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天使と悪魔の日常

 1920年 7月 6日 ミュンヘン ビュルガーブロイケラー


 「ヴェルサイユ条約反対」の講演を行う。聴衆は2400人集まってくれた。

 ヴェルサイユ条約が如何に不平等な終戦条約であるかについて講演を行う。


 聴衆が特に反応するのは賠償金の部分のようだ。

 領土や植民地に関してはすでに決定され、戦争犯罪については、ベルギーが前皇帝を保護しているおかげで、連合国側の足並みが揃わない。


 現時点で条約の激しい論争が起こっているのが賠償問題であり、締結前に試算はされたが算定委員会が未だ提示かねている賠償金額の問題である。

 この問題ではナポレオン以来負けっぱなしだったフランスが今までの損失を一気に取り戻そうととんでもない金額を算定してきていた。


 常識的に言えば絶対支払い不能な金額で支払いが終わるまでに半世紀はかかりそうな金額だ。

 オマケにユダヤ人のように決して値引きに応じようとせず、領土を担保に取ろうとしている。

 

 そもそも海外植民地全部と国土の1/8を没収される時点で国家経済が破滅するのはわかっている。

 それに加えて賠償1000億(金)マルクを要求してきたフランスはドイツを滅ぼす気であり、ドイツの最初の敵である。

 

 *著者注(金)マルクとはマルクのインフレを予想し当時の金レートを基準に定めたものであり、純金35800t分の価値のある外貨で支払うという取り決めになっている。2018年日本の相場金、1g=4500円で考えると161兆円になる。


 このような金額を50年分割で子供らの世代まで負担しろといってくるフランスは完全な敵国であり、ヴェルサイユ条約を拒否する以外ドイツの苦悩を終わらせる方法は無い。


 もっともナチス党が政権与党で無いから出来る講演ではある。

 講和条約を不履行にすればベルリンまで敵は進軍を叫んでいるし、条約の不履行だけで3都市の占領が行われるほど、連合軍は殺気立っていた。


 とはいえ野党としては与党の不手際を指摘するのは義務である。



   1920年 7月 7日 ミュンヘン ベヒシュタイン邸


 今日は水曜日 ヘレーネ夫人による淑女指導の日です。

 歩き方、話し方から始まってダンス・歌・詩の朗読まで多岐にわたります。

 ピアノの製造を行っているため、ピアノ演奏も習っていますが、訪問先にピアノがあるとは限らないので、歌・詩歌の練習は欠かせません。

 デヴュッタント前の淑女見習としては標準的なメニューです。

 訓練は数人が同時に行われています。今日も3人と一緒でした。

 軍人や政治家、大成功した商家の娘、傍から見れば私も政治家枠になるのでしょうか?

 彼女達のお喋りは楽しいです。

 特に叔父さんが上流階級でどのように受け止められているのかを知るのには必要不可欠な情報源になっています。

 

 ユダヤ人攻撃のときは流血を避けようとしたことが高く評価されています。

 そのほかの部分に関しても、ユダヤ人排斥が単なる中・下流階級の気分的なものではなく、国家運営に兆したものであることが非常に好意的でした。

 上流階級の人たちもユダヤ人が嫌いなのですが、紳士の振る舞いが邪魔して口に出せなかったようです。国家運営に絡めて批評すれば批判できる。その蓋を外したのが叔父さんということで非常に好評です。

 そして二日前のヴェルサイユ条約反対演説です。

 金マルクは当該の金の量に該当する外貨で支払うという意味を持っているので、国内のインフレは関係ありません。

 故に国内がどうなろうとも金をむしり取る気満々の連合国の中でも、イギリスは比較的穏健、原則中立の米国、ユダヤ人の金貸しのようなフランスというのが非常に明快でわかり易かったと評判でした。

 あとは実際の賠償額を提示されて叔父さんの政治的予測がどこまで当たっているかで反応が変わってくるでしょう。


 ヘレーネ夫人が呼んでいます。楽しい雑談は終わりです。次はダンスの練習でしょうか?

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