表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/21

第21話 ありきたりな二属性持ちヒロインからのよくある呼び名





「べびたんっ」


「‥‥‥‥」


「ふふっ」



「‥‥‥‥っ!」

 あまりのことに、声が出ない。


 え? 一体今何が起こってるの? 一体何の時間なんだ?



「べ~び~たんっ♪」

「そ、それって、俺の、こと?」

「そうよ。かわいい呼び名でしょ?」

「やめろよ」

「え~。だって赤ちゃんみたいなんだもん」

「おかしいと思ったんだ。いきなりほ乳瓶で飲めとか」

「え?」


「最初から俺を赤ん坊扱いしてイジるつもりだったんだ」

「それは違うよ? 法力を払底(ふってい)するまで使用した副作用による運動野の機能低下、それ由来の(がく)顔面領域を除く身体の随意的な運動の困難、摂食・嚥下(えんげ)障害。誤嚥(ごえん)を防いで秘薬を効率的に経口摂取する合理的な器材が、ほ乳瓶だったっていうだけだよ?」


「専門用語で殴るのやめて!」

「あ、ごめんなさい。つい‥‥」

「あ、でも正気に戻った?」

「そんなことはないでちゅよ~。べ~び~たんっ」

「なんでだよっ!?」


 どういうことだ? 正直、意味がわからない。こんな難しい医学用語を話せるってことは、愛依は赤ちゃん返りをして‥‥いない?



「どうちたの? 急に『俺』なんて言いだして?」


 うぐぐ!


「今まで『僕』だったのに?」

「愛依がそんな呼び方してくるから‥‥」

「面白いね。それで強そうな一人称に変えたのね」

「分析すんなよ~」

「だって。『俺』って言い換えたって。身体は動かないよ?」


 愛依は僕の両手を弄ぶ。


「そうだけど」

「でも、そう考える暖斗くん、ちょっとカワイイかも」

「な、なんだよそれ」


 ちくしょう。完全にからかわれてる。こんな子だったのか?


「‥‥じゃ、検査の続きしましょうね? 足は動くかな~?」


 秘薬を飲んでさらに時間が経ってる。自前で歩けるかどうかは、今の僕に重要だった。


 だって。



「はい。あんよがじょうず♪ あんよがじょうず♪」

「‥‥‥‥ぐうぅ」


 今日二回目に言葉が出ない。想像して欲しい。セーラー服に白衣着た美少女が手拍子をして囃して。

 その眼前を、よろよろと歩く僕の姿を。


「よちよち歩きは何とか‥‥できてるね。すごいすごい~~♪」

「『よろよろ』だよ訂正してっ!!!!」



 しかし恥辱に耐えてもこれは達成したい。僕の身体のある部分がそろそろ限界なんだ。


 ちなみに膀胱だけど。


 この課題をクリアすると転倒のリスクがオフ、で、歩行時の僕への介助が不必要になる。そうすればつまり。


 ひとりでトイレに行けるようになるんだから!



「あ、回復が早いね、今回。じゃあクリア、でいいかな?」

「やった。じゃあ早速‥‥」

「よくできまちた~。うふ。ちゅっ」


 え? 今一体何が起こった!?


 愛依に抱き起こされて、顔が近づいた一瞬だった。


「だ~って。あんよがじょうず、なんだもんっ」




 頬の一部分。あったかくて柔らかい何かが触れて。

 その後は空調の風が当たって、そこだけがひんやりと冷たい。




「どうしたの?」


 あまりのことに頭が追いつかない。死ぬほど驚いたけど、あ、辛うじて粗相はしてないみたいだ。



 ナイス耐久! 僕!! ‥‥‥‥いや、俺。



「トイレ行ってくる。ついて来なくていいから」

「うん。ここで待ってるね。べびたんっ!」


 彼女はベッドの脇、医師用の丸椅子(スツール)に座ったまま頷いた。



 廊下の向こう。病院トイレの洗面の鏡。映る自分の顔。


 ひんやりする箇所を見回してみたけど、別段の変化はない。

 いっそ、と思って顔を洗おうとしたけれど、やめた。




「ひとりでちゃんとできましちたか~? べびたんっ」


 予想通り。授乳室では、満面の笑顔が待ち構えていた。



「だからなんだよその『べびたん』って?」

「ふふ~。秘密だもん」

「女子の『秘密』って便利だよな」

「そうよ。じゃあまた検査クリアしたら、いい子いい子♪ するね?」


 「じゃあまた」って、おかしいだろ?


