それぞれ事情があるようです
その後も俺達は色々と話し続けた。会話の後半は、主に情報交換だ。
まずはお互いの目的について、確認し合うことにした。
スノウベルが死ぬ運命を避けるには、こいつに協力してもらった方がいい。ちょっと迷ったけど、俺は素直にそれを伝えることにした。
「なるほど。スノウベルかぁ」
リナリアは微妙な顔をしてる。
「確か、幼馴染とか言ってたよね。そっちがそう言うなら助けてあげたいけど……彼女、本当に魔力は普通じゃないんだよ。悪い方向へ行ったら、国を滅ぼしちゃう可能性だってある。わたしだって、殺されるのはやだよ」
リナリアは少しだけ、悩んでいるようだった。
俺はちょっとムキになる。
「殺されるって、スノウベルにってことか? あいつはそんなことする奴じゃない。むしろ、放っとけば殺されるのはあの子の方だ」
リナリアが顔をあげた。そのグレーの瞳は、とても澄んでいる。
「……なんでそんなに、助けたいの?」
「……それは、」
「あの子のこと、好きなの?」
「…………」
俺が思わず言葉に詰まると、彼女はころっと雰囲気を変えた。
「そっかそっかー。それはしょうがないわ」
ばんばんと俺の背中を叩いて来る。結構力が強い。ヒロインってもっとか弱い生き物だと思ってた。
「……俺は別に」
「好きならしょうがない。分かったよ」
「っ、うるさいな。なんなんだよお前は」
「協力しよう」
にこっと彼女は笑う。その瞳がひたりとこちらを見据えていて、俺はちょっとだけ気圧された。
「わたしもマルセル君のことが好き。――わたしもね、失敗すると殺されちゃうルートがいくつかあるの。……そこをこう、うまく潜り抜けて、幸せになりたいわけ!」
リナリアは明るく笑う。
なんか聞いてると恥ずかしくなりそうだけど、彼女は真面目だ。
そもそもこいつ、マルセルには嫌われているように見えたけど、どうしてこうポジティブでいられるのだろう。
今までこの世界を生きて来て、何か思うところがあったのかもしれない。
俺も気合を入れ直す。
俺はやっぱりスノウベルが好きだ。彼女を助けたいし、誰にも殺させたくない。
まっすぐリナリアを見つめ直し、ようやく口を開いた。
「……言いたいことは分かった。俺も協力してもらえるのはありがたい。俺の知ってる情報、そんなに多くないし……」
そう言うと、リナリアのまとう雰囲気が、先程と同じ軽いものに戻った。
「あーそれ! 気になってたんだけど、プレイヤーとか言ってたよね。もしかしてそっちもこのゲームやってたの?」
変わったご趣味ですね、という目を向けられて、俺は思わず首を振った。
「いやいや、姉貴がやってたんだよ。――リビングに攻略本が落ちてたからさ、それで内容少し知ってるんだ」
「攻略本? あーもしかして特装版かな? あの本それぞれのルートの結末も書いちゃってるもんね!」
「多分それだ」
そうそう。なんか綺麗な城とか戦場の絵がいっぱい入ってて、つい読んでしまったんだ。もう一度言うが、断じてイケメンに興味がある訳ではない。
「なるほどなるほど、じゃあどこまで知ってる? 今までお城にいたなら、周りに攻略対象いたんじゃない?」
「城にいたのは、アルフレッドと真っ黒いさんだけだな。どれも中途半端な知識だけだ。……俺が知らないのは隠しキャラなんだけど……分かるか?」
「王子とロディオか。実はね、わたしも隠しキャラは分かんないの」
リナリアは神妙な面持ちだ。
「だって全部クリアしないと隠しキャラ攻略できないんだもん。攻略本にも載ってないし。……こんなことなら全員やっとけばよかった!」
悔しがるリナリアを前に、俺は半目になる。
「あ、言っとくけど、黒騎士は攻略してないよ。まあ見た目は綺麗だったけどね。なんかこうして実際に見ると、原作よりちょっぴり童顔じゃない? 原作はね、目がもうちょっとシュッとしてたの。なんか思ったより、少しだけ幼い感じっていうか。――性格が顔に出ちゃうのかな」
どういう意味だそれは。まあ普段から警戒心の強い奴だったら、顔が険しくなるとか、そういう話だろうけど。俺は彼女の例えをどう受けとるべきだ。
精神的に幼いという意味か。これは怒ってもいいのではないか?
「まあまあそう怒らずに。恋愛対象として見てないって言いたかっただけ。安心したでしょ?」
安心もクソもない。いや、実際ちょっと安心したが。もしリナリアが全員攻略しようとしていたら、ぞっとする。彼女とくっついたら、どう考えてもマイナスの化学反応が起こるだろう。俺がリトマス紙なら、顔色真っ青だわ。
どっと疲れる俺をよそに、リナリアは明るく笑う。
「まあとにかく、あんまり考えすぎない方がいいよ。――黒騎士とガラスの魔女、悪くないじゃん。わたしそういうのも結構好きだよ。応援するから」
ぐっと親指が向けられる。
「しなくていいよ」
「そっかー。……わたし魔法科に入学予定なんだけど、スノウベルの普段の様子とか知りたくないの?」
俺はぱっと顔を上げた。知りたくない訳がない。
我ながら現金すぎる反応に、リナリアが意味ありげな目を向けてくる。
ちょっといたたまれなくなった。
「余計なお節介をする気はないけど、普段の様子ぐらいなら教えるよ。まあプライベートに関しては、秘密を守るけど。――マルセル君も、学年は違うけど同じ科だし! よし、今度の人生、楽しむぞー」
伸びをする彼女を、俺はなんとも言えない目で見つめる。
とんだ能天気がきたもんだと思ったけれど、彼女を見ているうちに、だんだんと考えを改めた。
リナリアは明るく笑っているけれど、その瞳は少しだけ、寂しそうに見えたのだ。
グレーの目は、どこか遠くを眺めている。どうやら彼女も、何か抱えていみたいだ。
どう考えたって、主にあの少年のことだろう。
俺はそう気がついたけど、口には出さなかった。




