見つからなかった以上、犯人は手袋か何かをつけて侵入した可能性が高いのだ。

 と、すると当然、手袋痕というものが存在する。

 慎太郎はその手袋痕から犯人を特定するしかないと考えた。

 そして、鑑識の鬼束から了解を得て、一緒になって何が無くなっているのかを探した。

 書物は全部で三十冊くらいあったという。その中の一つでやはり、歳則が洋一に頼んだという書物が見つからず、その書物が盗まれたという事が分かった。

 「どんな書物だったかは分かる?」慎太郎が訊いたが、洋一も洋太も首を横に振った。

 「名前は・・・確か・・・・。」洋一は電話で聞いた書物の名前を書いたメモを見せた。

 “処刑跡の伝説”という書物のようだ。

 早速、警察でもその書物を探したが、やはり見つからなかった為、盗まれた書物はそれである事が判明した。

 「洋一君・・・おじいさんからはその書物は何か価値のあるものだとか聞いているかい?

 例えば・・・テレビとかで鑑定に出してもらえたら何百万する代物だとか・・・。」慎太郎が訊いた。

 「そんな・・・、何の価値もないって爺さん、言っていました。ただただ昔の事が書いてある書物に過ぎないって・・・。」洋一は言った。

 ・・・昔の事が書いてある書物に過ぎない・・・。それはつまり・・・、今回の大塚英樹殺害に関係するから犯人は盗んだという事だろうか。でなければ、そんな価値のない物を盗まない。

 慎太郎は、この書物を盗んだ犯人は、大塚英樹を殺害した犯人と同一人物だろうと考えた。

 慎太郎は立ち上がった。

 「窃盗は三課に任せて・・・。俺達は洋一君のおじいさんにその書物は他の本屋などで売っているか訊いてみるか・・・。」

 「あ・・・その事なんですが・・・。一冊しかないみたいなんです・・・。爺さんが、ひい爺さんから受け取った物みたいで・・・。」

 洋一の言葉に慎太郎は苦い顔をした。

 「・・・マジか・・・・。」

*

 七月十二日。翔二は隣町のショッピングモールで透と一緒に拓也の誕生日プレゼントを買いに行っていた。

 「拓也君ってどんな子なの?」透が訊いてきた。

 「簡単に言うと馬鹿。」

 「あはは、酷いなぁ!!」

 「それから友達思いで、あと人懐っこい・・・。俺の親父の事大好きだし、親父の部下の巡査部長のクソ親父にも懐いているみたいだし・・・。

 だから、透もすぐに仲良くなると思うから、十九日タクの誕生日一緒に祝うか?」

 「俺もいいの?」

 「よくなければ誘わねぇし!!」

 ふんっと翔二は鼻を鳴らしながら言った。ちょっとしたツンデレタイプである。

 その後は、ショッピングモールで拓也が好きそうな服や、鞄などを見てどんなものを買おうか透と一緒に翔二は話し合った。

 話し合った結果、シンプルなシャツを一枚とそのシャツに合いそうなネックレスを一個買って、プレゼント用に包んでもらった。

 「ありがとうな!!そうだ、これ俺と透の二人からって事にしようぜ!!それで透もタクの誕生日に来ればいいじゃん!!」

 「え・・・、じゃあ、お金半分払うよ・・・。」

 「う~ん・・・じゃあ・・・お願いしていい・・・?それから、もう一か所・・・付き合ってほしいところがあるんだけど・・・。」と、翔二は少し躊躇いながらも半分透からプレゼント代を貰った。

 「いいよ、どこ?」

 「あのさ・・・。」

 頭を掻きながら翔二は行きたい場所を伝えた。

 そして、翔二と透が来た場所は大塚英樹の首が見つかったあの処刑場だった。

 未だに、キープアウトの黄色いテープが入り口付近でぶら下がっている。

 「ドラマみたい・・・。え?入っていいの・・・?」透はずかずかと中に入っていく翔二を見て、戸惑った。

 「大丈夫、大丈夫。」翔二は、二ッと笑い、そのまま首が見つかったと言われている場所まで歩いて行った。

 第一発見者の土井裕二から話を訊いてはいたが、実際に遺体の発見現場に足を運んだのは今回が初めてだ。

 歩いて行くと、慎太郎達が歩いていた感覚と同じで、土と砂利で覆われていた道を歩いて行くと次第に枯れ葉が落ちている地面に変わっていく。

 そこを数メートル歩いて行くと、大塚英樹の首がさらされていた遺棄現場に到着する。

 翔二は周りを見てみる。枯れ葉だらけで、その枯れ葉を足で蹴っ飛ばしたら多少の土は見えるものの、枯れ葉の量が多い。足跡なんてほとんど見つからない事が分かった。

 次に上をぐるっと見てみても、監視カメラらしいものも見つからなかった。

 ここなら、首だけを運んでも誰にも見つからないだろうと、翔二は考えた。

 透は、周りを見て考えこんでいる翔二を見つめていた。

 (本当に将来刑事になるんだな・・・。)と、想い、弟を見守るような表情で翔二を見ていた。

 すると、ザッザッザッと、足音が近づいてきた。

 ハッとして翔二たちは振り返ったが誰もいない・・・と、思ったら途端に翔二は尻を蹴っ飛ばされた。

 「おいコラ、馬鹿息子!!何してやがる!!」

 尻を蹴っ飛ばされ地面に手をついて倒れた後、翔二は後ろを睨んだ。自分の尻を蹴っ飛ばしたのは紛れもなく、丹波直樹だ。

 「てんめぇ・・・このクソ親父!!」翔二は、ギッと丹波を睨んで起き上がった。

 「立ち入り禁止の文字が見えませんでしたか!?何偉そうにズカズカ入ってんだよ、この馬鹿!!」と、丹波に怒られた。

 どうやら、ズカズカと入り込んだところから見られていたようだ。

 「ていうかさ、俺お前の上司の息子だよね!?もう少し俺に優しくするべきじゃねぇの!?

 馬鹿息子とか言って怒られねぇワケ!?」

 「残念でしたぁ!!その上司から息子が馬鹿な事したら拳骨何発でもやっていいって言われたし、馬鹿阿保ドジ間抜け類の言葉も言って罵っていいと言われましたぁ!!

 言わば俺はお前が馬鹿な事しないように監視役頼まれたようなものですぅ!!」

 「むきゃーーーー!!マジでムカつく!!」

 と、周りに目もくれずにまるで小学生の喧嘩のような事をこの二人はしだした。

 透が唖然として二人を見ていると、

 「いつもこうなんだよ。」と、千田に笑われながら説明された。

 「で?何でお前はここにいるんだ?

