出会い
本当にあった地獄の人生
※身バレ防止のため、一部フェイクを入れています。
“優しい人”が1番怖い。
最初はみんな普通だ。
優しい人なのかなと思うだけで
優しさの裏に何かがあるとか思わない。
でも気づけば、
その優しさは少しずつ形を変えていく。
あの時の私は、
まだ知らなかった。
あの日出会った1人の常連客が、
私の人生を地獄みたいに変えていくなんて。
私はバーで働いている25歳。
今日は金曜日。
金曜日は朝まで色んなお客様が来る日。
私も大好きだった華金。
華金って言葉で今の年齢がバレそう(笑)
職場は大きく分ければbar。
ガールズバーやボーイズバー、ゲイバー
コンセプトカフェ色々あるけどその辺。
今日はいつもの常連さん達が来てくれている。
カウンター右から、
橋本さん、佐野さん。
2人は専門学校の同期で、今は別々の職場だけど同じ業界で営業として働いている。
今年35歳になるみたいで、私の10個上。
10個上って昔はすごく上に感じたけど、
自分の年齢が上がるごとに近づいている感じがする。
橋本「ゆずはちゃんも飲みなよ!」
いつも声をかけてくれるのは橋本さん。
見た感じは普通だけど、いつでも会話の中心にいて、
店員の私にも気をかけてくれるノリのいい人。
私「いつもありがとうございます★」
佐野「あれ?髪切った??似合ってるね〜」
私「うわー、さすが佐野さん!よく気づく男の人はモテますよ〜(笑)」
橋本「うんうん!僕も切ったな〜と思ってたよ!似合ってる!僕はやっぱり短い髪の女性が好きだな〜」
佐野さんは、冗談が通じないちょっと面倒くさい人。
「それ、どういう意味?」
って、よく言っている。
他人が言った小さい言葉でも引っかかる人。
ーーーー
いつも通り、色んなお客様のお酒を作って、
たわいもない話をしていると、
外は太陽が昇り始めていた。
橋本「ゆずはちゃん、チェックで!」
いつも大体橋本さんがお支払いしてくれるので、
なんとなく橋本さんの前に伝票を置く癖がある。
私「領収書いりますよね〜?」
橋本「うん。あ、待って。今日はこの名前で」
橋本さんから名刺を渡された。
橋本「これ、あとで追加しといて!よろしく!」
指をさされたところにQRコードが載っていた。
お店の売上にも繋がるならな〜。
私の店はバックがある。
お客様を呼べば、時給プラスでお金が入る。
ふぅ……面倒くさいけど頑張るか!
【今日はありがとうございました!お気をつけて!またお待ちしております。】
次の日から、橋本さんとのメッセージのやり取りが始まった。
橋本【おはよう!今日も頑張ろうね!】
橋本【金曜日、出勤してる?店行こうかな】
こんな文章が毎日来て、
私たちは結構仲良くなった。
夜の仕事をしてる人からすれば、
連絡は仕事で1番と言ってもいいくらい大切なことだ。
レスポンスも早く、
お客さんからメッセージが来ていると気づいたら、誰でもすぐ返す。
それができない人で売れている人を見たことがない。
橋本【今仕事終わった!家帰って飯作るのだりぃー】
橋本【ゆずははなんか食べた?食べろよー!】
今何をしているか、
彼氏みたいなやり取りをしてくる人もいる。
ピコン
店長【今から出勤お願いできる?】
お、店長からだ。
うーーん、今月金欠だし行くか……。
えーっと、
橋本さんに返さないと。
【今から出勤になったので、まだ食べれてないけど頑張ってきます!】
ピコン。
ん?店長かな。
橋本【僕も行くよ!待ってて!】
えー!来てくれるの!?
もう22時だけど!?!?
メッセージ続けた甲斐があった〜!!
こんな風に、
メッセージをちゃんと続けていると、
ラッキーは突然やってくる。
ガラン。
「いらっしゃいませ」
橋本「ゆずはちゃん!お疲れ〜!」
私「ありがとうございます!寝れないとかですか?」
橋本「いや〜、ゆずはちゃんに会いたくてさ!!
いつもほら、3人で来るでしょ?
なかなか2人で話せないし、
メッセージしてると余計に会いたくなるからさ!」
2人って、私的には少し苦痛なところもある。
でも、とりあえずお客さんだし、
来てくれる分には私にもメリットがあるから嬉しいってことで、
飲むか〜!
そんなこんなで、
私が出勤する日は出来る限り来てくれるようになった。
メッセージも意味のないやり取りを毎日しているけど、
もう習慣みたいになっていて、
楽しいのか嫌なのかも分からなかった。
月曜日になればお客さん全員に、
【今週も頑張りましょうね!〇〇さん★】
みたいなことを送っている。
ピコン。
橋本【来週出勤?】
えーっと、来週は……
【火、木、金、出勤ですよ!来れますか?】
橋本【付き合うなら行くよ!】
……。
出た……。
お客さんって大体2ヶ月もしたら、
付き合おうとかホテル行こうとか、
そんなことばっかり。
だから嫌なんだよね。
この店では若いお客さんだから、
もしかして友達ノリで仲良くしたいのかな!?
とか思ってたけど、結局これだよね。
出勤したら店長に相談しよ。
私「店長!橋本さんからこんなの来て……。
これ以上行くと限界です。」
店長「それなら連絡やめていいけど、売上下がるよね?
