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天使の小悪魔的な護符

 1919年 9月15日 バイエルン州 ミュンヘン

 

「では、諸君らの労働で得たはずのパンを掠め取っている鼠は誰だ!」

 ここで一拍待ち人々の聴衆の熱気が上がってくるのを待つ。

 「それはユダヤ人であり彼らと協力しているワイマール共和国首脳部である!」

 歓声が上がる。

 「我々は不正を廃し、それを取り戻さなくてはならない!パンは働いた人間に分配しなくてはならない!」

 歓声がさらに高まる。

 3日前に「ドイツ労働者党」の55番目の党員として登録された。

 それに伴い、ワイマール共和国軍のほうは退職した。もともと軍属なので、縛りもきつくなかったし機密事項も殆ど無かった。


 演説を終え、渇いた喉に注ぐ、誰かが贈ってくれたビールが旨い。

 このに数日で酒場での演説については天性の才能が開花したようでうまく行っている。

 基本的には兵士の説得と同じ要領なのだが、 貶めるのを共産主義、賛同させるのが連邦政府の政策だったのを、ユダヤ人と連邦政府の政策を貶めバイエルン州独立を叫ぶだけで聴衆は熱狂し、演説後には名も知らぬ協賛者からの善意の寄付とビールが降り注いだ。


 中にはミュンヘン社交界への招待を匂わせる人物もいる。

 噂に聞いた上流階級の社交場というものが望める位置に一気に登りつめた。

 この転職は正解だったと思わざるを得ない。

 党首のドレクスラーも注目していると伝言があった。

 後々には副党首、いや彼に代わって党首になることも考えておかないといけない。

 そうだ、将来に備えてルドルフ・ヘスも党に誘おう。

 すぐ、働いてもらわないといけないかもしれないなー。

 いやぁ人脈を作っておかないと、これから大変になるところだった。

 早速手紙を書かないと……え、先にこっちからのビールも飲めと……人気者はつらいねぇー


 1919年9月15日 バイエルン州ミュンヘン

 

 ここ数日、軍をやめた叔父さんがすごく調子に乗ってる。

 昨日も夜遅く戻ってくるとお酒の臭いをプンプンさせながら「ゲリ、社交界にデビューするためのドレスを作りに行こう」……なにを言ってるのか理解に困った。

 そんなことよりお酒を控えて、早めに帰ってきて夕食を一緒にしてくれるほうが、どれだけうれしいのかわかってないのだ。あの唐変木……

 とはいえ急に金回りが良くなったのも確かだ。

 花に群がる蜂達を寄せ付けないように、叔父さまの所有権を主張しておかないといけない。

 そう思いながら、仕事用の軍服に手を入れて行く。

 略章の下に小さくVon A.H bis A.H(A.HからA.Hへ)と赤糸で刺繍しておく。

 腕章を縫い付ける糸の部分を白糸で補修する。

 全てのボタンを確認して取れそうになっていないことを確認して、ベルトと靴はワックスで磨く。

 とどめに外套の襟の裏にバラの花を刺繍しておく。

 

 ここまでやっておけば、普通は独占欲の強い女性が近くにいると思って、軽い気持ちの女は手を引いてくれるはずだ。

 問題はこれでも手を引かない連中なのだが……


1919年9月16日 バイエルン州ミュンヘン


 昨日今日と連日同じビヤホールで演説会である。もっともメインホールでもないし、そこかしこで別な政党が演説をがなっている。

 昨日の盛況振りからビヤホールのほうでも客寄せになるとの判断で、立っている演台の横にはには「ドイツ労働者党アドルフ・ヒトラー先生来たる!」の立て看板が立っている。

 おかげで聴衆の熱気がすごい。

 最初からこちらの演説を聴きに来ている民衆のパワーというものを体感した。

 ただ演説が終わり、ビールを運んできたウェイトレスに声をかけ、口説いてみたが、しばし胸の辺りの略章を見つめると「一緒に暮らしてる大事な方に悪いですわ」と軽くあしらわれた。

 何でゲリと一緒に暮らしてることまで知られていたのだろう……

 同じ口を使うのでも政治的な演説と女性を口説くのは別のテクニックだということか。

 どちらも磨きをかけなくてはいけない。

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