 で、誰?」丹波が翔二と透を交互に見ながら言った。

 「俺のバイト先の先輩だよ。俺の買い物に付き合ってもらっただけだし。」ツンケンしながら翔二は言った。

 「買い物していたのに何で処刑場に来てるんだよ?っていうか、キープアウトのテープ見えなかったのかよ?」と、丹波。

 「事件の捜査ですぅ!!」

 「それは俺達警察の仕事ですぅ!!」

 と、相変わらず翔二と丹波の二人は喧嘩腰で話す。

 「全く・・・警部の息子レーダーはすげぇなぁ・・・。まさか、当てちまうとは・・・。」と、丹波が意味深な事を言ったので、翔二は気になった。

 「ど、どういう意味だよ・・・?」翔二はドキッとした。

 「要は、俺達が来たのはお前が俺達があまり来ないと踏んで勝手に現場に入る可能性があるから行って見張ってくれと言っていたんだよ。本当に、警部の言っていた通りだったぜ。」

 「えぇ!?何それ!?」丹波の言葉に翔二は本当に驚き、千田を見ると千田も苦笑しながら頷いた。

 慎太郎の息子レーダーは侮れないという事が分かった。以前にも授業をさぼろうと考えていたら、ラインが突然来て、“授業さぼったらただじゃ済まん”みたいなラインが来たのを翔二は覚えている。

 それでも翔二と丹波の口喧嘩は止まらなかった。とっとと帰れ、お前が帰れの言い合いが続いている中に、その気配をすぐに感じたのは丹波だった。

 「・・・誰だ!?」丹波はすぐに気配がした方を向き、翔二と透を後ろへやった。

 振り向いた先には人影があり、ザザッと足音を立ててその人影は逃げた。

 「待ちやがれ!!」丹波と千田はすぐにその人影を追いかけた。

 「俺も追う!!」翔二は透にそう言うと、翔二もその人影を追って行った。

 「え・・・、しょ、翔!!」驚いた透もまた、翔二を追う形で走り出した。

 先程の場所まで一本道のはずだが、翔二は路を外して少し走りづらい外れ道を走っていくとすぐに下へついた。

 走った先には先程のフードを被った人間がいて、どうやら大きなスコップと手提げ鞄を持っているようだった。

 翔二はそのフード人間に飛び蹴りをした。すると、フード人間は翔二に蹴っ飛ばされた衝撃で派手に転んだ。

 「この野郎!!観念しやがれ!!」そう言って、翔二は男のフードを取った。

 後から走ってきた丹波と千田は、フードが取れた人間を見て、驚いた。

 「お、お前・・・!!」丹波は目を見開いた。フードの中の人間は、中村亮太だった。

 中村自身、顔を真っ青にしていた。丹波は中村が持っている鞄とスコップを奪い取った。

 鞄からは、血まみれの鋸が出てきた。

 「・・・・どういう事だ?」丹波は中村に問いただした。中村は息を途切れ途切れに吸ったり吐いたりしている。冷や汗がすごく、馬乗りになっている翔二を見たり避けたりしていた。

 そして・・・。

 「うわぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 中村が急に暴れだした。その瞬間に翔二が吹っ飛ばされてしまった。

 「あ・・おい!!」

 翔二から解放された中村はそのまま車道までまっすぐに走り出した。

 「待て!!」丹波が中村を追いかける。だがその瞬間、車道に出た中村を車が撥ねた。

 「な!!??」

 撥ねられた中村は左へ飛ばされるように吹っ飛んでいった。撥ねた車はそのまま逃走した。

 「てめぇ!!逃げるんじゃねぇ!!」丹波は車相手に怒鳴りつけたが、車はそのままひき逃げして行った。

 「おい!!中村!!」

 丹波と千田は急いで中村の元へ走っていったが、中村の息は虫の息だった。

 「車・・・ぶれているけど何枚か写メ撮っといたから!!」翔二が言った。

 「俺、救急車呼びます!!」と、透が言った。

 「頼む!!」丹波は急いで中村の頭から流れている血を自分のハンカチで押さえ、心臓マッサージをし始めた。

 中村と鉢合わせてから三十分たたないくらいの出来事であった。

*

 慎太郎は一人、とある神社まで来ていた。

 神社にあるお寺の中から刀を持った赤い鬼と青い鬼が左右にいるのが見えた。左は青い鬼で、右は赤い鬼だった。

 鬼が見えるお堂の前にはその鬼の名前が書いてあり、その名前に驚いた。

 “首斬り鬼”と書かれていたのだ。

 第一発見者の土井裕二が遺体発見現場に肝試しに来た理由の一つ・・・、落ち武者の首がうようよと出てくるという事と、“首斬り鬼”が出てくるという噂を聞きつけて恋人と一緒に肝試しに来たと言っていた。

 その“首斬り鬼”とは、もしかしてこの神社に祀られている鬼の事なのではないか・・・。

 慎太郎は気になってしまい、周りを見渡した。すると、偶然神主と思われる男性を見つけた。

 慎太郎は声をかけようと神主の元へ行こうとすると、携帯が鳴った。相手は丹波だ。

 「はい、海堂。どうした?

 え・・・・?・・・何だって!?」

 丹波から中村亮太が車に轢かれたという連絡を受け取った。

 「青葉中央病院だな!?分かった、今すぐ行く!!」

 慎太郎の声を聞いて、神主は慎太郎の方に目をやっていた。慎太郎は、神主に一礼して、その場を後にした。

 慎太郎は車を飛ばし、青葉中央病院へと急いだ。慎太郎が現在いた場所から車で三十分ほどの場所だ。

 丹波達がいた首の発見現場から車で十分。そして、慎太郎がいた場所から車で三十分・・・、いくらなんでも遠すぎるかもしれないが、なくはない場所だと慎太郎は思った。

 (後であの神主さんに訊こう・・・。あの鬼の事を・・・。)

