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第九話 井戸端会議

陰陽寮での仕事は思いのほか充実していて、気づけば一週間が過ぎていた。執務室も来たころに比べると随分片付いている。真秀は相当に多忙なようで、執務室での研究のほかに学生の授業、貴族からの祈祷依頼など忙しなく働いていた。真秀は今も急遽博士以上が集まる会議に呼ばれ、先ほどまで一緒にいた伊月は廊に取り残された。どう動くべきか迷っていると、ひょい、と顔を覗き込まれる。


「迷子ですか?」


「……え?」


藤代昌也だった。


屈託のない笑み。


「真秀様、会議長いですよ。慣れてないと退屈します」


「退屈、なの?」


「そうそう。みんな難しい顔して、難しい言葉ばっかり使うんです。まあ、年寄りばっかりですからねえ」


こそこそと小声で言う。伊月は思わず口元を緩めた。


陰陽寮の博士はほとんどが熟年者で、学生も真秀や伊月より年上の者も多い。まだ若い真秀が陰陽博士をやっているのがどれだけすごいことなのかを実感した。


そこへ、帳面を抱えた梓が通りかかる。


「あんた、また仕事抜けてないだろうね」


「抜けてませんって! 今は式盤の乾燥待ちです!」


「ほんとかね」


梓は伊月を見る。


「どう? 少しは慣れた?」


「……まだ、よく分かりません」


正直に答えると、梓はふっと笑った。


「最初はみんなそう。ここ、空気が重いからね」


「重い、ですか」


清春が大きく頷く。


「真秀様の周り、特に!」


「昌也」


「ひっ」


伊月が振り返るが、真秀はいない。昌也は胸をなでおろした。


「いないのに怖いんですよね、あの人」


「怖い?」


伊月は小さく繰り返す。


整った面差し。静かな声。確かに寮の中では、誰よりも張り詰めている。


「でも」


昌也が少しだけ真面目な顔になる。


「真秀さま、陰陽師としての腕前は段違いですよ」


「そんなにすごいの?」


「そりゃあもう。他の陰陽師なんて比じゃないぐらいすごいですよ。詠唱無しで高度な術も使いこなせるのなんて真秀さまぐらいです。武術にも調薬にも長けていて、皆の話だとお父上の晴行さまをもしのぐ実力ともいわれてますし」


詠唱無し。伊月は真秀が術で自分の瞳の色を変えたときのことを思い出す。


「だから僕はあの方のもとでもっと学んで陰陽師としての実力をつけて、真秀さまの力になれるように頑張るんです」


昌也は目をきらきらと輝かせながら語る。

そのとき。


遠くから足音が近づく。昌也が小声で囁く。


「ほら、来ましたよ」


振り向けば、廊の向こうに真秀の姿。寮に入ったときと同じ、張り詰めた空気。


「逆三山で神隠しが起こった。妖が関わっているかもしれない。今すぐ発つ」


「いますぐですか?」


「逆三山って、あたしと昌也が真澄さまにお使いを頼まれてる場所じゃないか。あたしらも一緒に行くよ」


「ではその使いも引き受けよう。一人で充分だ」


「そうはいかないよ。どんな妖が出るか分からない以上、どれだけ時間がかかるかわかったもんじゃない。途中まで同行するよ」


「僕も賛成です。逆三山は僕の地元の近くですから、何かお役に立てるかも!」


「一人で良いと言っているだろう」


「私も、行きたいです」


伊月は控えめに申し出る。まだ本当に妖の仕業なのかは分からないが、都の結界外に妖が出たのだとすれば、外の妖たちの動向を探れるかもしれないと思ったからだ。


「はあ・・・分かった。でも余計なことはするなよ。使いを済ませて、三人はさっさと山を下りるんだ」


真秀はため息をついて答えた。


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