第1話 リビングで
私の名前はヒナ。ピカピカの高校1年生!
……なんだけど、現在時刻は絶賛遅刻5分前である。
「遅刻遅刻ぅーっ!」
私は慌てたフリをして、ドタバタとリビングに駆け込んだ。
ダイニングテーブルでは、一つ上のお兄ちゃんがいつも通り涼しい顔で朝食のトーストを食べている。
私はその横の席に、勢いよく腰を下ろした。
実は今の私、ブラウスのボタンを上から下まで一切留めていない。
しかも、その下はあえての『ノーブラ』だ。
動くたびに隙間から見えるか見えないかの、超・危険な瀬戸際状態!
これなら、普段は鉄壁の無表情を貫くお兄ちゃんも、少しは動揺してドキドキするはず……!
そう、私はこうやって毎日お兄ちゃんを誘惑しているのだ。
「なんでそんなことしてるの?」って?
それはもちろん、私がお兄ちゃんの大好きだから!
……とかでは、断じてない!!
事の発端は1年前。
あの日の夜、私はベッドでちょっと……その、色々と『激しくやりすぎちゃって』、翌朝は寝汗を流すために朝からシャワーを浴びていた。
お風呂から上がり、脱衣所で無防備に体を拭いていた、まさにその時。
ガチャッ。
お兄ちゃんが、悪びれもせず脱衣所に入ってきたのだ。
見られた! と私がパニックになる中、お兄ちゃんは素っ裸の私を一瞥し――その後は何もなかったかのように、隣でシャカシャカと歯磨きをして出て行った。
……あの時の屈辱、一生忘れるものか!!
年頃の妹の裸を見ても微塵も動じないなんて、女として(というか人間として)悔しすぎる!
なんとしてでも、あの憎き無表情を崩してやるんだから!
しかし。
「…………」
今日もお兄ちゃんは、私の全開のブラウスチラ見せアタックに対して完全なる無反応だった。
「はぁ……また失敗かー」
私は少し焦げた食パンをヤケクソ気味にかじった。
――その時だった。
ふと視線を感じて横を見ると、なんと、お兄ちゃんが私の胸元をじっと見つめているではないか。
しかも、瞬き一つしない『ガン見』である。
(え? え?)
ドクン、ドクンと心臓が跳ね上がる。
いやいや、私がドキドキしてどうするの!
どうしよう、恥ずかしくてお兄ちゃんの顔が見れない……っ!
今、お兄ちゃんはどんな顔をしてるの?
理性が飛んでニヤニヤしてるの?
それとも限界までドキドキしてるの?
やっぱり無表情のまま……?
私が顔を真っ赤にして、ギュッと目を閉じていた、次の瞬間。
スッ……と、お兄ちゃんの手が私の胸の方へと忍び込んできた。
「ひゃっ……!」
素肌に触れるか触れないかの距離感に、思わず変な声が漏れてしまう。
すると、ビクッとした私の反応のせいか、お兄ちゃんの手がスッと引いてしまった。
(やばっ! 私のバカ! せっかくの千載一遇のチャンスだったのに、引かれちゃった!?)
後悔で頭を抱えそうになった私に、お兄ちゃんはいつもの涼しげな顔で言ってきた。
「パン屑、落ちたぞ」
「……え?」
見れば、お兄ちゃんの手には、小さな食パンの欠片がつままれている。
その顔は……興奮も動揺もない、全く曇りのない『いつもの無表情』だった。
「あ、ありがと……?」
「遅刻すんなよ。じゃあな」
お兄ちゃんはパン屑をゴミ箱に捨てると、カバンを持ってそのままあっさりと玄関へ向かってしまった。
「…………っ(怒)」
あー、もう! 何なの何なのーーっ!!
せっかくのノーブラ全開アタックを、ただの『パン屑キャッチ』で終わらせる男なんて世界中探してもお兄ちゃんだけだよ!
こうして、私の(空回りだらけの)お兄ちゃん攻略奮闘記は、今日も元気に続くのだった……。
続く!




