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64. 化物侍女は羞恥を知らない

 おっかなびっくりではあったものの、無事に美味しくアーヴァンクの料理を食べ終えたティアラ達。因みに食事代はティアラ持ちである。


「ありがとねティアラ」

「ティアラ様、ありがとうございました…!」

「…まぁこの中で一番お金あるの私だから」


 辺境伯の娘であるティアラはこのメンバーの中で最も位が高く、資金力もある。なので至極当然な人選であった。


「それでこの後は……流石にもう一個ダンジョンに行く気にはなれないわね」

「あっ、それなら武器屋さんを見てみたいですっ!」

「あぁ良いわね。じゃあヨル、案内よろしくね」

「かしこまりました」

「……………」


 いつも通りのヨル任せに、もうエセルは突っ込む気力が湧かなかった……。


 ミレーナにあるダンジョンに生息している魔物は弱い低級ばかりだが、それが道具の整備を怠る理由にはならない。なのでそれなりの武具を揃える店は数多い。ただ勿論全ての店が良いとも限らないので、そこは噂や評判などを頼りにする他なかった。

 ヨルが収集した情報を元に案内したのは、ミレーナの大通りに面した比較的大きな間口を持つ店。この店は皇都にも出店している有名どころであり、それ故に評判も確かなものだ。


「ここは高級品から廉価品まで幅広く取り揃えている武器屋ですが、冒険者向けの荷物入れなども売っているので雑貨店とも呼べる店です」

「ヨルさんの投げナイフもこちらで買われたものなのですか?」

「いえ。私の物は馴染みの業者から仕入れている物になりますから、ここでは購入していませんよ。ですが一般的に流通しているものなので、販売されている可能性は高いかと思われます」

 

 ヨルの持つ道具で特別製なのは黒い一対のナイフのみだ。他はもし回収し損ねても足がつかないよう、市販品を使っている。


 店へと入れば革鎧や軽装の鎧に身を包んだ姿の他に、ティアラ達と同じ制服を纏った姿もあった。


「意外と居るわね」

「皇都でも有名なお店ですから。訪れている学生の方は興味本位で、といったところでしょうか」


 わざわざ学生が今更武器を買うこともない。何故なら既に親から立派な得物を買い与えられているからだ。


「フェリシア様は投げナイフの他、必要な物はありますか?」

「え!? えぇっと…良く、分からなくて」


 そも投げナイフを使ったのはつい先程が初めてなのだから、他に必要な物など思い付かなかった。


「私も一応魔術師ではあるけれど近接のナイフは持ってるから、フェリシアも一本用意しておけば?」

「……ティアラ。私それ初耳」

「あれ? 普通持たない?」

「魔術師は持つかもしれないけれど、学生で持っているのは稀だと思うわよ?」


 確かに近付かれる事が死に直結する魔術師は、護身用のナイフを持つ事がある。だが最前線で戦う魔術師ならばいざ知らず、学ぶ事が本分の学生で持つ人はほぼ居ないだろう。


「それにナイフって結構扱う為に訓練いるわよ?」

「それは、まぁ…私の出身があれだし…」

「あぁ……成程」


 実はティアラは後方支援ではあるものの、カーナモンにおいて魔物の襲撃の対応をした事がある。その際ついでだからということで、ナイフの扱いは一通り教えられていたのだ。

 一応学園の護身術学でもナイフの扱いは教えられるが、それは実戦向きというよりも身を守る事に特化した扱いなので戦いにおいてはあまり役に立たなかったりする。


「あの…それでしたら私、ヨルさんみたいな銃を扱ってみたいです」

「あぁそういう選択肢もあったわね。ヨルはどう思う?」

「……正直な意見を申し上げるのであれば、賛同しかねます」


 銃はナイフよりも初心者には扱いが難しい代物だ。整備にもそれなりの専門知識が必要になる上、弾丸は消耗品。庶民であるフェリシアに、おいそれとお勧め出来る武器では無かった。


「この学年行事の間にヨルが教える事は出来る?」

「出来はするかと思われますが、やはり消耗品である事が問題かと」

「うーん…フェリシアにお金の余裕はあまり無いの?」

「お、お恥ずかしながら……」

「ならヨルの言う通り消耗品は避けるべき…と。まぁ取り敢えず現物を見てみましょうか」


 店に置かれていた投げナイフは全部で四種類。それぞれの利点や使い方をヨルが教えれば、慌ててフェリシアがメモを取り出して書き出し始めた。


「よろしければ後で書いたものをお渡ししましょうか?」

「いえ。これは自分でするから意味が有ると思うので!」


 そう言われてしまっては下手に手を貸すのは逆に迷惑になる。ならばせめてもと、聞き取りやすいようヨルが比較的ゆっくりと話し出した。


「……はい、ありがとうございましたヨルさん。しっかりと書き終えました」

「お役に立てたようで何よりでございます。それでどれにするかは決まりましたか?」

「そう、ですね…やっぱり使い慣れた形の方が経験が活きると思うので、これにします」


 フェリシアが指差したのは、ヨルの扱うナイフに似た形状の物。そして、四種類ある投げナイフの中で最も高い物だった。だがそれでも普通のナイフを買うよりかは少しばかり安く、フェリシアでも何とか数が揃えられる値段だったのが決め手になった。


「四本くらいなら揃えられますし…」

「……折角のところ申し訳ありませんが、これの他にも必要な物がございますよ」

「え……」


 投げナイフは一応買った際に簡単な鞘が付いてくる。だがそれでは直ぐに取り出す事が出来ない為、それ専用のホルスターが別途必要になるのだ。


「ホルスター……ち、因みにヨルさんはどんなのを…?」

「私は三本仕舞える革製のものを両太腿にしております。実際にご覧になりますか?」

「「やめなさい」」


 ティアラとエセルの声がピッタリと被る。もし二人が止めなかった場合、ヨルは戸惑い無く公衆の面前でスカートをたくし上げていただろうという事は想像するに容易かった。


「というかヨル。太腿って出しにくくないの?」

「問題御座いません。スカートの布地に、ナイフの持ち手が重なる部分で切り込みを入れておりますので」

「……ちょっとキャルに話す事増えたかもしれないわ」






一応見えません(多分)

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