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悪魔と天使と脇役の住む舞台

 彼の話を進める前にしばし周辺環境を説明させてもらいたい。

 それは彼の事跡を塗り潰すためのサングラスがすでに我々には架けられている上に現代日本人には馴染みが薄い世界を理解するための蛇足と思って欲しい。

 そこで彼の軌跡を理解するために必須の周辺知識だけ列挙していく。


 まずユダヤというカルト集団がいる。

 ユダヤ人とは本来ユダヤ教を信奉し秘蹟を受けたものに与えられる名称であった。

 彼らはユダヤ教の戒律を守り、国籍に関係なく広がっていった。


 変化が起きたのは19世紀後半である。

 ユダヤ人の定義が厳格化され増加が困難になった。

 この変化はなぜ起きたのか。

 考えられるのはユダヤ人ということ自体に価値が発生したということだ。

 古代ローマ市民権は当初は望む者全てにばら撒かれていた。それがローマが勃興し強国になるにつれて取得制限は厳しくなった。

 ローマ市民に付随する権利が魅力的になったからである。

 同じようにユダヤ人であることの利点を考えると、金融業での利便が一番に浮かぶ。

 宗教的な戒律上ユダヤ人同士は借りた金に利子をつけることはない。

 しかしキリスト教徒などの他宗派に関してはそのような規制はない。

 ユダヤ人同士で資金を集め、他宗派の人々から暴利で利益をむさぼっても、法律上も宗教上も問題はなかった。

 その結果、一般的なキリスト教徒からは忌み嫌われても札束の力で世間を渡り歩く集団、それが当時のユダヤ人のおおまかイメージである。

 しかし、欧州全体に活発な経済圏が広がった結果、ユダヤ人の全員に対して流動する資金が不足するという事態が発生した。

 このときに用いられたのがユダヤ人の定義の厳格化による総数抑制である。

 ユダヤ人の母親から生まれた嫡出がユダヤ人と定義された。

 これは女系に沿った考えだが、総数制限を考えれば当然というこの考え方になる。

 (男系では側妾の子も含まれることになる。)


 この結果今まではゲルマン系ユダヤ人とかアフリカ系ユダヤ人が普通に発生していたのだが(何しろ秘蹟を受ければユダヤ人になれる)ユダヤ系イギリス人とかユダヤ系ロシア人のように戒律よりも国を重視しなくてはならない人々が生まれてきた。

 上記の理由から主に男系ユダヤ人の子孫である。

 ユダヤ教徒でありながらユダヤ人でない勢力の発生。

  彼らはユダヤ人の風習に対する蔑視と経済力の不十分さからユダヤ人に比べて非常に弱い立場に陥った。

 それでも商人、代筆業などユダヤの教育方針により、多くの技能を身につけていた彼らは都会を中心に生きる道を手に入れた。そこにいた他の民族を押しのけてである。

 その台頭は第一次世界大戦において財政そのものが破綻し、自由・平等・博愛をモットーにする

旧ドイツ帝国、ワイマール共和国において顕著なものになっていく。


 次に戦後直後のワイマール共和国のおかれた状況である。

 武装は解除され戦勝国から賠償金を常にせびられる。

 地方自治は非常に強く、共和国そのものは州の寄せ集めでしかなく、国会はどう外国に賠償金を支払うか、もしくは繰り延べできるかを討議する場所でしかない。

 安定した官僚制度等を排出していたユンカーも絶対王政の崩壊と共に脆弱化しており、軍隊は戦勝国から再軍備を厳しく制限されていた。

 プロイセンの誇りと伝統はことごとく地に落ちていた状態だった。

 当然政治は流動的で、なおかつ民衆の教育度も君主制から代表民主制に飛ぶにはいささか不足していた状態である。

 そもそも第一次世界大戦の終結にドイツ皇帝の退位が条件だとアメリカがごねたために一気に民主主義の導入になったのだが、すぐ横には世界最新鋭のソヴィエト連邦がいたのである。当然友邦つくりに資金・人民の流入が起こり武力革命を標榜するスパルタクス団が力をもつことになった。

 ドイツではロシアと違い、共産主義の運用にも職業徒弟制度の流用が行われ、中小規模労働組合の代表が合議して一つ上の会議に代表と意見を提出し、その一つ上の会議はさらに同様の手法でさらに上の会議へという感じで政治が運営されていた。

 この一番上が各州会で、外交と国家財政以外の殆どは州会で決められた。

 州からの供出金が共和国に支払われる。

 共和国政府はそのお金で国家運営と賠償金の支払いを含む外交交渉が行うのだが戦勝国側は再軍備をする余裕を与えないのが共通目的であり、国家財政を悪化させることに全力をかけていた。

 そんな自転車操業の国がワイマール共和国と名乗っていたのである。

 決して、「もっとも民主的な憲法を有する誇り高い国」ではないのである。

 共和国といいながら自治州は共産主義(ソヴィエト制ドイツ名レーテ制)を運用していたりして無理に民主主義を強制するようなことはなかった。

 ワイマール共和国の存在目的はただ一つ。「ドイツ連邦の国土を縮小しない」

 この結果が独立性の強すぎた州政府への中央政府の介入を招き、中央集権化が進んだ結果、中央で第1党になったナチス党の下に、最終的には国家一丸となり領土拡張主義になったのは皮肉ではある。

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