 そんな事を思いながら、慎太郎は病院まで急いだ。病院に運ばれたという中村亮太の事も心配だった。

 慎太郎が青葉中央病院に着いた頃は、まだ手術中だった。

 手術室の前で丹波、千田、透、そして翔二が手術が終わるのを待っていた。

 「中村君の親御さんに連絡は?」慎太郎が訊いた。

 「したのですが・・・、留守で・・・。留守電には入れておきましたが・・・。」千田が答えた。

 丹波は中村が轢かれた時の状況を慎太郎に全て報告した。すると、翔二が沈んだ声で口を開いた。

 「俺が・・・馬乗りになって追い詰めたから・・・。」

 翔二が落ち込んでいるのを見て、透はなんと声をかけていいか分からず、翔二の背中をさすっていた。

 「・・・・。」慎太郎が口を開こうとしたら、丹波が先に口を開いた。

 「警察っていう者は・・・・まだ犯人かどうか分からない以上、相手が犯人じゃなくても追い詰めてしまう場合がある。

 お前が追い詰めなくても俺達が追い詰めていた可能性だってあるんだ。お前は・・・俺達警察官と同じ仕事をしただけだ・・・。」そう言って丹波は慎太郎の方に顔を向けた。

 「申し訳ございません。」謝罪し、頭を下げた。

 「丹波君も申し訳なかったね。伊佐美刑事部長には俺から報告したけど・・・・、すぐ戻って来いと上村管理官から連絡があった・・・。

 すまないが、千田君・・・、俺と丹波君で行ってくるから、中村君を頼めるかい?」

 「そ、それは・・・構わないですが・・・。」千田が言った。

 すると、丹波はそっと中村の所持していた鞄から見つけた鋸などを見せた。

 「うん、この事も踏まえて報告する予定だ。俺は・・・、彼は犯人だとは思っていないよ・・・。」そう言って、慎太郎は丹波からスコップ、それから鋸を受け取った。

 「えっと・・・君は・・・。」慎太郎は、透の方に顔を向けた。

 「あ、翔二君と同じバイト先の花澤と言います・・・。翔二君と今日、買い物をしていて・・・その後一緒にその・・・処刑場に一緒に行ってました・・・。」透が頭を下げた。

 「そうかい。息子に付き合ってもらって悪いね。ありがとう。今日はもう帰っていいよ。こちらで後はやるから。」慎太郎は優しく微笑み、次に翔二の方へ顔を向けた。

 「・・・お前も帰りなさい。・・・大丈夫だからな?」

 息子の頭をポンと叩いた。翔二は不安そうに真っ青な顔をしていた。

 「花澤君、申し訳ないが息子と一緒に帰ってくれるかい?」慎太郎が透に声をかけた。

 「あ、分かりました・・・。」透は、頷いて、翔二の背中を支えながら病院を後にした。

 「透・・・・、なんかごめん・・・。」翔二は透に謝罪した。

 「そんな・・・、謝らないでよ、翔。大丈夫だよ。」そう言って透は、翔二の手を引いて一緒に歩き出した。

*

 神奈川県警本部に帰ってからは、管理官の上村の怒号が本部内で響き渡った。

 「重要参考人を追い詰めた上に事故に遭わせただと!?

 しかも意識不明の重体!?何をやっているんだ貴様らは!?」上村が顔を真っ赤にして怒り心頭に慎太郎と丹波に怒鳴りつけていた。

 「大変申し訳ございません・・・。」

 慎太郎と丹波は、刑事部長の伊佐美と管理官の上村に頭を下げた。

 「それで・・・その中村さんという男性の容体は?」伊佐美が訊いた。

 「今はまだ手術中との事です。撥ねられた時に脇腹を思いっきり打ち付けられたようでして、腎臓が体内で出血しているようです。

 それからあばらも三本ほど折れているという事です。

 手術次第ですが、助かるかどうかは五分五分だそうです・・・。」と、慎太郎が答えた。

 伊佐美は苦い顔をして頷いた。

 中村の両親には、千田が連絡をしている。現在電車に乗って中村の手術している病院に向かっているようだ。

 刑事部長室に鑑識課の鬼束が入ってきた。翔二が写真を収めた中村を撥ねた車の画像の照合をしていた。

 「失礼いたします。海堂警部、提出頂いた車の画像ですが・・・、どうやら盗難車である事が分かりました。」鬼束が言った。

 「盗難車だと!?」上村が眉間に皺を寄せて言った。

 「二週間前に横浜市都筑区内で車を盗まれたという被害届が出ております。

 車種は黒のセダンで、翔二殿が画像に収めてくれた車と照合したところ、同じ車種であることが分かりました。科捜研でナンバーの画像を照合していただいた結果、盗難車である事が判明いたしました。

 一応、被害届を出された方に連絡をして、もう少し画像を鮮明にしたものを見せてご自身の車であるか確認する方針です。」と、鬼束は報告した。

 「都筑区と青葉区内では隣通し同士か・・・・、となると、犯人があの青葉区内で中村さんを狙う為や首を現場に置くために盗んだという可能性もなくはないですね。」と、慎太郎が言った。

 慎太郎は、顔を上げて伊佐美に声をかけた。

 「刑事部長、もう少しだけ・・・第一発見者の土井さんが言っていた“首斬り鬼”の件について続けて捜査させてくれませんか?

 実は、その“首斬り鬼”が祀られている神社を見つけたんです。」

 「あの・・・大塚さんの首が見つかったと言われている処刑場であやふやにされている噂の事ですか?」伊佐美が言った。

 「そうです。」慎太郎は頷く。

 「君はどう考えている?普通に考えれば、例えば上村君が考えている事なんだが子供が聞いた噂が上に重なって色んな話がごっちゃになり、ありもしない話が噂になってしまった・・・、その噂が噂を呼んでその場所が心霊スポットにされてしまったという事も考えられる・・・。」

 「その上に重なった噂の中に本当の話が隠されていると思います。

 第一発見者の土井さんはあくまで、首斬り鬼と落ち武者の霊が出てくる・・・、そういう噂を聞いた上で、あの場所に肝試しに行ったんです。

 そして犯人はその噂の本当の話を知っている上で今回の犯行を行ったと私は思っております・・・。犯人を見つけるためには、私はその神社へ向かって“首斬り鬼”の話を訊いてこなければいけないと思っております。

 本来ならば、平野君のおじいさんの書籍をお借りしてその事は解決する予定でした。

 ですが、その書籍は何者かに盗まれてしまいました。

 私の考えとしては、犯人は何らかのきっかけで平野さんのおじいさんの家にその“首斬り鬼”の書籍がある事を知ったんです。」

 「待て、その書籍は本屋で売っていないのか?」上村が訊いた。

 「はい、平野君の話によると平野君のおじいさんが戦争で亡くなったご家族が作られた書籍のようです。

 その土地の神社や処刑場の歴史を先祖代々記載していたもののようです。平野君のおじいさんの先祖でこういった言い伝えのような事を研究して調べていた人がいたようでした。

 ですので、平野家にしか伝わっていない言い伝えであり、平野家にしか持っていない書籍であるようです。」と、慎太郎は説明した。

 「なるほど、昔からある言い伝えであれば、その神社で鬼の銅像が二体あるというその神社の神主の人とかに訊けば、分かるかもしれないという事ですね。」と、伊佐美。

 慎太郎は、そういう事ですと伝えた。

 平野家が調べた事でも所詮は昔の言い伝えの事だ。平野家以外でもこの“首斬り鬼”の事を調べているのかもしれないし、平野家が実際にその神社で“首斬り鬼”の事を訊いているかもしれない。

