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鑑定で才能ゼロと言われた俺、実は全部の価値が見える眼を持っていました  作者: ももの樹


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ガラクタ屋の正体

 罠がうまく行きすぎた時ほど、気をつけろ。

 ゴダじいさんの口癖だった。

 その言葉を思い出したのは、翌日の夕暮れだった。

   ◆

 アイリスと二人、市場からの帰り道。

 人通りの途切れた路地で、前後を挟まれた。

 前に一人。後ろに一人。

 どちらも地味な身なり。だが俺の眼には、はっきりと見えていた。

 〈真価:ERROR〉〈真価:ERROR〉

 “影”だ。

「……騒がないでもらおう」

 前の男が静かに言った。

「用があるのは娘の方だけだ。大人しく渡せば、お前は無事に帰す」

「断る」

 俺はアイリスを背にかばった。

 かばいながら、頭は冷静に計算していた。まずい。腕っぷしなら俺は人足以下だ。荷袋一つでよろける男だ。

「ノア」と背中でアイリスがささやいた。「逃げて。わたしのことは」

「黙ってろ。……今、値段の計算中だ」

「こんな時まで!?」

 前の男が一歩踏み出した。

 その時だった。

「──うちの店の者に何か用かね」

 路地の入り口に人影が立っていた。

 夕日を背にした小柄な老人。

 見間違えるはずがなかった。

「……じいさん!?」

 ゴダじいさんが、そこにいた。

 王都にいるはずのない男が、当たり前のような顔で立っていた。

「オルグから知らせが来てな。お前らが王都で、化粧師相手に危ない橋を渡っとると。……店を放り出して来てみりゃ、案の定だ」

 じいさんはのんびりと歩いてきた。

 影の二人が身構える。

「じじい、引っ込んでろ。怪我をするぞ」

「それはこっちの台詞だ」

 じいさんは懐から何かを取り出して、影たちに見えるように掲げた。

 古びた木彫りの印章だった。

 それを見た瞬間──影たちの様子が変わった。

 〈ERROR〉の向こうで、それでも分かるほど二人の体が硬直した。

「その、印……」

「まさか。“骨切りのゴダ”……初代、頭領……」

 路地の空気が凍った。

 俺は自分の耳を疑った。

 初代、頭領。

 化粧師の。

「久しぶりに名乗る名だ」

 じいさんは静かに言った。

「その娘にかかってる“覆い”。誰の仕事か、お前らの目なら分かるだろう。……俺の作に手ぇ出すってことがどういうことか、工房で教わらんかったか」

 影たちは後ずさった。

「……報告させてもらう」

「おう、しろしろ。二代目の坊主に伝えとけ。『ゴダが王都に戻った』とな」

 影たちは闇に溶けるように消えた。

   ◆

 その夜、青い扉の店で。

 じいさんは全部を話した。

「俺は13年前まで、化粧師の頭領だった」

 ミラは真っ青な顔で固まっていた。工房育ちの彼女にとって、初代頭領は伝説の中の名前だったらしい。

「若い頃から細工の腕だけで生きてきた。偽物を本物に見せる技じゃ、王国一だった。……最初はただの職人仕事のつもりだった。それがいつの間にか、貴族どもの汚れ仕事を一手に引き受ける組織の頭になっとった」

「13年前……」

 アイリスがかすれた声で言った。

「シャルダン家の偽の証拠を作ったのは」

「俺だ」

 じいさんは逃げなかった。

「ギデオン・ロスの依頼だった。塩税の横領に気づいた伯爵を、消したいとな。俺は引き受けた。伯爵の筆跡を、印章を、完璧に写した。……あれが俺の生涯で最高の出来で、最低の仕事だった」

 店の中は静まり返っていた。

「仕事が終わった夜。屋敷が兵に囲まれるのを、遠くから見とった。……そこに、乳母に手を引かれて裏口から逃げてくる小さい娘がおった。乳母は途中で追手に捕まった。娘だけが庭の茂みに隠れとった」

 じいさんはアイリスを見た。

「気づいたら、俺はその娘を抱えて走っとった。理由なんぞ今でも分からん。……いや、分かっとる。俺は、自分の仕事がその娘の目の前で家族を奪うのを見ちまったんだ」

「それで、わたしに覆いを……」

「ギデオンは必ず生き残りを探す。だから、俺の技の全部を注いでお前さんを隠した。真価も素性も、誰の眼にも視えんように。……ついでに辛い記憶にも蓋をした。5つの子どもが抱えるには、重すぎたからな」

 記憶喪失は、事故じゃなかった。

 じいさんがかけた情けだった。

「それから頭領の座を捨てて、姿を消した。お前さんを遠くの街の教会の前に預けてな。……俺はその街で、がらくた屋を始めた。名前も顔つきも、少し変えてな」

「見守ってた、のか。13年間ずっと」

 俺が言うと、じいさんは鼻を鳴らした。

「見張っとっただけだ。覆いがほつれんようにな」

 照れ隠しなのは、感情の色を見るまでもなく分かった。

   ◆

「一つ聞かせてくれ」

 俺はずっと引っかかっていたことを口にした。

「じいさんは、なんで俺を拾った。9歳のただの孤児を」

 じいさんは少しの間、黙った。

「……初めて店の前でお前を見た時。お前は道端の石ころを拾っては並べて、遊んどった。値打ちのある石と、ない石に分けてな。それがことごとく当たっとった」

「覚えてない……」

「俺には分かった。こいつの目はいつか、俺の作った嘘すら見抜くようになると。……偽物を作り続けた男が最後に育てたくなったのが、本物を見抜く目だった。皮肉な話だろう」

 じいさんは笑った。

「ノア。お前の眼は、俺への罰であり、希望だ。……俺の作った13年前の嘘を暴けるのは、この世でお前の眼だけだ」

 偽物の王と、本物を見抜く眼。

 13年越しの答え合わせが、始まろうとしていた。

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