第七話 静かな抵抗
高明殿での一件から十日がすぎると、伊月の体調はすっかり良くなり、古傷もかなり薄れた。
真秀は帝から角折の儀までの間、伊月の保護と監視を命じられているらしく、伊月はそれまで暮らしていた高明殿を出て真秀の邸宅から陰陽寮まで通うことになった。同じ邸で暮らすと言っても真秀は仕事が忙しく帰宅は深夜であったためこの十日間ろくに顔を合わせることはなかった。そして、今日はいよいよ伊月が陰陽寮に初出仕する日・・・なのだが、
行きたくない。猛烈に行きたくない・・・
陰陽寮は国の中枢を支える中務省に属し、陰陽五行思想に基づく占い、天文観測、暦の作成、時報(漏刻)を管掌する官庁である。その中には多くの陰陽師も所属し、昔から妖が出れば退治の任に就いてきた。もちろん8年前の血霞討伐に参加していた者等もいるだろう。そんな場所に鬼である自分が入っていけるはずがない。
伊月は御簾の陰でそっと息を潜める。あわよくば真秀が自分のことを忘れてこのまま一人で出仕してくれたらと願いながら。
「伊月? 居ないのか?」
真秀の声がきこえる。
「伊月? ああ、こんなところにいた」
「おはようございます・・・真秀さま」
「おはようございます。今日は陰陽寮への初出仕ですよ」
「そのことなのですが・・・やはり鬼の私が陰陽寮で働くというのはあまりいい顔をされないのではないかと思いまして」
伊月は正直に話す。
「そんなことを気にしていたのですか。それなら」
真秀は伊月の目の前にそっと手をかざした。
「瞳の色を黒く変えました。陰陽寮に女御だったころのあなたを知る者はいないでしょうから、これで妖とはばれませんよ」
伊月がにわかには信じられずにいると真秀は確かめるように伊月の顔周りの髪を払いのけて瞳を覗き込む。
「深紅の瞳が見えなくなってしまうのは残念ですが」
真秀と目が合い、伊月は気恥ずかしくなって顔をそむけた。
「では、行きましょうか」
「はい」
伊月はしぶしぶ重い腰をあげた。
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