 その事を考え、慎太郎は次の日の七月十三日に赤鬼と青鬼の銅像が祀られている神社へ丹波と千田と共に足を運んだ。

 神社には、神主の男性が神社周りを箒で掃除をしているところだった。

 神主の男性は、慎太郎達の存在に気づくと、笑顔で頭を下げた。

 「昨日もいらしていましたね?」若く見えるのに落ち着いた雰囲気の神主だった。

 「はい、来てました。」慎太郎が答える。

 「・・・この鬼の銅像を見られておりましたね。」そう言って、二体の銅像の方に神主の男性は目を向け、慎太郎達もつられて目を向けた。

 「えぇ・・・。この、二体の赤い鬼と青い鬼に“首斬り鬼”と書かれているのが気になってしまいまして・・・、できればこの“首斬り鬼”の言い伝えなどを教えて頂けないかと思って来ました。」

 「ほう・・・。言い伝えなどにご興味があるんですね?」

 「えぇ、少しだけ・・・。」

 「あぁ、いいですよ。この話をするのは二年前以来です。」

 神主の言葉に慎太郎は反応した。

 「二年前にもこの銅像の事について訊きにきた人がいたんですか?」

 「えぇ。若い子でしたよ。」

 「・・・・・。」慎太郎は、丹波と千田と目を合わせた。

 「・・・・この中にいます?」慎太郎は、被害者の大塚英樹と行方不明の黒渕遥の写真も含めて、現在の容疑者達の写真をざっと神主の男性に見せた。

 「あぁ、この子です。」

神主の男性は一枚の写真を持って、どの人間が訊きに来たのか慎太郎達に教えた。

「・・・私たちにも教えて頂けませんか・・・・?この“首斬り鬼”の言い伝えの事を・・・。」

*

 七月十四日、深夜。病院も静まり返った夜・・・。夜勤の看護師などの目を盗み、病院に侵入した者がいた。

 そいつは片手に小さいライトと、少し大きめの手提げ鞄を持っていた。

 西棟の病室に行くには、ナースステーションの前を通らなければならない。彼らは仕事をしている。

 同じデザインのスクラブを着て前を横切った。

 「・・・・どこのチームのナースかな?」

 「さぁ?」

 看護師たちはたいして気にしなかった。それが、この人間にとってはありがたい対応だっただろう。

 西棟のB二五二の部屋の前にその人間はついた。

 部屋へ入ると、昨日交通事故に遭い、意識不明の重体の患者、中村亮太が眠っていた。

 手術は何とか成功したものの、目が覚めるかは本人次第だという。

 侵入した人間は手提げ鞄から小さめの電動鋸を取り出した。

 鋸のスイッチを入れると、少し大きめの音でキュイーンという音が出てしまったため、慌てて音を小さくした。

 このくらいの振動の力なら・・・中村は苦しんで死ぬだろう。

 ・・・いい気味だ。

 そう思いながら鋸を中村の首にかけた・・・その瞬間・・・、腕を掴まれた。

 「そこまでだ!!

被害者の大塚英樹さんを殺害して、平野さんのお爺さんの家の書籍を盗み、そして・・・、この中村さんを轢いて殺害しようとしたのはお前か!!」

 茶髪で金髪のメッシュをした長身の男子がそう言って、その男の腕をひねった。

 男の腕をつかんだのは、いつも教育学部の松浦潤と旬が仲良くしている高校生男子の海堂翔二だ。

 「・・・・そうだろう?法学部の赤木哲也!!」翔二が睨みながら赤木に言った。

 その後、病室に電気がついた。

 赤木の周りには翔二だけではなく、神奈川県警捜査一課の海堂慎太郎、丹波直樹、千田健一も自分を取り囲んでいた。

 「け、刑事さんは分かるけど君は誰だ?」

 「お、俺はこの刑事の息子の海堂翔二だ!!」

 よくよく考えると、翔二は今回あまり慎太郎達の捜査に首を突っ込めなかった。会ったと言えば、潤と旬以外では中村亮太だけだ。

 赤木は翔二を一瞥した後、慎太郎の方へ顔を向けた。

 「刑事さん、なんなんですか・・・?おふざけはやめてくださいよ。」

 赤木の言葉に慎太郎は呆れた顔を少しした。

 「ふざけてなんてないよ。君こそなんだ、こんな時間に。まさかお見舞いにきたわけじゃないだろう?面会時間はとっくに過ぎているし、どこで手に入れたか分からないようなナース服を着て・・・、なによりもそんな物騒な物を持っていてね?」

 慎太郎が言っても赤木は黙って慎太郎達を見ている。この状況に焦っているのだろうか。

 「単刀直入に訊く。大塚英樹を殺害し、平野さんのお爺さんの家の書籍を盗んで、その上中村さんを殺害しようと車で撥ねたのはお前だな?」と、丹波。だが、赤木はだんまりを貫いている。

 「それでは・・・別の質問をしようか。

 二年前・・・横浜市にある“赤鬼”と“青鬼”の銅像が祀られている神社に“首斬り鬼”の言い伝えについて話を訊きに来たのは君か?」慎太郎が訊いた。

 「何の事だか分かりません・・・。そもそも、その赤鬼と青鬼の話と大塚が殺害されたことと何が関係しているのですか・・・?」赤木は否定した。

 「そうだな・・・・、でははっきり言わせてもらう・・・。君は大塚英樹さんを一方的に嫌っていたのではないのか・・・?

 そして、大塚英樹さんの恋人・・・黒渕遥さんに好意も寄せていた・・・違うか?」慎太郎が訊いた。

 翔二は、赤木を押さえながら、“えっ”という顔をして驚いていた。赤木の顔は無表情から少しだけ、顔色を変えた。

 「赤鬼と青鬼の首斬り鬼伝説の話を訊いた君は自分と重ねたのではないのか・・・?自分は赤鬼だと・・・・。」

 慎太郎が言うと、赤木はギリッと顔を歪めた。

 更に慎太郎は、眠っている中村の方を見ながら赤木にこう言った。

 「この間中村君に暴行していた青年たちを暴行の容疑で現行犯逮捕をした。実は取り調べも行ったんだけど・・・驚く事を聞いたよ。

 君、その暴行していた人間の一人と知り合いなんだってね?どうやら、大学で中村君と知り合って間もない時にその人間に中村君の事を訊いたんだろう?