そしたら給料も見直すことになるし、もう少し頑張ってほしいな」
実はここ最近、
橋本さんのおかげで私のお給料が上がったのだ。
でも、ストレス溜めてまで働くのも嫌だし、
トラブルにもなりたくないし、
何より“付き合う”って……無理だ。
【店辞めるまで付き合えません……。
付き合わないなら来てくれないって、
私にそこまで魅力ないってことですよね。】
面倒くさいには面倒くさいで返すのが1番楽だ。
こうしてお客さんによって性格を変えている。
自分でも、どれが本当かわからなくなる。
夜の世界あるあるだろう。
ピコン。
橋本【そういうことじゃないよ。じゃあとりあえず行くね】
来るなら初めから言うなよ……。
はぁ、ストレスだ。
今日もいっぱい飲もう。
〜こんなやり取りが3ヶ月ほど続いた〜
【付き合おう】
【今は考えられないと言ったよ】
【付き合ってくれたら行く】
【店の私は応援してくれないんですね】
キャバ嬢やホストがよく事件に巻き込まれるニュースがあるが、
どっちの気持ちもわかる。
でも私は騙したくはないし、
トラブルにもなりたくないので、
思ってないのに「好き!」とか「付き合う!」とかは絶対言わないようにしていた。
そして、いつの間にか出会って1年が経った。
橋本さんは週2日は店に会いに来てくれていて、
他のお客さんもチラホラいた私は、店では人気な方になっていた。
橋本さんが来てくれても、
20分くらいしか話せない日が続いた。
その頃から、
橋本さんからのアプローチが前よりひどく、多くなっていた。
私は大体、
「好きってなんだろうね」
とか、
「毎日そればっかり疲れたよ」
とか、
そんな感じで逃げていた。
逃げられてないのはわかってる。
お客さんとして繋ぎ止めたいけど、
無理ならもういいや。
そんな感じだった。
みんなそうだと思う。
何かが欲しい。
何かになりたい。
シンプルに、お金が欲しい。
そんな思いで、
昼の仕事が終わり、
昼の化粧を落として夜の化粧をする。
ご飯も食べずに仕事へ向かう。
帰ってきたら顔を洗ってシャワーをして、
またご飯も食べずに寝る。
寝るのも4時間ほど。
身長162センチ、
体重55キロだったのが45キロまで落ちた。
でもその時は、
痩せてラッキーくらいにしか思ってなかったし、
あまり自分では痩せたとは思ってなかった。
こんなしんどい生活ができるのも若いからだよ、
と言われるけど、
そんなことはないと思っている。
『欲しい』からだ。
お金が欲しいから、
頑張っているだけ。
無理やり奨学金を借りて大学に行った私は、
卒業後、がむしゃらに働いたけど、
借金地獄みたいな日々だった。
マンション代払って、
生活費払って、
奨学金返したら、
手元に何も残らない。
遊ぶお金もない。
だから友達に紹介してもらったこの店で働いている。
そりゃ、働きたくもない。
昼の仕事が終わったら、
私だって寝たい。
ご飯も食べたい。
お風呂にも浸かりたい。
でも、「仕方ない」としか思えなかった。
辞めたいとも思わない。
ただ、
“今だけ我慢”
って、ずっと自分に言い聞かせていた。
でも、夜の仕事をしていると他の欲も出る。
新しい服。
可愛いブランド。
いい匂いの香水。
色んな欲で溢れているこの夜に、
私はしがみつくようになっていた。
今月の売上を気にして、
お給料を計算して、
欲しいものを見つける。
いつしか奨学金のためじゃなく、
夜のストレスを欲しいもので満たすために働いていた。
でも、楽しくも感じていた。
夜にしかない空気感で働く。
高級なお酒をもらうたび、
優越感に浸っていた。
お客さんも毎日呼んだ。
その中でも1番使ってくれているのは、
多分橋本さんだった。
1年経っても、
変わらない頻度で来てくれていた。
今日は金曜日だから忙しくなりそうだな。
私の今日の予定は3人。
・橋本さん
・最近出会い、仲良くなった女性のお客さん
・もう切れそうなおじさんの舟木さん
その日に1番使ってくれた人と、
営業後に2時間くらい居酒屋や他のバーへ行くのが、
最近のお決まりのコースになっていた。
今日は舟木さんと。
舟木さんは、
なんとなく続いている感じ。
あっちは完全に体の関係を望んでいる。
舟木「今日はさ、ホテル予約してあるから」
店を出た途端、
舟木さんが言い出した。
私「え?なんで??」
舟木「なんでって、そろそろだろ?
どんだけ時間も金も使えばいいの?」
私「いやいや、私、一回もOKしてないよね?
楽しく飲みたいから、それが無理なら他の子と仲良くしてって言ったよ」
舟木「今更なんだよ。無理だろ、行くぞ!」
私「いや、帰ります。」
服を掴まれ、
店の前で揉める2人。
夜の街ではそんなに珍しくない光景で、
周りの人たちもほとんど気にしていない。
悔しいのか、
悲しいのか、
なぜか涙が溢れてきた。
橋本「嫌がってますよ」
顔を上げると、
橋本さんがいた。
橋本「警察呼びましょうか?」
舟木「は?付き合ってるんだよ俺たち」
橋本「付き合ってたとしても、
嫌がってるんだからダメでしょ。
とりあえず店長呼んできますね」
舟木「なんだよお前。
ゆずはの彼氏気取りかよ。
ふざけんなよ、台無しじゃねぇか」
舟木「おい、ゆずは!電話しろよな!」
舟木さんは怒ってタクシーに乗って行った。




