29.孤児院
朝の光を浴びながら、孤児院に歩いて向かう途中でアキレア王女に聞いた。
「孤児院の子たちは、大きくなったら、どんな仕事に就くのですか?」
「皆の得意なことにあわせて仕事につけたらいいのですが、困っています」
土地が足りないので畑を与えることも出来ない。小作として働くと家族を養えないので結婚することも出来ない。
魔法師団に入るには魔力持ちでないといけない。騎士団に入るためには、素養も必要だけれど王宮学園の卒業者でないといけない。
ディアントスの親みたいに騎士でないのに入学金を貯められるものがいない。
国が孤児たちに職業訓練を行う余裕もない。
このままだと訓練もなく前線の砦に送られてしまうそうだ。
孤児院と畑が見えてくると小さな子どもたちがかけよって来た。
「「「王女様!」」」
子どもたちは満面の笑みで王女に抱きついていた。
土で汚れていた。
アキレア王女は汚れることをいとわずに強く抱きしめている。
5歳くらいに見える小さな女の子がアキレア王女に体を隠しながらこちらを向いて言った「誰、このお兄さん?」
他の二人の子どもにも警戒心が見える。
「この方はヘリオスです。ヘリオスは凄いんですよ。植物を急成長させることが出来るんです」
アキレア王女は言った。
子どもたちは、自己紹介しなさいと王女から言われるが恥ずかしいのか、してくれない。
まだ警戒している子供たちにお土産を見せた。
「魔獣の肉をたくさん持ってきたからいっしょに食べよう」
「「「やったー!」」」
子どもたちは喜び近寄ってきた。
昼食をとりながら孤児院の副院長をはじめ、子どもたちを紹介された。
副院長という年配の女性が自己紹介してくれた。
「たくさんのお肉をありがとうございます。ヘリオス様。子どもたちもとても喜んでいます」
「凄く喜んでもらえて良かったです。副院長、私にそんな気をつかった話し方をしなくても大丈夫です。ただの子どもですから」
「いえ、そんなわけにいきません! 魔法師団長ヒュペリオン様のお子様で王杯筆頭候補の方に失礼な言葉使えません。それに、私は、副院長といっても、農村出のただの寡婦ですから」
自分の立場で年上から丁寧に扱われるのは初めてで違和感がある。
「院長はいらっしゃいますか?」俺は言った。
副院長は口元をおさえ笑うのをこらえていた。
「アキレア王女がこの孤児院の院長ですよ」
伝えていなかったのですね。と続け、アキレア王女を向いた。
副院長に視線を向けられたアキレア王女は言った。
「名ばかりの院長ですし、全て副院長のレダにまかせているので、言うことではないと思ったのです」
「アキレア王女のおかげで孤児院が作られ、親を亡くした子ども達がこんなに救われています。孤児院が無ければ奴隷に等しい境遇になっていました」
レダ副院長は言った。
アキレア王女は表情を曇らせ「けれど、子どもたちが大きくなって仕事がなければ、結局、救われません」
農奴のような小作となるか、訓練もなく前線に送られ数年のうちに死んでしまうか。
子どもたちは、幸せそうに肉を食べ続けている。
アキレア王女は、そんな子ども達を見まわし、こちらを向いた。そして、一呼吸して言った。
「チャンスが平等な国にしたいのです」
アキレア王女がまっすぐとこちらの目を見ながら続けた。