 中村君は暴力を行えば大抵は言う事を聞くと・・・。彼のそんな性格を利用して、お前は中村君に鋸とスコップを持たせて翔二たちがいたあの場所に凶器を埋めるよう指示をしたんだろう?一度捜査した現場に警察はそう何度も足を向かないと思ったのと、言う事を聞かなければ・・・あの連中がやる暴力よりも酷い事をするなどと言って脅してね・・・。」

 慎太郎の言葉を聞いて、丹波は刺すように赤木を睨みつけた。

 「くっそぉぉぉぉーーーーー!!」

 赤木はいきなり怒号を上げ、肘打ちで翔二の腹を殴り、翔二の手を自分から離れさせ、持っている鋸を振り回しながら、出入り口のドアへ猛進した。

 「いって!!」翔二は尻もちをついた。

 「どっけぇぇぇぇぇぇ!!」叫び声をあげながら、ドアの前にいる慎太郎めがけて赤木は鋸を振り回しながら走った。

 「お、親父!!」翔二は叫んだ。すぐに立ち上がったが、自分が今すぐ父の元へ走っても赤木を取り押さえるのは難しいと判断した。

 が、その瞬間・・・、父と赤木を遮って赤木の前に現れたのは、丹波だ。丹波は赤木の鋸を持っている右手を掴み、そのまま柔道の技、一本背負いをして赤木の背中を地面に叩きつけた。

 「くっそぉぉ!!放せ!!放せ!!」

 叫びながら暴れる為、丹波が取り押さえながら千田が赤木に手錠をかけた。

 慎太郎は赤木が押さえつけられている右頬の横の床に足をダン!!と踏みつけ赤木を黙らせた。

 「・・・・大塚さんの胴体と・・・黒渕遥さんの遺体はどこだ!?」

*

 何千年も前の昔話だった。二人の青年がいた。

 一人は農業をやりながら、医者になるのだと勉学に励んでいる好青年な若者だった。そんな彼には将来を誓い合った許嫁がいた。

 そして、もう一人は頭が良いが傲慢な男だった。自分が何でも一番じゃなきゃ気が済まず、自分の思い通りにならなければ、家族だろうが誰だろうが暴力を起こして相手を黙らせていた。

 農業の青年は喜一で、傲慢な青年は清五郎と言う。

 喜一は親が決めた同じ農業の娘、お琴という許嫁がいた。

 お琴は喜一の医者になりたいという気持ちを応援し、花嫁修業として十の頃にはすでに喜一の家で一緒に暮らし、家事や農業を手伝っていた。

 十六の時、結婚が決まった二人は清五郎に結婚することを伝えたが、清五郎は実はお琴に密かに恋心を抱いていた。

 更に、なんでも器用に行える清五郎よりも農業と勉学に励んではいるが、たまにドジを行う喜一を選んだ事が本当に許せなかった。

 最後の賭けとして清五郎はとある神社へお琴を呼び出し、結婚を申し込んだ。だが、お琴の返事は何度言ってもノーだった。

 『ここって・・・首斬り鬼の噂が多いよな・・・?どうする・・・?』清五郎は不気味と言えるほど落ち着いた声でお琴に言った。

 『どうするも何も、もうわたくしは帰ります!!何度言っても清五郎様のお嫁にはなれませぬ!!失礼いたします!!』

 お琴が背中を見せたその瞬間、持っていた鋸でお琴の首を刎ねた。

 清五郎はお琴の首を持って喜一の元へ向かった。お琴の首を見た喜一は顔色が真っ青になった。

 『何故・・・、何故お琴を・・・!?

 私が憎ければ私に直接言えばよかろう!?

 何故お琴を!!!』喜一は清五郎の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

 『・・・うぜぇんだよ・・・てめぇら・・・、低脳の癖に・・・何でもかんでもうまくいきやがって・・・・。』

 もちろん、これは清五郎のただの僻みと逆恨みだ。そして、喜一へのただの妬みだ。

 清五郎は、顔は舞台役者のように男前だ。女には不自由していなかった。自分に興味を持たない女なんて・・・生きている資格すらない・・・。俺にひれ伏せろ!!

 清五郎は喜一の首にも鋸を挽き、刎ねた。

 神社の神主は教えてくれた。

 「この二体の鬼の色の意味はね・・・、赤鬼は怒り・・・青鬼は哀しみを表しているんです・・・。」

 「喜一も鬼になったのですか・・・?」慎太郎は訊いた。

 「えぇ・・・、でも、優しく哀しみの分かる鬼です。

 怒りと哀しみ・・・、二つの色が混ざり合っているからこの神社は守られているのです。

 清五郎の赤鬼だけを祀っていたら、清五郎の怒りが暴走し災いが起こります。だから、優しい青鬼の喜一がいるのです。

 逆に喜一の青鬼だけを祀ってしまったら、哀しみの連鎖が止まらなくなります。二人で一つなのです。どちらだけがいても、どちらが欠けてもダメなんです・・・。」

 そう・・・、神主は語った。

 「ちなみに・・・お琴は・・・?」千田が訊いた。

 「お琴は・・・青鬼と共に葬られました・・・。お琴は首と胴体は一緒でしたが、青鬼は首がないまま、胴体だけ埋められました・・・。青鬼の首は、とある処刑場にさらされてしまったんです・・・。」

*

 五月のゴールデンウィークが終わる頃だった。赤木に呼び出されて監禁されたのは。

 目の前に赤い鬼と青い鬼が祀られている神社が見える空き家だった。

 黒渕は泣きながら体を震わせていた。体中には赤木に殴られてつけられた青痣がたくさんあった。

 ドアを叩く音でさえ怖かった。赤木がドアを開けるとそこには大塚がいた。

 大塚の顔を久々に見る事が出来た黒渕は今まで以上に涙を溢れ出させていた。

 大塚は赤木を撥ね退け、黒渕の元へ行き、彼女を抱きしめた。

 「遥・・・・!」

 「英君・・・英君・・・!!」

 黒渕は唇でさえ切れている状態で、中の舌も血まみれの状態だった。喋るのもとてもつらそうに力いっぱい声に出した。

 「・・・・何でだ・・・!?赤木・・・!!

 俺に恨みがあるなら、俺を監禁すればいいだろう・・・!?何で遥を・・・!!