「しなくていいから! 近づかなくていいから」

「そんな~。ご褒美だよ?」

「誰のだよ?」

「ふふ~。どうでしょう? じゃ、そろそろおねむの時間♪」


 彼女は手早くベッドの操作をする。


「こら~。勝手にベッドを倒すな!」

「ねんね♪ ねんね♪」

「歌うなって~!」

「あ~~。わたしも今日はがんばったから、疲れちゃったかも」


 僕の顔を覗きこみながら、にっこりと笑う。


「‥‥そりゃ法力使い切ったんだから」

「そうよね。じゃあもう、まぶたが上がらないかも」

「えぇ‥‥?」


 一体何を? 展開が斜め上過ぎる。


「あ~。こんな所にちょうどいい枕が」

「こ、こらちょっと」

「う~ん。吸い込まれる~」

「勝手に人の腕を」

「腕まくら♪」

「だめだって」

「あ~。いいきもち~」

「‥‥っ」


 右腕に、愛依の重さを感じた。ぐりぐりと猫のように押しつけてくる。


「ふぅ~」

「あ、頭動かすなよ~。アホ毛が刺さる」

「じゃああっち向いてれば?」

「そうするしか‥‥」


 愛依の柔らかい毛はこそばゆい。それを回避するために反対側を向いたけれど。


「すきあり! むちゅ!」

「は? はい? 今何した‥‥!?」

「ふふっ、秘密~。じゃ、おやすみなさい」

「明り消すな。うああぁ~」

「もうねんねよ? べびたんはべびたんなんだから♪」





***





「愛依は、本家の回復実験には行かせられません。理由は、僕が行かせたくないから、です」



 後日。


 退魔で共同作戦をした若様に、僕はこう言い放っていた。


 暴走だ。僕の。


 愛依が法力を使い切った時に、副作用が出ることが判明した。

 これだけだったら、別に問題は無い。きちんと説明すれば良いだけだから。


 ただ、その副作用の症状が問題だった。愛依の「赤ちゃん返り」。


 これを知ってるのは僕だけだ。愛依は、あたり前だけど、あの後しばらくして正気に戻った。

 そして、自分の行動を見返して、恥ずかしさで固く口止めされた。そりゃそうか。



 でもひとつ。不具合があった。本家での回復実験の件。


 もし本家で愛依が法力を使い切ったら? あんな酩酊したような、危うい状態になったら?


 とても行かせられない。


 それで、僕が今「暴走」してる。自分が悪者になっても、愛依を守ると決めたから。


「‥‥行かせられません」



 若様は、厳しい表情だったけど、激怒したりはしなかった。


「わかったよ。何か事情があるみたいだな。‥‥結局、副作用の回復も、法力の回復も。君たちふたりの間以外には発現しないのも、判明してきた」


 そうなんだ。これは僕と愛依とでしか起きない事象だった。


 若様と他の逢初家の治癒役、僕と愛依のいとこの治癒役。色々ペアを試して、そう結論付けられた。


「‥‥覚悟を持った良い顔だ。この件、当主(オヤジ)には俺から言っとくよ」


 若様は、やっぱり器の大きい人だった。




「ああ、咲見君。できれば退魔の時にも、その覚悟で戦って欲しいな? 頼むぜ?」





***





 さらに、後日。


 魔物の出現が急激に減った。想定内らしい。緊急出動もほぼ無くなり、僕の身辺は急に落ち着いた。


 そのタイミングで逢初家にお邪魔した。食事に招待されたんだよ。「回復担当として娘がお世話になりましたので」みたいな名目だったかな。

 咲見家としても「いえいえ。こちらこそ」だったので、親から大仰な菓子折りとかを持たされた。今日は取りあえずの訪問。僕だけが招かれている。


 食事会については特に何も。普通のご家庭のちょっと豪華な食事会だった。愛依のご両親から魔物退治のこととかを訊かれた。

 愛依は三姉妹の長女らしく、色々率先して動いてたな。座布団を用意したり、お茶を淹れたり。「愛依は咲見さんの横で座ってなさい」ってお母さんに釘を刺されるくらいだった。





 食事の片付けとかで愛依が席を外した時に、客間に来た愛依のふたりの妹と遊んで仲良くなった。



 で、その時、ふたりからちょっと興味深い話を聞いた。



慶生(けい)ちゃんと詠夢(えむ)ちゃん。それぞれ愛依に雰囲気がよく似ている、美人だった。








 慶生ちゃんは11歳くらいかな。年の割にしっかりした感じ。


「あのね。私知ってるよ。お母さんとお姉ちゃんが話してるの聞いちゃったんだ。お姉ちゃんはねえ、無くなるんだって。あれが」

「え?」

「だから気をつけなさいってお母さんが。自制心が無くなるの。後遺症の時」








 詠夢ちゃんはもっと幼い。仔犬のぬいぐるみを抱いて放さなかった。


「あのね。わたししってるよ。それはこのこのなまえなの。えいちゃんも、いつもこうやってこのこをだいてるの。あのね。えいちゃんはねえ、いってたの。せかいでいちば~んかわいくて、いちば~んだいすきなあかちゃんのなまえだって」

「え?」

「このこ。あのね。このこいぬのあかちゃんのなまえなの。ね? べびたん?」








 肩を叩かれてはっとした。愛依だった。





「ね? りんご切るけど食べる? べびた‥‥あ、いえ。暖斗くん」






この作品のベースとなった拙著、SFロボット物です。

よろしければ、こちらもどうぞ(*^▽^*)


ベイビーアサルト~撃墜王の僕と、女医見習いの君と、戦艦の医務室。僕ら中学2年生16人が、その夏休み40日間になしとげた人類史に刻む偉業。「救国の英雄 ラポルト16」の軌跡~

https://ncode.syosetu.com/n0157hn/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