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41. 令嬢は挑発に乗る

 無事何事も無く皇都へと戻ったティアラ達だったが、冒険者ギルドでは何事も無く終わる事は出来なかった。

 ティアラ達は知らなかったが、最初コカトリスと戦闘を行っていた彼らはこのギルドにおいて名の知れたシルバーランクで、あと少しでゴールドにも上がれるだろうと目された存在だった。

 そんな彼らが死んだ。そして残されたコカトリスはティアラ達によって葬られた。それで彼女達が注目を集めない訳が無かった。


「ほ、本当にコカトリスを倒したのですか…?」

「はい。討伐証明部位はトサカでしたね。こちらになります」


 相変わらずヨルが外套の内側からトサカが入った袋を取り出し、カウンターの上へと置く。それをおずおずと受付嬢が確認し、「本物です…」と呟けばざわめきが冒険者ギルド内に広まった。

 その様子にティアラは、コカトリスを狩る事がそこまで驚愕に値する行為であるのか疑問に思った。


「ねぇヨル。コカトリスって冒険者の強さ的にどれくらいなの?」

「そうですね…まずゴールドランクの方でしたら問題無く狩れるかと思います。シルバーランクの場合はかなりその人の力量に左右されますかね。狩れはしますがギリギリといった具合です」

「詳しいですね…」


 淀み無く的確な評価を口にするヨルに、受付嬢が驚きを露わにする。本日登録したばかりの冒険者が得ている知識では無いからだ。

 ヨルは魔物が領内に現れた場合戦いに赴く立場にある為、魔物に関する知識だけはキャロルによって詰め込まれていた。故にコカトリスが一般的にどれ程の危険度であるかは十分に知っていたのだった。

 ……まぁ知っているだけで“理解”はしていないのだが。


「だがよ、いくらコカトリスを狩れたっつっても手負いだろ? そんなのただの偶然じゃねぇか」


 何処かから、そんな声が聞こえた。確かにティアラ達の今回の成果は、傍から見れば別の冒険者が狩り切れなかった魔物を偶然狩れたようにも思えてしまう。それはヨルにも分かっていたし、それを態々否定する必要性も感じなかった。人は自分で思い至った物を深く信じる傾向にある為、それを否定し覆すには多分の労力を要すると分かっていたからだ。

 ──だが、それを気に食わないと思う存在がヨルの隣に居た。


「何よ。難癖付けるつもり?」

「……」


 ヨルは早くこの場の収拾を付けるには、その評価を受け入れる他無いと思っていた。だからこそ何も反論しなかったが、ティアラが食って掛かってしまってはもうその手は取れそうに無かった。

 ヨルが人知れず溜息を吐けば、その仕草に気付いた受付嬢がヨルに対して同情的な眼差しを向ける。その視線に頷きそうになりながらも、ヨルは何も言わない。こうなったティアラはヨルの言う事も聞かなくなるので、いくら静止しようと無駄である事を知っていたからだった。


「嬢ちゃんよ。若くて血気盛んなのは冒険者としていい事だが、過信すると痛い目を見るぞ」

「過信なんてしてないわ。倒せると分かった上で私達はコカトリスに挑んだのだもの」

「でも手負いだからそう思ったんだろ?」

「いいえ? そもそも手負い手負いって言うけれど、私達が相対した時のコカトリスは殆ど傷なんて無かったわよ」


 コカトリスに細かい傷はあったし、体力的に消耗していたのは確かだ。だが、それは難癖を付ける彼らの想像とは異なる状態であるとティアラは思っていた。彼らが想像しているのは、致命傷を負い動けなくなった状態のコカトリスだろう。

 だが当事者だけの言葉でそれを信じろというのも無理な話だ。それに長く冒険者として生きてきた彼らにもプライドがあり、年端も行かない少女に負けている事を認めたくないから無意識に否定的になっていた。


「──そんなに気に入らねぇなら確かめりゃ良いじゃねぇか」


 ティアラが冒険者と睨み合いを続けていた最中、突如そこに響いた言葉にティアラは目を輝かせた。言葉だけで伝わらないのならば、身体で教えるしかない。ティアラは、案外脳筋だった。


()()()()!? 無茶言わないで下さいよ!」

「無茶じゃねぇだろ」


 受付嬢の大声にもあっけらかんとしている男。彼こそが先程の言葉の発言者であり、この冒険者ギルドの最高責任者、ギルドマスターその人である。


「訓練場で模擬戦でもすれば、野郎共も理解するだろ。嬢ちゃん、どうだ? やるか?」

「やります!」


 間髪入れずそう答えたティアラを、ギルマスは酷く面白いモノを見るような目で見ていた。ティアラ程の年齢でそこまで骨のある存在は稀有だとギルマスは思う。


「…ティアラ様。私許可しておりませんが」

「あっ…」


 ついその場の流れで了承してしまったが、ここで漸くティアラはヨルの存在と交わした約束を思い出し顔色を悪くした。

 ヨルとしては危険な事に首を突っ込むのはやめて欲しいところだが、ティアラが一度口にしてしまった以上、撤回して此処から去るのは難しいとヨルは思う。


「保護者も大変そうだな」

「…元はと言えばギルドマスター様のせいでもあるのですが」


 半目でヨルがギルマスを睨むと、じわりとヨルから殺気が漏れ出た。思わずギルマスはそれに身震いする。


「いやぁ…あれだ。本当に実力があったら特例でランク上げてやるから。な?」

「…言質はいただきました。ではティアラ様、後できっちりお話をするとして今はやるべき事を致しましょうか」

「わ、分かったわ…」


 これまでに無いほどヨルが怒りを抱いている事に気付き、先ほどまで昂っていた気分が急速に萎んでいくのをティアラは感じた。

 そのやり取りを見て、ギルマスは何となく力関係を理解しなんとも言えない表情を浮かべるのだった。




ヨルが大分表情豊かになってきましたねぇ……




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