 ましてや・・・お前、遥に好意を寄せていたんじゃねぇのか!?」大塚は赤木を睨みながら大声で言った。

 赤木は何も語らず、不敵な笑みで鼻で笑うような顔をしていた。

 「・・・とにかく、遥は連れて帰る!!警察にも被害届出すからな!!」そう言って、大塚は黒渕を抱きかかえ、その家から出ようとした。

 「待てよ。誰が出ていいって言ったんだよ?」赤木が今までにも聞いたことがないような低い声で言った。

 大塚は一瞬、ぞっとした。

 「な、なんだよ・・・。」怯まないように、赤木を睨み返した。

 だが、赤木はその一瞬で大塚の頬を殴り、大塚も黒渕も床に倒した。

 「つっ・・・・!!」

 「うぅ・・・!!」

 二人が床に埋もれるような状態で倒れた。

 「何する・・・・」

 顔を上げた瞬間、大塚と黒渕の間に鋸の刃が落ちてきた。二人の倒れた顔の間にその刃は突き刺さっている。

 「本当にお前ムカつくわ・・・。成績は俺の方が上なのに・・・、俺の方が大学の教授たちにも気に入られているのに・・・何でお前いつも幸せそうなの?」

 「・・・は・・・?」

 赤木がいきなり言いがかり的な言葉を発したため、大塚も赤木の意図が分からなかった。

 「有名大学W大の法学部で、成績も優秀で、可愛い彼女もいて・・・。俺、リア充してます的な?そういったお前の存在、ずっとうざかったわ・・・・。」

 「な、なんだよそれ・・・言いがかりじゃねぇか・・・!!それで遥にもこんな怖い思いさせたというのかよ・・・ふざけんなよ!!」

 「別にムカつくのはお前だけじゃねぇよ。

 教育学部にいるお前が仲いい松浦兄弟もなんか俺はいつでも特別~みたいに調子に乗ってはしゃぎやがって・・・あ~本当、目障りだわ・・・!!」

 「ま、松浦たちはいい奴だ!!家が児童施設なだけに面倒見もいいし、子供好きで優しい奴らだ!!

 お前なんだよ・・・、そんなくだらない僻みで俺や遥にこんな思いさせているのかよ・・・ふざけんなよ!!」

 その瞬間、ガッという音が響き、徐々に大塚の首に鋸の刃が近づいてきた。

 「や、やめ・・・!!いって!!!」

 思わず、手で制そうとしたが、刃があたり、掌が血まみれになった。

 「んん~~~~!!」黒渕も涙を流しながら叫んだ。

 大塚は黒渕だけでも逃がそうと思い、黒渕の背中を蹴ったが、その瞬間にもすぐに黒渕の背中に赤木が足で踏みつけた。

 鋸の刃は大塚の頬に当たり、頬から血が出てきた。赤木は、大塚が怪我でうずくまっている間に黒渕の足のアキレス腱を鋸で切って、歩けなくした。

 「おい、首斬り鬼の伝説って知っているか・・・?」赤木が言った。そして、強引に黒渕の顔を大塚の方へ向けた。

 「その伝説を今、再現してやるよ・・・、よく見てろよ遥。」

 そう言って、左足で黒渕の背中踏みつけたまま右手で大塚の髪を引っ張り上げ、鋸を首の頸動脈の方へあてた。

 「お、おい・・・・!!じょ、冗談だろ・・・・!?」大塚の首から冷や汗がだらだらと流れ始めた。

 「邪魔な奴は消えろ・・・!!」その瞬間、赤木は大塚の首に鋸を挽いた。

 「ゔぅぅううううぅぅぅ!!!!」遥の声にならない叫びが響き渡った。

 大塚は頸動脈から斬られ、その瞬間に首から大量の血が流れた。

 その後、赤木は大塚の背中に足を載せ、まるで木材を鋸で切るように首を挽いた。

 首を斬り、床は血まみれになった。

 「もう一度言う。もうこの男はいないんだ。俺の女になれよ、遥。」ギラリと危ない目つきをしながら、赤木は言った。

 黒渕の答えはそれでもノーだ。黒渕は動かない足を最期に力いっぱい動かし、赤木のすね辺りを蹴った。

 黒渕は涙を流しながらふぅーふぅーと息を荒くした。

 「・・・・馬鹿な女・・・・。」

 赤木はそのまま鋸を振りかざした。

*

 自分以外は馬鹿だと思っている。もちろん、大塚英樹も松浦潤、旬の兄弟も、平野洋一も教授の藤原も。

 ましてや、中村亮太なんて論外だ。中村に至ってはこの俺が仲良くしてやっているの、ありがたく思ってほしいくらいだぜ。

 赤木は毎日大学に通っては、自分以外の生徒を下に見ていた。

 あぁ・・・黒渕遥も俺の魅力に気づかないなんて本当に馬鹿な女だ。まぁ、馬鹿女は扱いやすいから後で力で黙らせれば言う事聞くだろうけど。

 そんな事を思って歩いていると、ふと、赤鬼と青鬼の銅像が目に入った。

 「この鬼が気になりますか?」

 神主の男性が話しかけてきた。適当に相槌を打って、“はぁ・・・。”と言ったら、訊いてもいないのに勝手にこの鬼の昔話を聞かされた。

 だが、それで俺は思った。この赤鬼は・・・・俺ではないのか?と。

 痛いくらいに赤鬼の気持ちが分かるし、同情もする。

 俺は、真剣にその話を訊いた。これで、俺は思った。手に入らないなら、殺してしまおう・・・。まぁ、最期にそれでもあいつを選ぶなら俺の最後の優しさだ。一緒に埋めてやればいい・・・。

 そんな事を思ったのは、自分は絶対に振られないと自信があったからだ。

 だって、俺は有名大学のW大法学部の人間なんだぞ!?選ばれないわけがない!!

 それに、馬鹿を扱うのが得意なんだ。

 『俺は勉強で忙しいから、金を調達してこいよ、中村。』

 『ほ、本当に・・・お金・・・無くて・・・!!』

 お金をせびっても中村は金欠野郎だった。腹が立って暴力振るうと面白いくらいにこいつは丸まって震えあがっていた。

 別にお金が本当に欲しいわけじゃない。ただ、知人からこいつに暴力振るうと黙って殴られてくれるからストレス解消にいいと言われただけだ。

 遥を手に入れるまで・・・俺はこいつを殴ってストレス解消することに決めた。

 だけど、俺がやりはじめると他の奴らも同じような事始めやがってそれが少しムカついたけどな。

 まぁ、いい・・・。手に入れた後は何も言わずにスコップと鋸を捜査が終わった頃にあの処刑場に埋めて貰えばいいさ。その後、車であいつを撥ね殺せば証拠隠滅になるしな。

 そう・・・考えていたのに・・・・!!警察に見つかりやがって!!馬鹿野郎!!俺が始末してやる・・・!!それでも・・・俺までもが警察に見つかり・・・、大塚の胴体と黒渕の遺体のありかを今・・・警察の奴らに訊きだされている・・・・。

