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65. 令嬢はやらかす

「私、太腿に着けるのはちょっと…」

「太腿に着ける方はあまり多くないので、お気になさらず。それでしたら肩掛けの物がよろしいでしょうか」


 元々太腿など見えにくく隠しやすい場所に仕舞うのは、そうせざるを得ない仕事……“影”の仕事を生業とする存在くらいなものだ。なのでその難色を示す返答はヨルも予想していた。……フェリシアが断る理由が、羞恥によるものだとは勿論気付いていない。


 投げナイフのコーナーには、当然仕舞って運ぶ為のホルスターも並んでいる。その価格はどれも似通っており、使い易さで選ぶのが一般的であった。


「へー、色々あるんですね……あっ、袖口から出すのもあるんですね」

「こちらは咄嗟に取り出す為のもので、便利な反面少し扱いが難しいですね」

「ヨルさんは使えます?」

「はい。というより、今も使っていますよ」


 そう言ってヨルが袖口から黒のナイフを取り出す。引き抜くというよりも、弾き出されてきたものをキャッチした形だ。フェリシアがそれを見れば、扱いが難しいというヨルの言葉の意味も分かった。


「となると、ヨルさんも言っていた肩掛け…」

「こちらですね。脇に挟む形でナイフを仕舞うので保持がしやすく、初心者の方が最初に使う代表的なものです」

「あ、ありがとうございます。えっと、後買うのは…」

「後はナイフに付いた血を拭う為の布や、簡易的な砥石でしょうか」


 使い捨てであれば必要が無いが、今回フェリシアが買う事にしたナイフは繰り返し使うタイプだ。なので戦闘の合間に整備出来るような道具が必要になる。


「砥石……」

「簡単な研ぎ方であればお教え致しますよ」

「お願いしますっ!」


 今まで刃物など研いだ経験は無いので、ヨルから教えて貰える事にフェリシアは安堵した。


 一通り必要な物を見繕い、それを予算内に収めるには何を削るかを考える。ナイフを安いものにする事で数を揃える事は出来るが、安物買いの銭失いになる可能性を考慮すれば安易にその選択は取れなかった。

 結局最初に選んだナイフは二本しか買う事が出来なかったが、フェリシアとしては満足だった。


 会計を済ませてティアラ達の元へ戻ろうとした時、フェリシアの視界に入った長細いソレに興味を持った。


「これ……」

「これは一般的に使われる狙撃銃と呼ばれるものですね。高威力、長射程を誇りますが、その銃身の長さ故に取り回しがしにくい武器になります」


 フェリシアが目をつけたのは壁に数本立て掛けられた狙撃銃だった。この世界において使われる狙撃銃は殆どがボルトアクション型であり、連射性は低い。並べられていた物も例に漏れずボルトアクション型であった。


「ヨルさんは使えますか?」

「はい。一通りの武器の使い方は心得ておりますので」

「ヨルって本当に何でも使い熟すからねぇ…」


 若干の呆れが含まれた声色でティアラが告げる。ついこの間まで自国の名前すら知らない状態であったのに、今では自分よりも多くの事を覚えているのだから、その規格外さに呆れ以外の感情は合わなかった。


「ヨルさんはこの…狙撃銃? を使い熟すまでどれ程掛かったのですか?」

「そうですね…十分程度でしょうか」

「……え?」

「撃つだけでしたら簡単ですので」

「それで飛んでる鳥を難無く撃ち落とせるのはヨルくらいなものよ」

「えぇ……」


 動き続ける的を射抜くのは容易な事では無い。それが宙に浮いていれば尚更だ。


「一応今も持っているのでしょう?」

「はい。ですがダンジョンなどの閉鎖空間ですと音が反響して魔物を呼び寄せたり、索敵の邪魔になる可能性が高いので使う事が出来ないのですよ」


 狙撃銃というものはその射程故に込められる火薬の量も多く、射撃の際に発生する発砲音は拳銃の比ではない。なので、狙撃銃は一般的にダンジョン攻略において使ってはいけない武器として知られている。


「ところでティアラ様も何か購入なさったようですが、何をお買いになったのですか?」

「あぁ、丁度よくダンジョンの地図も売っていたから買っておいたのよ」

「次は何処へ?」

「【森のダンジョン】。生息する魔物の種類が多いダンジョンよ」


 今日ティアラ達が攻略した【泉のダンジョン】から程近い距離にある【森のダンジョン】は、初心者から中級者へとステップアップする人向けのダンジョンだ。

 出現する魔物が一種だけである【泉のダンジョン】とは違い、【森のダンジョン】は最低でも三種類の魔物が生息している。それぞれ対応も異なるので、【泉のダンジョン】よりも難易度が幾らか高く設定されている。

 ……ティアラとしてはもっと戦いたいからこのダンジョンを選んだ訳だが、残念な事に一つ見落としている事があった。それは────


「───ティアラ様。このダンジョンも火は使えませんが、よろしかったのですか?」

「え? ……あっ」


 森を冠するその名の通り、【森のダンジョン】は地下に森が広がっている特殊ダンジョンだ。生木は燃え“にくい”が、それは燃え“ない”とイコールで結ばれる訳では無い。


「買った以上は攻略するわよ」

「うぅ…盲点だったぁ…」


 ダンジョンという閉鎖空間において火属性は出来うる限り使うべきでは無いとされる属性ではあるものの、実はこの【森のダンジョン】においてそれは適応されない。その特徴もティアラがこのダンジョンを選んだ理由ではあったが、そもそも森が可燃物である事を失念していた。

 だが返品不可のダンジョン地図を買った以上、攻略しないという選択肢は最早無かった。


Kar98kが好き

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