12.王女との話
小さな研究室へ入ると濃厚で甘い花の香りがした。
辺りを見回すと部屋の角に赤紫の小さな花が飾ってあった。
「いい香りがするでしょう?この花は色が赤紫からだんだんと白くなっていくのですよ」
アキレア王女の言葉に俺はうなずく。どこか懐かしい匂いだ。
「この部屋で甘い花の香りをかぐと嫌なことを忘れられるの」
王女は何か他にも言いたそうに口を開きかけるが踏ん切りがつかない様子だ。
「ごめんなさい。私に力がないから、ヘリオス達にも嫌な思いをさせて」
「いえ、私こそアキレア王女を守れずに申し訳ありません。」
俺は、なぜ、魔導士の息子たちがあんなに偉そうで王女にひどい態度を取るのか聞いた。失礼かもしれないが、知っておかないと周りを助けることもできない。
「王であるお父様が消えて、いっしょに魔導士が何人もいなくなってしまったの。残った魔導士に負担がかかっているの。キロンおじいさんもご年配で無理をすることが出来なくて、先ほどのイレックスのお父様がキロンおじいさんの代わりに宮廷魔導士をまとめ国の魔防壁に魔力を注いでくださっているの」
アキレア王女が生まれてすぐに王とその側近の宮廷魔導士たちの一部が突如、消息をたったそうだ。
王とその配偶者、跡継ぎの子どもだけ知ることができる魔法でジセロ国は小さくても何とか他国の侵攻を防ぐことが出来ていたらしい。
けれど、王が消えて今の王妃が魔力をほとんど持っていない状況では、国の魔防壁に宮廷魔導士数人がかりで魔力を注ぎ続けないと防衛も困難なようだ。
「王女のせいではないのに」
俺が言うとアキレア王女は首をふった。
王魔法を母である王妃から習ったが、回復魔法しか適性のないアキレア王女では使うことができないらしい。昔から口伝で受け継がれたもので、今では何に使うのか分からない魔法言語もあるそうだ。
王族として役に立たなくて宮廷魔導士の負担は増えているのに民のケガや病気を回復魔法で治し聖女と呼ばれているのが腹立たしく思われているそうだ。
「王女は自分が出来ることをしているじゃないですか。植物の研究もして国を飢えから救おうとしていますし」
「民のためだけではないのです。自分のためでもあるのです。国を発展させることが出来たら自分の婿になる王配を自ら選ぶことが出来るのです」
王位継承者が一人なので婿を取り王配としなくてはならないが、国内をまとめるためには発言力のある宮廷魔導士の息子から選ばれる可能性が高いと王妃から言い聞かされているそうだ。
あんな、態度の悪い男が自分の夫になるなんて、それは嫌だろう。
何人かの王配候補がいるそうだ。リアンサスも王配候補だが父である元騎士団長が亡くなったために有力候補ではなくなったそうだ。
「魔法師団から宮廷魔導士になることは滅多にないのですけれど、キロンおじいさんはヒュペリオンおじさんを宮廷魔導士にして自分の後を継がせたいそうです」
父であるヒュペリオンのことが認められているというのは誇らしい。
アキレア王女は少し顔を赤くしながら植物研究の話をはじめた。
「干ばつにも強い作物をつくれないか、このジセロ国でも冬に育てられる作物はないか、たくさん収穫出来て病気にも強いシリジーニスを作り出せないか、キロンおじいさんに相談しながら色々ためしているのです」
キロン魔導士長の指示でライ麦に似た黒パンの原料のシリジーニスなど穀物の野生種をヒュペリオンたち魔法師団の兵士が警戒に出た時に見つけたら集めてもらっているらしい。
種だったり、根ごと移植したり、特に干ばつ時に枯れずに残っている株や成長が周りよりも速い個体、実を多くつけているものを収集しているそうだ。
収集している品種を元に改良をすすめたらどれだけの人が救われるだろう。俺が役に立てそうなことがあって、ほっとしたし嬉しかった。
「どれくらい個体差のある品種があるか見るのが楽しみですね」
俺の言葉にアキレア王女は微笑む。
「行きましょう!ヘリオス存分に見てください」
緑髪がなびくアキレア王女にいざなわれドアを開け外へ向かった。
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