 くっそ・・・・、この海堂って刑事・・・・。なかなかやるな・・・・。

 え?平野のじいさんの書籍?あんなもん、すぐに燃やしたよ。

 何で平野のじいさんの家にあの鬼の話の書籍があるの知ったかって?平野から話を一回聞いたことがあるんだよ。あの神社であの首斬り鬼の話を聞いてから、平野があの鬼の事を女子に怪談話の一環として話しているの聞いただけだよ・・・・。

 だから、どこかに書籍とかあるのだろうなと直感で思っただけだよ・・・。頭いいだろ?俺。

*

 「大体の予想はついているんだがな・・・、お前の口から話してもらおうか。」慎太郎が言った。

 赤木哲也を現行犯逮捕してから夜は明けていた。

 現在、七月十五日だ。赤木が話した事と言えば、七月一日に大塚を呼び出して、黒渕と一緒に殺害したことだけだった。

 その後、切断した大塚の首をそのまま遺棄現場である処刑場にさらした。

 その後だ。黒渕遥の遺体と大塚の胴体はどこにあるのか、口を割らない。

 「てめぇ・・・、だんまりか。黙ってれば免れると思うなよ!!」丹波が睨みながら言った。

 「じゃあ、話を変えよう。平野君のお爺さんの家に“首斬り鬼”の書籍を盗んだようだが、何故お爺さんの家にある事を知った?」と、慎太郎。

 「平野が前に怪談話として女子に話していたの聞こえたから。」赤木が答えた。

 「何故家を知れた?」

 「あいつらしょっちゅう行っているみたいだから、一回尾行して覚えた。てか、何で俺だって分かったんですか?」赤木が逆に質問すると、慎太郎は一つの手袋を取り出した。

 赤木の家を家宅捜査して見つけた手袋だ。

 平野の祖父の家に着いた、いくつかの手袋痕と一致した。すでに鑑識が数人、赤木の家を家宅捜査している。他の班の刑事が慎太郎達の代わりに捜査を現在進行形でしているのだ。慎太郎は赤木が犯人である事を赤木が病院に来る前に見抜き、すでに令状を手配していたのだ。

 「あ~・・・、手袋しても無駄だったんだ・・・。」赤木は舌打ちをする。

 「書籍はどうした?」

 「あの書籍を刑事さんたちが探しているの知ったから燃やして捨てた。もう塵一つ残っていないですよ。まさか刑事さんがあの神社の神主に話を聞きに行くとは思いませんでしたし・・・。

 俺、完全に刑事さんを見くびっていました。

 あの神主も殺しておけばよかった。」

 「いい加減にしろよ、この野郎!!」丹波が睨みつけた。軽々しく“殺しておけばよかった”なんて言葉をいう人間が丹波は許せない。

 ちなみに、中村を撥ねた車も見つかっており、どうやら中村を撥ねた後乗り捨てたようだ。

 慎太郎と丹波が赤木を取り調べている中、千田が入ってきた。

 「警部!!」千田が慎太郎の耳元で囁いて報告する。

 慎太郎は目を閉じた。

 「そうか、分かった。ありがとう・・・。」そう言って、一回慎太郎は深呼吸をした。

 「お前が車で撥ねた中村君・・・。」

 慎太郎が中村の名前を言うと、赤木は目の色を変えた。

 「中村?死んだ?」嬉しそうな顔をして訊いてきた。

 「てめぇ・・・!!」丹波が怒りをあらわにした顔を赤木に向ける。

 「いや・・・、意識が戻ったようだ・・・。お前が話さなくても、彼が話せるようになれば、全てが分かるな?

 お前、彼に全て話しているのではないのか?大塚さんの胴体と黒渕さんの遺体のありかを・・・・。

 どうせ、殺すから話しておくかくらいに思っていただろうがな。」慎太郎が言った。

 赤木は、慎太郎の言葉に完全に観念したようだ。

*

 まだ、意識が戻ったにしろうつらうつらな反応だった。

 潤と旬は、中村を心配して中村の両親と一緒に彼を見守っていた。

 意識が戻った時に、何度も中村の名前を呼んだ。少しずつ、彼は反応をしてくれた。

 潤と旬は中村の両親に何度もお礼を言われた。

 「中村君・・・、大丈夫?大変だったね・・・。

 あの・・・、大塚を殺した赤木は逮捕されたから・・・、もう・・・心配しなくていいんだよ・・・?」潤が中村に言った。

 中村は目だけを潤たちに向けて二人を見ていた。

 「ごめんね・・・、中村君苦しかったよね・・・?気づいてあげられなくてごめん・・・。」旬が中村に頭を下げた。

 中村は弱く首を横に振った。

 その後、病室にノック音が聞こえ、潤がドアを開けると、翔二がいた。

 「あ・・・、翔・・・。来てくれたの?」潤が嬉しそうな顔をした。

 潤は翔二の手を引いて、ベッドの前まで連れてきた。

 「あ・・・・。」翔二は少し緊張していた。声を出そうとしたが、震えた。でも、謝らなきゃと思った。

 「ご、ごめんなさい・・・。」翔二は頭を下げた。

 中村は、頭を下げている翔二をじっと見ていた。

 「君が悪いわけじゃないよ・・・、ただ、馬乗りにされて昔いじめられていたのを思い出してそれで、僕暴れちゃっただけなんだ・・・。大丈夫だよ・・・。」中村はか細い声でそう答えた。

 翔二は泣きそうになった。自分が追い詰めて追いかけたのが原因で、人を一人殺すところだったと思った。

 丹波の言葉を思い出した。

 『警察っていう者は・・・、まだ犯人かどうか分からない以上、相手が犯人じゃなくても追い詰めてしまう場合がある。』

 翔二は唇をぎゅっと嚙み締めた。これからは慎重にしなくてはいけないと思った。

 まだ先の話だが、中村が十分話せるようになったときは、慎太郎が中村に質問をして取り調べる事になる。

 赤木が言った事と一致しているかどうか、本当に犯罪にはかかわっていないとは思うが、それもしっかり確認しなくてはならない。

 「ねぇ・・・赤木に脅されていたって本当・・・?」旬が遠慮がちに質問した。

 質問されて、中村は悲しい顔をした。中村は、初めて赤木に会った時から、彼は自分の事を嫌っている事が分かっていた。

 そんな人間が沢山いたからだろう。敏感に感じ取っていたに違いない。

 「赤木氏には・・・嫌われているのは分かっていた・・・。態度ですごい分かる・・・。

 何度も言われた・・・。

 “お前みたいなオタク野郎・・・、俺くらいしか相手してやらねぇんだから・・・。”って・・・。」

 中村の言葉を聞いて、潤はショックを受けた顔をし、旬の顔は怒りでしかめていた。

 「赤木がそんな奴だったなんて・・・!!」旬は唇を嚙みながら言った。

 潤は下を向いて目を伏せていた。

 「だからと言って・・・何でそんな簡単に人の命を奪う事が出来るんだろう・・・?」潤が言った。

 それに関しては、翔二も同意見である。

 「きっと一生理解できねぇよ。ていうか、理解しちゃったら俺は終わりだと思う。

 俺は、犯罪者の気持ちなんて分かりたくない。

 まぁ・・・、ドラマみたいに大切な人を奪われたとか、殺されたとかそういう理由は除くけど・・・・。だからと言って、人を殺していい理由にはならねぇし・・・。」

 翔二の言葉に、潤も旬も頷いた。

 「犯人の赤木って人・・・、取り調べ中でも親父たちに横柄な態度を取り続けていたみたいだよ。丹波の親父もキレかかったらしいし。」翔二が千田から聞いた取り調べの際の事を潤たちに話した。

