エピローグ
エルノワは、最後に描いていたヴァインの肖像画を仕上げると、ファーレンハウトの屋敷から離れた。
フロスティの家にも戻らず、ファーレンハウト家の別荘であった、少しこじんまりとした屋敷を相続しそこをアトリエとして暮らしている。
フロスティ家から付いてきてくれていた、あのベテラン側仕えと数人の侍女を使用人としてついてもらっている。
おかげでエルノワが食事を取り損ねないで済んでいる。
フロスティの屋敷とファーレンハウトの屋敷の、ちょうど真ん中ほどに位置したその屋敷は、避暑地としても過ごしやすく街も近い為立地条件もとてもいい。
馬車でも半日程度、馬でなら数時間で両方の領地と行き来ができるので、両家の両親やヴィヌ様、弟もたまにやってきてはのどかな景色を楽しんでいる。
この屋敷に住む事にした理由は、両家の大人達の記憶を照らし合わせた結果、ヴァインとエルノワが出会ったのはこの屋敷で開かれたお茶会であったのではないかと判明したからだ。
夫人達の、子ども達の顔見せを兼ねて一緒に遊ばせている間にのんびりお茶をしましょう、といった類のお茶会であったらしく。
ファーレンハウト家に長く使える侍女の、
「そう言えば、こちらで開かれたお茶会の際に、体調を崩された可愛らしいお嬢様がいらっしゃいましたね」
との一言で一気に信ぴょう性が増した。
この屋敷に住んでいると、記憶の中には無いはずなのに、子どもの頃の、元気いっぱい走り回っているヴァインの姿が見えるようである。
あの、ニヤっと笑うからかってくる時の顔で。
しばらくは、やはりさみしくて。
一気に悲しみが押し寄せて来て、何度も死んでしまいたいと思った。
ああすればよかった、こうすればよかった。
結婚してすぐ無理にでも会いにいけば四年は一緒にいれたかもしれない、など後悔ばかりで涙していた。
だが考えてみれば、もしヴァインが病気をしなければ、彼が想って下さっていても子爵家から婚約者を選ぶ事は難しかったろう。
もしそれが通ったとしても、あの破格の「なにもしなくていい」結婚条件でなければ、エルノワが話を受けていなかっただろうと思う。
たくさん、ああだったら、こうだったらと考えましたけど、きっとわたくし達は、この形以外では結ばれていなかったのかもしれませんわね。
その後、エルノワは愛されている自信から自己評価も多少快復し、不慣れながらも社交も適度にこなせるようになった。
女性ながらもその作品は高く評価され続け、作品も精力的に発表しつづけた。
女性の画家がいない社会で、その先駆者として走り続けた。
そして、再婚する事なく、その生涯を独り身で過ごしたそうだ。
たくさん残されている彼女の作品には、同じ人物がよく描かれている。
「わたくしね、旦那様と一緒に色んな所へ行きますのよ。
絵の中でね」
その姿の多くは、少年の姿で描かれていた。
絵の中で、彼は生き生きと生きていた。
そして、傍らには可愛らしい少女。
老いてなお上品な美しさであったエルノワの、幼い頃の姿を現していると言う。
彼女の絵を見た人々は、「愛をえがく人エルノワ」と呼んで讃えた。
彼女は愛に満ちた生涯を送った。
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