重い 音
近くでパンっという景気のいい音が聞こえた。そちらの方を向くと、洗濯物を干す事務員の姿があった。
「タオルの音か……」
「え? タオルがどうかした?」
「人の首を切る音?」
「実際はもっと重いんだがな」
「あのね……当たり前でしょ! 命がかかってるのよ!!」
ガチャガチャと手荒く工具箱の中を漁り散らすリスティーが言う。
「軽い音なんて、許せないわ」
探していた機械の部品を当て、やっとこちらを見た。
「あたし、その音を聞いた事ないわ。だからタオルの音を聞いてもなにも思わない。だけど、分かるつもりだわ。分かりたい」
「あんなの、聞かない方がいい」
人の首の骨を、刃物で切る音なんて。その音は、よく似ている。タオルの皺を伸ばすときの、あのパンッという音に。
「この子に、聞かせたのっ?」
きゅ、と唇を噛み、上目で睨みつけてくる。普段は同じくらいの身長なのだが、彼女が座っているため、必然と低くなる。それに、少しなにかの影がよぎる。彼女といると、よく起こる変な現象。
「いや、L.A-21には聞かせていない」
「聞かせてたら取り上げるところよ! この子はアンタを守るためにあげたんだから!」
製作者が優しく、その剣の表面を撫でる。
「……俺以外に扱える奴がいなかっただけのくせに」
「うるさいわね!」
人間には扱えない、孤高の双剣。お互いだけしか認めない、不思議な剣。自動反応装置が付いているため、人間では筋肉が破壊されてしまうのだ。
「この剣だけは、人の血を知らせない。それは約束するよ、リスティー」
ぽんっと頭に手を置き、ぐしゃっと髪を撫でる。
「エ……」
ちらりとリスティーが表情を窺うと、砂糖のような甘く優しい微笑。思わず叫びだしたくなるのを必死に止め、代わりに怒鳴る。
「エディスの馬鹿!!」
「な、なんでだよっ!」
「髪よ! 髪、ぐしゃぐしゃにしないでよね!」
もー最低っ! と部屋の奥に走っていく。その背中に、
「L.A-21の調整、終わったのかー?」
とのん気に言って来る。
「うるさいわね! ちょっと待ってなさい!」