 「・・・そんな横柄な人だったの・・・?」翔二は質問した。

 潤と旬は一回お互いの顔を見合う。

 「気さくで話しやすいタイプかと訊かれたらそうでもなかったと思うよ・・・。

 どっちかというと、クールなタイプかな・・・?」

 大学での赤木は成績優秀で頭も良ければ、顔も良し、運動もそれなりに得意だったという。

 口数は少なかったと思う・・・。

 そう、潤と旬は話していた。

 そんな話をしていると、口を開いたのは中村だった。

 「あ・・・あの・・・。」

 口を動かすのも痛そうだった。

 「赤木氏は、黒渕氏の事・・・好きだったみたいだ・・・。」中村は言った。

 「そうみたいだね・・・。」と、翔二。

 「大塚と遥ちゃんは合コンで知り合ったんだよね?」と、潤。

 「うん・・・赤木氏が開催した合コンだよ。」と、中村が言った。

 潤と旬はそれは知らなかったという。ここで中村が知っている赤木哲也という男の本性が語られた。

 中村は、ずっと赤木のそばにいた存在だった。だが、それは赤木にとって中村は引き立て役にしか過ぎなかった。

 合コンでは常にメニューを注文する係や変なギャグなどをやらされる係だった。でも、中村は友達もいない自分にとって、合コンなど色々な人を紹介してもらい、出会いの場を与えて貰い、今までにない経験をさせて貰ったと感謝を感じていた事もあったという。

 だが、黒渕遥に出会った時に徐々に中村にだけ本性を現しだしたという。

 赤木はただただ、いつも通りに行っていただけだという。

 今まで合コンで出会った女の子全員には微笑めば自分に簡単に落ちてくれた。

 本命の彼女はいない。連絡をすれば自分の為に来てくれる女は沢山いる。黒渕遥に対してもその女たちと同じ扱いをする予定だった。

 だが、黒渕遥は違った。

 微笑みかけても紳士にドアを開けてあげても自分に落ちなかった。

 彼女はもう、心に決めた男がいたのだ。それが、大塚英樹だった。

 彼女が嬉しそうに大塚の前で笑顔になる・・・、その姿に心がズキン・・・・。と、なるわけがなかった。

 どちらかというと、嫌悪感、怒り・・・。嫉妬はあったと思う。

 赤木はこのW大学を潤や旬達同期の中では首席で合格していた。頭のいい自分以外は、全員クズだと思っている。

 もちろん、同じ学部の大塚の事も見下していた。

 黒渕はそんな赤木の本性に気づいていたのだろう。だから、振られた。

 だが、その行為が赤木の怒りを買ってしまったというところだろう。

 『なぁ・・・、何で大塚と付き合っているの?あいつのどこに惚れたの?』

 言い方がすでに人を見下した言い方で言っていた。

 『どこって・・・優しい所。それから・・・、人を馬鹿にしたり見下したりしない所かな。』

 ジトっと睨むように黒渕は答えた。

 “たいしていい男じゃないだろ?”

 赤木はその言葉を言いそうになって、飲み込んだ。

 『将来弁護士か検察官になるからとかじゃないのか?』

 『そんなの理由じゃないわ。』

 黒渕は素っ気なく答えた。左手には、大塚がプレゼントした指輪が光っていた。

 何故だ?俺は将来弁護士になって生活だって安定するんだぞ?

 顔だっていい男だろ?このW大に首席で入学したんだぞ?

 俺みたいな才色兼備どこを探してもいないんだぞ?

 なのに・・・、何で大塚なんだ?

 たいしていい顔しているわけでもなく、頭だって俺より悪い。

 お前・・・男見る目ないだろ?

 他の女はちょっと優しくすればトロンとした顔で俺に見惚れ、簡単に足開くんだぜ?

 しかも将来弁護士か検事になるって聞いた途端に声色変えるんだぜ?

 なのに・・・何でお前は・・・お前は!!

 そんな感情のまま、赤木は大塚の胴体を捨て、黒渕の遺体を穴に捨てた。

 黒渕を穴に捨てた時に黒渕はほんの僅かな息があった。

 今は夏のはずなのに・・・・とても寒かった。

 黒渕はガタガタ震えながら、首のない大塚の元へ腕を伸ばした。

 涙を流しながら、顔を摺り寄せた。

 私が好きなのは・・・あなただけだから・・・。

*

 朝からヘリコプターがとある山の上でバラバラ音を立てながら空を飛んでいた。

 殺害現場、大塚の首が見つかった処刑場、首斬り鬼の銅像がある神社から五キロ以上離れた山だった。

 神奈川県から少し外れ、東京都の山だった。

 赤木は車の運転免許を持っている。車で東京都まで二人の遺体を運んだ。

 その山はいわくつきの山と言われ、夜に入ると絶対に迷ってしまうと言われている山だった。コンパスも効かないと言われている。

 その山から抜ける事が出来るのは噂であるが、心が淀んだ人間だけだと言われていた。本当かどうかは知らない。

 その山の山頂まで登ると、雑草だらけでお世辞にも綺麗とは言えない山だった。

 そこを数歩歩くと、雑草がなく、土を掘って埋めた跡がある地面があった。

 警察犬のジャックが臭いを嗅ぎ、吠える。

 そして、赤木自身もその場所を指を指した。

 鑑識達が数人でその土を掘り始めた。

 用心深く、物凄く深く掘ったらしい。数メートル掘って出てきた・・・・。

 慎太郎達は掘り返された穴を覗いた。とても痛々しかった。

 穴の中には、首のない大塚英樹の胴体とそれに寄り添うように彼の体に腕を絡めている変わり果てた黒渕遥の遺体が見つかった・・・・。

 慎太郎は目を瞑り、拳を力強く握った・・・。


 第38章に続く。

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